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勇者というのは気を使うお仕事です。◆

 前回までのあらすじ

 急にモンスター娘が来たので、奴隷を持つ事になった。


俺は今、タバサ先生と一緒に、だだっ広くて殺風景な空間にいる。

 あと、奴隷になったばかりのウィルベルは、目の届く所で寝かせている。


 先代勇者の監修で作られたというこの部屋は、天井、壁、床が黒一色に染め上げられている。

 床は青い光のラインで碁盤の目のように区切られ、壁にも緑色のマス目があり、それが天井まで伸びている。

 う~ん、マ○カプのトレーニングモードか何かかな? 

 

 先代の勇者ストーム・イチローは、仲間のピンチに覚えたての魔法を使い、山を1つ吹き飛ばしてしまったそうだ。

 仲間達が勇者を責める事は無かったが、それ程打ち解けていた訳でも無いので、腫物に障るような反応しか出来なかったらしい。 

 

 手加減スキルは、あくまで敵対する他者を殺さない為のスキルであり、地形や無機物に対しては効果が薄い。

 それなので、魔法やスキルの攻撃範囲を正しく把握しておかないと、援護のつもりでマグマ溜まりを作ったり、籠城戦で城壁を崩したり、といった逆アシストになる事があるらしい。

 幸い、魔法は融通が利くので、自ら定めた範囲だけを攻撃したり、威力を調整する事も自由自在の模様。

 つまり、先代勇者は、周囲の安全の為に、自ら定めた魔法の効果範囲を頭に叩き込む目的で、この部屋を作ったという事だ。

 持つべき物は先人の知恵ですね。トレーニングルームも有効に使わせて貰ってます。勇者王さん、ありがとう。


 そういう訳で俺はレベル上げを兼ねて、使い易い効果範囲を掴む為の実験をしている訳です。

 効果実験のお相手は、やっぱりスパルタンアント。30体が俺を囲むように待機している。

 今回は、少し実戦を意識して動いて貰う事にした。ランダムに突進してくる軍隊蟻(スパルタンアント)を、味方に見立てたゴーレムを壊さないように倒す。というものだ。


 色々試してみたが、ドーナツ型、三日月型、直線型が使い易い。

 ちなみに、SLGによくある円範囲や扇型、十字型の範囲攻撃は、味方を巻き込みまくって使い辛かった。

 周りを気にせず、大技ぶっぱでクリア出来るのはゲームだけなんだな。

 被害を出さないよう気を付けないといけない。割と面倒くさいな、勇者って。


 ドーナツ型は、味方が囲まれて多勢に無勢といった場合に使えそうだ。

 味方を俺の周りに集合させて、ノコノコ追ってきた敵をドーナツ魔法で一網打尽! 

 お世話になる機会が結構ありそうだ。ただ、実際に叫んで様になる単語が出てこない。

 真ん中が安全地帯だし台風みたいな物か。○○タイフーン、なんか気が抜ける。

 多分フーンが悪い。ハリケーンも重みがないというか、声のトーンや語尾が上がる気がする。


 ストームが良いんじゃないか? ファイヤーストーム、アイスストーム、サンダーストーム、うん。なんか良さそうな感じだ。語感も力強いし。


 三日月型は、遮蔽物というか味方の後ろの敵を攻撃するのに使える。

 ショーテルなんかと同じ使い方だな。三日月か、クレセントムーン何とか、駄目だ。

 良いネーミングが思い浮かばない。ムーンとか女児向けだろう。

 

 直線型は一番使い易そうだ。相手を放り投げて、斜め上方向にビームとか燃える。

 今の筋力だと無理っぽいが、この系統の魔法の呼び名は、ビーム、ブラスターで悩んだが、力強さと汎用性の高さからブラスターに決定した。必殺技っぽいしな!

