謎の襲撃者
前回までのあらすじ
勇者認定された主人公が犬に舐められてフィギュアとPCが爆発四散
……ハッ!? いかん少し放心していたようだな……
まさか天井ギリギリの高さに宝箱が現れるとはな、流石に予想外だった。
早速異世界とのレベル差を見せ付けられた訳だが、今はそんな事はどうでもいい。
まずはケースの残骸が散らばっているこの部屋から、トトを出さなくてはなるまい
「来いよトト! SHINOBIなんか捨てて、こっちへ来い!!」
「ハッハッハッハッフッヘッハッハッハッハッフッヘッハッハッハッハッ」
う~ん……とりあえず呼んで見たものの、興奮してて駄目だな。
トトはおっぱい忍者のソフビを銜えて元気に走り回っている。
怪我をされても困るのでソフビを取り返すべく行動を開始。
歯磨きガムをチラつかせると、ソフビをアッサリ捨てて軍門に降った。
フライング気味に繰り出される自主的なお手がアホかわいい。
オレは廊下に歯磨きガムをシュートして素早く扉を閉めた。
唾液に塗れたウンジャクちゃんの太ももが眩しい。後で洗おう
これで愛犬の危機は去った。ボストンテリアは散歩に夢中になって、
目を切ったりする事があるし、用心するに越した事は無い。
さて、気を取り直して掃除を始めようじゃないか。
目標があると掃除も楽しいなあ。
ザッと机の周りを片付けて、スペースを作る。
空いたスペースに箱を2つ置き、ゴミとそれ以外に分ける。
壊れたPCはゲーム用だし、別に悔しくない。これはゴミだ。
割れたプラスチックは、プラスチックゴミで良いんだっけ?
ゴミ袋にまとめて、廊下に出した。
え? 片付いてない? ゴミを捨てるという決断をしたんです。
物を捨てる行為には、決断力が要る物なんですよ。
さて、宝箱の中に、アイテムボックスを使う為のアイテムがある筈だ。
箱を開けてみよう!
オレは宝箱の鍵穴に耳かきを差し込み、慎重に回した。
すると、嫌な音を立てて耳かきは折れてしまった……
焦った俺は、折れた耳かきを取り出そうと宝箱の上部に手を添えて持上げてようと試みた。すると、何事も無く蓋が開いた。
ふぅ、鍵が掛かっていなかったのは、不幸中の幸いだったな。
宝箱の中身はというと……
金貨の入った巾着袋が10袋。
毒々しい色をした特大サイズのポーション?が3本。
魔法陣が描かれた敷物が1枚
ペラ紙1枚の説明書。
こんな重い物と一緒に落ちて、よくポーションが無事だったな。
魔法か何かで保護されてるのか?
もし付与魔法があるなら夢が拡がる。絶対に習得したい。
そんな事を考えつつ、金貨の袋を一つ取り出し、中身の半分を机の上に撒いた。
その傍らに口の空いた袋を置く。
うん。
実にファンタジーっぽい絵だ。机にナイフとか刺さってると完璧だな。
残念ながら家には万能包丁しかないが。
そういえば金貨って、おいくら位するものなのかしら?
ふと、気になって検索してみる。
なんだグラム4000円か。
それだけ見ると高い気もしないな。
松坂牛の方が高いじゃん
……いや、待て。肉をグラム幾らという時は100g単位だろう。
純金の相場が1g4000円という事は100gだと40万円……
そこまで考えて背筋に冷たい物が走り、オレは慌てて立ち上がった。
窓にはレースのカーテンしか掛かっておらず真ん中が少し開いている!
マズイッマズイッマズイッ!!
大量の金貨を見られたら強盗に惨殺されてしまうッ!
慌てて窓際に駆け寄り窓にカギを掛け、しっかりとカーテンを閉じた。
まだPCデスク奥の出窓が開いているのに気付きくと小走りで近づく!
「ぐわああああぁぁぁぁ――――――!?」
突然、足の裏に鋭い痛みが走った。
まさか、窓から狙撃されたのか?
