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Ⅶ Look for Truth

【まえがき】

 "探し求めれば、それは進まずとも歩みである。"

 歩いている人は生きていて、振り撒く勇気は美しいものです。



 すべての真相が明かされます。

 まだ「?」な部分が残っているかたは、もう一度Aryys-6の初め辺りから読み直すと、いいかもしれません。新しい発見が、きっとあるはずです。



 どうぞ。



 

 


 ナイブス邸客間。

 昼。



「ごめんなさいっ!!」



 謝罪の言葉のために口を動かすのは、一体いつぶりの事だろう。

 ノアがぼろぼろと涙を零しながら胴にしがみついているせいか、体の髄から熱くなる。

 いや、誰かが供給する暖房のせいかもしれない。

 でも、今は、そんなことよりも、あたしの率直な想いが前面に出た。

「心配かけて……。挙句怪我までして、本当に……っ」

 あたしの生きた証拠を撫でるようにして密かに隠すと、思い出してジンと痛んだ。

 医者に診てもらって傷は浅いとわかったけれど、痕にはなってしまうらしかった。

 これで、名実ともに”顔に傷がついてしまった”というわけだ。

「こんな顔じゃ、もうダメよね。パパ、ママ、ごめんなさい……」

 汚れ傷ついた体を自ら抱いて、あたしは少し安堵していた。

 二度とその名で呼ぶなと言った、その厳粛な瞳から、大粒の涙が溢れていたから。


「アリスっ! 本当にすまなかった!! 許されないことを、私はしてしまった……! すまなかった……。私を、許してくれ……」

「ごめんなさいアリスっ。あぁ、痛かったでしょうに……」

「ノアのためにアリスがこんな……っ! うわぁぁぁぁぁっ!! アリスっ、アリス……っ!」


 三人して、あたしを囲って泣くものだから、まるで水責めを食らっているようだ。少し苦しいし、それが恥ずかしくもある。傍で見ていたメイド長と目が合って、あたしは情けなくも言葉を失った。

 そんな感情的な人間だったろうか。あたしとは。

「パパもママも、やめてよ、もう……。苦しいじゃない……」

 傷になってしまったものは仕方がない。

 そういう過去があってこそ、あたしは今、ここに立っているのだから。これから先の未来――いや、今だってそうだ。ノアのキスがこの傷を癒すたびに、あたしは生きている意味を思い出すだろう。

 でも今は、あたしだけは、泣かないように努めた。

 それから、三人が纏わりつくのを止めるまで、暫くかかった。

 あたしとノアが来客用の椅子に座って、パパとママが向かいに座す。テーブルの真横あたりにメイド長は居て、仲介をするように見守っている。まるで、恋人を両親に紹介しているみたいだ。

 ここ最近の暮らしの癖が出たのか、両親の前だと言うのに、ノアがあたしの手をぎゅっと握って来て、変に緊張した。

 でも、当然なのか。

 パパから見たノアは、少なくとも重要参考人の一人に変わりはないのだから。

 パパが妙にノアを睨みつけているということは無かったけれど、言葉選びに手古摺るのは、つまりそういうことだろう。最低でもあたしには気を遣って、どう切り出すべきか模索していると。

