Ⅱ 二人と。
【まえがき】
どんどん物語は進んでいきますが、時間はゆっくりです。
焦らずどうぞ。
「やっぱり今日も来なかったわねルートさん……」「そうだねー」「仕方ないよ。この時期は生徒会も忙しいでしょうし」
「ルートの奴今日も来ねえのな」「みたいだねー」「まあ、あいつなら台本くらい完璧にしてそうだけどな」「それなー」
ルーのクラスメイトたちは、納得したような言葉を口々に、気怠そうに衣装を脱いでいた。学生さんたちが気怠そうにしているのが、所謂”大人の余裕”だと言うのは最近分かって来た。
でも、全部が全部、余裕からくる溜息かと言ったら、この場合は違った。
『もしかしたらサボり?』という疑念だったり、『本当に劇は出来上がるの?』という不安だったり、そういうものも多分に含まれているんだと近頃思う。その証拠に、皆がものぐさになったタイミングは各自セリフを覚えたあたりだった。お兄さんたち、わかりやすいな。
そして、それと近いタイミングで、私は「ルーは生徒会の仕事があるから」と告げる役目を勝手出ていた。一度それをしたら、翌日から自然と皆が求めてくる感じになった。
本当は、本当のことを言ってルーを追い込んでやりたかったけど、できなかった。今度は私だけじゃなくて、ルーも泣いちゃうかもだから。あ。私は、泣いてないけどね。
でも、このままだと本当にまずいとも思う。
ルーの学習能力がいくら高いと言ったって、主役に課された(課したのはルーだけど)膨大なセリフ量を、残る日数で覚えきるのは不可能に思える。
そうすると、視野に入ってくるのは謎の哲学者レイル会長。
あのルーが頼ってしまうくらいだし、かっこいいとか色々ものすごいとか噂には聞くけど、実際に見てないから何ともなぁ、という感じだな。
だからと言って、かっこよくて好みのタイプだったらいいのかというのも違う。
やっぱり、「代わりは誰それにしよう」じゃなくて、私は「ルーに出て欲しい」のだ。この間、それを生徒会室のところで伝えたし、後は待つだけなのだけど。
いや、もどかしい。
「そろそろ帰ろうかなー」「そうしようかな」「あ、待って私も帰るー」
「帰るっぽいけどどうする?」「この後どっか寄ってく?」「そんじゃ『遠い方』で」「お前彼女いねえだろ。つーか、今は近いし」
ルーのクラスメイトたちは和気藹々と駄弁りながら、教室を去っていく。皆、私に「じゃあね」と挨拶をしてくれる。私も「うん。バイバイ」と返す。そして、教室に取り残されるいつもの顔ぶれ。
今日も、私は何かを待っていた。
いや、私たちは、かもしれない。
「さて。わしもそろそろ帰るかのう。それじゃ、ありすよ、いつも通りわしを家に――」
「泊めないわよ」
「ふんっ。ケチじゃのう。どうせ部屋なぞたくさんあるじゃろうに」
「そうね。でも、残念ながらあたしの両親は公安なのよ」
「な、何が言いたいんじゃ!」
そんな桜さんとアリスお姉ちゃんのやりとりを、私とノアさんが優しく見守る。時間の使い方としては、悪くない。
でも、待ち人は来ない。そんな毎日。この時間だと、もはや、来ても遅いけど。
だから、悪くはないけど、意味はない。
私のこの愛想笑いと同じで。
「さ、ノア。こんなアホは放っておいて、早く支度をしましょう」
「う、うん。あれ、でも、アリス、用事……あるんだよね?」
「そうよ。暫くかかるかもしれないから、先に帰っていてくれるかしら」
「ん……待つ。ノア、待ってるよ」
弱々しくて、ここに一人で残れるのか非常に心配だったが、桜さんが待っていてくれそうだ。
つくづく思うけど、アカデミーの人たちってものすごく暇そう。みんなどこかふわふわしてるし、やることないのか大人の余裕なのか、なんか瀬戸際な気がしてきた。
「わかったわ。それじゃあ、一緒に帰りましょうか」
「わーい。やったのじゃー」
