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Ⅰ 僕という名の、発着点。

【まえがき】

 結構ありきたりな話を、ひたすら哲学して展延させようかと思います。

 それと男尊女卑の払拭がテーマですかね。ですから、読者対象は男性ですかね。でも、読んでほしいのは女性かもしれません。


 気付いたら二年もたっておりました。

 今と昔では大分書き方も変わってました。

 今章、「ちょっと拙いな……」と思ったら、二章(ちょっと面白い)か三章(割と面白い)に飛んでみてください。本に起こすことを想定して作っているので、キャラ紹介などは毎回やってます。ご安心を。

 by 未来から来たうさブルー。


 では本編が始まりますです、どうぞ。




 

 


 昨日が何の日か。

 それは記憶に新しいほんの昨日のこと。

 寝起きの重い瞼でも、意識すれば、容易に答えは浮かんでくる。

 それは嬉しいことのはずだけれど、夏休みの終わりを知覚することで、少しだけ霞んでしまっている。


「んん……」


 大きく背伸びをして、気分の転換をする。これは起床の自己暗示の意味も兼ねている。

 重たい瞼を擦って無理矢理に開くと、夏の陽ざしを浴びながら風に靡くカーテンが殺風景な部屋で主張しているのがわかって、少し落ち着かない。

 半袖の口から大胆に飛び出た二の腕の裏が、真っ白で柔らかい絹シーツに撫でられて心地良い。自重に感応するベッドの至妙な沈み加減が、幼気(いたいけ)な睡魔ととりとめもない億劫さを助長している。

 しかし、スパートをかける太陽の光熱は凄まじく、否応に覚醒を強制される。目が覚めるにつれ感じる僅かな湿り気が、快適さの中で奇を衒う。

「うぅん……」

 不穏の出所を模索するとすぐ、自分の鎖骨あたりから吹き出た悪い汗らしいことが判明する。

「変な夢、見ちゃったなぁ……」

 『変な夢』を振り返れば、確かにそれは悪夢に分類された。だから、昨日の喜びが霞んだのだろう。

 嘆いていても仕方ないので、朝の支度を始めよう。

「よしっ」

 頬を両側から強く挟んで、そうカツを入れてみる。

 僕はそれほど朝が苦手ではないので、布団を出るまでに時間はそうかからない。

「今日から学校だ。起きないと」

 昨日に終わりを迎えた僕たち中学生の夏休みは、惜しんでも延長されたりしない。

 延長希望の署名活動を行えば良い所まで行くかもしれないけれど、隣国で戦争すら行われているこのご時世では、そんな悠長な議題は即刻論外になってしまう可能性も否めなかった。

 夏休みの延長談義など立会するはずもなく、今日も昨日までと同じ、当然の様ないつも通りの朝だった。

「僕も昨日で十五歳かぁ……」

 部屋の鏡に自分の制服姿を映して、独り言つ。

 昨日母にもらった藍色のカーディガンが、寒色の制服の胸元から澄ます。三年を経て着古された制服の合間に映えるその新しさは、対称的でとても趣深かった。

 だがしかし、

「熱いな……」

 夏にカーディガンはさすがにキツかった。時期尚早にも程がある。いや、逆に遅いのかもしれない。

 物を貰うのは嬉しいことだけれど、やはり即効性と汎用性は熟考する必要があるのではないだろうか。

 晩夏とは言っても、日中の気温は冬のそれとは比較にならないのだ。

「なぜにカーディガン……」

 しっかり者の母のことだから、大方、在庫処分の安売りで買ったのだろう。貰った衣服がこれの他にもたくさんあったし。

「まぁ、いいけど……」

 安らぎと喜びを身に着けながら、代わりに僕はカーディガンを脱いだ。

 窓から吹き込む温風は、奥行きが無いとても乾いた暑さ。しかし、制服の内側はじっとりと粘り気のある熱。

 まるで、悪いもので満たされているよう。

 雨降る熱帯夜だった昨日を思わせる、心地の悪い湿っぽさに、身震いする。

 「もう、夏も終わりか……」

 そう実感するのは、苦しくない。

 夏の終わりにはいつも、“しあわせ”があるから。

 昨日のプレゼントでいっぱいになった物置を一瞥して、僕は今、部屋を後にする。



     ***



 最近、国の中心部では木造住宅が流行っているらしい。

 夏涼しく冬暖かいという木造の利点は、年間の寒暖差が激しいこの国で、効果を発揮できるようだった。ちなみに一昔前は、風雨に対してとても強い、石造りが流行っていた。

 うちはそんな流行廃りを相手にするようなミーハーな家系ではないけれど、もともと木造だったため、最近は流行を先取りした気分に浸れる。それは、家中どこにいても香る、マイナスイオン満載な木の香による落ち着きでもって感じる。