 静寂に包まれていると、また、どこからか喧噪が入り込んできそうだったので、あたしは先手を打つことにした。無論、無策ではない。

「パパ」

 言い慣れた言葉であるから、あたしは言い淀まない。

 枷も錘も無いから、毒を含むことも無い。

 ただ、あたしにしては、やけに可愛らしく、無駄にストレートであったと顧みて、耳の裏辺りがチクチク痒い。

 パパもパパで、言われ慣れているからだろうか、返答には圧が無かった。

「ああ。分かっているとも」

 俄かに家族の繋がりを感じてしまって、少し可笑しかった。

 けれど、別段、全然、頼りになるとかは思わない。

「どんなことでも聞いてくれ。全部答えよう。アリスたちを襲った者達は、ついさっき逃亡したと連絡があったから、安心して質問してくれていい」

 あたしは隣のノアと目を合わせて、それから続けられた。

 それは、聞いてもいいかという意味だった。

「それじゃあ聞くわ」

 ノアの握る力が、少し強くなる。

 大丈夫、怖くは無い。

 あたしはそう握り返して、また続ける。

「どうして、ノアを追い出したの?」

 名前が出た時、ノアの肩がぴくっと反応したのがわかる。

 我慢ならなくて、あたしはそのままノアの肩を自分の方へ抱き寄せることにした。

 ちょうどパパも沈黙してしまったので、その間に、メイド長にブランケットを持って来てもらった。ノアに羽織らせて、あたしもそこへ半身交わった。

 申し訳なさそうに、でも、はっきりとパパは言う。

「それに関しては、私は手助けをしただけなんだ」

「つまり、ノアが出て行きたいって言ったってこと?」

 あたしは、少しだけ言霊の切先(きっさき)を研いで言う。

「そうだ。確かに、そういう状況を作り出したのは、私だった。でも、あの事実を伝えた時はまだ、処遇も決めてすらいなかったんだ」

「そうなの? ノア」

「うん……。そう、なの……」

 なるほど。納得だ。

 宣告されたことに重責を感じてしまったノアが、自らあたしと距離を置こうとする構図が容易にイメージできる。確かに、そのパターンも考えなくはなかったけれど、すぐさま却下してしまって演繹せずにいた。

「信じてはくれないかもしれんが、私はあの時、すぐ止めたのだ。さすがに、危険すぎると思ってな。でも、強く断られてしまったんだ……。だから、せめて暫く凌げるようにと、十分な資金を渡して見送ることにしたのだ」

 その後にメイドを派遣して探させたと続いたが、そこそこ聞き苦しくはある。

 あたしも少しだけノアの方に身を寄せて、また尋ねる。

「どうして、それをあたしに言わなかったの」

「そうしてくれと頼まれたんだ。もし言ってしまえば、アリスが助けに来てしまうから、と……。確かに、それでアリスが探しに行って危険な目に合う可能性もあったんだ。だから、言えなかった……」

「ノア……。あなたそれで……」

 あたしに保護されてから暫くの間、言葉を話さなかったのは、そうやっていれば見捨てられると思ったからだったということか。見捨てられたくないと、その隣で思いながら。

 でも、どこかできっと、期待はしていたのだと思う。期待、してくれたのだと思う。

 サクラの家でノアと再会した瞬間が、あたしの人生で一番尊いシーンになった。

 ノアが、世界で一番尊い存在になった。

 だから、できるだけ速く、ノアに着いた汚れを払ってしまいたかった。

「もう一つ聞くわ」

 それこそ、お風呂に入って互いの体を洗い合って。目についた傷と汚れ全てに、キスをしてでもいい。あたしが今欲しいのは温もりで、それはノアの温度だ。

 またいつもの夜のように、口づけをして、それから明日を待ちたい。

 隣にあなたがいる喜びが、あたしは喉から手が出るほどに欲しかった。

 それを手に入れようと、あたしはノアの背中に手を回して、それから小さな体を抱き寄せ言った。


「あの事件の犯人が、ノアの父親なの?」


 そう言えば、あたしはその情報を知らないはずだった。

 いや、もう、知っていてもいいのか。

 願いはすでに、叶ったのだから。

「ああ。そうだ。間違いない」

 僅かな期待はやはり儚くて、そのまま薄まって消えてしまった。

 けれど、不思議と落胆はない。

 メイド長が場を見守っているからか、ノアも思案の外落ち着いている。

「証拠はあるの?」

 当然ながら、犯人がノアの父である証拠という意味と、もう一つ、ノアの父が本当に血の繋がった人間であるかという意味。二つの意味であたしは追及する。

 少し高圧的になるあたしの口調を抑えようと、パパの言葉は俄かに凹む。

「現場にあった刃物に付着していた指紋の一致と、目撃者の情報から、まず間違いはない。当人も自供している。親子かどうかは、血液検査で判明した。九十パーセントの確率で親子関係にあると言う結果から、二人が親子だとわかったんだ」

