明かされる真実
前回のあらすじ
夢の計画を打ち明けた途端に躓いたが救われた。
「話は聞かせて貰ったのじゃ! 契約法ならわしが教えてやろうではないか!」
「タバサ先生ッ! それは本当ですか!」
タバサ先生の口調に何故か違和感を感じたが、俺は相手を傷付けるような指摘はしないと心に誓ったのだ。
だから気付かない。
「タバサ様! どこから話を聞いていたのですか!?」
「ウム、わしの寝姿を撮影した所から全部見せてもらっておる。
タロー殿、乙女の写真を撮る時は一声掛けるのが当然のマナーじゃよ?」
うわあ、アレ見られてたのか……いや、見られなきゃ良いってモノではないな、
撮影許可貰ってないもんな。無意識に動物・マスコットフォルダに分類してしまった。
「あの、タバサ先生、さっきは話の腰を折ってしまった上に、無断で撮影してしまい大変失礼しました」
「まあ、わしにも勇者の資質を見極めるという目的があったのじゃ。気にするでない。
それにしても、戦う前に賊の命を心配するとは、タロー殿といい、イチローといい、日本人は皆お人よしだのう!」
勇者の資質か、俺にそんな物があるとは思えないが、なるべく人を死なせたくないという部分では共感を得られたようだ。
日本人を見て、一緒に魔法の研究をしていた勇者王の事を思い出したのかも知れない。
「勇者王さんはどうか知りませんけど、俺の場合は死体を見たくないだけですよ。
もし不適格だったらどうなっていたんですか?」
「その場合はエリカ姫との結婚を餌に魔王を討伐して貰い、祝勝会を開いて報酬を渡し、寝ている隙に元の世界にお帰りいただく予定だったんじゃ。
万が一自力で戻ってきても、酔った勢いで帰ったと言い張る事になっておった」
魔王を倒す所までは決定だから、どちらにしても酷い扱いにはならなかったという事だな。
「なるほど、合格判定を貰えたからさっきと口調が違うんですね」
「アレは……寝起きで久々に会話をしたから素で喋ってしまっただけじゃ……
わし、見た目猫じゃし、服とトークで威厳を出してる所があるじゃろ?
あの辺の話は忘れてくれると助かるのじゃ」
「あ、はい。忘れます」
さて、奴隷制度が無い理由も気になるからリリーさんに話を振ろう。
「そう言えばリリーさん。先程はこの国に奴隷制度は無い、と言ってましたよね?
他の国にはある。という事ですか?」
「はい、その通りです勇者様。グリンオークは搾取され、理不尽な暴力に遭い続けても争いを避けたオーク族が長い放浪の末にたどり着いた楽園なのです。
ですので、他人を支配する事を認める奴隷制度自体に、嫌悪感を持っています」
ふーん。自分達がされて嫌だった事を他人にしないって、なかなか出来る事じゃないよね……
「ちょっと待って下さい。……リリーさん、この国にはオークの方しか住んでいないんですか? 」
「ええ、私もここに来て日が浅いので、この国の全てを知っている訳ではありませんが、大部分はオークの方だと思います」
「てっきり長く働いている方かと思っていました。何か理由があってグリンオークに来たんですか?」
「実は、故郷へ戻る途中に乗っていた船が転覆してしまいまして、漂流していた所を、運良く通りがかったグリンオークの軍艦に助けていただいたのです。
命は助かったのですが、荷物も全て流されてしまい途方に暮れていた所で、勇者様の世話係を仰せつかったので、恩返しのつもりで働かせてもらっているのです」
「そうだったんですか。大変でしたね。リリーさんに担当になってもらって助かりました。ありがとうございます」
「はい? どういたしまして?」
リリーさんは恩返しの為に働いているだけで故郷に帰る途中だったと。
これは勇者として里帰りをエスコートして差し上げないといかんでしょう。
あとペット連れと聞いて彼女に話しを持っていくとは、オークさん達も解ってるじゃないですか。ハナマルをあげよう。
「確か勇者王さんは魔王を倒して王位に就いたという話を聞いたような気がしますけど、そのお相手もオーク族だったのですかタバサ先生?」
「そうじゃよ。向こうの世界ではお目にかかれない嫁を貰った等と、イチローはいつも自慢していたのじゃ。実際は入り婿なんじゃがの」
勇者王さんマニアックですね。そういう人も居るよね。
理解は出来ないけど許容できる。しかし、こっちに来る前は勇者として活躍して、最終的に王女と結婚して王になるという成り上がりにロマンを感じたが、良く考えたら面倒臭いわな。
