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オレとオーク兵団とござる

 前回までのあらすじ

 王宮だと思ったらモンスターハウスにいた。テントの外は緑がいっぱい。

 駄目だ何とか状況を変えようと勇気を振り絞って話しかけたのに、何も反応がない。

 オーク達はこちらを注視しているが一言も発しない。 

 残念ながら「頭を回転させろ!」とか言って、打開策を捻り出せる頭は無い。オレに出来る事といえば、深呼吸ぐらいだな。


「スーーーーーーーーっ ㇷァーーーーーーーーーー スーー はぁ……」


 鼻から息を吸い、肺の空気を絞り出すような感じで口から息を吐く。本来なら何回か続ける所だが、こちらの対応を待っているオーク達を、待たせる訳にもいかないので1回で止める。


 ふぅ……一息ついたな。よし、状況を整理しよう。


 まず、彼らはオレの敵ではない。害意があるならオレ程度寝てる間に殺せる筈だ。

 空のある所に出るとは思わなかったが、地下室なんかよりは開放感があって良い。

 オレとトトが居るのは、野外ホールのステージのような場所で、円形の舞台の中心だ。

 床には巨大な魔方陣が描かれていて、その魔方陣の上に、テントとトイレと柵とオレが立っている。


 オーク達の後方にはお城が見えるので、彼らは多分衛兵のような物だろう。

 灰色をした正方形にスライムが乗ったような建物を中心に、とんがり屋根の塔が四隅に建っている。

 ドラゴンをクエストするレトロゲームに出てきそうな城だ。


 あの建物の趣味は、間違いなく二代目勇者の仕業だろう。

 この世界にドラゴン等の空を飛ぶ魔物がいる場合、普通の城が何百年も残るハズは無いので、勇者謹製のファンタジー兵器で武装しているに違いない。

 楽しんで作った対空兵器や、巨大ゴーレムなんかを隠している筈だ。勇者の力でどれ程の物を作れるのか、後学の為に是非見てみたい。 


 お! 誰か城の方に走っていった。いい加減話の解る人を連れてきてくれ。頼む。


 彼らの立場に立って考えれば混乱するのも無理はない。

王家の庭先に、突然柵に囲われたテントが出現したと思ったら、その中から、全身銀色の服に身をを包んだ得体のしれない男が出て来た訳だし、警戒されるのは当然だ。 耐火性能の他にも、なんかカッコいいのと、異世界ではアルミが伝説の金属で超強い可能性を考慮したチョイスだったが、裏目に出てしまったか? 

 とりあえず、ヘルメットとマスクを外し、笑顔を作って穏やかに話しかける。


 「勇者候補の山田太郎(やまだたろう)です。お取次ぎお願いしまーす」


 やはり反応がない。幾らか緊張が和らいだような気もするが、表情が読めない。

 このまま膠着状態が続くかと思われたが、意外な所から状況が動いた。トトである。

 彼はテントから這い出して、オレとオーク兵団の緊張感など意に介さず犬トイレに向かい、悠然としゃがみ込んで用を足した。

 その後、その場で屁をすると、テントの中へと戻って行った。




 (やはりアイツは大物だな)




 全く物怖じしない愛犬の姿に感心していたが、目線の先にあるウンコをそのまま置いて置く訳にも行かず、オーク兵団に向かって一声掛ける。


 「すいませーん。 今すぐ片付けますんでー」


 返事は返ってこないが意図は理解して貰えたような気がする。そう解釈した。

 オレが歩き出した瞬間、風が巻き起こりバッドスメルを風下へと運んだ。その臭いを嗅いだオーク達が俄かに騒ぎ出す。

 (血生臭い世界でも臭い物は臭いんだな。デカい鼻の穴してるから敏感なのか?)


「ルワッグッザァ! ダリダヨル ンコボラシ ダャヅヴァ!!」 


「ナディグッダ ラコンナディ オイガ ズドゥンダ?」 



 何を言っているのかさっぱり解らないが言葉が通じないのは解った。

 どうせ理解できないので聞き流す事にして、歩きながらウンコ棒を取り出す。 

 後始末にトイレットペーパーも袋も必要ない。アイテムボックス、マジ便利。便だけに。 



「オディヅ ケジョルカ グディーディン グドバボルヲヅカエ!!!」 



 昔は煮立てた糞尿を敵に撒いて攻撃してたらしいけど、毒と火傷の2属性継続ダメージ攻撃と考えると結構酷いな。

 臭いもあるから3属性か。そんな物飛んで来たらたまらないな。戦争の無い時代に生まれてよかった。こうして念願の異世界に来る事も出来たし、本当に幸せです。


「コドグザァイ クライジ ャナイナ ヅカシ イカオディダ!」 


「バゾーガヴァダ イセイズドゥヨソリ ヴァマティ ガイナイ!」 


「コリルンコ ボリダッデリ ベドゥ ジャベーゾ!」


 ウンコを片付けていると、それまで騒がしかったオーク兵達が急に静かになった。

 彼らが同じ方向を向いているのに気付いて視線を辿ると、騎乗したオークが近付いてくるのが見えた。

 騎士だ! 目の前にいるオーク達も騎士なのかも知れないけど、やっぱり馬に乗ってると違うな! 

