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普通の異世界料理◆

 前回のあらすじ

 アンパンマンは俺さ。 

 汚いアンパンマンこと、勇者山田太郎(仮)です。

 任務に失敗し、目が覚めたら奴隷にされていた。

 という状況を把握して泣き出したウィルベルちゃんを慰めようと咄嗟に菓子パンを与えたが、今度は土下座されてしまって困惑している。

 どうしよう。奴隷と主人という立場で人に接するのは初めてだし、こんな時どう声を掛ければ良いのか解らない。

 ウィルベルちゃんは、まがりなりにも魔王軍の幹部。奴隷の立場から開放してしまえば、不味い事になるのだけは解る。

 ……考えて解らなければ、自分のしたいようにすればいい。とりあえず土下座を止めて貰おう。

 

「……ウィルベル、君の忠誠は受け取った。ところで頭を上げてくれないか?

 話す時は相手の顔を見ていたいのでね」


 誰だよ俺。何でハードル上げてるんだよ。相手がこちらに注目していない時でも、キョドってしまうと言うのに。

 大体、ぼっちがスラスラカッコいい台詞吐ける訳無いじゃないか。


「寛大なお言葉ありがとうございまス。自分、身も心もご主人に捧げる覚悟は出来てるっス。

 だけど1つだけ、家族への仕送りだけは続けさせて欲しいんデス。」


「う~ん、仕送りか……」


 彼女の今後の待遇をどうするべきか考えて込んでいると、返事を渋っているように思われたのか


「会って早々だし、厚かましいお願いなのは解ってるんスけど、なんとかお願いしまス。

 おかあさん怪我で働けなくて、働いてるの自分だけなんで、それが止まっちゃったら…………

 一応、魔王軍で幹部だったんでお役に立てると思います。何でもしまスから、お願いじまず!!」


 ああ、また泣きそうな顔してる。

 女の子の泣き顔は大好物だと思ってたけど、2次元限定だったんだな。

 自分で泣かすのは凄く嫌だわ。仕送り自体は問題ないし、なんなら日本から持ち込んだ食料を提供しても良いが、

 どうやって届けるかが問題だよな。行方不明のウィルベルちゃんが、見た事もないみやげを持って帰ったらおかしい。

 どうするのが良いんだろう?

 

「タロー殿、こんな所で立ち話もなんじゃし、腹が減っては良いアイデアも出んじゃろう。

 そろそろお昼になる。リリー嬢ちゃん達と合流して食事にしてはどうじゃな?」


 下手の考え休むに似たりって言うしね。飯を食ったり、トトを見れば余裕が出るかもしれない。

 難しい問題は皆で考えた方が良いだろう。先生も良い事言うな。


「そうですね先生。そうしましょう。それからウィルベル、君の家族を思う気持ちは解った。

 決して悪いようにはしないから、この俺に任せておいてくれ!」


「あ、ありがとうございます! ご主人、じゃなくて、ご主人様。

 自分、頑張ってお役に立ちますから、何でも言って下さい!」


 今なら夜のお世話頼んでも頑張ってくれそうだけど、人としてやっちゃ駄目だよな。


「何、気にするような事じゃない。これからの事は食堂で話そう。着いてきたまえ」


「ハイ! 了解しましたッス。何処までも着いていくデスよご主人様!」


 本当に誰だよ俺。早めに軌道修正しないと不味い事になるぞ。

 先生こっち見てニヤニヤしてるし。素を出していくと言って幾らも経ってないのに、

 変なキャラ作って恥ずかしいわ。イヤ、待てよ? 


 これから公式の場で、勇者として振舞う事が多くなるのだから、

 ある程度は外面も取り繕わないと、舐められる場合も出てくるんじゃないか?

 ……よし、この大物ぶったキャラは継続で親しくなったら素を出す感じで行こう。

 ちなみに、ウィルベルちゃんが胸元に詰めていたパンはこちらで回収させて貰った。

 食中毒が心配だし、後で新しい物を渡すという事で納得してもらった。

 回収したパンは俺のアイテムボックスに収納してある。後でこっそり食べよう。


 移動した俺達が見たのは、普段とは全く違うリリーさんの姿だった。

 アレは確か、サンライズパースとか勇者立ちとか言われる、勇者にのみ許されたポーズだな。 


「この私が居る限り、ここから先へは一歩も通さないわッ! もう誰一人殺させはしない!」

挿絵(By みてみん)

 街? ここは先生の自宅兼勇者の修行場で、俺達の他には誰も居ない筈だよね? 

 念の為に念話で先生に確認したが、先生は手を左右に振って否定した。

 ですよねー。リリーさんはヒーローごっこに興じている訳ですね。

 

 「ここを通りたければ、私を倒して行きなさいッ!!」


 芝居掛かった大げさな動きで巨大なチェーンソードを振り上げるリリーさん。

 空気を読んで、緩慢な動作で襲い掛かるスパルタンアント。

 付き合い良いな。これが3文芝居というものか。


「リリー嬢ちゃんノリノリじゃのう。オークの国に1人で居たから、ストレスが溜まっておったのかも知れんニャ」


「何か凄い無駄が多い動きッスね? アレにはどういう意味があるんデスか、ご主人様?」


 俺に聞かれても解らない。犬系だから遊びが大好きとかそんなんじゃないの?

