Ⅲ 僕の親友、アメとムチ。
【まえがき】
27年の大幅改稿のことを「革命」と書いて、レボリューションと読みたいです。
革命のおかげで相当読みやすくはなりましたが、「話がぶちぶち切れてしまう感」がある気がします。一冊の本にする場合なら、一章単位で区切れば良いのですが、携帯でご覧になっている皆様のことを考えると、この形が最適なのではないでしょうか。
書いている自分の環境も大切ですが、読んでくださる皆様の環境もそれ以上に大切なのです。
……と、いい話をしたところで本編です。
〈妹と校舎が離れていることだけがこの三年間の悔いである〉
そう言ったら何かおかしいだろうか。
きっとその答えは、論じるに値しないと思う。そのおかげで逆に僕は、もやもやすることが少なく済んでいるのかもしれない。
そう。
今、論ずべきは、三階まで続く螺旋階段の長さ以外にない。
心内討論して出した事案が『目を瞑って上る』ということで、話は振り出しの『妹リズ』へと舞い戻ることになる。
〈かけつけて応援してくれないかなあ……〉
僕は、膝から踵にかけて脚をがくつかせながら、そんなしょうもないことを妄想するのであった。
「ああ、足が……」
上る時の恐怖は下る時の恐怖の半分くらいだったので、それほど手摺に縋りつかなくて済むけれど、階段にいると自覚してしまうと正直なところ、こちらにも目を瞑りたくなる。
夏休みが明けて体が焦げている人は昔からよく見かけるけれど、階段恐怖症になってくる人はなかなか見ない。というか、生来見たことがない。
日焼けした4~5人の同級生に追い越され、漸く三階の三年教室に到達する。
到着時刻的には余裕があったはずだけれど、教室からは騒がしいくらいに賑やかな話し声が漏れ出ている。
早い登校は褒めてあげたいけれど、受験生なのにそんなに浮かれていて大丈夫なのだろうかと不安が募る。
とは言っても、僕もそのうちの一人なのだけど。
春先に多数決で決めたスローガン『隠し事のないオープンなクラス』に恥じない、空きっぱなしのドアを潜る。
教室の後ろの掲示板に掲げられた、豪快な黒太字のスローガンの次に、それなりに仲の良いクラスメイト達が視界に飛び込んできた。
「おはよう!」「おはよっす」「おう。久しぶりだなー」
「うん。おはよう。久しぶり」
クラスメイトからの手厚い歓迎を軽く受け流して、僕は足早に自分の席を目指す。
窓際の席。綺麗なブロンドの子の一つ前。
そこが僕の席だ。
「おはようアリス」
振り向くと、ふわりと揺れる鮮やかなリボンと太陽の様なブロンドの相乗効果で、まるで絵本の世界から飛び出してきたかのような印象を受ける。大人びたクールな雰囲気を醸し出している炯眼とのギャップで、目が合った者すべてを虜にしてしまいそう。
風貌も仕草も女性的なイメージが目立つけれど、実は運動部でエースとしても活躍していたりもする万能人間なのだ。ここまで来ると、もはや勉強はおまけになるかもしれない。
そんな完璧超人の友達アリスは、サイドヘアーを右手で払って開口一番、毒を吐く。
「あら、意外と遅かったわね。もしかして、階段恐怖症になって階段が怖くて登れなかったのかしら」
「え」
確かに、夏休み中、一度アリスと遊んだけれど、僕のトラウマ事故はそれよりも後だ。
それに階段から滑り落ちたなんて恥ずかしい話、他人にするはずもない。仮にも、受験生なわけだし。現場を目撃したリズも、秘密にしてくれるって言っていたし……。
「ど、どこでそんな情報を……」
「あら、図星だったの?」
ハメられた。
こんな朝早くから嘲笑される気分はと言えば、あまり良くはなかった。
それにアリスの嘲笑は、小悪魔リズのそれとは違って、可愛げの無い策士の不敵な笑みと言う感じ。
策士、という称号はあまりにもアリスに当てはまり過ぎている気がする。ただ、アリスはとても愛くるしい顔立ちをしているから可愛げのないという前置は、あまり正しくない。
