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大魔導師と秘密の部屋

 前回までのあらすじ

 犬メイドさんの緊縛写真集製作決定!


 まあ、非売品ですけどね。

 オレ、日本に帰ったら、掲示板で異世界画像貼るんだ。


 幸せのお裾分けというか、持てる者の義務とかそういう使命感が芽生えたわ。

 この感動を伝えないといけない。3次元が2次元に勝つ事もあるという事実を。

 だが緊縛写真集は見せない。存在を仄めかせて『残念。オークさんでした』とかやる予定だ。

 頑張ったオレへのご褒美だから、他の人には見せられません。


 まあ撮影時期は未定なんですけどね。

 今のオレは異世界人から見れば貧弱な坊やでしかないし、撮影技術も無い。

 ひたすらオークを撮って技術を磨いて機会を待つ。

 目標があると努力するのが楽しいね。ボケた写真すら愛しい。


 トトさんは大イビキをかいて就寝中。初めての部屋に興奮して走り回って、至る所でおしっこポーズ。

 そこら中で派手にやったるという猛虎魂を感じた。折角のロイヤルスイートがマーキングで台無しになるところだった。


 部屋に来る前に、散歩道にしても問題ないルートをリリーさんに案内して貰い、結構歩いたせいか、出る物が無かったのが不幸中の幸いと言える。

 環境が変わったから仕方ないのかね?





「勇者様、お食事の用意が整いました。ギュードンでございます。大変お熱くなっておりますので、お気をつけてお召し上がり下さい」


 今日のお昼は牛丼か。

 牛丼、異世界料理の1食目が何故牛丼なんだ。

 長い事パン食が続いた訳でもないし、こちらに来たばかりだとありがたみが無いな。

 見た目には至って普通の並盛り牛丼だ。生卵とサラダと味噌汁、それに紅しょうがと七味が付いている。

 日本との違いはサラダにドレッシングがかかっている事ぐらいか。


「あ、どうもありがとうございます。丁度牛丼が食べたかったんですよ! 

 リリーさん、こちらでは米はポピュラーな主食なんですか?」


「はい。勇者王と呼ばれたイチロー王が生涯をかけた大事業の成果で、広く普及したお米はグリンオークで最も愛されている主食の1つです。

 他の作物には拘らなかったイチロー王ですが、美味しいお米を食べたい一心で、時には公務を疎かにする事もあったそうです。

 救国の英雄として今も愛されるイチロー王ですが、中には農家王と呼んで馬鹿にする者もいたという話です」


 リリーさんのお米トリビアを聞きながら箸を動かす。箸あるんですね。

 勇者王さん日本人ですもんね。ヤッベ持って来たものが役に立たない予感が沸々と湧いてまいりました。

 こちらに来る前の準備で、リアルの貯金はほぼ使い切ったんですけど。

 まあ、勇者パワーで海外行って換金とか出来るだろうからなんとかなるか。なるか?


「これは美味しいですね! こんなに旨い物を食べたのは久しぶりです!」


 語彙無さ過ぎだろオレ。久しぶりに旨い物を食ったじゃねーよ。

 もっとこう馥郁(ふくいく)たる香りが口の中に広がって、シャッキリポンとクララが立ったとか上手い事言えよ。

 それにしても横に立っていられると落ち着かん。


 リリーさんと一緒にごはん食べたい。足元にトトが待機しているけど、君はタマネギ入ってるから駄目です。前足でトントンしても駄目。


 こうして3人で居ると家族みたいだな。幸せな家庭を築きたい。

 将来的には夫婦でアメフトが出来るくらい数のお嫁さんが欲しいね。 

 別にお嫁さんじゃなくても良いから勇者村みたいなのを作って、差別に苦しむ獣人やモンスター娘や魔族を保護したいね。

 みんなが笑顔で居られる場所を作って、子猫に鰹節をやりながら村の中を散歩してポックリ死にたい。

 やっぱり死ぬのはナシで。


「勇者様のお口にあったようでなによりです。よろしければトトさんにも何かお持ちしましょうか?」


「お気遣いありがとうございますリリーさん。ですがこの子の食事は1日2食と決めているのです。

 結局守れず余計な物を与えてしまうので、太り気味なんですよ」


 そういえばリリーさんの足はどうなっているのだろう? 

 逆間接なのかしら? 

