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ボーナス&スレイブズ

 前回のあらすじ

 塔(?)に到着した。 


 なんだコレこの塔というかピラミッド? 

 遠目では気付かなかったがカスタード色の滑らかな外壁の上部は、カラメルとクリームとサクランボでデコレートされている。

 外から見る限り窓は無く、正面に高さ10メートル以上はある巨大な金属扉が1つある。塔というか1人用テントに見える。換気はどうしているのだろうか?

 この建物は周囲のマヤ文明の遺跡のような建造物と較べると明らかに作りが違う。是非、中がどうなっているのか見てみたい。

 

「あの中には入れないのかウィルベル?」


「えっ? 塔の中に入りたいんスか? 危ないし、別に面白い物も無いスよ。

 自分は2人が出てくるのを待った方が良いと思いまス」


 塔の中にはダンジョンが広がっているとか? もしそうならショッピングモールでも迷う俺だ。行き違いになる確率が高い。仕方ない、雑談しながら待つか。





「……という訳でスティンクビートルはアンタッチャブルとも呼ばれ忌み嫌われておる。

 もし見かけたら、すれ違う人全てに注意を促すのがエチケットなのじゃ」


 先生によると、来る途中で見たカブトムシは近寄ると臭いが移るので狩人は獲物を追えず、商人は売物を台無しにされる事から人は勿論、魔物からも避けられているらしい。

 見た目は実物大ゾイドだからテンション上がったんだけどな。『状態異常無効』でも防げない悪臭とか、これは悪臭対策グッズを開発するべきじゃないだろうか?

 そう考えて先生に提案したが却下された。獣人は鋭い嗅覚で危険を嗅ぎ分けているので、自分の周囲の匂いを消すのは自殺行為なんだそうだ。


「嗅覚を鈍らせない為に、敢えて対策をせずに残しているという事ですか?」


「それだけではないぞ。獣人というのは自分の嗅覚に絶対の自信を持っておるからな。

 匂いに問題がなければ安全と判断し、腐った物でも平気で口にしてしまうのじゃよ。

 浄化魔法を使うにしても、わしのような天才魔導士でなければ魔力が足りんしのう」


 食べ物の腐敗度は味で解る気もするが、種族によって味覚の違いもあるだろうと納得した。

 犬や猫は甘みや旨みを感じにくいって言うしな。あれ、腐ったものは解るんだっけか。


「それは大変ですね。何か対策はないんでしょうか?」


アイテムボックスから犬テーブルとボウルを取り出してトトに水を飲ませる。レベルが上がってもピチャピチャと水を飲む姿はいつもと変わらない。


「解んないスけど、ご主人様ならなんとか出来るんじゃないッスか?」


 よしよし、信頼は育ってるみたいだ。いつまでもトトを凝視していても仕方が無いので視線を外し、魔術師の塔を見上げる。


「かもな。ところでウィルベル、さっきの娘、塔に入ったっきり出てこないけど、

 どこかで先生の家での事が漏れてトラブルが起きてる可能性は無いのか?」


 結構長く雑談しているが、一向に声が掛からないので不安になってきた。そこで相手方の事情を知るウィルベルちゃんに俺らの行動に問題が無いか尋ねてみた。


「ごタローさん、タバサさん家の鍵を持ってるのは、自分とアルテアだけッス。

 それと魔王軍の鑑定技能持ちはキングさんだけス。その心配はご無用デス」

 

「さっきの子が鑑定技能を持ってないとは言い切れないんじゃないか?」


「彼女はキングさんのお孫さんデスけど。素直な子だし、ニンジャだから関係ないッス」


「なるほど。ニンジャなら何の問題もないじゃろう」


 それで何がどう安心なんだかさっぱり解らない。


「先生、ニンジャって情報操作したり、放火したりするじゃないですか?

 いったいどこに安心できる要素があるんです?」


「ニンジャと言ったらヒーローじゃよ? そんな卑劣な事をする訳がなかろう?

 歴史の影にニンジャありと謳われる程精力的に活動してきた正義の使徒じゃよ!