未開地開拓して、隠れ里を作って運営は部下(奴隷)に丸投げ。普段は村人(奴隷)の生活を眺めながら過ごして、世界の危機とかだけは救う感じのスローライフの方が良いな。
権力闘争とか宮廷の闇とか全然興味ないんで絶対に関わりたくないです。
「種族を超えた恋愛って素敵ですよね。少し憧れます」
いい話ですね。
憧れているだけでは何も始まらないから僕らも一線を超えましょう。
とか口説き文句が平然と出てくる人を尊敬しますわ。
今まで会った人が常識的だったのと、リリーさんで欲求が満たされた状態だからか、この国にオークしか居ないと聞いても、はあ、そうですか以上の感想が出てこないね。
魔王を倒したらリリーさんを連れて旅に出るつもりだけど。
「タバサ先生、早速ですが、契約魔法について教えて貰いたいです」
「うむ、契約魔法を教えるとは言ったが、わしが教えてすぐに使える物ではない」
「えーっ 先生教えてくれるって言ったじゃないですか。やだー」
「タロー殿、おぬしの言うように返り討ちにした賊とその場で契約し、奴隷として所有するには、契約を行う相手より高いレベルと商人ギルドの登録、王の認可が必要じゃ。
正規の手続きじゃと最低でも5日は掛かるのじゃ。安心して外出出来るレベルになるまではここで訓練してもらうから、試す相手が居ないという事じゃ。
どうせ犯罪奴隷以外も買うのじゃろ? この本で基礎を勉強するがよいぞ」
「……やっぱり手続きは重要ですよね。あ、本ありがとうございます。
サブの職業が決まったので、模擬戦の準備をお願いします」
「うむ。職業をセットするがよいのじゃ。ステータスを出して無職を指で触ると、
バーッと表が出るから、その中から必要なものを選んでつつくがよい」
早速、5つの枠に副業をセットする。
奴隷商人、神聖魔法、召喚魔法、付与魔法、死霊魔術。
やっぱ現代人が関わったらタッチパネル使うよね。
でもガラケーにも良い所がありましたよ。落としても壊れない所とかね。
アレ?
「タバサ先生、本で詳細を見た5つ魔法職と、奴隷商人しかリストに表示されないんですが……」
「気づいてしまったのうタロー殿。わしとイチローが苦労して作り上げたスカウターの仕様に!」
「仕様ですか?」
「まあ大した事ではないんじゃが、なれる物が多過ぎても困るというイチローの意見を採用したのじゃ。
勇者本人が興味を持たないと職業の一覧には出てこないようにしてあるのじゃよ」
「逆に選択肢が狭まるような気がしますけど、何故そんな事になったんです?」
「うむ、たとえば牛丼を作るのにも、牛飼い、米農家、ショウガ農家、たまねぎ農家にキッコーマン等、さまざまな職人の手がかかっているじゃろ?
そういう調子で一覧にありとあらゆる職業が出てきてしまっていたのじゃ。」
「先生、亀甲マンは職業じゃなくてSM好きのヒーローです。でも、間違い探しをする位なら今の方が良いですね」
「これから訓練場へ向かうが、その前にパーティー編成をしておくとよいぞ。
編入のやり方はパーティーに入れたい者を思い浮かべるだけ。
メンバーの位置をなんとなく把握出来るし、学習効率がそこはかとなく上がるから割と便利じゃぞ。
しかも300人まで登録できるのじゃ」
「先生、そのパーティー編成をする事で、メンバー間で通信出来たりはしないんですか?」
「リーダーがメンバーの居場所を把握出来るんじゃよ?
戦闘中に指示を飛ばしたければ念話を覚えればよかろう」
「そうですか。解りました。適当に使ってみます」
そういえば昼飯食べてから4時間は経ってるから、そろそろ散歩の時間だな。
どこかで散歩させられないだろうか?
「なんでわしが期待外れみたいな顔をされなくてはならんのじゃ。
充分に有用なスキルではないか!」
なにか誤解があるようなので速やかに訂正する。
「そんな事思ってませんよタバサ先生、夕方になったので訓練中にトトを散歩させてもらおうと思っていたんです。
何処かに散歩出来るようなスペースはありませんか?」
「なんじゃ、タロー殿はそんな事を考えておったのか。
それなら訓練場で好きなだけ散歩をさせてやるがいい」
そう言ったタバサ先生の前に何の前触れも無くピンク色のドアが出現する。
あー、アイテムボックスか。人目がある所で使う時は気をつけなきゃ駄目だな。
まてよ、アイテムボックスの技術も一般に開放していたりするのか?