 微妙な表情で見つめる俺達に気付かず、勝利の舞を舞うリリーさん。


「タバサさん、今の踊りはなんだったんスか?」


 最後のスパルタンアントが、リリーさん渾身の唐竹割りで

 今のは見なかった事にして、少し時間を置いてから合流しよう。

 ウィルベルちゃんに、こちらから声を掛けないように伝え、この場を離れる。

 これが武士の情けというものだ。 


「見たか! 一族に受け継がれてきた宝刀と、我が剣技の冴えを!――――あ!」

 

 残念。眼が合ってしまった。

 こうなっては仕方ない。今来た風を装って誤魔化すしかない。


「やあリリーさん、おかげ様でこっちの訓練も一区切り付きました。そろそろお昼にしませんか?」


「わしもお腹がペコペコじゃよ。リリー嬢ちゃん、飯にしてくれんか?」



「それでは私は、食事の支度をいたしますので失礼いたします」


 そそくさと後始末をすると、伝家の宝刀をタバサ先生に返したリリーさんは足早に立ち去ろうとした。

 良かった。一人遊びを見られて恥ずかしがるメイドさんは居なかったんだ。

 心なしか、リリーさんがプルプル震えていたような気もするが、些細な事だ。


「メイドさん、今の踊りは何デスか?」


 うん。それは気になるよねってオイ!!

 (リリーさんの遊びには触れないようにしようっていったじゃないか!!)


「……それは秘密です……」


「あ、そういう意味だったんスね……ご主人様ごめんなさい!」


 しまった。ウィルベルちゃんには何も説明してなかったのに、焦って念話で話しかけてしまった。

 彼女は何も悪くない俺がアホなだけだ。


「いや、リリーさん気にしないで下さい。こちらに来る前、彼女にタバサ先生が舞った踊りの事を聞かれたんですが、

 俺も不勉強だったので答えに窮してしまいましてね。先程先生に教わったので念話で伝えたんですよ」

 

 我ながらかなり苦しい良い訳だな、なんとかして下さい先生。

 (ウィルベル、聞こえるか? この件についてはもう喋らなくていい。理解したら2度頷いて、ウインクしろ)

 念話で指示を出すと、ウィルベルちゃんは緊張した顔で2度頷き、ぎこちなくウインクした。かわいい。


「そうじゃったな。タロー殿、先程も話したようがアレは顕邪の舞といってな……

 ……話せば長くなるから、とりあえず食事にしようではないか!」


「タロー様、トトさんは迎えに行かなくても良いのですか?」


「トトは1日2食なんで、食べている所を見せない方が良いんですよ。

 俺は一声掛けてから行くんで、先に行って用意していて貰えます?」





 ドッグランにトトの様子を見に来たが、最初と較べても蟻の数は減っていない。

 ……気がする。鑑定にかけてみた所、トトのレベルはしっかりと上がっていた。

 

【トト】【種族:犬】

【勇者LV:048】 

【HP:100/100】

【MP:104/104】

【SP:107/107】

【力 :098】【技 :100】

【知力:003】【魔力:094】

【速さ:107】【幸運:103】

【守備:097】【魔防:096】

【スキル1:自宅警備】

【スキル2:経験×30】

【スキル3:      】

【スキル4:      】

【スキル5:      】


「トトも頑張ったみたいだな! どうやって相手を倒さずにレベルを上げたんだ?」


「ハッハッハッハッ ハッハッハッハッ へプシッ!」


 なるほど、サッパリ解らんが、見た感じ蟻も五体満足なので平和的にレベルを上げる方法があるのだろう。


「よく解らんが頑張ったな。ご褒美にガムをあげよう、しかも2本だ!」


 いつもの調子で新しい水と犬ガムを取り出し、トトに与える。

 別々の方向に投げた犬ガムは、地面に落ちる前に食べられてしまった。

 ん? 加減が出来てないんじゃないかコレ? 

 まあいい、とりあえず昼飯だ。和やかムードで聞き取り調査と行こうか。

 




 タバサ先生が開けて置いてくれたピンクドアを通って食堂に着くと、既に食事の支度が済んでいた。

 

「連日の訓練お疲れ様ですタロー様、タバサ様に勇者の国からいらしたばかりなら、

 今までお出しした料理は食べ飽きているのではないかとご指摘いただきましたので、

 お昼はこちらの料理をご用意いたしました。お口に合うと良いのですが……」

 

 言われて料理を見る。見た目はごろごろとした肉や野菜の入ったシチューだ。

 それに焼きたての丸パンと、ワインのような物。それにサラダ。 

 かなり普通だ。まあ、下手に異世界感にやる気を出されて、

 訳の解らない怪物の丸焼きなんかが出て来るより、遥かにマシだな。


「いや、そんな事はありませんよ。牛丼もカレーも美味しかったですし、

 味覚にもそれ程違いは無いでしょう。冷めない内に頂きましょう!」 


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