「あんたじゃない。というか、あんたは木の上に住んでるんでしょう? 帰る必要もないじゃない。好きな時に適当な木に登って寝てれば」
「なんじゃ。やっぱりケチじゃのう」
「強く抓るわよ」
「ひぃっ」
なんか色々おかしいけど、話が済んだのか気が済んだのか、桜さんはノアさんを自分の膝の上に座らせた。そして、まるで人形で遊ぶみたいにノアさんの手首をもって、その手でアリスに手を振った。
「悪い女はばいばい、なのじゃー」
何だろう。
物凄くバカっぽい。
それはそうと、アリスお姉ちゃんがどこかへ行ってしまった。
教室には、私とノアさんと桜さんだけが取り残された。桜さんが何かすればいいのにしないから、やけに静かで、時計の音と桜さんがノアさんを摩る音だけ聞こえた。
二人がなにをやってるか気にはなったけど、二人のどちらともあまり親睦が深くないので遠慮した。そっちの方を見るのが忍びなくてつい視線を逸らすと、なんだか私だけが仲間外れみたいだった。まあ実際、ここは私のクラスじゃないし、私の学校でもない。
……って言っても、自分のクラスに置き換えたところで、果たしてそこが仲間だらけの空間かと言うとそれも違うけど。
「…………」
ただ突っ立って待ってるのは性に合わない。
ちょっと、散歩がてらルーの様子でも見てこよう。怒りに行くとかそういうのじゃなくて、ただ暇だから会いに行くだけ。
「ん? どこ行くのじゃ小娘よ」
「ちょっと散歩。すぐ戻るよ」
「わしらが案内しようか?」
「んー。遠慮しとく」
ちょっと面白そうだと思ったけど、もし入れ違いになって教室に誰も居なかったら、アリスお姉ちゃんもルーも困ると思う。それに、ルーの様子を見に行くのに人手は要らない。
「そうかの。それじゃ、わしらは待っておる。お互いの貧相な胸を揉み合いながらのう」
「うん。お願い。それじゃ」
ノアさんが「え?」という顔をしていたけど、腕でロックされているので逃げられないだろう。きっと、私が帰るまでには仕上がってると思う。
まぁ、それはいいとして。
こう何回も生徒会室へ行くと、近道も見えてくるなあ。自分の学校じゃない学校の近道なんて、本当にいつ使う情報なんだろう。どうでもいいけど。
どうやらこの学校は、同じような造りの校舎四つで構成されているらしくて、それぞれが役割を持っているみたいなのだ。
例えば、私がさっきまでいた教室は、昇降口のある校舎”教室棟(仮)”に属している。そして、美術室とか音楽室とかがある体育館側の校舎”アーティス棟(仮)”、実験室とか視聴覚室とかの”実習棟(仮)”、職員室とか保健室がある”事務棟(仮)”が他にあって、それぞれ三階建て。各階層とも渡り廊下で繋がっていて、三階の渡り廊下は青空になっている。三階の渡り廊下からは、結構洒落た屋上庭園に行くこともできる。
その中でも生徒会室は事務棟の三階にあって、教室棟からだと行くのがめんどくさかったりする。
そこで、私が見つけた秘密のルートというのは、ずばり『アーティス棟の三階から屋上庭園に抜けて、そこから渡り廊下を伝って事務棟に行く』というもの。
外からではわからないけど、実は屋上庭園の入り口はアーティス棟の三階の踊り場にもあって、そこからだと螺旋階段をくるっと一周するだけで裏手に出られるようになっている。
ところどころに飾り付けとかポスターが見受けられるから、文化祭の準備かなんかで解放されて、知っている人もいることはいるみたい。
ホントなんの情報だよって感じだけど、別にここの生徒じゃないから、立ち入り禁止だろうと堂々と歩ける。そういうのって、割と気分が良い。
そうやって悠々と立ち入り禁止区域を歩いて、裏口から屋上庭園に潜入していく。わざとらしくちょっと身を屈めてみたり、何度も背後を振り返ってみたりしながら。気分はスパイか。あほか。
でも、それが功を奏した。
