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異世界初散歩(城の中はノーカン)◆

 前回のあらすじ

 いつの間にかトトが急成長していた。


 トトのパワーアップを検証するのは後回しと言ったが、最大30までしか上がらない筈の職業レベルが軒並み50まで上がっていた。どうにも気になる。

 このまま出掛けては気持ちが悪いのでトトを鑑定した結果、上限が上がった理由は勇者レベル50で会得した新スキル『友情パワー』の効果だと判明した。

 友情パワーという名前こそ微妙だが、勇者がパーティーに編入した人物のレベルと能力限界値を20ずつ増加させる非常に強力なスキルであった。

 みんなに事情を説明してステータスを見せて貰うと、全員がトトに仲間認定され、レベル上限が上がっている事を確認した。

 なお、200年分の経験値がプールされていたタバサ先生が、レベルアップに気付いて小躍りし、トトに滅茶苦茶舐められたのは言うまでも無い。

 

 久方振りのレベルアップじゃから、ついつい、はしゃいでしまったのじゃ」


「イヤ、そりゃ仕方ないスよタバサさん。レベル1つでも上がれば嬉しいもんデスし、

 20も上がれば奇声を上げて走り回る程度はどうって事無いッス!」


 気が付くと時刻は午後5時半を回っている。割と時間が無い。俺は遠視の魔法を使い、アイテムボックスから脚付きのホワイトボードを取り出した。

 プロジェクターの要領で航空写真(?)を写す位置を調整する。特にホワイトボードは必要ないが、ブリーフィングっぽい雰囲気を演出したかったからだ。


「ちょっと見辛いから、地図の高さをもう少し下げてくれんかねタロー殿」


「アイアイマム。それでウィルベル、拠点というのは何処にあるのだね?」


 先生には少し見辛かったか、ボードの角度がいけなかったか。

 

「ここから東南東に135kmと185mに行ったウシュマラブナという所ッス。

 飛ぶと15分くらいデス。そこにいるキングさんに報告すれば問題ないッス」

 

 ウィルベルちゃんは俺の質問にノータイムで答えた。135kmを15分だと時速540kmか、音速超えてないか? 超えてないな。

 新幹線がトンネルに入ると衝撃波が出る。という話を聞いて音速を時速340Kmと勘違いしていたせいで、今でもたまに間違えてしまう。


「ほう。結構遠い所にあるんだな。その大魔道士が俺達を値踏みするって訳か」


「確か塔の守護者じゃったな。魔王に次ぐ力を持つ強大な魔族と聞いて、

 魔王討伐の旅の間、常に警戒しておったのじゃが結局出てこんかった。

 てっきりデマの類かと思っておったんじゃが、実在していたのかね?」


「いや、キングさんは昔から居たし、魔族で1,2を争う程の実力者ッスよ。

 タバサさんが会わなかったのはキングさんがあの場所から動けないからデス。

 体重が重過ぎて、魔力が切れると膝まで埋まるから遠出できないって言ってたッス」


 そんな馬鹿なと思ったけど体重500キロでも家から出られなかったりするし、ここは異世界そういう事もあるだろう。

 アニメとかで魔王が倒された途端に城が崩れるのも、案外同じような理由なのかも知れん。作りに無理があるだろってトンデモ物件が多いもんな。


「魔力を使わねば歩くことも出来んとは、少し気の毒な気もするのぅ」


「ン゛ガーーーーッ! ン゛ン゛ン゛ゥ ゥ…… ゥワ゛ンッ!!」

 

 話が長引き過ぎたせいか、トトに怒られてしまった。


「おっと、すまんなトト。じゃあウィルベル、そろそろ案内を頼む」


「えーと、ここが目的地ッス。歩いて移動するならルートが限られまスから、

 この辺から進めばいいんじゃないスか? 北へ向かえば目的地に着く筈ッス」


 ウィルベルちゃんが指し示したのは、草木の生えた平らな岩山だった。こういうのは何と言うんだったか? テーブルマウンテン? 

