表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/165

Ⅰ Magic the Gathering

【まえがき】

 また始まりましたアリス編!

 今編は、前アリス編と比べると、少しだけ内容が軽くなります。薄っぺらくなるという意味ではなく、シリアス度的なものが少なめになるという意味です。

 その点で言えば、かなり読みやすいものに仕上がるかと存じます。


 設定もぶっ飛んでいく予定なので、心しておいてください。


 本編です。





 


 朝、目を覚ますと、一人の少女がこちらを見ていた。

 とてもよく知った顔だったので、寝ているふりをして様子を見ることにした。

 どうやら、あたしのことが好きみたいだった。

 わかりきっていたことだけれど、こうして近くで目の当たりにすると、不思議と心がもやもやする。

 好きでいてくれることは、とても嬉しい。嬉しいけど、相手にも覚悟が必要なのだと、あたしは言う。相手に相応の覚悟があった。あたしはどうしたらいいかわからない。

 あたしは生来、結構な自己中なのだ。

 でも、嬉しいのはわかる。

 ただ、どうして嬉しいのか、わからない。

 何か物を貰ったわけではない。あたしの身辺整理をしてくれるのは、メイドも同じ。作ってくれるご飯の味は、メイドのそれを軽く凌駕するけれど。

 ああ、そうか。嬉しいのは、弁当を作ってくれるからなのかもしれない。

「子供みたいで可愛いなぁ……」


 [触ってみたいな……って、ダメダメ! そんなことしたら、嫌われちゃう!]


 その子は、口心(くちぐち)に、あたしへの好意を漏らす。別に触るくらい気にしないのに、律儀に我慢している。そんなちっぽけな理性を、あたしに嫌われたくない意気込みで覆って、精一杯カモフラージュしている。

 好きな物には触りたくなるのが、道理なのだろうか。

 あたしの好きな物、好きなモノ……。

 温かいもの。

 確かに、触りたくなる。


 [ちょ、ちょっとだけなら……!]


 でも、あたしがそれに触れる時、〔好き〕だと思う気持ちは、逓減する。触ってわかるのは〔温かいこと〕だと知っているから。それでも触れたくなるのは、〔温かいこと〕を期待するから。

 けれど、あたしは大して温かくはない。むしろ、冷たいくらい。


 ――だったら、あなたは一体、何を期待してあたしに触れるの?


 急に聞いてみたくなる。

 これは、そう。あれだ。

 新たなる“チカラ”への好奇心? 的なあれだ。


「わっ!」


 重い瞳を開けば、その子が飛び退いてベッドから落下する光景が飛び込んでくる。そこまで驚く必要はないだろうに。

 念のため、その子から伝わってきた、あたし自信の映像を確かめる。

 ちゃんとあたしだ。魔法生物(モンスター)じゃなく。

「そんなに驚かなくてもいいじゃない」

「ご、ごめんなさい!」

 まぁ、寝ていた人間が急に起きたりしたら、びっくりするのも当然なのか。

 悪いのはあたしの方だ。

「謝らなくていいわよ。ノアの怖がりは、今に始まったことじゃないでしょう?」

「複雑……」

 ごめんなさいの一つも言えないあたしは、いつも他の方法を模索する。くそみたいなプライドを捨て去れば、事は済むというのに。

 これは、あたしの治せない癖なのだ。

『ごめんって言っても誰も嬉しくない』なんて、身勝手な持論でも展開するとして、あたしはすぐ、ノアのフォローに回った。

「あら? あなた、今日はメイド服着たままなのね。いつもは制服着てるのに」

「そ、そうなの! ノア、今日から、アリスのメイドに、なったんだよ……」

 ただ事が済むよりも、誰かが幸せになって終わる方が良いに決まっている。

 あたしに募る罪悪感も、そのうち忘却の彼方に消えてくれると思うし。

 そんなことよりも、覚えていたいことがたくさんあるのだから。

「ちょっと、回ってみてくれるかしら?」

「わかった! ……はい!」

 言われた通りに、くるりと一回転。

 不器用という言葉がしっくりこないほどあどけない動作に、メイドのフリルが可憐を演出する。黒い髪の毛が、少し遅れて回っていく。よく手入れされた黒髪は、窓から差し込む日光を受けて白く光る。

