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ルートモストマック  作者: うさブルー
   五章《難しくても温かいから。》
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〖blink〗妄滅アフレイド

【まえがき】

 音楽していて前章より時間が空きましたが、なんとか始まりました。

 前回の思わせぶりエンディングから何となく予想はしていたかと思いますが、そのままの通り、今回は「ノア×アリ」が主役です。

 ここから、ぐっと『願い』の秘密に迫っていきます。

 少し辛いことも見えてくると思いますが、成長にはつきものなのです。

 どうぞお付き合いしてやってください。


 新章始まりのサブエピです。

 どうぞ。



 

 


 身支度をする時間を貰っただけ、自分は幸せかもしれない。

 そんな幸せに浸れる時間は、思ったよりも短い。

 学校用にと買って貰ったコートはそれなりに温かいけれど、人間とは斯くも贅沢なもので。それとは違った温かさを求めて、鞄を漁ってしまうのだった。

 本当の意味での温かさを知ってしまった自分には、コートでは薄すぎる。

 いざ知らずに荒ぶ雪風が、顔の露出した部分から熱を掠め取っていく。

 ぎりりっとフードの口を固めて歩けども、ゴールはおろか目的地すら無い。

 見えているのは顛末だけ。

 理由があって、そして結果がある。

 因果応報とはよく言ったものだ。


「…………」


 言葉を失くす。

 元々、言葉というものに信頼を置いていなかったからか、沈黙することに対しての恐怖はそこまで無い。誰かといる時の沈黙は、また別の話。

 どちらにせよ、自分は、沈黙が怖いことであると知ってしまったから言えることだ。

 沈黙すること――それはつまり、生かされていると感じること。

 真の静寂に包まれてこそ、それはわかった。

 時は昨日、場所は確か公園だったと思う。

 ベンチと築山とを行ったり来たりして疲れて、休んでいた時のこと。襲い来る眠気と戦っている最中に聞いたのは、雪の降りつもる音。そして、それを台無しにするかのように鳴る、心臓の音。

 その時は思わず、心が走った。


 [どうして自分は生きているんだろう]


 そこには、確かに結果への怨恨があって、単なる疑問ではなかったのだと思う。[久しぶりだな]と思う自分もいて、それがさらに息苦しさを加速させたこともわかっている。

 でも、自分の力ではどうにもできない。どうにもできないなら、諦めるしかない。諦めるしかないなら、忘れるしかない。忘れるしかないけど、忘れられない。忘れたくない。

 だからなのだろう。

 行く末すらも見えないこの雪道を(ある意味では見えているのかもしれないが)、一人で歩いていけるのは。

 助けは求めない。求められない。

 迷惑をかけてしまうから。

 迷惑をかけてもいいのだと、誰かが言ってくれたことがあった。

 でもそれは、進んでそうしていいということではないから、でき得る限りは避けなければならない。

 以前の自分であれば、一歩二歩歩いたところで音を上げていたかもしれない。

 でも、今は違う。

 まだ、頑張れる。

 まだ、もう少し。

 ただ、その“もう少し”は永遠に続くのかもしれないけれど。


「痛っ……」


 あまりに不意なことだったので、発言に責任を持てない。

 下腹部というのだろうか。応急的に手で抑えたところの、ずっとずっと奥の方から、痛みが絶え間なく湧き上がってくるようだった。倒れる程ではないにしろ、立っているのは辛い。家の外で、こう痛いことも稀であるから、精神的にも削られる。

 細目を開けて周囲を見渡してみると、ちょうどよさそうなベンチが宵闇に一つ、見慣れない構成の公園にポツンとある。さほど、雪は積もっていない。

 誰もいないのを確認して、そこへ寄った。


「ん……。痛い……」


 痛みは、良くも悪くもならない。ただ同じ分だけ、腹部と心を締め付け続けた。

 暫くして、長めの呼吸をすると多少落ち着くことがわかる。これにはコツがあって、お腹に少し力を入れながらやると、気が抜けなくて覿面だった。

 ただ、息を吸って吐いて、痛点を摩る。

 言葉は発しない方が楽だった。


「はぁ、はぁ……」


 数分間続けると、それなりに疲労した。

 そして、汗をかくほどに体は熱を持った。なんのおまけかわからないけど、頭痛もした。

 その時だった。

 顔に、何か触れた。

 形も重量もわからないけれど、それはとても冷たかった。

 雪だった。

 風はそこまで吹いていなく、火照った体には頗る心地の良い温度だった。

 そう。コートを脱いでちょうどいいくらいの。


「…………」


 途方もない静寂。

 今宵はどきりどきりと、痛みが音になって聞こえそうだった。

 そう言えば、視界ががらりと変わった気がする。

 そうだ。自分はベンチに横になったのだ。

 すごく、すごく気分が良いと思う。

 このまま眠れてしまいそうなくらいに――



「……ろ……」



「……れ……きんか!」



 大地震が起きて、たくさんの人が死んでしまって。誰かが誰かの名前を呼んでいて。地を揺さぶったのが誰なのか、恨みの瞳を血走らせて探す。そして、永久に帰らない人を思う。

 こんな感じの夢を、見たことがある気がする。

 もしかすれば明日は、それの続きなのかもしれない。



「のあ、起きるのじゃっ!」



 

【あとがき】

 ノアは、すごくお腹が痛くなるタイプです。

 苦労します。


 次回は、いよいよ「本編」入っていきます。


 

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