 でも、木造にあるのは利点ばかりではない。

「はぁぁ……」

 一階へ続く階段の前で、深いため息をつく。

 自分の部屋が二階にある以上、階段を使わなければ絶対に下には降りれない。

 そんな道理に非を言うつもりは毛頭ない。言う必要があるとすれば、自分自身の弱い心だろうか。

「ぐっ……。もう、無理……」

 二の舞を踏まぬよう手摺にギュッと掴まって、震える脚で必死に地を捉えながら、階段を一段一段、ゆっくりと降りてゆく。

 膝が震えるのを抑えるべく力むと、手と額に汗が滲む。拭おうにも、体を支えるのに腕一本では心もとなくて、手が離せない。

 先週のトラウマ事件が悔やまれる。

 木造の欠点、“滑りやすさ”のために階段から転倒した、あのどうしようもない事件が。

「はぁはぁ」

 冷静を保つために深呼吸を試みるも、上手くいかない。

 噴き出す汗は自然、頬を伝って顎のラインを経由し、末端までを滑らかに下っていく。

 夏終わりの生暖かい風が、汗の辿ったラインを追って順番に冷やしていく。

 その温度差に一層の恐怖を覚えていると、追い風に乗ってやってきた良く響く声が、階段の吹き抜けに軽く木霊する。


「またビビってるの、ルー」


「ひゃぇ!」

 背後かつ上から突然話しかけられて、思わず変な声が出てしまう。

 反射でしゃがみこんだせいで、膝を強く打つ。

「痛た……。お、脅かさないでよ――

 

 手摺に縋るよう凭れながら、僕は怯えたような弱々しい声で、妹の名前を呼ぶ。

 