 おまけに、ミニスカートの隙間から白い花柄が見えた。私のお下がり黒タイツのワンポイントだった。

「あなた、メイド服似合うわね。……っていうか、あなたって、何を着せても似合うわよね。コスプレみたいなのも、全然アリだったし。……ああ、黒髪ってなかなかにズルいわね」

「そ、そなの……かな……?」

「そうよ。それ以前に、あなたってすごく……か、可愛い感じなのよっ? 雰囲気っていうか、空気が何となくね、小さい動物みたいだわ」

「動物……。複雑……」

 そうして見せる複雑という表情を、あたしは記憶に刻む。そうすることで、ちっぽけな罪悪感など、一瞬で消えてしまうのだ。

 けれど最近は、それだけじゃない気もしていた。

 そんなとってつけたような動機じゃなく、もっと確固たる理由に導かれて、あたしはノア(この子)を見ているような。

 それがわかれば、この子の抱く気持ちに、少しは応えられるのだと思う。

「ノア」

「なに?」

「あたしのこと、好き……なのよね?」

「え? あ…………うん……。好き……」

 全くわからない。

 どうして、俯くのかが。俯くときに、恥ずかしくなるのが。恥ずかしいけど、それでも絶対に変わらない想いがあることが。それをもってしても、顔が熱くなることは止められないことが。

 あたしだって、ノアのことは好きだ。

 ノアと長い時間を共にしたあたしは、ノアに対する一つの思いとしてのその言葉に気付くことができた。自信をもって好きだと言える。それは、相手が女の子だからとかは関係なく、特別な好意であると、自負できる。

 それなのに、わからない。

「どんな風に?」

 意地悪で狡猾なあたしは、ノアの[好き]を利用して、答えを探そうとする。

 だけど、

「ん……。わかんない……」

 ノアに伝えられないことは、あたしにも伝わらない。いくら、伝えたいと願っても、枠の無い想いは伝えることができないのだ。ノアのもつ不可解な想いは、適当な外形を持たせることもできないから厄介だ。

 何かに似ていると言えば、あれと似ている。

 ルートがリズを想う、あの気持ちと。

「でも……。アリスのこと、好きなの……。大、好き……」

「あたしも、あなたのこと、好きよ」

 ルートにわかってあたしにわからないはずがない。少なくともルートに、乙女心で負けるつもりはない。

 ……乙女心、関係ないかしら。

 立ち話もなんなので、あたしはノアを自分の横に座らせた。ベッドの上に、メイド服姿の可憐な少女がいると、特殊な趣がある。色香というかなんというか、ね。傍から見たら、危ないことをしているように見えなくもない気がする。

