〖between〗Always stay First
【まえがき】
“日常はいつも始まりにある”
のっけから非日常というのは、有り得ないのですね。
なぜならば、非日常を観測するためには、ある程度の恒常性を持った日常が必要になるからです。
今回は文字数は少ないですが、スクロールは長くなります。
二月十五日。
鳴りやまぬ怒号に嫌気がさしたあたしは、例の如く自室に閉じ籠って外界からの情報を完全に断ち切ろうと試みた。
メイドの何名かが、暫くの間部屋の前で屯していたようだけれど、数分もすればそれは片付いていく。
仮にも病人だと言うのに、この扱いである。両親からしてみれば、病気でないという診断がなされれば、いくら顔色が悪くとも健常であることになってしまうのだろう。
時間を置いて訪れた静寂に、あたしの心境は去就に迷っているようだった。
今までも、きっとこれからも、両親があたしの部屋のドアをノックすることはないのだろう。
それが嬉しくもあり、悲しくも……あるのだろうか。
あたしは、本当にそれを悲しいなどと思っているのだろうか。
〈アリス……。熱、大丈夫だったかな……〉
例えルートやノアに『可哀想』と思われていたとしても、あたし自身がそれを認めずに、無下に拒否をしてしまえば、どうなってしまうだろうか。
そうすれば、もしかして、両親はあたしのことなんて忘れてくれて、あたしの将来を思って国外と言う進路を提案したりすることもなくなるのではないだろうか。そして、不衛生だからと言う理由であたしを保護することをやめてくれれば、ノアとも離れずに済むのではないだろうか。
それは、本当に悲しいのだろうか。
先の暗い道なのだろうか。
「わから、ない……、わね」
今は少しの熱と気怠さのせいで、問題の正当性を問うのに相応しい理性と言うには事足りていない。
判然としない意識の中、あたしは自室の天井を目に映す。
ずっと変わらない景色がそこにある。
そう。
昔と何も変わってはいない。
あたしが寝起きで目を開ければ、そこにはあたしを雨や霰から保護するための天井があった。
それは家を引っ越す前も同じ。
ノアのような貧相だったあたしの家にも、確かに天井は存在していたのだ。
雨や風を凌ぐために設けられたそれに、あたしは別段意識せずに、長い間、身を委ねてきたのだ。
それはきっと、両親も同じなのだ。
あたしが生まれて、あたしの自我が芽生えて、そうしてようやく記憶が貯蓄されるようになって、泣いて笑って思い出を作って。
そんな長い間、あたしは無意識に身を委ね続けていたのだ。
天井と同じで、特別、感謝はしない。
それは、あるべくしてそこにあるのだから。
でも今、あたしは空を見上げたい。日の光を浴びて、自分の進むべき道を照らしたい。
両親が買ってくれた照明じゃなく、付設されている窓からの光じゃなく、あたし自身が欲して手に入れた光で照らしたいのだ。
国外、許婚、そんな決められた光では、自分で決めた道は照らせない。
でも、あたしには屋根を打ち破るだけの力は無い。
だから、認めてもらわなければならない。
「もう一度、初めからやり直しましょう……。お父様じゃなくて、パパと呼べたあの頃から」
あたしは今、部屋に閉じ籠っていながら外にいる。
だから、両親がそのドアをノックすることなど有り得はしない。
外に出るためにノックする人なんていないのだから。
幸いなことに、あたしは追い出されたのではなく、自分で家を出た。
だったらまだ、あたしは家に入ることが出来る。
そちらから出てこないのなら、あたしの方からノックしよう。
それを、今まで恐れていた。
でも、きっとこれからは、違う。
〈アリス、頑張って……!〉
ドアなんて、あたしが絶対に壊してやる。
***
「無駄……、だったかしら」
それは即時に否定出来た……けれど、実際に話が進んでいないと、実感が伴わないのも確か。
結局、あたしの三連続の提案『ノアとは友達でいる』、『国内に行きたい』、『許婚は断る』は、父の「認めない」の一言で一蹴されてしまったのだった。
その様子を見ていた母は、終始、沈黙で頷いていただけだった。
あたしはと言えば、アウェイな空気を感じたので、また外へと出ていた。否、部屋に籠っていた。
『そうは問屋が卸さない。だから、ゆっくり攻略していこう』、そんなことを考えながら。
何気なく見たカレンダーを見て、あたしは重要なことを思い出す。
「あした、ノアの誕生日ね。何をあげればいいかしら」
ルートと同じキーホルダーでは、物足りない気がする。十二月のリズの誕生日にあげたアンクレットでは、汎用性が乏しい。
あたしはノアから様々な恩恵を受けている。
その恩恵をプレゼント一つで返すことなど、到底不可能だ。
例えば長い時間をかけて、少しずつ返していくような、少なくともそういう根気の要る何かが必要だと思う。
つまり、今日考えても、明日渡せるわけではない。
そうか。
ドアも、少しずつ壊せばいいのか。
一気に壊す必要は――
〈確か明日ってノアさんの誕生日……。アリス、大丈夫かな……?〉
「うふふっ。あなたって本当に世話好きよね」
分かっているわよ。
明日、『ノアが欲しい物』を調べて、後日それをあげることにするわ。
〈ふぅ。ミルク美味しいな……。電話……まだ、かな……〉
「ふふふっ。あなたたちは一体何をするつもりなのかしら?」
これほどまでに面白いことはない。
最近は倍楽しい。
だから、あたしはもっと長い時間一緒にいて、もっと知りたいのだ。
〈もしかして、もう寝ちゃったかな……〉
「ノアはそんな子じゃないわ」
知っている。
それは情報網を必要としない、情報網が蛇足になるくらいに既知である。
揶揄されることのない強大で絶対たる力ではなく、誰からも卑下され疎まれ嫌悪されるような愛おしい意志の力で。
×××
[でも、どうやって?]