「あなた。また来なかったわね」
庭園の方から聞こえたのは、紛れもないアリスお姉ちゃんの声だった。いつもよりワントーン低くて、どこか圧がある。「あなた」ということは誰かと会話していて、しかも「また来なかった」と言えば、その誰かなんて一人しか思いつかない。
ルーとアリスお姉ちゃんが何かしてる。
アリスお姉ちゃんならまだ全然許せるけど……と言う話だろうとなかろうと、私がここにいることに気付かれなくてよかった。裏手から入ってくると少し低くなっている花壇の前に出るから、見つかりにくい。ちょうど身も屈めてたし。
何だかこの頃盗聴ばかりしている気がするけど、そんなの人聞きが悪い。ただ、そこに居合わせちゃっただけなんだから。
「ごめん……」
「別に謝らなくてもいいわよ。本番さえ完璧にやってくれれば」
現実主義なアリスお姉ちゃんらしい言葉だけど、今のルーには結構痛いんじゃないかな。
でもやっぱり、アリスお姉ちゃんも心配してくれてるんだ。優しいなぁ。それはそうと私にはそんなこと言ってくれないのに、ルーばっかりズルい。
「そうだよね……」
「だからって、来なくていい理由にはならないけど」
「わかってる。わかってるよ……」
「あたしは別に、あなたの心配をしているわけじゃないのよ」
心配してる。心配してる。
アリスお姉ちゃんってやっぱり可愛いよねー。
「うん……知ってるよ」
「そう。あなたも色々学習したのね」
「うん……」
「得意教科は逃亡かしら」
「そうかも、しれないね……」
「それなら、主役交代はあなたの中では百点満点中何点かしら?」
「知ってたの……?」
同感。知ってたんだ。アリスお姉ちゃん。
でも、どこで知ったんだろう。
あの場には私しかいなかったし、あの後は誰にも会わずに帰ったはずなんだけど。まさか、サボってる張本人のルーが他人に言いふらすわけもないし。……はったり?
「あら。やっぱりそうなのね。顔に書いてあるからまさかとは思ったけれど」
「ははは……。僕の顔ってなんでも書いてあるよね……」
やっぱり、はったりだった。
昔からそうだけど、アリスお姉ちゃんに嘘つくのって、すごく難しい。私はまだいいけど、ルーなんてやたらに嘘が下手だから尚更アリスお姉ちゃんの目を誤魔化すことはできないんじゃないかな。
「そうね、なんでも書いてあるわ」
「他には何て書いてある?」
「……め、珍しいわね。自分からそんなことを言うなんて」
それって珍しいんだ。
「そうだね。それを聞いたら、自分が何者かわかるかもしれないから」
「そう。今日はいつにも増して随分と女々しいわね」
「どうなんだろう……。それは僕の顔に書いてある?」
「残念ながら書いてないわ。けど、自分が一番よく知ってることだって、そう書いてあるわ」
「そっか……。でも、僕は僕がわからないからな……。どうしようもないや」
「そうね。どうしようもないわね」
確かに、ルーって昔から自分より周りの人優先だった気がする。おもちゃの順番はいつも私が先だったと思うし、自分が食べたい物だったはずなのに、私に譲ってくれたりもしたし。
一言でいうと、自己犠牲。自分が傷ついても代わりに誰かが喜ぶなら、という精神論。
どうなのそれって思うは思うけど、私もそれに甘えてきたから何も言えない。
ともすれば、今アリスお姉ちゃんが言ってくれていることは、本当に的を射ている。核心をついている。私の気持ちを代弁してくれている。
「でも、あなたはそれでいいかもしれないけれど、他の人はそうじゃないかもしれない」
「どういうこと?」
学校の勉強はできるのに、そんな簡単なこともわからないんだ、ってバカにしてやりたい。
そうやって自分を削って誰かを幸せにして、ルーは満足するのかもしれないけど、自己犠牲はそれで終わらないんだよ。幸せになった人は、ルーに感謝して、お返しをしようって気持ちになるんだよ。