 例えるならドラゴンボールの背景のような感じか。人が住んでないから幾ら暴れても安心みたいな。思わずクレーターを作りたくなるな! 

 まあ、地下に住むタイプの魔族がいたら不味いから確認してからだが。航空写真で見る限り、平坦な道が続いているように見える。

 

「俺は妥当なチョイスだと思いますけど、先生はどう思います?」


「うむ。それでよかろう。まず行動して問題が起きてから対処すればよいのじゃ」


「それじゃ行きますか。『神行法』」


 トトも尻尾を振って同意したように見えたので張り切って転移魔法を使った。





 転移した後、俺は辺りをグルリと見渡し、先生とウィルベルちゃん、トトの姿を確認した。だが転移魔法のネーミングは失敗だった。変えよう。

 ルーラを捻ったら意味が通じないし、テレポじゃ駄目だ。メジャーを避けてもメジャーに当たる。良いネーミングが思い浮かばない困った。


「だだっ広くて目印になるようなものが何もないから方角が解らんな。

 ウィルベル、どっちに行けば良いのか教えてくれ」


「あっちの方ッスよご主人様。まっすぐ進めばその内着きますデス。ん?」


 ウィルベルちゃんが俺の後ろの方を目を細めて眺めている。何か居るのか?


「タロー殿! 向こうから蟲が飛んできたのじゃ! 結構デカいぞ!」


 先生が指差した方向から巨大なカブトムシが風を切って飛び掛かってきた。咄嗟にトトのリードを手放し、身体をずらして電柱ほどもある角を難なく受け止める。

 ドヤ顔で2人にアピールしたが、2人とも顔を(しか)めている。最小限の動きで曲者を捕縛したというのにこの反応、何故だ? ちょっとカッコ良かっただろ? 

……カブトムシ臭いせいか。腹立ち紛れにチョップを叩き込み、後方へ投げ捨てる。手加減はした。だって虫汁ブシャーってなったら臭いそうだし。

 

「い゛や゛ー、流石っスね。おえっぷ」


 ウィルベルちゃんが何か言い掛け、口を押さえて蹲った。そこまでの臭いじゃないが、食後だとキツいか。


「何をやっておるのじゃ全く。いま浄化するから待っておれ。『浄化(クリーニング)』」


 先生の呪文で辺りのカブトムシ臭は一掃され、爽やかなレモンの香りが立ち込める。消臭殺菌に加えていい匂いも出せるなんて浄化魔法って便利だな。


「タバサさんあざッス。ちょっと戻しそうだったから助かったッス。

それにしても、スティンクビートルを簡単に捌くなんて、流石ご主人様っスね」


「どうという事はないさ。それよりタバサ先生、平然としてましたけど、

 先生はあのカブトムシの臭いが気にならないのですか?」


「慣れじゃよ。命が掛かっていれば臭いなんて気にしていられんからのぅ。

 余裕があるから臭いを気にしていられるという訳じゃ。死ぬような思いをすれば……」


「そこまでして臭さに慣れたく無いッス。自分不器用ですカラ」


「んだんだ。タバサ先生、もっとこう、我慢する必要がない、

 撒くだけで魔物が避けて通るような聖水的なアイテムはありませんよね?」


「まったく最近の若い者は堪え性がなくていかんな! !

 そんなおぬし等にお勧めなのがこちらの商品! ムシムシムシヴェールXじゃ!

 名前で解るように魔力のヴェールで虫を無視出来る画期的な発明品なのじゃよ?」


「またまたご冗談を……わわっ! 信じられないッス! 