 ――リズ……」

「ほんと怖がりだよね」

「ひ、否定はしないけど……」

「ちょ、あれ? え?」


 半笑で会話していたリズの表情が、瞬間的に“驚愕”、そして“焦燥”へと変遷していく。

 僕は階段をびくびくしながら降りていただけで、そんな目を見開かれるようなことをした覚えはないはずなのだけれど。

 一体どうしたのだろう。

 もしかして、呼び方に問題があったのだろうか。

「リ、リズ、どうしたの?」

「うう、うそうそ! ごめんごめん! そんな、な、泣かないでよっ」

「え?」

「ごめんってばー!」

「な、泣いてなんか……って――


 冗談だとわかりつつ、とりあえず目を擦ってみれば、


 ――あ、あれ……?」

 そこには確かに、塩辛くて温い透明な液体があった。

 溢れるというほどではなくとも、拭わず放っておけば頬を伝っていく量だ。欠伸して自然に湧出してくる生理現象のレベルを遥かに超えている。

 『泣いた』と言うのに、十分すぎていた。

 涙で瞳の表面が潤んで、目に映っていた制服姿の妹は、歪んで像を結ぶことになる。

 突如として歪曲された世界と、自分が涙を浮かべているということに、僕は驚いて、


「うぇ!?」


「あははは! 気付いてなかったの? あーはっはははっ!」

 結局、笑われてしまうのだった。

 でも、どうして涙が溢れてくるのだろう。

 高い所が怖くて、遂には泣いてしまうような年齢では無いと思うのだけれど。

 僕は、恐怖以外に何となく感じている“違和感”が腑に落ちなくて、理由を一番知っていそうな自分自信の中を、全力で模索してみる。


 〈なんだろう……。悲しい? 嬉しい?〉


 真逆の性質を持つ感情が複雑に絡み、乱れ混じって、手がかりの欠片も掴めそうになかった。

 わかったのは、汗と違って、涙がとても温かいものであるということくらい。

「はははっ! そんなに高い(トコ)怖かった? ルーの教室って三階じゃなかったっけ?」

 リズは、階段の一番上から、少し笑い気味に言葉を投げかけてくる。

 立場を顧みて、駁することを試みるけれど、不器用さのせいで少し言い訳くさくなってしまう。

「高い所、というよりは階段が怖い、の、かも……」

「そうなの?」

「多分ね」

「ふーん……」

「うん……」

「へー」

「…………」

「…………」

 淡白なやり取りが続くと、リズはキョロキョロと挙動不審になる。

 そして、静寂が訪れる前に、リズの方が口を開いた。

「まぁいっか」

 その言葉で、続いていた重たい空気が一気に軽くなる。

 辛気臭い涙の後処理には、とてもぴったりなセリフだと思った。

「とりあえず、ごめんね」

「あ、うん。いいよ」

 二人で頷いて、和解する。

 というか、対立していたのか? と疑問に思うのは言うまでもない。

 ただ、そんなことよりも僕は、和解というか和平というか平等というか……。

 とにかく、妹が自分より上の段にいる今の状況が好ましくなかった。

「あ、あの。言いにくいこと、言ってもいいかな……?」

「なになにー?」

 いつまでも瞳を湿っぽくしておくのは恥かしいので、ごしごし袖で擦っておく。

 眦の湿潤を拭うと、彼女の本質が絶世の乙女、容姿端麗、見目麗しいという形で、これでもかというほど伝わってくる。

 大きな瞳を構成する澄んだ緑は、『世界に存在する“可憐”の黄金比がここにある』――そんな謳い文句でさえも、ちゃちなものに感じられてしまう。

 今、一つだけ残念なことを挙げるとするならば、自由を制限している衣服でまず間違いはない。

 アイデンティティの消失とまでは言わないが、せっかくのファッションセンスが潰されていると言っても過言ではないからだ。

「そ、その……」

 絶世の乙女ことリズは二歳違いの妹で、僕と同じ学校に通う一年生。

 運動、勉強、音楽、その他何をやっても完璧。母譲りの美貌と世話焼きで心配性な性格も助けて、その人気はクラス、学年、学校を飛び出して、町規模の話になる。

 ただ、欠点があった。


「パ、パンツ……。見えてる……」


 ガードが弱かった。

「う、嘘……」

「本当だよ……」

 僕は目を逸らしつつ、そう告げる。

 ガードが弱いと言うと、安っぽい人間という印象を受けてしまうから、正しい表現とは言えない。でも、思い切って『ずぼら』というと、今度は言葉が悪いような気がしてくる。

 言い得て妙な表現を考えていると、ポンポンと小気味の良い言い訳が聞こえてくる。

「でもでもっ。見たのルーだし、パンツくらい別にいいよっ。減――」

「減るもんじゃないは禁止」

 テンポよく飛び出す言葉を遮って、僕は浅く釘を差す。

「えぇー。いいじゃーん」

 その軽やかさが、そこはかとなく心配なのである。

 注意勧告する僕も僕で、『僕だから許せる』という特別視が気になって、スパルタになりきれなかったりする。軽んじているなと自覚はある。

 頑張って捻出した説教は、とても恥ずかしいものだった。

「もっと気を付けなきゃダメだよ。リ、リズは、か……いんだから……」

 ここは家だし、見たのが僕だからいいのかもしれないけれど、学校でいつ同じ状況が起きるかわからないのだ。

 男子たちから『そういう目』で見られていないか、とか特に。あの学校、階段多いし。

 ただ、それは公に呈する大義名分で、本当の理由は別にある気がする。

 そして、それは僕の中にある感情(もの)、だったりするかもしれない。

 それが分かっているからこそ、僕は音吐朗々と声を張り上げることができないのだ。

「ん? 今なんて言ったのー?」

 くぐもった部分が気になったのか、今度はきちんとスカートの動向を心配しながら、とてとてと同じ段まで来て、訝られた。

 耳打ち気味に近づけられた顔に、僕はどうしようもなく困惑して、思わず手をばたばたさせる。

 その行為が何を意味するのか知りながらも、最善策を講じるという処理が、万有引力の効力に追いつかない。

 そして、また。以前と同じ。

 トラウマになったシーンが完全再現されるのであった。


「「わっ!?」」


 二人、同時に泡を食う。

 僕は転倒に。リズは僕の転倒に。

 僕は涙目になりながらも着地だけは確実に成功させようと身を翻す。運動部にでも所属していれば、培われていたであろう反射神経で受け身をとれそうなものだけど、生憎、僕は帰宅部だった。

