付呪がチートだった件について。
前回のあらすじ
魔法で気を引こうとして失敗した。
俺の照れ隠しから始まったウィルベルちゃんの訓練。せっかくの機会なので、ハーピーがどんな戦い方をするのか見せてもらったが、あまりに一方的過ぎた。
彼女のとった方法は死角から飛び込んで相手が倒れるまで蹴る。というシンプルなものだが、スパルタンアントは手も足も出ず倒れた。上から攻撃されると弱いんだな。
争いは同レベルの物同士でしか云々という言葉があるが、同レベルなら勝負になるって事なんだよね。レベルが違う者が争うと虐殺が起こるという事が解った。
「なるほど。空を飛べると体格差が有利に働く事もあるんだな。少し羨ましい」
「自分達ハーピーは空を飛んでナンボって所があるんで褒めて貰えると嬉しいッス。
けど、ご主人様も魔法で空を飛べまスよね? 自分達が飛ぶ時は両手が塞がるんで、
魔法で飛べる方がいいなって思うんデスよ。手足が自由な方が良くないスか?」
そういう考え方もあるのか。その辺はハーピーならではの考え方なのかな? 飛んでる時は器用に脚を使うし、手羽根で物を掴む事も出来る。
俺なんて急に足がフリーになっても何に使えば良いのか解らない。せいぜい前蹴りで距離を取るとか、あとはチンパンGみたいな足拍手くらいしか思いつかない。
「そう言われれば魔法が便利かもしれないけど、魔法でスイーッと飛ぶのと、
羽根をバサバサして飛ぶのとでは違うんだよ。鳥の羽ばたきにはロマンがある」
「そういうものかのぅ。それなら背中に飾り羽根でも付けてみればよいではないか」
「背中に飾り羽根か。天使っぽいイメージで俺には間違いなく似合わないな。
あ、すいません先生、ウィルベルの話が興味深かったので脱線しました。
天使が羽根を忙しなく動かしてばっさばっさ飛んだらイメージぶち壊しですよね?
でも、それが魔族ならOKな感じがするのは一体何故なんでしょう?」
「イチローの奴も青肌の美女は何処に居るだのと訳の解らん事を言っておったわ。
元々持っていたイメージに加えて今はウィルベルを見ておるからじゃまいか?
ところで、時間の方は良いのかね?」
「そうだ時間が無いんですよ先生、パパッと魔道具の作り方を教えて下さい」
「んむ。解った。魔道具作りには触媒と付呪台がいるから移動しないといかん。
タロ殿フォロミー……と思ったが、片付けをせんと駄目じゃ。10分待って欲しい」
「あっはい。わかりました待ちます。という訳で、ウィルベル、俺は魔道具を作る。
君はココで蟻との訓練を続けておいてくれ………………そうだ。
先生に魔道具貰っただろ? 預かった菓子パンを出すからしまっておいてくれ。
ついでにこのデカいパンが袋ごと収納できるかも試してみてくれないか?」
そう言ってアイテムボックスから5個入りの小さな菓子パンを幾つかと大きなデニッシュパンを1つ取り出し、ウィルベルちゃんに手渡す。
「覚えててくれたんスね。あざッスご主人様!」
満面の笑みで菓子パンを受け取るウィルベルちゃんだったが、両手の菓子パンを見比べて困惑の表情を浮かべた。
「どうしたんだねウィルベル? 早くしまいたまえ」
「……すいません、両手塞がっちゃうんで、パンを持ってて貰っても良いっスか?」
「スマン、俺の考えが足りなかったようだ」
ちょっとした行き違いはあったが、見た目水筒の魔道具にはパンどころか結構なサイズの動物抱き枕まで入る事が解った。
ウィルベルちゃんがパンを魔道具に詰めるのを眺めたりして時間を潰し、指定された10分後にピンクのドアをくぐる。
ドアの先にあったのは、最初に此処を訪ねた時に通された四方に本棚のある汚部屋だった。
タバサ先生の姿を探すと、最初に訪ねた時は様々な器具に埋もれていた机の側で手招きしている。
「部屋、綺麗になってますね。どうもお手数お掛けしました」
「お、時間ピッタリじゃなタロー殿! 礼など良いから魔道具を作ろうではないか!