 ボタンを一押ししただけで蚊が避けて通ったじゃないデスか! 凄いデス!」


「やったね先生! これなら何時でもバーベキューパーティーが開けるよ!」


 俺達が悪臭から立ち直るまでの間、束の間の自由を得たトトは、軽く走り回った後カブトムシを舐め回していた。犬は臭いものが好きだからな。


「トトッ! そんなものを舐めるのはやめなさい。ばっちいから駄目」


 こちらを振り返り不思議そうな顔をして首を傾げる。何で駄目かって臭いからだよ。大き過ぎるし、ウチでは飼えません。

 そうこうしている内にスティンクビートルが起き上がり、仲間になりたそうにこちらを見つめてくる。申し訳ないが臭いのはNG。


「タロー殿、こ奴仲間にして欲しそうにしておるが、どうする?」


 先生が(臭いから断れ)とテレパシーを飛ばしてきたので全面的に同意した。


「気持ちは嬉しいが、俺達も今は居候の身。生き物は飼えないんだ。森へお帰り」


 そう告げるとトトが首を振り、スティンクビートルは悔しそうに去っていった。やれやれ、今日も優しい嘘を吐いてしまった。

 トトを捕獲して散歩を続ける。殺風景な所だと思っていたが、歩いてみると中々に景色がいい。どう良いか聞かれたら困るが、とりあえず空が奇麗だ。

 あとは建物や電線がない。いいね異世界。電化製品は無いと困るけど、電線がない景色って新鮮でいい。……表現力無いな俺。


「そういえば、気になっていた事があるんだが、その服は誰が作ってるんだ?」


 トトもウンコを済ませ大人しくなったので、ウィルベルちゃんに前から気になっていた事を聞いてみた。


「ああ、この服ッスか? これは作ったんじゃなくて遺跡の宝箱から出てくるんスよ」


「ほほう、遺跡の宝箱とな。興味深い。詳しく聞かせてくれんか?」


「えっと、成人の儀式で村の近くにある遺跡の宝箱を開けると出てくるんデス。

 服に魔法が掛かってるらしくて成長に合わせてサイズが変わるッス」


「他に何かないか? 遺跡の名前とか、気になった事とか?」


「他の種族の村だとコレと違う服が出てくるらしいデス。何なんスかねあの箱?」


 ウィルベルちゃんはセーラー服を指差しながら小首をかしげる。


「魔道具か何かかもな。挨拶を済ませたら見に行きたいですね先生」


「勿論じゃ。魔族の土地にある日本の服が出てくる宝箱なんて見なきゃ嘘じゃろ」


 話しながら歩いていると急に塔が見えた。近付かないと見えない仕掛けでもあるのだろうか?

 魔術師の塔という言葉の響きで、細い塔をイメージしていたが、プッチンプリンのように横に広く縦に低いどっしりとした建物だった。

 

「ハァーヘェーハァーヘェーハァーヘェーハァーヘェー……」


 とりあえず塔に着いたらトトに水を飲ませよう。体力は上がってるんだから、体温調節上手くなっても罰は当たらない思うんだけどなぁ。

 ちょっとした散歩でも心配になる程息が荒くなるのは頂けない。ま、ハアハア言わなくなっても寂しいがね。

 それからしばらく歩いて塔の入り口に着いた。忍者っぽい姿の子供が座禅を組んでいるのが見える。というかどう見ても寝ている。


「ラーテさん、賢者様をお連れしたんでキングさんに取り次いで下さいッス」


 ウィルベルちゃんが声を掛けるとビクリと震えて飛び起きた。こっちの人は寝起きが良くて羨ましいな。 


「ややや、ウィルベル殿じゃないナリか? あんまり遅いから心配したでござるよ!

 後ろに居るのは賢者様と使用人の方でござるか? 一言詫びさせて欲しいでござる。

 此方の都合で連れ出す事になってごめんなさい。我輩達もこんな事したくないけど、

 背に腹は変えられんのでござるよ……拙者は報告するからコレにて御免ニンニン!」


 先生より更に小さいネズミ獣人の少女は一方的に捲くし立てると塔の中へ消えていった。何その間違ったニンジャ言葉。


挿絵(By みてみん)

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