 まぁ、それはいいとして。

「ね、ノア?」

「なに……?」

「あたしにしてほしいことはあるかしら? せっかくメイドに就任したのだから、なんでも一つだけしてあげるわ。欲しいものでもいいわよ」

「えっ? いいの……?」

 ノアの瞳が、急に爛々と輝きだす。もともと大きな瞳がさらに強調されて、若干のあざとさがあたしの視界で奇を衒う。

 その輝きに応えるよう、あたしは「もちろんよ」と肯定の意を示す。

 この子の持っている不可解をとくためには、この子の情報が要る。

「じゃ、じゃあ……。え、と……。うーん……。どしよ……」

「答えは早い方が嬉しいけど、別に急いではいないわ。だから、すぐに答えを出さなくてもいいわよ。その代わり、ちゃんと欲しいもの、考える(・・・)のよ」

「わ、わかった……」

 あたしの言った通り、ノアは考え始めたようだ。言ったことはきちんと最後まで遂行するのがノアだから、今ここで決まらなくても心配はいらない。

 逆に、その方がたくさんの情報を得られる。

 そんな狡賢さ、本当は許されない。

 けれど、あたしに素直さを求めたところで、期待外れの空回りを煽るだけだ。それを自覚しているからこそ、あたしは悪知恵を働かせることができる。

 だからあたしは、ノアを部屋に招き入れたのだ。その時、ノアの望んでいたものが、『あたしといる空間』だったから。

 さすがに対価とは言わないけれど、とても近いものだと思う。

 さあ。考えてみせて。

 あたしは、絶対にあなたの傍から消えたりしないから。いつかあなたが、あたしを必要としなくなるその日まで。ずっと、一緒にいるから。

「んー……」

 煮詰まりそうだったので、予定通り無期限の猶予を設けることにした。

 着替えて朝食を食べよう。食事をすれば、不安や心配は大概忘れてしまうと、誰かが言っていたし。

「焦らなくていいわ。決まったら、言ってちょうだいね」

「わかった……」

 あたしはベッドから降りて、ノアが準備してくれた、食事の席用のドレスに一旦着替える。

 最近、食事の席にドレスコードを設けていて、そこはかとなく煩わしい。

 何が狙いかは何となくわかるけど、色々と露骨に変化をもたらし過ぎだ。何か一言くらいあってもいいのではないか。

 ノアが家に来てからすぐ、というタイミングにも問題がある。忌み嫌われていたノアにとれば、これが『排除運動の一環』と捉えられてもおかしくはないのだ。

 本当やめなさいよ。心配かけるの。

 無論、あたしにも、ね。

「一体、何を考えてるのかしら。お父様は」

 何を考えているかわからない相手は、好きになれない。

 そんな偏見を引っ提げていたら、あたしの恋愛対象は、すべてを知ることができるルートただ一人に絞られてしまう。

 ノアの中にある、その想いの在り処は知ることができる。形や大きさも、だいたいわかる。でも、色と感触がわからない。

 だから、その心に触れた時に、どうしていいかわからなくなる。知らぬ間に壊してしまわないか、怖くなる。

 それでもノアは、あたしの心に触れようとする。それはきっと、[好き]だから。あたしも、ノアの心に触れたい。それは、〔好き〕だから?

 答えられない気持ちを受け取るのが、怖い。今まで受けてきた告白を、どうやって断っていたかわからなくなる。

 相手(ノア)の気持ちを考える程に、あたし自身が苦しくなった。好きじゃないはずはないと、自問して身悶える。恋煩いとはこのことだ。

 一つ深く息を吐いて、心機一転しよう。

「さ。行きましょ」

 ノアの想うあたしの匂いと、あたしの想うノア匂いで充満したこの部屋に長居していたら、脳がパンクしてしまいそうになった。

「うん」

 長い廊下は、とても静かで、不穏な逡巡を加速させる。これほど、ノアの手が心強かったことはない。

 あたしは、憎たらしくも長い道をを小走りで駆ける。

 正体不明の不安で冷たくなっていく手を、ノアの魔法で温めてもらいながら。



     ***



 高貴な様相と、偉そうな態度。所謂『お金持ち』しか、言わないような言い回し。それらが生む、固すぎる息苦しい空気。

 ノアだけじゃなく、あたしも感じている。

「いただきます」

「「いただきます」」

 父親の号令を口火に、あたしと母が続く。

 相も変わらぬ大きな机には、家族三人以外は座っていない。そのせいでできた大きな隙間は、家族間の距離感を揶揄するよう、大きな口を開けて笑っているようだ。

 これだけの量を作るなら、メイドたちと一緒に食べたっていいのではないだろうか。別に、罰が当たるわけでもあるまいし。

 ノア含めメイドたちは、一足先に食べてしまっているのだけれど。もちろん、父の指示通り。

「アリス。明後日の休日は開けておくように」

「わかったわ」

 心地の悪い沈黙を破ったかと思えば、父の言葉は場を和ませるものではなかった。そして、応対するあたしの語調も、大分、黒く整っていた。

 母は、にこやかに微笑みながら、高級そうなスープを一口一口、口に運んでいた。

 一体、何が。

 何が楽しいの?