 眼を瞑ってしまったせいで空間認知が滞る。

 とりあえず足は下で、頭は上に。それだけ留意しながら、ただただどこかを回り続けた。


「痛っ!」


 僕の叫びとほぼ同時くらいに、床が物凄い音を鳴らした。木という材質のおかげか、音の割に痛みはなかった。

 轟音と痛みで、僕は反射的に目を開けた。

 目を開けると一瞬、現在地がわからなくなったけれど、一階廊下奥の洗面所から出てきた母を見て思い出すことができた。ああ、ちゃんと家だ、と。

 母は笑っていたけれど。

 トラウマになった一回目が無ければ、もう少しマシな痛みだったのかもしれないけれど、それは後の祭りである。

「だ、大丈夫?」

 流石に心配になったのか、リズが駆け寄ってくる。

 床に転がる僕からすれば、リズはまた、無防備である。ああ、今日は、何度見ても飽きない安定の……ではなくて。

「う、うん。すごい音したけど、そんなに痛みはなかったよ」

 自分の腰の辺りを摩りながら、リズの不安を解こうと努める。実際、腰回りにも痛みはなかった。

 平気平気と無事の意を重ねたけれど、リズは心配の表情をやめてはくれない。

「本当に?」

 心配してくれるのはとても嬉しいけれど、自分の貞操の心配も忘れて欲しくはない。

「うん大丈夫。そ、そんなことより朝ごはん食べよう」

「我慢してない?」

 話を逸らそうと努めるけれど、やはりすぐには話題を変えてくれない。

 どうやら軽い打撲ぐらいで残る傷はなさそうだ。これで怪我でもしていようものならリズは責任感に追われて、ずっと看病してくれただろう。

 リズは誰に対しても、優しさの限りを尽くす。

 それはリズの良い所の一つであるのだけれど、僕はそれが何より怖かった。

「大丈夫?」「大丈夫だよ」と言うやり取りを、再三して、ようやく目に(・・)見える(・・・)心配の色は消えた。

「じゃ、ご飯食べよっか!」

「う、うん」

「もっと気を付けなきゃダメだよ?」

 ほんの数シーンほど前の僕のセリフをなぞって、得意げなウインクを披露する。

 リズは自分の感情をコントロールするのがとても上手だから、嘘も上手い。もちろんリズは悪い嘘をついたりしないけれど、心配を隠すために笑顔を作ったりはする。

 僕は鈍感だから、リズ以外の人では、感情の縷々など一切合切わからない。

 けれど、長い間一緒にいるから、心配を悟られないように作るリズの笑顔が、いつもと違うことぐらいはわかる。

 だからこそ、僕はその心配が怖い。

「うん」

 心配だけではなくて、『僕の好きなリズ』の笑顔まで誰かに盗られてしまいそうで。



     ***



「母さん。コーヒーを一杯、お願いできるかな」

 日光が直線のように降り注ぐ窓際の特等席で、父が本を片手に言う。同じテーブルなのに、なぜだろうか、格差がある気がする。

「あらあなた。今日は雑誌の編集の方とお話があるんじゃなかった? そんなに落ち着いて大丈夫なの?」

 今度は、カウンター越しの台所から、落ち着いた大人の雰囲気が漂う美声が聞こえてくる。忙しなく動いているので、声の主の全体像はなかなか拝めない。

 対照的に落ち着いた態度の父が、またなにやら口ずさむ。

「大丈夫だよ。文学のコラムについてのインタビューだからそこまで時間はかからないだろうし、今日はそれしか仕事が入っていないからね」

「あらそうなの」

「あ。目玉焼きはーー」

「はーい。わかってますって」

 僕たちと違って、父のトーストにはいつも二つ(・・)の目玉焼きが乗っている。それで、リズが小さい頃にずるいずるいと駄々をこねたこともあった。

 でも結局、僕たちのトーストには黄色い目玉が一つ、爛々とするばかりである。

 母も父も強情横柄な人間では決してないので、僕たちはその家族内格差を『二人の愛の形』の代償であると解釈することで納得した。ちなみに、その愛には半熟というオプションもついているが、そっちの方は本を読んでのんびりしている間に無意味になってしまっていた。