 某傾奇者のように一太刀で10人くらい斬りそうな迫力だ。勝てる気がしない。





「オバエダディユル! シャザァバド バエディナンドゥ イルシュ ルダイダ!」


 馬を降りたオークの騎士は、トトの出し物で混乱していたオーク達を一喝した。

 あー、また日本語通じない系か。しかし、オーク兵達の反応を見る限り、上位者なのは確定的に明らか。

 会話が出来る人を呼んで貰うべく、身振りを交えたアピールを敢行する。


「ユルシャドド エンドヴァドゥ バドゥヨグゾイ ラッシャッダカ ンゲイズドゥ ディゴザドゥ」


 こちらが行動するより速く向こうから話しかけてきた。だけどさっぱりわからない。

 まあ困ったときはボディランゲージと英語を使えば良い筈だ。



「あ、アイアム、勇者山田太郎(やまだたろう)エリカコールド・ミー 異世界」


  左手親指で魔方陣を指差した後、右手親指を自分の顔に向けてそう言った。

 これで”エリカに呼ばれて”俺が違う世界から来た事が伝わった筈だ。


「フロムジャパン コールエリカ ヘルプ・ミー!」


 オレはそう言うと日の丸が付いた爪楊枝を取り出してオーク騎士に手渡した。

 現場の人間に日本語が通じなくても、日の丸なら伝わるだろう。勇者王の国だし。


「ユルシャドドヴァナディヲシデイドゥドダ?」


「デバエディボワカディバセズ」


 オーク騎士は側に控えていた部下と言葉を交わしていたが、オレの顔と日の丸を交互に見て何か思いついたようだ。

 懐から皮袋を取り出し、中から指輪を摘むと差し出してきた。これはアレか?所謂翻訳リングか? 

 ありがたく受け取ると早速ハメて見る。それをを確認するとオーク騎士が話しかけてきた。





「おお! 勇者殿、遠路はるばるよくぞいらっしゃった。拙者名前をデューク・サライェンと申す。

 勇者殿からすれば縁もゆかりも無いグリンオークの為に力を貸して戴き真忝い。騎士団を代表して礼を言うでござるよ! 

 かような場所で勇者殿をお待たせするとは面目次第もございませぬ。団員には後程よく言って聞かせまするのでご容赦の程を」


「おおッ!! やっと会話が出来る人が出て来た!! 

 いや、失礼。私は先代の勇者様と同郷、と言えるかな? 同じ国からエリカ殿の要請を受けてここへ来ました。

 勇者候補の山田太郎(やまだたろう)という者です。武芸については素人故、デューク殿には、ご指導ご鞭撻のほどお願いしたい」


 なんか口調が移った。漫画か何かに出てくるようなインチキ侍みたいだな。日本語は伝わっていないんだろうか? 

 他にも色々聞いてみるか。


「そう、先ほどお話に出たエリカ様でござる。勇者ヤマダ殿を呼んだ当の本人が迎えにも出ないなど、本来、許されざる行ないではあります。

 しかし、勇者殿を召喚する為の儀式で魔力を使い果たし、現在は療養中でござる。姫巫女と呼ばれるエリカ様といえど勇者の召喚は大仕事なのでござる。お気を悪くなされぬよう、お願い仕る」


 そうか、そういう事情なら仕方ないな。大仕事なら平気な方がおかしいよな。

 姫巫女か、姫騎士、姫将軍と合わせて3大クッコロ要員というイメージがある。



「そういう事情だったのですか。私は気にしておりませんので、エリカ様には気になさらぬようお伝え下さい。

 ところで、先程の指輪は翻訳の指輪ですか? 日本語専用の物だとすると、複数の言語を理解するには数を持たなくてはならないのでは?」


「いえ、拙者を含め国の中枢に関わる者は、勇者様方が残された《古文書》を理解する為に日本語を学ぶのでござる。

 先程の指輪はどんな種族とも会話が出来る優れもので勇者王様手ずから拵えた勇者殿への贈り物なのでござる。

 勇者殿が日本語を話していたら渡し忘れるところでござった。わはは……ところで指輪を渡す前に何を仰ったのでござるか?」



 アレー? 英語通じてないわ。サラッと流そう。



「方言です……勇者王様への恩返しも含めて精一杯努めさせていただきます。

 それでデューク殿、私は勇者王様が1週間程度の期間で誰よりも強くなったという話を聞き、愛犬と共にこちらに来る事を決心したのです。

 少し休んだ後に、魔王に負けない力を得る為に、詳しい話をお聞かせ願いたいのですが……」


「これは……気付きませんで大変な失礼を。勇者殿を石床に寝かせるなど、あってはならぬ事。

 すぐに寛げる所へ案内させますので、今しばらくお待ち下され。マーキス付いて来い!」


 デューク殿はそう言うと馬に飛び乗り城へ向かって走り去っていった。

 これからは準備をするなら、それなりに時間が掛かりそうだし、朝飯の仕度でもしながら待つか……

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