どちらにしたって怒られるから言わないけど。
「ふふふっ……。顔に書いてあるからまさかとは思ったけどね」
「ま、またですか……」
情報の出所は、聞いても『顔に書いてある』と濁されてしまって、いつも判然としない。何となく、知らない方が得策な気はする。
とりあえず一つ言えるのは、アリスの情報網はすごいということだけ。
ちなみに、鏡で自分の顔を見ても何も書かれてはいなかった。……当たり前か。
たじろいでいると、アリスは「まぁいいわ」と心機一転、話題を変えた。
「昨日が何の日か、もちろん知ってるわよね」
「え、うーん……うぅん?」
とんと見当がつかなくて、僕は首を傾げる。傾げるほど、真剣に考える。
わからない、と言ったらアリスは絶対に怒ってしまうだろう。それはアリスの一番嫌いな答えだから。
冗談であっても、アリスは怒ると結構怖いので、納得してくれそうな答えを模索する。
でも、なかなか見つからない。
変な間ができないように、僕は唸って間を埋める。
「ううーん……」
額に滲むこの汗は、晩夏でラストスパートをかける太陽の努力のせいか、それとも――
「はぁ……。まったく、あんたってホントに鈍感よね」
「ご、ごめん」
僕の謝罪に呆れたのか、アリスは深いため息をつく。朝からこの扱いをされると、正直かなり泣きそうになる。
アリスは「……ったく、もう」と毒づきながら、机の横に掛けていた鞄から何かを取り出した。そして「はい、コレ」と、何やら小包を手渡してきた。
「え? え゛え゛?」
「まったく鈍いわね。昨日はあなたの誕生日でしょ? 一日遅れたけど……あ、あたしからよ。そんなに良い物じゃないけど。……てか、いつもあげてるじゃない」
「ご、ごめんなさい」
処理が追いつかなくて、とりあえずの謝罪をしてしまった。今するべきは……感謝、だっただろうか。
手渡された小包を受け取っていなかったら、アリスがフラれたみたいな構図になっていたかもしれない。
僕は言下に「ありがとうアリス」と訂正して、アリスの優しさを実感する。
アメとムチの使い方が至妙である、というこれまた至妙な表現が見つかっても、決して口にしてはいけない。また泣かない程度にムチを振るわれてしまうだろうから。
「どういたしまして。誕生日おめでと……とりあえず、ね」
甘美な飴は、例年通り素敵な味がした。
***
昼休み。
『自分の進路は自分で決めるんだ』
「はぁ……」
アカデミーの受験が控えている三年生だけあって、前年前前年と比較にならないほど先生方もヒートアップしている。
ついさっきの授業で語られた熱を帯びた言葉が、頭の中でぐるぐる回り続けているせいで頭の中が熱い。
他のことを考えると、その熱と許容量超過で、すぐにごちゃごちゃになってしまう。
今は簡単な問題を出されても、この乱雑な自動撹拌のせいで間違えてしまうだろう。
『他人と相談することは悪いことじゃない』
無論、言いたいことはわかる。
二年生まで琴線はおろかフレームにさえ触れなかったその熱弁が、夏休み明けのこの時期になってフレームくらいにはヒットするようになってきたのだ。
そして、今の時期でフレームヒットはまずいだろうと、心のどこかには焦りも生まれてきている。きちんと面の真ん中にヒットして、それで初めて自分が置かれた受験生という状況を、真摯に受け止められるはずだと思う。ヒートアップしなくてはいけないのは先生方ではなく、当事者である僕たちなのだ。
でも、だからと言って「よし! これから必死で勉学に励もう!」だなんて、これ一つも思えはしない。
人間そんな簡単に変われはしない。
「はぁ……」
丁度四度目の溜息を、部活の顧問の呼び出しから戻ってきたアリスに聞かれてしまう。
「そんな暗い顔してると、オムレツが泣くわよ」
アリスは自分の席に着きながら、僕のお弁当を指差す。
弁当箱を見てみれば、ケチャップで描かれたオムレツの笑顔が輝いていた。