PCデスクの奥を睨み付けた俺は、頭を低くして窓に近づいた。
「貴様らの思うようにはさせんぞ――!!」
盾役が味方を庇うようなイメージで、転がるように窓の端に取りつくと、
赤樫六角木刀(カシナートの大剣)を使って、敵の死角からカーテンを閉じる。
「ふぅ……」
一息ついた所で、状況を整理する。
土曜の夜、勇者と認定された時点で監視が付いていたのではないか?
オレが知らないだけで、異世界転移や転生は頻繁に起こっているのかも知れん。
襲撃者の正体について考え始めた所で、破壊されたフィギュアの台座が目に入った。
なんだ、プラスチックの破片を踏んだだけだったのか。
襲撃者の正体も解り、ひとまず落ち着いたが、念の為、家の中の窓全てを施錠してカーテンを閉めた。
「なるほど、この敷物は召喚時と帰還する時に、被召喚者の正確な位置を知る為に必要なのか」
何事も無かったかのように、オレは検品作業を再開した。
呼ばれる時に大理石か何かの床に叩き付けられたら、そこで死ぬかもしれんしな。
夢の話だと勇者も最初から強い訳じゃなさそうだし、配慮して貰えるのは有難い事だ。
グリンオーク王国の人達はいい人そうな雰囲気がして好感がもてるよな!
支度金の金貨といい、これといい、相当気を使ってくれているのが解る。
見ず知らずのオレを、これだけ評価してくれる王国の人たちの為にも頑張らないとな!
よしッ! テンション戻ってきた。
いよいよ本題のアイテムボックスだな。
なになに?
未来の勇者へ
君がこの手紙を読んでいるという事は、既に私はこの世にいないのだろう。
私が誰だか解らない? 君より前に召喚された勇者だよ。
王国の危機に力を貸してくれる勇者の為に、素敵なプレゼントを用意したから是非活用して欲しい。
物はファンタジーではお馴染みのアイテムボックスだ。
コイツは収納とイメージして手で触れるだけで、生き物以外ならどんなものでもストックしておく事が出来る優れものだ。
どういう原理なのかは俺も解らないが収納した物は劣化しない。
ただ、入れた物を出す時メニュー画面なんて物は、出てこないから目録を作っておくといい。
かなり便利だが、習得が大変なんだぜ?
俺は、召喚される前から持っていればと、何度も悔しい思いをした。
俺の国を守ってくれるんだ。君には先渡ししてやるから感謝してくれて構わない。
宝箱の中に、毒々しい色の2リットルサイズのポーション瓶が3本あるだろう?
ソイツを3度の食事の後に1瓶ずつ飲むんだ。
しっかりとした食事をして、食後30分以内に飲みきるんだぞ!
食事抜いたり、時間内に飲めないと折角のポーションが無駄になるからな。
実はコップ1杯程度の量にも出来たんだけどな。さっきも言ったように俺はかなり苦労したんだよ。
苦くて粘性のあるクッサイ薬草汁でのばしておいた。体には良いから安心しろ。
お前も俺の苦労の1/100くらいは味わうと良いと思うよ。じゃあのwww
勇者王ストーム・イチロー
P.S.軽い気持ちで偽名を使うと後で困るぞ
なんだコイツ……
でも、こんな馬鹿っぽい奴が王様をやれる世界なら、オレでも大丈夫そうだ。安心したぜ。
それにしても、3食喰って食後に2リットルの青汁を飲めって……今日が休みで良かった。
さて、朝食前に散歩と行くか。
廊下に出ると同時に、トトが駆け寄ってくる
「行くぞトト! 散歩の用意だ!」
「アンッ アンッ」
相変わらず打てば響くような反応が心地良い。
阿吽の呼吸と言う奴か。
「ビニール袋 よしッ トイレットペーパー よしッ
ペットボトル よしッ シャベル よしッ おやつ よしッ
愛犬 『ワンッ』 全部よしッ」
この後めちゃくちゃ普通に散歩した。
すいません内弁慶なんですよ。