なんでわかんないんだろう。
知ってる。それは私のせいだよ。
「あなたのことを信頼してる人、意外とたくさんいるのよ。副会長だからって理由じゃなくて、もっと単純に『信頼したい』って、それだけの理由でね。……ああもうっ! なんであたしがこんなこと言わないといけないのよっ!」
「アリス……?」
そこから少し沈黙があった。
気になって少しだけ頭を上げてみれば、アリスお姉ちゃんがルーのネクタイを強引に引っ張って顔を近づけていた。遠いし木の陰になってるから表情は読み取れないけど、絶対穏やかじゃない。
「明日から練習に来いだなんて、そんなことあたしは言わないわ。クラスの人らも、仕事が忙しいから仕方がないって、そう言ってる。でも、そうやって口には出さないかもしれないけど、あなたを待ってる人たちはたくさんいるの。それを早くわかりなさいって言ってるの」
「それって、本当に僕を待っているの?」
「そうね。確かに、あなたじゃなくて”王子様”を待ってるだけかもしれないわよね」
王子様役のルーじゃなくて、ルー役の王子様をという意味だよね。
悔しいけど、それも正しい。ルーがいなくたって、王子様さえいれば物語は進んでいくんだから。例え、あの変な哲学者だって。
「そういうこと。別に、あの物語は僕でなくたって始められる。だから、主役交代は僕の中では及第点だよ」
「それをあの子が聞いたら、なんて言うかしらね」
調子に乗って大分頭を出していたから、どきりとする。
変な汗を袖で拭いながら、また少しだけ頭を出す。私の話をしているのだから、聞き逃すわけにはいかない。
「リズには、きちんと話すから……」
「何をよ。あの子が満足するような話を、あなたができるのかしら」
「できる、よ……」
ふんっ。意地でも満足してやらないよーだ。パスタ貰っても無理。
「どんな話をするのよ。あの物語は僕じゃなくても始められる、なんて言うつもり? あなたの言う通り、確かにそうかもしれないけどね。物語は、始めたら終わらせなきゃいけないのよ?」
「そうだよ。だから、それだって――」
「無理よ!」
その言葉は、私が心に抱えた濛々とした部分を吹き飛ばすようだった。夏風というのだろうか、私という湿気を乗せて軽やかに、どこかへと轟いて消えた。
「そんなの、あの子が望むと思う?」
「…………」
望むはずない。
私が望むエンディングはただ一つ。
「わかってるなら、あたしについてきなさい。少しだけ練習に付き合ってあげるわ」
「えっ、ちょ、ちょっとアリスっ。待って……!」
魔女でも、お姫様でも、メイドでもなく、王子様でもない。他でもないルート役のルートと、リズ役の私は結ばれたい。深い意味じゃなくて。
いつからとかどこがとか家族とかそういうの、もうなんかよくわかんないけど、多分、好きだから。いや、大好きだから。アリスお姉ちゃんとも少し違う意味で。
だから、あの物語は貧乏メイドとお城の王子様の花物語じゃない。私とルーが今まで生きてきた贖罪の履歴と、これから起こる二人の未来をパロディしている実話なんだ。ルーだって、そう思って作ったと思うんだ。
今回、お姫様を演じてすべてが償われるわけじゃない。そのすべての愛のセリフが真実であっても、きっとそれは王子様の希望を奪ってしまうことと対等にはならない。だから、林檎で毒殺してしまったからキスをして揺り起こすなんて都合の良い展開は、この物語には出てこないのだ。
「ん? アリスお姉ちゃんがこっちに向かってる……!?」
魔女という名の『逃亡』がそこにはあって、責任はすべてそいつが掻っ攫っていく。
結局、私はその魔女を退治するわけだけれど、それで王子が目を覚ますはずはない。王子が目を覚ますのは、私が祈りつつ「好きだ」と訴えるからだった。
「待って。待ってよアリス……! 僕はまだ……」