 

 必殺技っぽく叫ぶ練習をしながら、最後に残ったスパルタンアントを、ドーナツ魔法で片付けた時には、属性魔法のレベルが最大値に達していた。 

 

【ヤマダ・タロウ】【種族:人間】

【勇者LV:023】

【HP:452/452】

【MP:438/438】

【SP:442/442】

【力 :449】【技 :441】

【知力:008】【魔力:439】

【速さ:440】【幸運:437】

【守備:441】【魔防:437】

【地魔法 LV:20/20】

【水魔法 LV:20/20】

【火魔法 LV:20/20】

【風魔法 LV:20/20】

【光魔法 LV:20/20】

【スキル1:経験×30】

【スキル2:鑑定    】

【スキル3:奴隷商人 】

【スキル4:神聖魔法 】

【スキル5:召喚魔法 】

 

 今の俺のレベルはこんな感じだ。イージーモードだと思っていたが、思いの他レベルが上がらない。

 勇者レベルは、属性魔法を20まで上げるだけの経験値で、たった2レベルしか上がってない。 

 ウィルベルちゃんの情報によると、魔王のレベルは180、奴隷にするには勇者レベル31+上級職5つが必要だ。

 能力的には上回っているかも知れないが、魔王を待たせてレベル上げというのは、現実では通用しない。

 何でもいいから上級職5つと、軍隊蟻(スパルタンアント)より効率の良い練習相手が欲しい。


「タバサ先生、お休みの所、申し訳無いんですが、ちょっと相談に乗って貰っても良いですか?」


「ふぁ~……なんじゃね? タロー殿、何ぞ解らない事でもあったかね?」


 タバサ先生は眠たそうな顔で、手で顔を擦りながら返事を返してきた。


「セットしてあった属性魔法のレベル上げは終わったんすが、スキルが微妙な感じなんですけど、こういうものなんですか?」


 地魔法、防御+2、地耐性50、地魔法M(マスター)

 水魔法、魔防+2、水耐性50、水魔法M(マスター)

 火魔法、力+2、火耐性50、火魔法M(マスター)

 風魔法、早さ+2、風耐性50、風魔法M(マスター)

 光魔法、技+2、光耐性50、光魔法M(マスター)


「そう思うじゃろ? ところが属性魔法は人気があるのじゃよ。その職業に就いていれば、スキルをセットせんでも効果が出るという事は前に話した筈じゃな?」


 やっべえ全然記憶にない。考え方が変わるのはイヤだし、知力は上がらなくていい、とか言ったけど、記憶力は底上げして欲しいわ。

 ……並みの痴呆老人でも大変なのに、今の俺がボケたら確実にとんでもない事になる。 

 こっちに来たばかりの素の状態の時で、力13、握力64kgだった。

 数字通りに筋力が伸びているとすると、握力が2トンくらいになってるんだよな。

 剣も魔法も使えて、移動系の魔法も習得しているボケた勇者って、最悪なんじゃないかな? 

 ……ボケる歳でもないのに、そんな事を考えても仕方ない。忘れよう。


「……そうでしたっけ? あはは……」


 


「そうなんじゃよ。その職業に就いている時に耐性スキルを付けるとな、50+50で100ポイントの属性ダメージを無効化出来るのじゃよ!」


「へー、50%減じゃないんですか。50+50で、その属性には無敵になるのかと思いましたよ」


「一部の例外を除いて、その属性の攻撃が無効化されるのも同然じゃ。質問はそれだけかの?」


「聞きたい事は3つあります。スパルタンアントが大き過ぎて、混戦状態を想定した訓練には使い辛いんですよ。

 それで、気兼ねなく倒せて、経験値が多い、人間サイズの召喚獣が居ると助かるので、それの呼び方を教えて欲しいんです」


「倒しても心が痛まない召喚獣か……わしは、人型の敵と戦う事にも多少は慣れておいた方が良いと思うぞ。

 まずはゴブリン辺りを相手にしてみてはどうじゃ? どうしても駄目なら、ウッドゴーレムでも良いが」


 無意識に避けていたけど、勇者として仕事をする以上、人型の敵を避け続ける訳にはいかない。そりゃそうだよな。

 少し迷ったが、経験者の話は聞いておいた方が良いだろう。


「うーん、じゃあ、ゴブリンでお願いします。それと、レベル20を超えてから勇者レベルが上がり辛いんですけど、何か対策はありませんかね?」


「タロー殿、スパルタンアントもかなり上位の召喚獣なんじゃ。数をこなして貰う他は無いんじゃよ。今のタロー殿の魔力なら300体くらいなら負担なく操れる筈じゃし、それで充分じゃろう」


 そりゃそうか。地道にレベルを上げているタバサ先生達と較べて、30倍のスピードで成長してるのに、もっと良いものを出せも無いもんだ。贅沢を言い過ぎた。


「そういうものですか、すいません。あとは、そうだな、戦闘向きでなくても良いんで、簡単に就ける上位職ってありますか?」


「わしは、ちょっとな、魔法以外の事には疎いんじゃよ。筋金入りのインドア派じゃし。そうじゃな、タロー殿の今の実力なら危険は無いし、予定を繰り上げて外に出てみるかね?」


 おお! 願っても居ない提案が出てきたぞ。先生が一緒なら何処へだって行ける筈!