 つま先しか見えない長さだから失念していたが、まさか、スカート捲って脚を見せてくれなんて頼めないしな。

 まだ焦るような時間じゃない。何しろ1日目だ、後の楽しみにしておこう。


「まあ! そうなんですか。そこまで考えが及ばず失礼いたしました」


「イヤ、謝ってもらうような事はありません。

 リリーさんの用意してくれる物なら私が食べたい位ですよ。

 デザート代わりに鼻を触らせて貰っても構いませんかね?」


「わふっ!? そんな事を急に言われても……困ります」


「困っている姿が可愛かったのでついやってしまいました。

 ごめんなさい。多分またやります」



「あまりからかわないで下さい……怒りますよ?」



「そういえばリリーさん。散歩していて気付いたんですが、この城の周りは随分と綺麗ですね。

 景色も綺麗ですけど、馬糞なんかを1つも見かけなかったし。騎士団のマーキスさん達も妙に清潔だった気がします。

 衛生状態が飛び抜けて良いのには、何か秘密があるんですか?」」



「勇者様……まあいいです。この街、この国の美しさもイチロー王と、タバサ様の研究成果の一端なのです。

 先代の勇者であるイチロー王、その戦友のタバサ様は魔王討伐という歴史に燦然と輝く大偉業を成し遂げられました。

 ですが2人はそれで満足しませんでした。当時のグリンオークは衛生状態が悪く、不衛生な環境で病に掛かり、命を失う者が後を絶ちませんでした。

 そこで2人は魔力が低い者でも問題なく使える浄化(クリーニング)という魔法を作り出して普及させ、病に倒れる者を大幅に減らしたのです。

 それだけの偉業を成したにも関わらず周りの連中が臭かったからそうした等と韜晦していたそうです。他にも………………」


 リリーさんは勇者王の偉業について誇らしげに語った。

 地元の英雄を自慢したくなる気持ちは解る。オレも同郷の偉人の話を聞いて気分が良くなった。

 可愛らしいメイドさんとの和やかな会話と美味しい食事。異世界って本当に素晴らしいですね。

 ここに来て良かった。でも鼻は触らせてもらえませんでした。残念。



 昼食を終えたオレとトトは、リリーさんに連れられ能力を鑑定する魔道具があるという魔術師さんのお宅にお邪魔しています。

 正確には古びた洋館の前にいます。リリーさんがメダルのような物をかざすと門が開いた。反射的に入ろうとすると、肩を掴んで止められた。


「勇者様、そこは入口ではありません。私の後ろをついて来て下さい」


 リリーさんはそう言うと、先頭に立って歩き始めた。

 しかし、揺れる尻尾はいつまで見ていても飽きませんな。心が豊かになる気がする。


 正面に見えたのはダミーの入り口だそうで、知らずに入るとウォータースライダーの要領で奈落の底へと滑り落ちるそうです。

 滑る過程で、生皮を剥がれ終点の薬品入りプールに保管されて魔術師さんに有効活用されるとの事。

 ……そんな人雇ってて大丈夫なんすか? 何か魔法で騙されてないですか? 


 リリーさんの先導に従って2分程歩くと、景色が切り替わり、魔法陣の中心にドアが建った場所に出た。

 魔法陣に足を踏み入れると何処からともなく声が響いた。


「わたしの眠りを妨げる者はだあーれー? まぁ誰でもいいけど、招待状のないお客様はぁ、ぜぇーったいに中には入れないから帰った方が身の為よ。

 警告したからもう寝る」


 やる気のない警告を聞いたオレが固まっている間に、リリーさんはさっさとドアの前に移動して手招きしている。 

 え? 合言葉とかとかないの? 後についてドアの中に入ると10メートル四方位の部屋の中心に出た。


 四方の壁には、天井まである本棚が据え付けられ、本がギッシリ詰まっている。

 ……上下が逆さまだったり、背表紙から本棚に詰め込まれてる本もある。この部屋の主は常識に囚われない御仁のようだな。

 本棚の前の空間には、訳の解らない道具が所狭しと陳列されている。

 いかにも錬金術に使いそうな金銀色とりどりのヘンテコな形の道具が乗った机の下には、フラスコや素材が溢れている。

 部屋のど真ん中にある汚いベッドの上には、1メートル程の大きさの猫のぬいぐるみが横たわっている。

 ベッドの周囲には空になった酒瓶とパンの食べカスが散乱していた。


 って此処ただの汚部屋じゃないですか!


「タバサ様! 勇者ヤマダタロー様をお連れしました! タバサ様何処ですか! 勇者様をお連れしました!!」


 リリーさんは何処からか取り出した鍋にお玉をガンガン打ち付けてタバサ様と連呼している。

 一瞬こんな人だったっけと思ったが、タバサという名前を思い出して納得した。

 リリーさんの話の通り、勇者と一緒に魔法を作ったなら当時の年齢+200歳の老婆だ。

 寝たきりで耳が遠いから大きな音を出している訳ですね。OK理解した。


「ワンワン! ワンワンワンワン! アン゛アン゛アン゛アン゛!ハッハッハッハッハッハッハッハッ…………」


 トトも音と大声に反応してテンションが上がってしまったようだ。オレの足に

へばり付いて腰を振り出した。このアホ犬め! セクハラはあっちのお姉さんにしなさい。

 それなら止めないのに、むしろ応援するのに、何でオレの方にばかり来るのかな君は。


 「トト落ち着けッ! 良い子良い子! いい子だから落ち着けガムやるから!」


「うるさくて寝れないニャーーーー!」


 手を変え品を変え、どうにかオレに取りついて腰を振ろうとするトトとの攻防が楽しくなりかけた辺りで、汚いベッドに置かれていた猫のぬいぐるみが飛び上がって絶叫した。


 見事なスタージャンプだった。

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