口にあたるラインがオムレツの直径を軽く超えているせいで、口の裂けたお化けに見えなくもない。だから、ただの笑顔というよりは不敵な笑みが正しいだろうか。
「僕、そんなに暗い顔してた?」
オムレツの笑みを食べ崩す前に、一つアリスへと問う。
アリスの返答より早く、憂鬱がやってきた。
『人に決めてもらった人生は後悔も何もできないぞ』
そんなことを急に言われても、『納得』が『向上心』に変わるのには、また違うベクトルの力が必要になる。
社会的に自分のこと――アイデンティティの様なものだろうか? ――それを知るには、自分以外の人を通す以外に方法がないのだから、人に決定権を委ねることだって、あって然るべきなのだ。自分の顔は自分では見ることができないという比喩をすればわかりやすいと思う。……あ、鏡は無しで。
だから、進むべき道を見誤らないよう、婉曲的に道を示してもらうことだって、間違いではない気がする。だからこそ今頑張る、と。
それが分かっていても、自分の人生を左右するアカデミーにおいては一人で答えを出さなければいけないのだろうか。
アリスの応えは、僕の求める答えを上手く避けていった。
「いつもと同じ、暗くも明るくもない普通の顔ね」
「じゃ、じゃあオムレツは泣かないじゃないか」
アカデミーに行くことだけが人生じゃない。だからこそ、今頑張るのだ。
それは矛盾しているようでしていない。
「いい? 人間の顔は、ここだけじゃないのよ」
アリスは僕の顔を少々乱暴に小突いて、少し得意げに、それでいて僕を宥めるように目を細めるのだった。
アカデミーがすべてのゴールであるはずはない。アカデミーに通うためだけに僕たちは生まれてきたわけではないのだ。
通過点という表現がしっくりくる。
通過点の先にある未来には必ず到達点というものがあって、僕たちはそこを目指しているのだと思う。到達点、それは所謂将来の夢と言うやつ。
到達点だけが光っていると自然、アカデミーという存在が、通らなくてもいいような中途半端な休憩所に見えて仕方ないのだ。決して無駄な休息でないとわかっていても、他の選択肢の方が明らかに有用に目に映る。
到達点すら見えていない僕にとって、進路の選択というのは、真っ暗闇の平原にたった一人で立たされるのと相違なかった。
「はぁ……」
「コラ。人が昼食を始めようって時に、溜息なんかつくんじゃないの」
「ごめん……」
僕は椅子を後ろ向きにして、いつもアリスの机でアリスと一緒に食べていた。
夏休みという長いブランクがあっても、自然とこのスタイルになったのだから、よほど習慣づいているのだろう。
でも、そういう習慣の延長に、僕たちの道は存在しない。
「アリスは進学するんでしょ?」
「ええ、そうよ。あんたも頭良いんだからそうでしょ」
分岐を超えて、僕たちは灯りを求め、新しさを手に入れなければならない。今まで続いてきた習慣を壊し、日常的な事柄もすべて変えていかなければならないのだ。それが道を進んでいくと言うこと。
道を振り返れば、そこは真っ暗闇でしかないのだから。
「でも、アリスは国外かもしれないんでしょ?」
「ええ、まあね。あまり気のりはしないけれど。できることなら、あんたと同……って何言わせるのよ!」
頭を引っ叩かれて、謝ったのはなぜか僕だった。
僕の頭の上を回る星が、何かを照らしてくれるだろうか。
少なくとも、進むべき道を照らすことはないだろうけど。
「……はぁ」
進路を顧みて、再び長い溜息。
この国にあるアカデミーは一つ。
学術都市の看板を掲げる割に、この国には教育機関が不足気味だった。国外のアカデミーとの交流が深いおかげでアクセスもしやすいから、あながち間違いではないのかもしれないけれど。
でも、おかげさまで、選択肢が狭まらない。それが良いか悪いかは、今、判然としない。