「先生ありがとうございます。リリーさん、今から訓練場へ移動しますから、トトを連れてこっちへ来てください」
「この扉から訓練場へいくのじゃ! ささ、タロー殿。開けてみるがよい!」
「あのうタバサ先生、浄化だけじゃなく、アイテムボックスも一般的に普及している技術なんですか?」
「……タロー殿、ここは空気を読んで扉を開けるところじゃろ?」
「すいません、リリーさん達がまだ来てないので、みんな集まってからドアを開けようと思いまして」
「まあよいわ。アイテムボックスは色々と危険だから所有者はタロー殿とわしだけじゃ。
信頼の証だと思って欲しいのじゃ。さあ、扉を開けるがよい!」
なんかリアクションを期待されているッぽいので、リリーさんとトトに目配せする。
リリーさんはこちらを見て頷いてくれたので意図は伝わった筈だ。
トトは口角を吊り上げて舌を出して笑っている。リアクション早いよ。
なんじゃこりゃ。
扉の向こうには広大な平原が広がっていた。
何故か電車のようなものが走っている。
「これだけ広いと散歩が捗るな」
「ンフー キュー……キューン キャン! キャンキャン! ハッハッハッハッハッハッハッハッ」
しまった、トトが散歩という言葉に反応してしまった。
まだ通っていいルートも聞いてないのに。訓練中の散歩はリリーさんに頼むか?
でもウンコの始末させたら好感度上がらないよな、悩ましい問題だ。
レベルが上がったら超スピードで散歩出来たりするんだろうか?
「あの扉は外に繋がっていたんですかタバサ先生?」
「ここは外ではないぞ。ピンクドアからしか出入りできない閉鎖空間なんじゃ。
ちょっとした空間魔法の応用じゃよ!」
「先生、何故こんな場所を作ったんです?」
「うむ。最初の勇者に倒された魔王は、力を付ける前の勇者を葬ろうと、召喚時を狙って配下を嗾け、無防備な勇者を襲撃させたのじゃ。
……色々あって勇者は無事だったが、その為に多くの者が犠牲になったのじゃ。その苦い経験から作られたのがこの訓練場なのじゃ!
イチローの魔力を籠めたメダルが無ければここには来れぬ。凄いじゃろう!」
冗談めかしてはいるけど犠牲者の中にはタバサ先生の知人も居たんだろうし、言い辛い事もあったんだろう。
「なるほど、悲劇を繰り返さない為に勇者王さんも頑張ったんですね」
「そうなのじゃ。イチローの奴、自分を守る為に犠牲が出た事を気に病んでしまっての。
長い事引き摺っておった。国を救った英雄に感謝こそすれ、恨むような者等おらんと言うのに」
イヤ、それは堪えますよ。自分の為に大勢死んだのに優しくされたら。
「ドッグランじゃったか? ようするにそこの犬が運動出来る場所を作ればいいんじゃろ?
大船に乗ったつもりで任せるがよい! 危ないから少し下がっておれ」
「はああああッ
クロスカッター!
プロテクトウォールッ!
ワナカンチ!」
両腕を顔の前で交差させたタバサ先生が、気合いと共に腕を振りおろし、どどんまいのポーズを取った。
すると先生の前方にあった、トトの肩の高さ程度の草が見る間に刈り取られ、石壁が周囲を囲う、サッカーコート程の大きさのドッグランが完成した。
「凄い魔法ですねタバサ先生! トトの為に運動場を作っていただきありがとうございます。いつか今の魔法の使い方を教えて下さい」
これが魔法か。色々な属性の魔法を使ったように見えたが、よく解らん上級職だからいろいろ使えるんだろうね。
「タバサ様、私、クロスカッターという魔法を初めて見ました。凄い魔法ですね!」
「わしはそんなに褒められる程の事はしてないんじゃがのー、この程度は朝飯前じゃよ?
一応犬が走り回って目を切らないように草を刈ったし、穴やトゲが無いのも確認済みなのじゃ。
安心して放してやるがよい」
そう言いつつ、タバサ先生は満更でも無さそうな顔をして尻尾を振っていた。
いいなあこういう平和な会話。先生善意に満ち溢れてるね。
「タバサ先生、とても立派な石壁なんですけど入口が無いようなんで申し訳ないけど入り口を開けて貰えますか?」
「うむ。」