 平和とピザの為に働いていた事は歴史書にも書いてあるのじゃ! 見るが良い」


 タバサ先生は図鑑サイズの本を取り出し、パラパラと本を捲って目的のページを開き俺に差し出す。

 そこにはカラフルな忍者装束に身を包んだ猫獣人と、全裸に鉢巻の亀の獣人達のがピザを囲んでいる姿があった。ドミノピザの広告か?

 

「彼らが初代勇者様と共に戦った『ピザキャット』と『タートルズ』じゃよ。

 平和を愛する心さえあれば種族が違っても手を取り合えるという事を伝えておる」


 うん。ニンジャは勇者の仲間だった事で信用があるんだな。

 全裸にハチマキ1丁が許される程に。ピザキャットのお陰でニンジャ=裸が常識にならなかったのは僥倖と言えるだろう。


「そうですね。それにしてもあの娘遅いな。面倒だから中に入っちゃいましょうよ。

 それで襲い掛かってくれば話も早く済みますしね」


「それはイカン。たとえ相手が魔族でも勝手に他人の家に入っては駄目じゃ。

 その言い様、奴隷化を期待してるようじゃが、それで捕まるのはタロー殿じゃぞ?

 イチローのように他人の家を漁ったり傍若無人な振る舞いをしてはイカンよ」


「マジでっ!? トイレ入ったり本読んだりするのも駄目なの? 勇者なのに?」


「いや、そんなの通ったらやりたい放題じゃないスか。キングさんは話の早い人だし、

 起きてさえいれば用事はすぐ済む筈デスから。一声掛けて下さいッス」


 先生とウィルベルちゃんの言う通りだ。落ち着かなくては。芋煮会を意識する余り、もう少しで人の道を踏み外して当たり屋になる所だった。

 奴隷が増えるのは秘密保持か降り掛かる火の粉を払った結果でなければいけない。自分から獲得しに行ったらチンピラそのものじゃないか。


「そうだな。俺が間違っていた。まず声を掛けよう」

 

「ウィルベル殿~っ! じじ上様が起きたでござるよ~っ!」


 待つのが面倒臭くなってきたので、一声掛けて退散しようかと思っネズミッ娘の声がした。どうやら帰るタイミングを逃したようだ。


「了解デス。あ、皆さん扉が開くんで、白い線よりも後ろに下がって下さいッス」


 ウィルベルちゃんに言われた通りに全員で白線から後ろに下がる。すると巨大な金属扉が勢いよく開き、中から建物と変わらない大きさのネズミが飛び出して来た。

 そして、そのままジャンピング土下座。あの大きさでどうやって中に入っていたのか解らないが、ハムスターが頭さえ入れば何処でも通れるのと同じ理屈に違いない。


「ワンワンッ! ワンワンッ!」


 俺と巨大ネズミを交互に見ながらトトが何度も吠える。なんか怖いからしてというような、腰の引けた反応だった気がする。

 もしトトがレベルアップの影響で凶暴になっていたら、あのネズミはひき肉になっていたかも知れない。ヘタレで良かった。


「ようこそ賢者殿、儂は此処を任されているキング・マウスマンと申す者。

 此度の件で民を救う為仕方が無かったとは言え、不当な奴隷契約によって、

 賢者どのの自由を奪う事となり、お詫びの言葉もござりませぬ」


「賢者様、じじ上様を許して欲しいでござる」


 巨大ネズミは地面に鼻を擦り付けながら先生に謝罪の言葉を並べる。いつの間にかちっちゃい子も居た。


「わしが賢者タバサじゃ。おいデカブツ今の言い訳は何じゃ? 

 お主は皆の為だから仕方ない。と言われて納得出来るかね? 

 スマンがわしは無理。絶対に許さんぞネズミ共!」


 じわじわとなぶり殺しにしてくれる。タバサ先生の目はそう語っていた。


「賢者殿には儂等の勝手な都合でご迷惑をお掛けいたした。幾ら言葉を重ねても、

 許さぬと仰るのも道理。ならば腹を、腹を切る事で詫びに代えさせて頂きたい」


「じじ上様、拙者もお供するでござる。」


「いや、出てきた途端に死なれても困る。食前に臓物の臭いを嗅ぎとうない。許そう。

 わしを浚ってまでさせたい事があったんじゃろ?何をすれば良いのかを話すがよい。

 奴隷からの開放を条件に出来る範囲で協力してやろう。大サービスじゃぞ?」


 先生の怒りは冷めたようだ。猫の気まぐれさと、今が夕食前だという事も関係しているのだろう。怒り続けるのにも体力使うし仕方ないね。


「おおっ! 賢者殿かたじけないッ! このご恩は一生忘れませぬ」


「アリガトでござる! コレ、つまらないものだけどお納め下さいニンニン」


 ラーテちゃんは立ち上がって懐から小袋を取り出し、タバサ先生に手渡した。

 

