職場訪問の準備
前回のあらすじ
急に敵が来たのでお土産渡して、お引き取り頂いた。
改めてアルテア嬢が転移したのを確認し、ホッと胸を撫で下ろす。
俺、相手が話し出すと口を挟めないタイプだし、みんなが居てくれて助かったわ。
しかし、こちらに来て2日の間に、仲間が2人増え、四天王2人を撃破か。
エンカウント率高過ぎる。まあいいや、とにかくみんなを労わないと。
「リリーさんお疲れ様です。ウィルベルも良くやってくれた。2人ともありがとう」
「過分なお言葉ありがとうございます。お役に立てて光栄ですタロー様」
「食べ物の話しかしなかった気がするんスけど、そう言われると嬉しいッス」
「みんなが居てくれたから落ち着いて話せたよ。ありがとう」
「タロー殿、わしは? わしはスルーなのか?」
「タバサ先生がMVPですよ! 急な来客に見事な対応、某、感服しました!
敵に塩を送るというのは容易い事ではありません。流石はタバサ先生懐が深い。
深いところでその、魔道具の作り方と、小麦粉の出し方を教えて貰えませんか?」
実際そう思っていたのだが、考えているだけじゃ伝わらない事もあるんだな。
感謝の気持ちを態度で示す為に、バレーボールのレシーブのような姿勢で揉み手をしつつ、惜しみない賞賛を送った。
「そ、そうかね? 取り乱してすまぬ。前にも言ったが知っとる事はなんでも教える。
特に魔道具は重要じゃから嫌だと言っても教えるし、その為の準備も万全じゃよ」
「そうなんですか! ありがとうございます。流石先生は頼れるなあ」
「うむ。もっと敬うがええ。ただのう、食べ物を魔法で作り出す事は出来ん。
さっき蜘蛛娘に渡したのは備蓄での。そこから5トン分を出しただけなのじゃ」
そう言って先生が取り出したのは怪しくない白い粉。いわゆる小麦粉だ。
魔法で食べ物が出せないのは残念だが、先生が無理だと言うなら無理なんだろう。
もし魔力と引き換えに食べ物を出せるなら、魔族は飢えてない筈だもんな。
「白い小麦粉を5トンもっスか……タバサさんホントに太っ腹デスね。
それだけあればコパンキムラの住人全員が食べても10日は困らないッスよ」
「ウィルベルさんは計算が出来るのですね。幹部としての教育を受けたのですか?」
「そんな良い物じゃ無いッス。自分運び屋なんで仕事で荷物を運ぶじゃないスか。
背負って飛べる重さに限りがあるから、荷物の重さを勘定しないと駄目なんス。
仕事で勝手に身に付く物だし、美味しい物を作れるリリーさんの方が凄いデスよ。
自分等ハーピーは手足がこうなんで、手先が器用な人が羨ましいッス」
「人は自分に無い物を求めるというが、わしももう少し背が欲しい。まあなんじゃ?
リリー嬢ちゃんが来てから飯が美味いし、部屋も綺麗になった。有難い事じゃよ」
リリーさんは空を飛びたい。ウィルベルちゃんは不器用な手先がコンプになってて、先生は背が欲しいか。魔道具でなんとか出来るかも知れないし覚えておこう。
「あっ! 申し訳ありません。私お夕食の支度の途中だったのを忘れてました。
そろそろお仕事に戻らせていただきます。何かありましたらお声掛け下さい」
「そうでしたね。こちらこそ邪魔しちゃってすいません。今4時位でしたっけ?
これから修行して魔王軍の拠点で辞表出すから、そうだな、8時には戻ります」
「かしこまりしました。お料理を用意してお待ちしております」
「リリーさんお疲れッス。あのぅ……さっきのお茶、余った分を貰えませんデスか?
