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魔法の国『リア』・3


リアンカルノ。腰まで届く輝く銀糸の髪と、宝石の如く煌めく紫の瞳をしていた端正な顔立ちの青年だったという。はるか昔、大いなる戦争で国が四つに分断された時、リアンカルノの活躍によりそのうちの一つがリアとなった。国の名前は国の創始者であり、英雄であるリアンカルノ王からとり、“リア”とした。それ以来、リアンカルノ王の血を受け継ぐ王家直系血族には初代王の名前がつけられることとなった。理由としては、簡単に王家直系血族だとわかるようにだ。リアンカルノ王は戦好きだと、史実には記されている。それ故に、この国の王を決める基準は血統ではない。だからこそ、王家が誰だかわかるような目印が必要だったと言われている。

王家に生まれたからと言って未来が定まっていては、子にとっても国にとってもよくないとリアンカルノ王は言っていたらしい。王家がいつも正しいとは限らない。不確かなものより確かなものを。国王は知力、武力、人脈、すべてにおいて秀でている者と定められた。国民に好かれ、いついかなる時も正しき選択をし、国民を守り抜き、国をあるべき姿で維持するために。

リアはそうして、王が床に伏す度に全国民から選ばれていた。18歳以上の男女。これが国王になるための最低条件。



「つまり俺は、王家直系血族であってもまだ王候補ですらない。来年からってこと」


「なるほど……面白いが、理にかなっているとも言えるな。だから内戦が起きていないのか」


興味深そうにひとつ頷く旅人。そいつが言う通り、リア設立時から現在まで内戦も暗殺も、一切起こっていない。と、されている。実際がどうかは知らない。もしかしたら企てている奴らはいたかもしれない。けれど、王となるものはこの国で一番強く賢い奴と決まっている。なら、暗殺も内戦もすぐに王が収めてしまえばニュースにすらならない。ま、俺の知ったこっちゃないことだけどな。


「で、あんたは?俺は質問に答えたんだからあんたも答えろよ」


なにかを思案するように俯いたまま一言も発する様子のないそいつに、痺れを切らした俺は若干苛立ちながら発言を促した。聞くだけ聞いてはい、おしまい。なんて、冗談じゃねえっての。


「あぁ、これは失礼した。僕は時の国、クロッチ国から来た薙刻孝なぎ ときたかというんだ。きみの推理通り、僕の能力は時を操る能力さ。クロッチ国の国民みんなが持っている能力だ。ただ、その人の能力値によって能力の範囲が定まるから、一概にも言えないけれどね」


「ナギ、トキタカ……」


馴染みのない発音の名前。俺がまだ知らない、遠い国出身であることが伺えた。こいつみたいな能力を全国民が使える国。もしかしたらこの旅人、ナギの好戦的な態度は国民性によるものかもしれないのに、俺はまだ見ぬ国に憧れ高揚した。

好奇心が人より強いのは昔からだ。知らないものがあれば自分で調べた。人から聞いた言葉や情報ほど不確かなものはない。自らの目で確かめ、自ら思考して答えを導き出さなければ気がすまなかった。だから俺が、俺の知らない国があって俺の知らない能力を持ち、俺の知らない環境で生きている同じ人間がいるということに、とても興味を惹かれた。惹かれて、焦がれてしまったのは仕方が無いことなのかもしれない。

そしてその高揚は態度にも如実に現れていたのだろう。ギラギラと瞳を輝かせて口角を釣り上げる俺を見て、ナギは楽しそうに笑った。


「興味があるようだね」


俺の知らない国のことに思いを馳せていた俺は、その言葉に弾かれたように顔を上げた。目に映る美貌は新しい仲間を見つけた時の子供のように楽しそうな表情を浮かべて、まっすぐに俺を見ていた。


「ただの馬鹿なお子様かと思っていたが、きみはどうやらほかの人たちとは違うようだ。どうだろう。僕がここに滞在している間この国のことを君に教わる代わりに、僕がこの国を出る時一緒に来てみないか?旅に必要な知識を、君にあげるよ」


裏も表もない、真っ直ぐで純粋な提案。迷いなく差し出された右手。リアの住民ならば馬鹿にするなとナギの手を払い除けて激昂し、相手を殺すような場面だ。でも俺は誇り高きリアンカルノ王の血を受け継いだ、王家直系血族。ひどい戦争の中勝ち抜いて、ほぼ1人で自国を設立するような馬鹿がどうして旅に出たがらないと思ったのか。小さな檻に囚われたままでは退屈だ。ケージが開かれているのならば、飛び立たなければペットと変わらない。

俺は迷わずに、ナギの手をとった。


「決まりだな。早速だが、いい宿屋を紹介してはくれないだろうか?」


俺がナギの手を取ればそいつは満足そうに笑ってくるりと踵を返した。あまり人通りのない路地裏を男2人で手を繋ぎながら歩いているのは、さぞ寒い光景だろう。まあ、俺に関しては余所者と並んで歩いているってだけで白い目で見られるからどっちにしろ変わり者と認識されるという点においては変わりないから、別にどうでもいいんだけど。


「たぶん、扱いひどいだろうから宿屋はやめといた方がいいよ。あんた広場の騒動で通常よりも敵対視されてるし、そっちがやじゃなければ俺の家来いよ」


「しかし、それなら君の御両親が許さないのでは?」


ナギの言葉に一瞬だけ惚けてしまうもすぐに鼻で笑い飛ばす。俺の反応を見てナギは不思議そうに視線を寄越してくるが、詳細を話してやるつもりはない。そこまでする義理もないしね。


「心配ないよ、あの人たちは家にいない。俺に家と金だけ与えて2人は自由に生きてるさ」


吐き捨てるようにそれだけいえばナギはそう、と短い相槌だけ打って黙った。無関心なのか俺に同情したのか。ちらりと表情を伺うも、俺の方からはフードの影になって見えない。同情されるのは真っ平ゴメンなんだけど、でもたぶん大丈夫だという謎の確信があった。こいつはきっと、人との距離感をよくわかってるタイプだと思う。踏み込んで欲しくない場所には無闇踏み込まない。だから余計なことも聞かないし、余計な口も挟まない。

そこから先はどちらとも口を開かず、けれど気まずい雰囲気にはならずに家までの道程を歩いていった。

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