「なんじゃこれは?」


「チーズ鱈の干物でござる。イガダニ洞窟で取れる幻の珍味でござるよ」


「良かったッスねタバサさん。滅多に手に入らないマニア向けの逸品デスよ」


「……ありがたく頂こう。では話せ」


「現在、魔族領は深刻な食糧難に陥っております。これまで何とかしのいで来たが、

 今年は例年通りの干ばつに加え、領内最大の食糧基地が災害に見舞われまして。

 このままでは座して死を待つのみ。賢者殿には、何とかこの苦境を救って頂きたい。

 手段はお任せいたす。事が成った暁には契約を解除させ、儂も腹を切りまする!」


「それでは駄目じゃ。契約を解除してもウィルベルが居れば再契約も可能じゃろう。

 その状態で仮にお主が死んだとしても、わしには何のメリットも無いではないか。

 契約の出来るウィルベルと孫を人質に差し出す程度の誠意は見せて欲しいのう」


「ならば今すぐ2人を差し出し、続けてわしも腹を切りまする!」


 マウスマン氏が逆切れ気味に叫んで振り上げた爪は、自身の身体に突き刺さる寸前ピタリと静止した。まるで止めて貰うのを待っているかのようだ。


「じじ上様が練った計画にそんな不備があったとは、賢者殿は恐ろしきお方でござる。

 拙者、今解り申した。この地に生まれ、この地に死す。コレが地産地消なのでござる。

 ママ上様、パパ上様、今が拙者の命の使い時でござる。お別れしたくないけど、

 ラーテは賢者殿の夕飯になるでござる。拙者が死んでも忘れないで欲しいナリ……」


 ラーテちゃんは自分の背丈程のまな板を取り出して先生の前に置き、目に涙を溜めながらその上に横たわった。両手をお腹の前で組んで目を瞑る。

 すると、塔の中から十数人のネズミ獣人が沸いてきた。彼らは全員キング氏の孫だという。最愛の祖父に思い思いの言葉で別れを告げる光景は涙を誘った。眠くて。


「……お待たせしてスマンでござる。ささ賢者殿、拙者の決意が揺るがぬ内にお早くお召し上がり下され」


「待ってないぞ。わしは人など食わん。お主ら簡単に自殺しようとするでない」


「なんと! 賢者殿は儂から死に場所を奪うおつもりか? 

 振り上げたこの腕で儂は一体何を掴めば良いのです?」


「知らんがな。孫に囲まれてもっと生きたいと思いながら寿命で死ね」





 この後の話はお腹が空いてきたので割愛するが、先生とキング氏の話し合いの結果、ラーテちゃんは人質として俺の奴隷になった。

 そしてウィルベルちゃんは表向きガイドとして付いて来る事になり、通行手形も貰ったので魔王領を大手を振って歩けるようになった。

 これで誰に気兼ね無くモンスター娘の楽園を築く事ができる。やったね。


「なあラーテさんや、なんでニンジャはすぐに死にたがるんだね?」


「それはですなオヤカタ様、伝説級のニンジャは散り際もカッコいいからでござる。

 前田殿もカッコいいけど、やはりニンジャの鮮烈な生き様に憧れるのでござるよ」


「なるほどな。俺も棒涸らしの蛍と甲斐の蝙蝠の事はよく覚えているわ。じゃ帰ろうか」


 先生にピンクドアを出して貰い帰路に着く。リリーさんが踊りながら料理を作っていた事は言うまでもない。見られたくないけど見せたいんだろうな。少し解る気がする。

 今日はウィルベルちゃんも良くやってくれた。ボーナスを考えておかないとな。そうだ。ハーピー村に牛乳サーバーを設置しよう。


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