せっかく貰ったのに入れる物が無かったんスよコレ」
ウィルベルちゃんは先生に貰った収納の魔道具を取り出しリリーさんに見せた。
やっぱり便利アイテム手に入れたら使いたくなるよね。
「はいどうぞ。熱いので気を付けて下さい。お砂糖ここに置いておきますね」
「リリーさんあざっス。ありがたくいただきますデス」
ウィルベルちゃんは大きなティーポットを受け取り、蓋を外すと結構な量の砂糖を入れて撹拌し魔道具に注いだ。
と思ったらカップにジンジャーチャイを出した。入れたのを出せるか確認したのか。
確認作業を終えたウィルベルちゃんから空のポットを受け取り、リリーさんは厨房へ歩いて行った。
毎回頭まで覆う作業着を着るんじゃ大変だ。あの服にエアコン効果の付与とか出来ないだろうか?
「ふんじゃタロー殿、お茶も飲ん事だし、本題に入ろうではないか。
ウィルベル、お主が届けに来た荷物を出してくれんか?」
「了解ッス、タバサさん。今持ってくるから1分待って欲しいッス!」
飲みかけのカップをテーブルに置くとウィルベルちゃんは寝室行きのドアの方へ飛んで行った。
「別にそんなに急がないでいいよ……聞こえてないみたいだな。
空を自由に、か。タバサもん、空を飛べる魔法を御存じありませんか?」
「おっ、懐かしい響きじゃの。確か女性に対する最上級の敬称じゃと言っておった。
空を飛ぶなら風魔法で飛べるじゃろ。イチローが開発したのと普通のがある。
わし等では魔力を使い過ぎて自由にとはいかんが、タロー殿なら問題無かろう」
そうこうしている内にウィルベルちゃんが戻ってきた。
「お待たせしましたッス。これがタバサさん宛の荷物ッスね。
依頼人はアビシニア商人ギルドの、キムリック・ホッパーフィールドさんデス。
問題が無ければココにサインをお願いするッス」
「大丈夫じゃな、問題ない。今度は奴隷にされたりせんじゃろうな?」
「勘弁してくださいッス。タバサさん」
「ほれタロー殿、わしの伝手を頼って手に入れた奴隷商の免許じゃ。
勇者のお主がこれを持てば、どこへでも奴隷を連れ歩けるじゃろう。
無くさないようにアイテムボックスにしまっておくのじゃぞ」
おお? 羊皮紙の巻物だ。ファンタジー感あるな。現実にある物だけど。
先代さんは食べ物は無茶苦茶したけど、こういう所を弄らないから好感が持てる。
「先生ありがとうございます。これで謁見にウィルベルを連れて行けます」
「グリンオークの王宮ッスか? あんまり行きたく無いッスけど命令なら従うデス」
「うむ。それと、これは付呪師と賢者について纏めたわしの著書じゃ。
賢者はあらゆる魔法を使う事が出来る魔法職の頂点じゃな。今の所わししかおらん」
「自画自賛ッスか? タバサ先生?」
「違うわ! 付呪師は装備や装飾品に魔法の力を込める事が出来る職業なのじゃ。
付呪できるのは術者が使える魔法に限られ、効果はレベルと魔力に応じて決まる。
つまり、付呪師と賢者をマスターしたタロー殿が付呪をすれば多彩な効果を持った、
強力な装備が出来るという訳じゃ。危険じゃから身内以外には渡さんでくれ」
最初からパワーバランスを崩すような事をする気はないし何も問題は無い。
「なるほど。解りました。武器商人になる気は無いので安心してください。
それで、あらゆる魔法という事はステータスの隠蔽も可能になる訳ですね?」
「そうして貰えると助かる、ありがとうタロー殿。
ステータス隠蔽についてはそういう事じゃ。魔法が1枠で全て使えるが内密にな。
さ、本に目を通したら修行開始じゃ。ウィルベルも付いて来るのじゃぞ!」
そういう訳で3人でトレーニング場へやって来たが、相変わらず殺風景な所だ。
どこもかしこも真っ黒で蛍光色のラインで等間隔に区切られている。
距離は掴みやすいが、どうにも落ち着かない。トレーニング中落ち着いても困るか。
「なんだか暗くて落ち着かない部屋っスね、ご主人様。