国外には名門と呼ばれるアカデミーがいくつかあるのだが、学費が国立の数倍するため、庶民には高嶺の花となる。もちろん学費だけではなく、高い学習能力も要求される。
アリスはそのどちらも満たした超優秀な生徒なのだ。
「なんだ。あんた、進路で悩んでたのね。それは平和でいいわね」
イメージ通りの質素な弁当を上品に頬張りながら、アリスは僕の心を見透かしてぼやく。
その勘の鋭さに怯えて、返答の語気は多少荒くなる。
「全然平和じゃないよ。だって、どうすればいいのか全くわからないんだよ? 巨大な迷路に放り出された気分だよ」
そんなことを愚痴っても、状況は変わらない。
それに、同じ状況の人が何人いるか考えると、今まで何も考えていなかった愚鈍な自分が、死ぬほど嫌になる。
だから溜息が出る。
行き場を失った不安、心配、期待――そんな感情の断片が、口から洩れたものが溜息だと、つくづく思う。
「でも、それは自分で決められるからこその悩みでしょ? いいじゃない、決められるんだから」
「アリス?」
含みのある言い方だったので尋ねようと思ったけれど、炯々たる鋭い眼光に射られたのと、自分の問題だけで精いっぱいなのに、わざわざ問題を増やそうという趣は好ましくないと思った。思い止まったことで、頭の中に不穏なものが渦巻き、滞納し始めた。
僕の脳がパンクする前に、アリスが話題を変えてくれた。
「そういえばあんたも十五歳になったのよね。ちょっと残念だわ」
「どうして?」
「年上だと何かと気分がいいのよ」
言いながら毛先で遊ぶさまは、年齢に拘らず崇高に映る。
「アリスって年下が好みだったりする?」
「うーん……年下ってよりは、小さい子が……って、あんたまたっ!」
アリスはカーリング部に所属しているので、一応は運動部と言うことになる。けれど、体型はどちらかと言えば華奢な部類に入る。
華奢なのに、華奢を欲すると言う理由には少しばかり興味がある。
少しだけ目に色を出してみれば、アリスは遊んでいた髪を手で払って「誤解されないように言っておくけど」と前提してものぐさだ。
「小さいって言うのは、体がって意味じゃなくて、心がってことよ。別にロリコンとかじゃないわよ!」
「臆病とかってこと?」
なるほど。それなら納得だ。
アリスは、体は華奢でも心はとても大きいと思う。それは、優しさから容易に感じ取ることができた。
臆病な人が好みとなると、精神的に守ってあげたい……ということになるのだろうか。
なんとなくわかる気がする。
「ああもう! せっかくオブラートに包んでるんだから、話を具体的にしないでくれるかしら!」
クールさはどこへやら、頬を赤らめて、珍しい反応をする。
話のジャンルとしては“恋バナ”となるのだろうか。アリスはどうもそういう話は苦手らしい。
アリスの苦手な話題にしてしまった反省と謝罪の念を込めて、今度は僕が話題を変えてみた。
「アリスの誕生日って春だったよね」
「そうよ。春休みが明ける少し前の日ね」
自分で話題を変えておいて勝手なのだけれど、どうして誕生日の話題に戻してしまったのだろう。
確かに、切歯扼腕に値する事実ではあった。でも、覆水盆に返らずという言葉もある。
「ア、アリスやっぱりこの話題は――」
「そうよねぇ。黙っていた方がいいわよね。『妹の手料理が食べられなくて泣いていた』なんて話。三年にもなって恥ずかしいものね」
「アリスー……! それ以上は……、お願い…………」
〈一人だったはずなのにどうして知っているの!?〉とか〈もしかして盗聴器でも仕掛けられてる!?〉とか、色々逡巡したけれど、行きつく先は策士の笑みと矜持だった。
「アリス情報網をなめないことね」
機密機関の存在を提唱したい、夏の終わりの昼下がり。
食べられたオムレツは暗くも明るくもない、普通の顔になっていた。
***
放課後。
遅くなることだけはわかっているので、いつも待ち合せに使っている場所――中庭で妹を待っていた。
ちらほら見かける帰宅部の影に、逸る気持ちが募ってしまい――