 同じ家に居るわけだから、採取しようと思えばできなくはない。それか、ノアに血液検査を受けるよう促したのか、自分で申し出たか。

 声をかけたにせよかけられたにせよ、ノアの勇気は確かだと思った。

 手を握ってくれるのを、褒めてあげたくなる。

 だけど、それはもう少し我慢しよう。

 まだ、知らなければいけないことがある。

 いや、決めなければいけないこと、か。

「それで、パパはノアをどうするつもり?」

 あえて、強い口調で言わなかったのは、荘厳な父を誘い起こすためだった。

 策士とは本来、敵がいないとただの口下手だ。

 パパはまた、終始穏やかでいたけれど、それでも、あたしはしっかりとノアの肩を抱いて、視線も雑言も、間に何も通さないよう努めた。

「ここで保護する」

 パパはそう言って、一つも表情を変えなかった。

 それは、ある責任を背負った親の顔そのものだった。

「今は、まだ連中が騒いでいる。あと数日は学校にも行けないだろう」

「連中って……黒服よね。あの集団は一体何なの?」

 ぴくっと、ママが反応した。

 ということは、やはり、そういうことなのか。

 あの黒服も、公安の人間であると。

「アリスなら察しているかもしれないが、あれは、強硬派だ」

「強硬派?」

「そうだ。公安内部で派閥ができていて、その中でも報酬と名誉に貪欲な者たちがそう呼ばれている。監査の居ない時は、犯人検挙に手段を選ばない危険な連中だ」

 意図せず、あの夜街の真っ暗なビルディングの情景が想起される。

 欲に埋もれた世界に生きる意味を、あたしは知っていた。

 欲しいのは、温もりだった。

 淀むあたしに、パパは静かな解説を交えた。

「あの事件のあと、あの男は逮捕され、そのままうちの部署へ来た。動機も手段も取調室で丸一日話をさせたんだ。私が取り調べを担当したわけではないのだが、覗き窓から見た光景はよく覚えている……。異質だったからね……」

 異質、と言われると、背中の横辺りがぞくっとそそり立つ。

 ふとした瞬間に『願いの夢』の話が出たのと似た感覚だと思った。

 続きは、あまり聞きたく無かった。



「何を尋ねても、事件のこと以外の記憶が無くてね」



 なるほどな、と思った。

「自分の名前もすら、一カ月後に漸く思い出したんだ」

 そこでまた『願い』の力が、不確かさを強めた。

 忘れるよう願われたのにも、関わらず、その事項を思い出し得る。忘れている状態に『する』だけであって、『し続ける』ものではないと言うことなのか。

 加えて、目的が無ければ意味を為さない。

 解釈によれば、『願い』のそれというものは、いかにも人間めいているではないか。

 言うなれば、『人間の作ったもの』であるとも言える。

 人知を超えるには人知を知らなければならないし、違ってはいないはず。現実と非現実が入り乱れるような不和感と違和感は、その無矛盾性が齎していたということになる。

 この騒動が落着したら、あたしは行動を起こそうと思う。

 それまでは、直面した現実と向き合うのだ。

「それから暫く経ってのことだ。妻子がいるのだと言い出したのは」

「そういうことね……」

「どういうこと……?」

 一先ず、ノアが追われていた理由は掴めた。

 あたしはパパの言葉を待たずに、ノアへと説いた。

「犯人に事件前後の記憶が無い場合、問われるのは社会性と責任能力。意識がしっかりしていようとも、そのどちらも、当人のみでは証明しきれない風潮があるの。社会性も責任も似たようなもので、それらは信頼と殆ど同義のものになるから。それが無いと、償わなくちゃいけない罪の重さも計れないのよ」

「罪の、重さ……」

 ノアの父は殺人をした。もう一度、人を殺める可能性は簡単には拭えない。そんな可能性がある人間を、無い人間と一緒に扱うことはできない。これで、信頼を失ったことになる。