やっぱり、この物語は確実にルーの潜在的な心の動きを反映している。
あの変な哲学者も、何故かそれに気付いていた。
つまり、ルーの言う通り、あの哲学者も王子様としては適役であるわけだ。哲学者自身も似ていると表現してたけど、自分と重なる部分があったんじゃないだろうか。
でもそれは、ルー側の王子様サイドの話。
「アリスお姉ちゃんも隠し通路知ってたんだ。わっ。ルーも来たっ。こっち方向ってことはアーティス棟? もしかして音楽室かな。あそこ、前探検したとき確かステージがあったし」
物語に主役は一人じゃない。もう一人、お姫様が、私がいる。
王子様が死の眠りから目覚めるためには、私の祈りが必要なんだ。それでこそ物語は動くし、それが無ければ物語はバッドエンドになる。
そして私は、王子様を起こすかどうか選ぶことができる。魔女退治という危険を冒してでも、王子様を起こすべきかどうかを。
まぁ正直言うと、私は今までずっと起こす側の人間ではなかった。逆に、起こされる側で、いつも迷惑かけてた。起こしてもらってるのに、機嫌が悪くなるし。
そんなんで、”あの時”のこと許してよ、とか償えてるのかとか、そればかり気にしていた。
すべては、私の甘えだった。
だって、ルーは許してくれたから。王子様はいつだって優しかったから。
それが結果的に、本当の王子様の夢と希望を奪って、殻に閉じ込めてしまった。
それなら、その殻を破れるのも、やっぱり私しかいない。王子様を蘇らせることができるのは、お姫様である私だけに許された役目なのだから。
「とりあえずこの中に隠れてよう」
私は音楽室に先回りした。そして、部屋の隅にあった、人一人がやっと入れるサイズの掃除用具ロッカーに身を潜めることにした。
ちょうど目線の高さに覗き穴兼空気孔があって、覗く方に集中すると、胸が締め付けられるように苦しくなった。真っ暗で、窮屈で、埃っぽい。
そんな鉄棺桶の中で、私は寝ている時王子様がどんな気持ちでいたかを考えていた。
会いたくて、会って抱きしめたくて、抱きしめてもらいたくて、仕方がなかった。一人って寂しくて怖い。
ルーがミドルになって、部屋が別々になって、アカデミーになって登下校も別になった。そんな変遷が思い出される度に、ロッカーの中の空気は淀んで、自分の心音がそっと背筋をなぞった。
そして、ルーはやって来た。アリスお姉ちゃんに連れられて。
アリスお姉ちゃんは魔女の衣装を着たままだし、私はロッカーに入っているし、ルーに至っては涙目だった。おかしな構図だけど、久しぶりにまた三人が揃った。
それなら、演じなきゃいけない。
私は私を。ルーはルーを。
せいぜい眠らないように、いや、眠ってしまってもキスをしてもらえるように。
「結局ついてきたわね。いいわ。それじゃあ始めましょうか」
□■□■
「だから、ダメなんだって……。そう言ったじゃないか……!」
「僕は、主役なんかできないんだって……!」
「知ってるよっ! そんなこと! だけど、無理なんだよっ!」
「ごめん……。ごめんよ……。ごめん、なさい……」
「愛、してる……」
息苦しさなんて無くていいはずなのに、胸はぎゅうぎゅうに締め付けられて。箒かなんかがあばらを圧迫してるんじゃないかって一瞬疑ったりもしたけど、別段そんなことなくて。
気付けば溢れてた涙が滴って、ロッカーの中は棺桶どころか蒸し風呂だった。
怒ったアリスお姉ちゃんのと泣いたルーの気が鎮まるまで待っていたら、時刻は程なく六時ってところだったけど、二人が出て行った後の音楽室はまだ結構明るくて。
私は蒸し風呂好きだけど、これはちょっとなぁってまた、泣いた。
【あとがき】
胸の苦しいお話の時は、私も胸が苦しかったりします。
果たして、すぐ解消されるのか。
次回は、もしかしたら、分かる人には『ルーモス史上最大の大団円』になるかもです。