「貧乏揺すりしないっ」
――僕の座っているベンチの肘掛けに腰かけたアリスに怒られてしまう。
そんな警告に母性を感じるのは僕だけだろうか。
「本物のお金持ちが言うと謎の説得力があるよね」
「それは褒めているのかしら?」
アリスはきっと僕で遊ぶのが好きなのだろう。
そうでもなければ、友達の妹という縁遠い人物を一緒に待ったりはしてくれないと思う。
「うん。褒めてるよ。いつもありがとう、アリス」
「なっ!? なによっ、突然! ち、調子狂うわね!」
僕もアリスで遊ぶのが好きだった。
つんけんしているというか、少しひねくれているところのあるアリスは、率直な感想に対して過剰な反応を示す。
僕は、たまに見せてくれるその反応が結構好きだった。
「あ。そうだ」
中庭にある窓と校門はほとんど一直線上にある。なので、放課後にこのベンチに座っていれば、帰宅部の人数を大体を把握することができる。
しかし、今日はいくつかの部活が休みらしいので、その数の正確性を保証できるとは言えないだろう。
「アリス、部活は?」
僕で遊ぶためにここにいるなんて冗談はさておいて、バリバリ運動部のアリスがこんなところで油を売っていてはいけない気がしてきた。それに、ただの帰宅部と話していたとなると、僕の立場も危ない。
「部活?」
当然なことだけれど、アリスにはファンが多い。
可憐さで人気を得ているリズとは違うジャンルで、異性だけでなく同性のハートも奪っている。
だけど、アリス自身は無自覚でらしく、以前は「奪ってなんかないわ。勝手に差し出してくるのよ」などと宣っていた。
「ないわよ。リズから聞いてなかったの?」
「あ。そう言えば……」
アリスとリズは同じ部活だった。
リズが休みなら、アリスも休みで当たり前である。
「もしかして喧嘩でもしたのかしら? プレゼントが貰えなくて号泣した挙句、人のせいにして逆上なんて、大人げないにもほどがあるわよ」
「ぎゃ、逆上はしてないよ!」
「ふふふっ。泣きはしたのね」
またやってしまった。
とうのアリスは得意顔である。
隠せそうもない気がするけれど、弁明しないわけにもいかない。
とりあえず事実の否定だけはしておこうかと意気込んだところで、アリスに割って入られてしまう。
「わかってるわよ。誰にも言わないわ」
何が、どこから、どう、わかっているのか気にならないと言ったら嘘になる。仮に、すべてがアリスに筒抜けで、情報が公開されようものなら僕は社会的に死んでしまう。
だけど、アリスなら信じられる気がした。
だから、あまり心配はしなかったりする。
「ありが――」
「その代わり、あたしも連れて行きなさいよ」
「ぇへ?」
疑問の「え?」の形をした口から、勢いをなくした力のない空気だけが通り過ぎる。
プライバシーの心配に重きを置いていたために、意表を突かれてしまった。
アリスの言い分は理解できたけれど、まだ感情の処理が済んでいない。そんな頭に、追撃がくる。
「だ、だからっ。あたしも、食事に連れて行きなさいって言ってるのよっ」
「い、いいけど。いいんだけど……、ど、どうして?」
完全に二人しか知らない事実を知っていたことに対する疑念と、同行を申し出るという訝しさから出た、「どうして?」だった。
だけど、
「い、いいから連れて行きなさいよっ。お代はちゃんと払うから。それと、あなたに拒否権はないはずよ!」
と、言うことらしい。
僕の疑心暗鬼は、勢いという名の波に流されて、跡形もなく消えた。
【あとがき】
新キャラ「アリス」が登場しました。
真面目でクール、それでいて人間味のある優しさも兼ね備えた完璧超人です。完璧ゆえに、周囲の人間の期待に応えようと努力する姿がとても輝いて見えます。
男子よりも女子に人気が出そうな性格でもありますね。
これから部活でも活躍する予定なので、お楽しみに。
次回は「アリスも連れてお食事会」でしょうか。