 疑心で浮かんだ仏頂面を、諦観の無表情で覆っていると、父がまた楽しくない。

「その日、お前の婚約者がくるんだ。礼儀作法に気を付けるんだぞ」

「ええ。わかったわ」

 このところ、父によるあたしの婚活は、油を差したブリキのように活発だった。おそらく、食事の席のドレスコードはその一環だ。

 礼儀作法の先生を雇ってみたり、舞踊の稽古に力を入れてみたり。やること成すこと結婚に結びついていて、ものすごく嫌だ。

 弊害には目を瞑れだのなんだのと父が言っていたけれど、そんなことをしたら、あたしの目には何も映らなくなるに違いない。

 その時は、ルートの目を借りてあたし自身を見てみよう。

 きっとそいつは、あたしじゃない。


 [アリス……。本当にわかっちゃったのかなぁ……]


 メイド隊の一番端で、誰かが俯くのが見える。

『そんな結婚なんてする気はない』というあたしの気持ちは、ノアに伝えたはずだ。即興とは言え、ファーストキスまで添えたんだから、覚えてくれていると嬉しいのだけれど。

 その様子だと、忘れてはいないようだけど、反応を鑑みるに心配でならない。婚約者とやらが来た暁には、ノアは一体どうなってしまうのだろう、と。

 だから今は、『来んな!』と強く思う。

「レイル君とは前に一度会っていたよな?」

「ええ」

 そう言えばレイルという名前だったか、あの男。

「どうだ?」

「どうって……」

 率直に感想を述べるのなら、『顔が良くなかったら殺されている。あと、あの悪知恵も無いとまずい』だろうか。

 初見は夏休み、金持ち主催の金持ちの間の抜けたパーティーの時だったのだが、二人きりで話した時とそうでない時のギャップがひどかった。外面と本音の差異は、違和感なんて表現では物足りない。『別人』、が言い得て妙か。

『大丈夫? 疲れてない? 中で休もうか?』『俺の部屋なら、静かだよ』なんて、そんな歯の浮くような甘いセリフを、何気もなく堂々と使えるのは、そいつくらいの話だ。顔が良いだけに、女子は覿面にやられてしまうだろう。

 あたしがそいつの甘い誘いに乗らなかった理由は……よくわからない。

 よくわからないけれど、気に入らなかった。

 なんとなく、その理由を逆さまにすれば、ノアの気持ちについてわかると思うのだけれど、そうもいかないのが世の常というやつで。

 だから、逆に『気に食わない』を極めてみようと思わなくもない。気に召さなかったことに悪気がないのも、今のノアに同情心が無いのと、似たようなものだろう。

 けれど、そんなことを口にするわけにはいかない。

 あたしには『気に食わない存在』でも、両親にしてみれば『家系を強くしてくれる逸材』なのだから。

 ここは、気を削がぬよう努めよう。最大限の対抗と、ノアへの気遣いは忘れず。

「かっこよかった、と思うわ」

「そうかそうか。お前もそう思うか。よかったぞ」

「レイル君かっこいいわよねぇ。うふふふふふ」

 食事に集中していた母も、話に食いついてくる。あたしの反応が、好印象過ぎただろうか。もっと「気持ち悪くはない」とか控えめに言っておけばよかったか。センスを疑われそうだけど。

 まぁ、言い放ってしまったものは仕方がない。

 縮こまっているノアには、あとで適当に弁明するとして、今は、このくだらない茶番劇を終焉に導こう。

 とは言っても、早食いをかますだけの話なのだけれど。

「お。アリス、今日は威勢がいいな。関心だが、張り切り過ぎは禁物だぞ」

 父に無意味な目配せをしてから、スピードを上げて、あたしは五分で完食した。

 これから部屋に戻って、制服に着替えなければならないのが、非常に億劫で不本意だ。気付けの意味合いの強い正装が嫌いなのもそうだけど、言いなりになっているこの現状が、心底気に食わない。

 言葉が悪いけど、端的に〔ムカつく〕。

「ごちそうさま」

「ああ。学校に遅れるなよ」

「気を付けていってらっしゃい」

 つい最近あんな事件があったのに、両親とも事前事後の態度が同じなことが、さらに気に食わない。

 あたしがノアにキスをしたこと、まさか忘れたわけじゃないわよね? あの瞬間、あたしとノアの関係は、父の禁止する『友達』を超越したこと、覚えているわよね?