こちらは準備万端じゃ。すぐ始められるぞぃ! 早速、作成に掛かろ? な?
何を作るつもりなんじゃね?」
「前にも言いましたけど、みんなと俺の安全の為の防具を作りたいんですよ。
剣も魔法は勿論、状態異常も寄せ付けず、金目の物だと思われない物が良いです。
リボンなんか良いと思うんですけど、そういう物に付呪をする事は可能ですか?」
滅多な事では手放さない物で考えると下着という線もあったのだが、着替えられないのは女性には辛いだろう。男でも気持ち悪いか。
「無論、可能じゃよ。宝石や紙にも付呪は出来る。魔法の巻物とかあるじゃろ?
あれも元々強度が低いから使い捨てにするだけで、魔法で強化する事は可能じゃ。
効率が悪いから誰もやらんがの。タロー殿は別じゃ。魔力が違うからの!」
「なるほど、アクセサリーは有事の際に取り上げられそうなのでリボンにします。
あと1つだけ確認したい事があるんですが、
彼我のレベル差を無視して、相手を即死させるようなスキルは有りますか?」
「そんな物が有れば皆覚えたがるじゃろうな。昔イチローにも聞かれた事があるが、
都合の良い物は無い。あと死者を生き返らせるのも無理じゃ」
無いとは思ったけど実際無くて良かった。そんなチートスキルがあったら成功率低くても使うよな。100人ぐらいで。
「それにしても、何時に無くテンション高いですね先生、一体どうしたんですか?」
「それはアレじゃよ! 魔道具は作成者の力に比例して良い物が出来るのじゃが、
勇者が魔道具を作れば素晴らしい物になる事が約束されておるという事じゃ。
わしは魔道具を作る人で、良い物を見られるから興奮する。わかるじゃろ!」
「そうですね。それで先生、早速魔道具を作りたいのですが、触媒が要るんでしたね。
それは容易に入手出来るものなんですか? お金はあまりないんですが……」
先生は懐から袋を取り出し、その中身を机の上に広げた。
丸く透明なビー玉のような物が机の上に転がる。この机先生に丁度いいサイズだな。
「これは空の魔石じゃ。魔石に『魔力付与』する事で、付呪魔術に必要な触媒となる。
高位の術者が魔力を込めた物は高値で取引されるが、空の物なら入手は容易じゃ。
そんでな、実際に魔力を込めたのがこの2つじゃ。『鑑定』して見比べて欲しい」
先生に言われて魔石を『鑑定』すると、込められた魔力が大きく違う事に気付く。
水色をした方が魔力値4000、黒い方は魔力値43100。水色の10倍以上だ。
「大分違いがあるもんですね。水色が一般向けで、この黒い方が先生ですか?」
「水色のは、わしが魔力を込めた物。黒いのが先代勇者が魔力を込めた魔石じゃよ。
わしの魔石を触媒にして属性防御を付呪した場合、2割減が関の山じゃが、
勇者の魔石を使った場合は無効化出来る。それ程の差が出てしまうのじゃ」
どこかで聞いたような話だな。以前、先生の友人が試したとか……
「では実際にやってみよう。タロー殿。魔石を手に取って魔力を込めるのじゃ
100ポイント分以上はトコロテン式に無駄になるから注意が必要じゃぞ」
「はい解りました。とりあえず人数分作ってみます! 『魔力付与』 」
魔力を込めた後魔石を鑑定すると、6つの魔石全ての魔力値が80900、
MPは丁度600ポイントを消費している。一切無駄の無い洗練された魔力操作。
俺の知識はともかく、意識せずとも魔力を制御出来るようになっている訳か。
職人技みたいでカッコいいな。やる事やったら眠くなってきた。
「ふぁ~あ、なんか眠くなってきました、少し寝ても良いですか先生?」
「寝るなタロー殿。まだ魔道具を作っておらんじゃろ。それはタダの魔力不足じゃ。