「ふぅ……。やっぱり母さんのコーヒーは美味しいよ。どこのお店に行っても、こんなに美味しいコーヒーは出てこないんだよ」

 父はテーブルに並べられたブラックを飲みつつ、そんなことを呟く。

 僕はブラックが飲めないからミルクと割るけれど、それでも香り――というのだろうか、そういうものが他と明らかに違うのはわかる。だから、毎日聞く父のそのセリフがお世辞でないことぐらいは理解に易い。

 けれど、

「こうも毎日言われるとねぇ……」

 母の言う通りであった。

 コーヒーのソムリエでもなければ、コーヒーの生みの親でもない、ただの文学者である父がコーヒーについてとやかく言っても、説得力に欠けていた。それも回数のせいで、一回当たりの効力も着実に落ちている気がする。コーヒーの本でも出せばいいのに。

「コーヒーについてまとめた本でも出せればいいんだが。それは眠れない日々が続きそうだな……、ははは!」

 なるほど。

 評価をするために飲んだコーヒーの含有カフェインで寝不足になってしまうというのと、本をまとめる大変な作業に眠れなくなってしまうというのが、かかっているのか。

 ユニークだと思うけれど、声にして笑うほどではない。わざとらしく笑ってみせるあたり、それは本人も自覚しているよう。

 つまり、洒落の結果は。



 …………沈黙。



「うふふふっ。愉快ねぇ」

 母は何の躊躇もなく沈黙を破り、空気の流れを良い方へ変えた。

 絶妙な空気感を保ち、家族間の正しい距離感を把握する天才、という存在が母であった。

 文学者という難しい人間を包み込む器量の広さと、代々受け継いできたコーヒー園を一人ですべて切り盛りする行動力は尊敬に値する。

 リズも僕も、母に似たとよく言われるけれど、どうやらその恩恵のほとんどはリズに与えられてしまったようだった。

「えー。全然面白くないよー。あはははっ!」

「笑っているじゃないか!」

 天真爛漫、明朗快活。

 それは、豪快なトーストの食べ方、日常生活に見る所作、淀みの無く輝く大きな瞳から、もれなく知ることが出来た。

 母は朝食を作り終えたようで、調理中邪魔にならないよう後ろに束ねていた髪を、解く。窓際を歩いて、僕たちが座っている四人掛けのテーブルの一席に腰を下ろす。

 窓から差し込む日の光を浴びてキラキラと主張する直毛についた弱いカールが、僕には存在しない何かを思わせる。

 一言で表現するならきっと、『美人』が適格だろう。

「どうしたのルー。お母さんのことそんなに見つめて」

「ううん。なんでもないよ」

「ふーん。そう」

 他愛のない会話をしていると、テーブルの向かい側から母が忠告してくる。

「あら? あなたたちは急いだ方がいいんじゃない? 今日は夏休み明けよ?」

 美人もとい母の言葉の意味を理解すると、俄然、焦りを感じ始める。


「「始業式!」」


 僕とリズは顔を見合わせて、トーストを齧るスピードを上げる。

 そして、父と母の笑い声をバックグラウンドに、僕は機械的に咀嚼と嚥下を繰り返した。


 〈リズと目が合った……!〉


 そんな抱いてはいけない気持ちを殺して。

 自分が一番、自分のことを知っているはずなのに、何も変えられやしない。この思いや、想いが、本物なはずはないのだと、そう胸に刻んで。何重にも何重にも痕を付けて、穴が開くほどに。

「どしたの、ルー?」

「ほっぺにジャムが付いてるよ」

「どこー? とってー」

「う、うん…」

 だからきっと、この顔の火照りも、日差しのせいだ。


 

【あとがき】

 二年後にあとがきを書いてます。

 これぞまさにあとがきですね。


 いやはや、幼稚というか。

 やっぱり、成長するのは登場人物だけではありませんね。

 それを如実に感じて、作者としてはしみじみです。

 「ここから始まったからこそ、今がある……」

 みたいな気障なセリフを言うつもりはないですが、文面にはすでに書いてしまったことになりますね。気障ですみません。

 でも、やはりどこか、子を見守る親のような気持にはなりますね。

 うんうん。趣き深い。

 そんな感じで、皆さまも私のことを優しく見守ってくれると嬉しく思います。万歳です。


 ということで、どんどん続いていきますのでお楽しみに。

 by 未来のうさブルー。

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