 そういう理屈だ。

 まだ、続きがある。

「そういう信頼の無い人が、信頼してもらうにはどうしたらいいと思う?」

「が、がん、ばる……?」

「ええ。それも勿論大事よね。けど、それだと何百年もかかってしまうわ。……そうね。じゃあ、あたしが信頼を失くしたら、ノアはどうする?」

「ノアが、皆に、アリスを信じてって、言って回る……」

「ふふっ。ありがと。そうよ。それと同じことなの」

 信頼は一でもあれば、地道に増やすことはできる。これは、ルートの母が言った、愛の理論の応用で解釈できる。つまり、それと逆のことも言えて、信頼がゼロであれば、それはもう増えることはできないのだ。

 それを元に戻すための方法は、ただ一つ。

 信頼を分けてもらうことしかない。

「どれだけ希薄と言っても、身上、血縁というのは信頼に値する一つの形よ。それがあれば、少なからず量刑を課すことができるようになるわ。つまり、償えるようになるの」

 矢継ぎ早に言い放ってみるものの、ノアが窮屈ではないか心配だ。

 あたしの胸で溺れてくれるのなら、それでいいのだけれど。

 声の調子は、できるだけ暗くならないように気を付けた。

「ノアのパパは、記憶が無いと言っていた。それでは、身内が無いのと同じになってしまう。信頼が無いままってことね。そんな中で、口にした『妻と子がいる』という言葉……。欲たかりの公安がすることなんて、たかが知れてるわよね」

 妻子がいる、もしくはその名前を吐いたのならば、間違いなくその人物は重要な参考人となる。子であろうが妻であろうが、信頼の片鱗を持ち合わせているわけだから。

 強硬派とまで言うくらいだから、自分らの良いようにデータ改竄でもしてくれるのだろう。場合によっては、判決内容もある程度操作できるかもしれない。

 正当に罪を裁くよりも利益の出るやり口など、いくらでもありそうなものだ。

 負い目でも感じているのか、パパはふぅと息を吐いて少し目を細める。

「アリスの言う通りだ……。私も、初めに『ノア』という名前を聞いた時は驚いた。うちで働くメイドに、同じ名前の者がいたからな。同時に、まずいことになったと思った。だから、考えたさ。最善の策を」

 腐っても公安の犯罪科の長だ。

 自分の名誉を守らなければならないという大義名分もあるだろう。

 二の次にでも、ノアのことを考えてくれたのであれば、あたしも少し見直したくはある。どうにも気は進まないけれど。

「色々な部署に根回しをして、強硬派に圧力をかけるので精一杯だったがな……。そうこうしているうちに、『出て行く』と言い出してしまったわけなのだが……」

「いいわよ。もう」

 面目ない、と手で顔を覆う姿があまりに痛々しかったので、荒っぽく水を差した。

 少しだけ、気恥ずかしい。

 ノアを一瞥すると、泣いていなくて、心底安堵した。

「それで、これからどうするのよ」

「鎮静化を図るつもりだ」

 どうやってだ、と瞳で訝った。

「それは、ノア・グリニッチ――ノア君に、決めてもらいたい」

「ノ、ノアに……?」

「どういうことよ」

 身振り手振りを交えながら、父は諄々と説明する。

 言葉に詰まる瞬間もあるからか、ぎこちなさが珍しくて印象深い。

「方法は二つある。そのどちらかを、ノア君に、選んでほしいのだ」

「二つ……?」

「ああ。まず一つ目は、定石通り重要参考人として裁判に出ること。勿論、強硬派の介入はさせない。それは私が保証しよう。ノア君は、思ったことをそのまま喋ってくれればいい」

 少し荷が重すぎやしないだろうか。

 仮に、その一言で死刑が決まってしまったら、どうするつもりなのだろうか。

 無論、支えるつもりではいるけれど、あたし一人で支え切れるものではないと思う。ノアがあたしにくっついて、一ミリも離れなくなってしまうイメージが容易に浮かんでしまう。