今MPポーションを出すから待っておれ」
既にまどろんでいた俺の口に何本ものポーションがねじ込まれゴップゴップと注ぎ込まれる。
するとどうだろう、胃の気持ち悪さと引き換えに靄の掛かっていた目がパッチリと開いた。
「すいません目が覚めました。このポーション高いんじゃないですか?」
「礼はいい。それより魔道具を作ろう。付呪にはMPを使わんから安心するとええ。
まず、この付呪台にリボンと触媒と両手を置き、オープンメニューと唱えるのじゃ
すると、そこの白い部分に効果の一覧と付呪できる回数が現れるんじゃよ。
あとは一覧から好きな物を選んでスタートと唱えるだけじゃ。簡単じゃろ?」
「これも先代勇者、イチローさんの発明品ですか?」
「いんや、わしが生まれる前からある。じゃからそういう物かとしか思わんかったな」
「そうですか。先生が知らないんじゃそういう物なのでしょう。
それじゃ始めます。 『オープンメニュー』 」
うん。付呪の回数は5回か。最初の予定通り、魔法耐性と物理防御、状態異常無効と水中呼吸を入れよう。後1つはHP自動回復だな。よし。『スタート』だ。
「出来上がったようじゃなタロー殿! 早速見せて貰っても良いかね?」
「ええ、勿論ですよ。好きなだけ見て下さい」
先生はリボンを見た途端に、絶句した表情を浮かべて固まった。仕方が無いので自分で鑑定してみると、俺が使うには充分な性能を持っている事が解った。
だが、魔王が襲ってきた場合、先生たちを守れるかというと少々心もとない。他にも何か欲しいな。
【勇者のリボン】
【装飾品】
【守備+40】
【魔防+40】
【状態異常無効】
【水中呼吸】
【HP自動回復】
「嗾けた、わしが言うのもなんじゃが、とんでもない物が出来てしまったのぅ」
人数分のリボンを作り練習場に戻ってくると、ウィルベルちゃんも訓練を終えていた。
牛乳片手にアンパンを咥えて黄昏ている。疲れちゃったのかな?
「あ、ご主人様、お疲れ様デス。魔道具出来たんスか?
自分はアントと目が合うのが気まずかったッス。この訓練のやり方って、
効率は良いと思うんスけど、ヒトとしてこれでいいのかーって考えちゃいました」
2体目以降は延々と蟻の首を踏み砕く作業を続けたせいか、ウィルベルちゃんの目が死んでいた。この子から元気をとったら……
一時的には興奮する。するが、明るい方が好きだ。何とかフォローしないと。
「そうか、頑張ったなウィルベル。彼らは死んでいないから落ち込む必要は無いぞ。
訓練に付き合ってくれた事に感謝すればいいんだ。一緒に感謝の祈りを捧げよう」
「そうなんスか! アントさんのおかげで、強くなれたっス!あざーっした!!」
「お主等の献身のお蔭で今日は良い物が見られた。礼を言うぞスパルタンアントよ」
ウィルベルちゃんと共に蟻達に感謝の祈りをを捧げ、自分のレベルを確認する。
勇者が38、5つのサブ職が各30で150、総合レベルは188になっていた。
魔王のレベルは180なので、これで何時襲われても問題ないという訳だな。
「先生、貴重な本を有難うございます。お蔭で魔王を上回る力を得る事が出来ました。
今の俺の力なら、いつ襲撃されても大丈夫です。任せておいて下さい」
訓練前でも撃退出来たとは思うが、うっかり倒してまた来世では話にならない。
先代は召喚直後、俺は召喚前を狙われた訳で、次は召喚の阻止に成功するだろう。
と言うか、ウィルベルちゃんが先生を捕獲した事を考えると、次があれば終わる。
そうさせない為にも俺が決着を付ける。まだ復活してないのに心配し過ぎか。
とりあえず皆にリボンを配ろう。