「それは良いですね。何処でもドアがあれば、何時でも戻って来られるし、是非お願いします!」


「むう。タロー殿、ピンクドアは、置いた所にしか出られないのじゃ。移動できるのは、この家の中限定なのじゃ……」


 折角、使える移動手段があるんだから、世界各国にセーフハウス? みたいなのを持っておかないと勿体無いじゃないですか。駄目だなインドア派。宝の持ち腐れですよ先生。


「う~ん、たまには、干し芋以外の食べ物を食べたいッス……」


 若干、凹んだタバサ先生をどう慰めようか悩んでいると、魔王軍の、死天王の、三番目の人の、切なくなるような寝言が聞こえてきた。


「タバサ先生、そろそろ昼食の時間だ。あの人を起こして食堂に行きましょう」


「うむ、そうじゃな。そうしよう」


 先生の了解を取ってからウィルベルちゃんを起こす。


「おはようございます、ウィルベルさん」


「 おはよう ッて!? え? 何処ッスかココ?」


「此処は勇者のトレーニングルームじゃよ。鳥のお嬢ちゃん」


 タバサ先生が両腕を胸の前で組み、どこか自慢げな顔で告げた。


「……何で突然大物ぶってるんデス? とにかく、自分と一緒に来てもらうッスよ! タバサさんには、こっちの食糧問題を一刻も早く解決して貰うんデスから」


「それは無理じゃよ。おぬしは、もうタロー殿の虜じゃ」


「は? 何を言ってるんデスか? 何で自分がタバサさんのお弟子さんにホレないといけないんスか? 意味解んないスよ」


「言い方が悪かったかの? おぬしは此処にいる勇者タロー殿の奴隷になったんじゃよ」


「何をバカな事を言ってるんスか! 幾ら立派な学者先生とは言え、人をからかうのもいい加減しないと、痛い目を見るッスよ!」


 脳ある鷹は爪を隠すとかそういうのかな?


「論より証拠じゃ。タロー殿、こ奴に”お手”をさせてやるがいい」


「いい加減にしないとッ!」


「ウィルベルちゃん、お手」


 頭に血が上ったウィルベルちゃんが、タバサ先生に手を上げそうになったので、俺は慌てて叫んだ。


「ワンッ はッ!?」


「理解したかな? 鳥のお嬢ちゃん。おぬしの主は今手を差し出しているタロー殿なんじゃ」


「そんなッ! なんで勇者がいるんスかッ! あんなに努力したのにッ! この任務に成功したら……おかあさんとチビ達と一緒に、ひっく、美味しいものを食べに行こうって約束したのに……ううっ……うわぁぁーーん!」


 なんか泣き出しちゃって居た堪れない気分になってきちゃったぞ…………

 どうするんだコレ…………縋るようにタバサ先生の方を見たが目を逸らされた。

 糞ッ! 年長者の癖に頼りにならねえな。こうなったら俺がどうにかするしかない。そうだ!!


「コレでも食べて機嫌を直してくれないか?」


 とっさにアイテムボックスからヤ○ザキのあんぱんとクリームパン、その他もろもろを取り出して押し付ける 


「ひっく……なんデスかこれ?……」


 鼻を赤くしてスンスンいいながらもウィルベルちゃんが尋ねてくる。正直可愛い。


「俺の世界の菓子だ。甘いものを食えば機嫌も直るかと思ってな」


 何、この俺の口調、テンパってるからってこれはどうなんだ?


「スン……こんなもので、……自分を篭絡しようなんて……スン……死天王も安く見られたもんスね……」


 そう言いながら、ウィルベルちゃんは、あんぱんを口に運んだ。


「こんな……ひっく……こんな……!? 何これ…………………………ッッ!!」


 しばらく恍惚とした表情であんぱんを味わっていた、何故か洋服の胸元にパンを詰め始めた……どういうことなの?


「…………おかあさん達にも、食べさせてあげたくて…………つい」


「そんなものでよければ、幾らでも食べさせてあげるよ。」


「ッ!!………………ご主人、不肖ウィルベル・ヴィント、誠心誠意お仕えしますッス。今後とも、おねがいしますッ」


挿絵(By みてみん)

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