もっとこう明るい色合いの方が気分良く訓練出来るんじゃないデスか?」
「そうじゃな。色合いには特に意味が無いと言っていたし、変えてみようかのう。
ところでタロー殿、賢者と付呪師については理解出来たのかね?」
「ええ、今必要な所には目を通しました。魔法耐性と物理防御、状態異常無効と、
あとは水中呼吸があれば充分かなと思います。本はしばらく貸しといて下さい。
しかし、滅茶苦茶便利ですよね付呪師って。人気の職業なんじゃないですか?」
「それがそうでもないのじゃ。これはわしの友人の話なんじゃがの。
魔力40レベル30の付呪師が状態異常無効の魔道具を作ったのじゃが、
20%の確率で状態異常を防げる程度の微妙な物しか出来んかったそうじゃ」
それは……微妙だなぁ。保険の癖に安心感が皆無だ。
それを選ぶなら確実に効果がある防御力を上げた方がよさそうだ。
「レベル30でもそれだけなんスか、都合の良い話は無いって事なんスかね」
「……じゃあ時間も無い事だし、蟻を呼びます。召喚300」
俺の召喚に応え、漆黒の闇の中に金色に輝く蟻の大群が音も無く現れる。
彼らにはレベル上げで大変お世話になっているが、中型トラック程もある
巨大な蟻がひしめく姿はあまり気持ちの良いものではないな。
「凄い数のスパルタンアントっすね、ご主人様! 自分お手伝いした方が良いスか?」
「いや、俺一人で十分だ。ウィルベルの分は後でまた後で呼ぶ。
俺の後ろに下がっていてくれ。範囲魔法に巻き込んでしまうかもしれない」
「了解ッスご主人様。伝説の勇者の戦い方、見学させて貰いますデス」
後ろの方から尊敬のまなざしを感じる。ここは良い所を見せたい。
手加減スキルがあるから巻き込んでも全く問題は無い事は内緒にしておこう。
「バンザボレザ アリンタギエキバ グワッガン!」
特に意味ない言葉を呟きながら両手に雷を溜め、かめはめ波的なタメを作り、それを解き放つタイミングを待つ。
「サンダー!」
俺の両手から放たれたイカズチの束がスパルタンアントの群れに襲い掛かる。
蟻は光の中に消え去り勇者タローはレベルがあがった。
どうよ! ウィルベルちゃんも俺の強さに思わず梨汁ブシャーって感じに違いない。
「唸ってた所は見えたんデスけど、急に光って最後はよく解らなかったッス」
「見るたびに思うが勇者の魔法というのは出鱈目な威力じゃな。
ところでタロー殿、最初に動きをしながら呟いていたのは何じゃったんじゃ?」
「なんでもないから忘れて下さい。さあウィルベル、次は君の番だ召喚300」
「えっ、ちょッ自分スか? ちょっと待って下さい。まだ心の準備が……」
「ウィルベル、心の準備など必要ないのじゃ。蟻の首を刎ねるだけの簡単な作業じゃよ」
それから1時間後、ウィルベルちゃんのレベルは上限に達した。
【ヤマダ・タロウ】【種族:人間】
【勇者LV:038】307000
【HP:822/822】
【MP:808/808】
【SP:812/812】
【力 :819】【技 :811】
【知力:008】【魔力:809】
【速さ:810】【幸運:807】
【守備:811】【魔防:807】
【付呪師 LV:30/30】
【美味しい牛乳魔法 LV:30/30】
【転移魔法 LV:30/30】
【錬金術 LV:30/30】
【賢者 LV:30/30】
【スキル1:経験×30】
【スキル2:鑑定 】
【スキル3:奴隷商人 】
【スキル4:神聖魔法 】
【スキル5:召喚魔法 】
【ウィルベル】【タローの奴隷】
【種族:ハイハーピーLV:30】
【職業:奴隷商人LV:20】
【HP:68/68】
【MP:38/38】
【SP:56/56】
【力 :44】【技 :46】
【知力: 3】【魔力:34】
【速さ:52】【幸運:60】
【守備:41】【魔防:38】
【スキル1:回避 】
【スキル2: 】
【スキル3: 】
【スキル4: 】
【スキル5: 】