〈だ、大丈夫。僕に任せて!〉
[な、なんか、不安……]
〈僕だって、アリスのことは好きだよ〉
[え]
〈ち、違うよ! そう意味じゃないから、大丈夫!〉
[よかった……]
〈エレメンタリーの頃から、ずっと助けられてきたからね。そのお礼だってしたいんだ〉
[アリスと、同じエレメンタリー? じゃ、じゃあ、ノアとも、同じだよ]
〈え。ご、ごめん!〉
[いいよ。ノアは、影、薄いし……]
〈本当にごめん……〉
[謝らなくて、いい……よ。だから、方法を教えて……]
〈まだ不完全だから、少し待って欲しいんだ〉
[…………]
〈明日には……ノアさんの誕生日には絶対に答えを出すよ!〉
[……うん、わかった]
〈それでなんだけど。明日は早めに家に帰ったりできる?〉
[うん、できる。ノア、帰宅部だから]
〈あはは、僕もだよ〉
[……笑うところ?]
「ははは……。と、とにかく、明日は家にいて欲しいんだ。アリスのことだから、色々と策を講じてくるに違いない。そのことを考えると、時間には余裕を持っておきたいんだ」
[そういう、ことなら。……うん、わかった]
〈ありがとうノアさん〉
[……ど、どういたしまして?]
〈ところで、今は十時くらいだけど、ノアさんの家には今誰かいるの?〉
[い、いない……よ。けど、入れ違った、かも]
〈入れ違った?〉
[うん。今、ノアは、公園からかけてるの]
〈え? 公園?〉
[そ、そう。公園]
〈もしかして、寒かったりする?〉
[平気……。ノアは、冬生まれ、だから……]
〈ぁああああ! 本当にごめん! 今度、何かお詫びをするよ! 絶対!〉
[あははは]
〈ノ、ノアさん?〉
[謝って……謝って、ばっかりだね。あ、あの、その……]
〈僕のことはルート、でいいよ。そういえば自己紹介もしてなかったね〉
[そうだね。ノアは、ノアだよ。よ、よろしく……。ルー……ト]
〈ああいいよいいよ! 寒いから早く家に帰ろう! 風邪ひいたりしたら大変だよ!〉
[ん……。わかった]
〈今度、うちに遊びに来て! コーヒー園をやってるところなんだけど。ホットココアをごちそうするよ!〉
[いいの? ノア、迷惑にならない?]
〈そんなはずないよノアさん。歓迎するよ! 妹もいるから、アリスも呼んで四人で一緒に遊ぼうよ!〉
[うん……!]
〈じゃあ、これからよろしくね、ノアさん!〉
[こちらこそ……。ルート……]
×××
二月十六日。
あたしは学校へ向かう。
今日もまた、いつも通りが始まる。
いつもと違うことを挙げるとするのならば、それはあたしの首回り。
この暖かさは、家の強制力ではないこと。
「ありがと、リズ……」
そして、もう一つ。
今日のこの日は、一年に一度巡ってくる、大切な日。
「ノア……」
あたしは学校へ向かう。
今日もまた、いつも通りが始まる。
【あとがき】
今回は結構ログの数が多かったです。
私としては初の試みなのですが、書いている最中は結構不安でした。
こんなに改行していいの? って感じで。
最近の小説では、携帯などの描写の時に使われることが多いようですが、私は少し苦手みたいです。とても背徳的。
ライトノベルなんかは地の文でも改行を多くすることが多いみたいですね。レイアウト重視ということなのでしょうか。
最近は活字離れが蔓延っていますので、それを防ぐ目的で、読みやすさを追求しているのかもしれませんね。
いや、でも、まぁ、アレですね。
私、小説とか読んだことないんですね。
はは。