 でも、それが信頼と等価なのかもしれない。

 だとすれば、ノアがそれを欲するならば、必然だとも言えるわけか。

「もう一つは。そう。なんだ。こっちは結構、簡単なことだぞ……?」

「うふふふっ。あんなに考えて決めたのに、恥ずかしがって。らしくないんじゃない?」

 父がどもって母が煽るという構図を幾数年ぶりに見た。

 途轍もなく気味が悪かったけれど、不思議と心は和んだ気がした。

 けれど、あたしはその輪に混ざらないで、ノアと居た。

 支離滅裂に脈絡の無い単語が飛び出して、漸く、意味のある連なりが聞こえた。



「ナイブス家の養子にならないか……?」



 思わず、下あごが落下しそうになった。

 犯人との縁を強制的に切ってしまうという真意を差し置いても、少しばかり急展開が過ぎた。

 それはつまり、ノアがあたしの妹になるということだ。

 それはつまり、ノアがあたしの家族になるということだ。

 それはつまり、どういうことなのか。

 あたしの心には多種多様な感情が、それはもう大量に流れ込んで来て、悠長に処理している暇など無かった。だから、感覚で、あたしは「えっ」と表情を出してしまっていた。

 反応は、確実にノアよりも先だった。

 パパの考えは、道理が立っているように思えた。

 ならばこそあたしは、嬉々としてノアを抱きしめるべきか、何故か迷った。

 何か、間違っている感覚があった。

 ああ。そうか。

 これは、あたしの選択ではない。

 ノアの、選択だ。

「……ノア?」

 ノアは一つ頷いて、あたしの方を見て言った。

 その言葉はきっと、あたしに向けてではない。

「裁判、出るよ……。養子は……少し、考えさせて……ください」

 ぱっと突き放された感じがして、あたしの右手は知らぬ間にノアの衣服の裾を強く撮んでいた。あたしは、ノアが欲しくて仕方がなかったのだ。

「だ、だが、それでは、ご家族が……。それに、アリスは……」

「いいの。ノア、アリスの妹じゃ嫌だから……。ちゃんと、もっと、好きになりたい……の」

 また目が合って、顔が熱くなった。

 パパの手によってあたしの中に作り上げられた氷の彫像は、もう、融けてしまって何も残っていなかった。それが今度は蒸発して、白い靄となって、あたしの視界を隠す。

 もう一度目が合ったら、多分、あたしはノアにキスをしてしまうだろう。

 ノアも、もう、パパの言葉に表情を揺らさなかった。

 なにか、王子様にハートを射止められた気分だった。

 まさか、ノアにそんな気分にされるとは、エレメンタリー時代のあたしも思うまい。

 もし、もっと早く気付けていたら、あたしはルートではなくノアの心を覗いていたことだろう。

 でも、仮に『願いの夢』をもう一度見ることができたとして、あたしはそこで何かを願うことは無いのだろうと思う。

 二人に永遠の安寧を、などというのは無粋なことだ。

 願いというのは、決して、輝くダイヤなどではない。

 汗と血と涙、それからそういう泥臭いものでできている。

 あたしは生きて、そう知った。

 そして、あたしは生きていたいと思った。



 

【あとがき】

 家出の終わりとは、こんなものであったりします。


 さて。

 なんとなんと。

 ノアに養子の話が吹きかけられました。いつかは来るのではないかと思っていましたが、やはり両親はアリスのことは信用しているのですね。二人の応援と更生を、同時にしてしまおうと言う根端です。読み返してみると、両親はノアには一切謝っていませんね。

 ですが、ノアは見事に断りました。

 これできっと、アリスはノアに惚れてしまうわけですね。

 アリスは一体どこからどこまでが策の一部なのかということが論議されますが、そんなことはもうあり得ないと思います。そういう意味で、アリスはただの乙女になったわけです。つまりノアには、アリスを乙女に変える能力があったということ。

 そう考えると、確かに『願い』の力というものは儚く思えてしまいます。

 儚いけれども美しい。

 何か、それに似たものを知っていそうです……。



 

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