 最近、少し不安になる。

 両親からの無言の重圧と水面下での支配、ノアがあたしに抱く気持ちの正体。

 数カ月前に死ぬか生きるかの選択を迫られていたあたしにとって、この悩みは少しばかり、小さすぎると思った。

 でも、もっと真剣に考えよう。

 それがきっと、あたしの心の支えでいてくれるノアへの感謝になるから。

 あたしは、偉そうにノアを指名して、部屋への同行を命令した。



 そして、部屋で、また、キスをした。



     △▲△▲



 撫でて欲しい? いつもしてるじゃない。いくらでもしてあげるわ。

 手を繋ぐ? いいわよ。減るもんじゃないし。

 一緒の布団で寝たい? もちろんよ。二人の方が温かいもの。

 ハグしたい? 全然いいわよ。あたし、結構好きなのよ。くっつくの。

 触れたい? いいわよ。……も、もっと別のところに? ……い、いいわよ。ハグするのとそんなに変わらないでしょっ。

 キス……したい? そ、そうね。時と場所さえ都合に合えば、いい……わよ? 前にあたしからしたの、すごく変な感じだったわよね。でも、悪くはなかった、と思うわ。

 え? もっと? それって……。

 ああ、そうなのか。

 そのあたりから、あたしはノアの求めるものが掴めないのか。だから、答えることもできない、と。

 ルートに恋心を語っていた、以前の自分が、無知な恥ずかしい存在に思えてくる。

 でも。だったら。

 どうやったら理解(わか)るのよ。

 本当に困る。

 考えても解決できない論理、特効薬の存在しないもの、努力の方向がつかめないこと、善と悪の狭間にある身勝手な葛藤、魔法で解けない問題……。


 ーー相手は女の子で、自分もそう。


 その気持ちを心の中に留めておくのなら、制限は及ばない。だけど、一度外に漏らしてしまえば、それは国の規制の対象になる。

 だけど、そんなことは無論知っている。それを覚悟の上での、気持ちなのだ。

 だから尚更、悩む。

 一思いに無理だと言ってあげられれば良かったけれど、あたし自信、あの子(ノア)のことを『好き』なのだ。一生一緒にいたいとだって、思っているのだから。

 じゃあ、いいじゃないか。

 いいのかしら?

 良くない。

 あの子の中にある『好き』は、あたしの中にあるそれとは違う気がする。あたしが思う、『我が子に捧げる愛情』や『わがままだけど、結局嫌いになれない妹への想い』みたいなものとは、何となく違う気がしてならない。

 いや、絶対そうだ。

 そうでなければ、キスなんてしないし、強請ってもこないはずだ。せいぜい、一緒にいて欲しいと思うくらい。ルートじゃあるまいし、家族に〈キスしたい〉なんて思ったりはしないはず。

 でも、した。

 それも、あたしから。

 あたしはただ、ノアに喜んでほしくて、それに答えたかっただけなのだけれど。[してほしい……]と、日夜伝わってくるから仕方なく。

 …………なんだろう。

 本当に、仕方なくなのか。

 回数を重ねるたびに、そうではなくなってないだろうか。

 つまり、あたしも『してほしい』と思っていたり。

 いや、ないわね。

 ないない。

 ないのかしら……?



 もう、考えるの、やめにしましょう。

 なんなのかしらね。本当に。

 モヤモヤ全部焼き払えたらどれほど楽かしらね。

 でも、残念ながら、あたしの使える炎では、せいぜい生身の人間を焼き焦がすくらいしかできない。ノアならわからないけれどね。

 まぁ、嘆いても仕方ないのは確かか。

「さ。学校、行きましょ」

「そうだね」「うん。行こ」

 ノアの家の前で、三人で待ち合わせをして、学校へ向かう日常。多分その中に答えはないけれど、きっとそれがあれば、不安に押しつぶされることはないと思う。ルートの能力的な意味でもね。

 だから、三人でいられるこの瞬間だけは、他のことなんて全部忘れて、ただ楽しかった頃の思い出に浸ろう。ルートやノアとの、いい思い出だけを掘り起こして、それを心に反芻して。ルートが作ってくれた当たり前の今を、心の底から知覚しよう。

 陽気で朗らかな春らしい天気が、追憶の妨げになっていて気がかりだ。

 今日ばかりは、少しだけ曇っていてもよかったかもしれない。



【あとがき】

 違和感はあるけども、その正体が何なのか、まだわからない状態だと思います。

 ノア編では、最後まで引っ張った正体解明ですが、今回はどの辺で明らかになるのでしょうか。

 お楽しみに!




 次回は学校に行こうかと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