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勧誘念話と怪しいメール

 ここは何処だ? 

 

 目を開けているのに何も見えないし、身体の感覚がない。

 布団で寝た筈なのに布団が無いのもおかしい。

 死後の世界という奴だろうか?


 それは困る。オレには守るべき者がいる。

 死んでいる暇は無い。


 ウチには、朝の4時から顔を舐めて散歩をせがむペロリストがいるんだ……


 絶望に打ちひしがれるオレの耳に遠くから声が聞こえる


 ……ゆ…う…ま……


「かゆうま?」




 思わず口に出すと何かが近づいて来るような気配がした


『お初にお目にかかります勇者様、ご就寝中に突然押し掛けた非礼をお許し下さい』



「勇者? オレが?」


 オレが、勇者か?

 夢だなコレは。

 転生物の小説のように突然死したら、ウチの同居人が大変な事になってしまう。

 夢でよかった。

 アイツを餓死させたら死んでも死に切れない。


『はい、さようでございます。申し遅れました、私エリカ・カルソンセンと申します。

 実はわが国に魔王が復活するという神託がありまして、あ、魔王というのは、あらゆる力を寄せ付けぬ魔界の王でございます。

 勇者とは、それを滅ぼす聖なる力を宿す希望の光、そのお力をお貸し頂きたく、こうしてお願いに上がった次第です』


 胡散臭い話だなあ。大体聖なる力って何だよ? 人より多少力が強い程度で、取り柄なんて無い。童貞力とか、そういうのが必要なのか?


『差支えなければ、勇者様のお名前をお聞かせ頂けますか?』


 まず夢だとは思うが、ロト7が当たって預金額が9桁になる程の確率で異世界からの勧誘の可能性もある。 

 彼女の機嫌を損ねて異世界行きの切符を逃したくはない。

 が、名前を知られて不利になる世界だと嫌だし、ここは偽名を名乗ろう……


「これはご丁寧にありがとうございます、山田太郎(やまだたろう)と申します。ところで私が勇者というのは何かの間違いではありませんか?」 


戦争の無い平和な国で育った私には勇者の力どころか、剣術の経験もありません。とても貴方のお役に立てるとは思えないのですが……」


 しかし、夢の中とは言え、女の子に勇者様とか呼ばれると、意外とクル物があるな。

 エンジョイ&エキサイティングって誰かが言ってたし、適当に言葉を選びつつ会話を楽しもう。


『いいえ、勇者タロー様 相手が魔物の群れならば我が国の戦士の力で追い払う事も出来ます。

 上級魔族が現れたとしても勝機はあるでしょう。ですがこの世界の者では魔王を傷一つ付ける事も出来ないのです!』


 そこで聖なる力を持つ勇者オレの出番? 

 陳腐な台本だね。そんな事よりそっちの世界にどんな人種が居るのかの方が大事なんですよ! 

 夢を求めて異世界に行くのに、色んな亜人と会えなければ意味が無い。さりげなく確認せねば。


「そう言われましてもね、私は先程もお話したように、戦闘経験なんて無い素人なんです。

 アレでしょ? 運動神経抜群の猫耳少女とか、頑丈なリザードマンのような強い人でも魔王には勝てないんですよね? 

 オレじゃあ役に立てないでしょう? 魔法なんて使えませんよ?」


『それならご安心ください。タロー様はこの世界の誰よりも強くなれるのです! 

 鍛えられた勇者は犬系の獣人より俊敏に動けますし、エルフを遥かに超える魔力を身に付ける事が出来ます」


 否定しないという事は猫耳少女やリザードマンは居るんだな。

 そして犬獣人も存在する。つまり、スベスベもモフモフも楽しめるという事だ。

 フフフ盛り上がって来たぜ。


『過去に2度魔王が現れましたが、その度に余裕を持って神託が下っております。

 勇者様方は、何の不足も無く、心身を鍛え上げる事が出来ました。

 その為、勇者様方は、パーティーから1人の犠牲者を出す事もなく、魔王を撃退しています』


 凄いですね。完封だ。勇者の身内は誰も死なない、コレは基本だよね。


『200年前に召喚された勇者様は、僅か1週間でこの国の誰よりも強くなったそうです。

 魔王との戦いを終えた勇者様は、恋仲だった当時の第一王女とめでたく結ばれてこの国の王になったのです!』


 1週間で最強とか楽で良いね。イージーモードを馬鹿にする人がいるけど、自分が行くならイージー一択でしょう。

 助けた姫と結ばれて、昨夜はお楽しみでしたね。とか言われて見てえもんだな。現実なら面倒臭そうだからお断りだけど。


『今回もタロー様の為に、最高の実力を持った教師陣を揃えてお待ちしております。

 特に魔法教育に関しましては、先代勇者様のパーティーメンバーも務めた大賢者様から直々の指導を受ける事が出来ます!』


 じじいかな。どうでもいいや。

 それは置いといて、万が一、本当だった時の為に気になる事は全部聞いておこう。


「いくつか質問があります。元の世界に帰る事は可能ですか?」


『はい。もちろん帰還可能です。

 こちらにおいでになる際に、タロー様が身に付けている衣服等の一部を切り取ってお持ちいただければ、

 それを元に転移アイテムをお作りします。切り取った衣服の残りは、御契約後にお送りする宝箱に入れて大切に保管して下さい」


 此処はマニュアル通りといった所か。

 今までの情報でパラダイス確定なんで、最悪帰れなくても良いレベルだが、帰れるならその方が良い。

 漫画やゲームに未練があるしな。


「ど、奴隷制度というのはありますか? 全然いやらしい意味じゃありませんが興味があるんですよ。

 魔法の契約で主人に逆らえないとかいうのが、こっちで流行ってましてハイ」


 鼻の穴が膨らんでいる気がするが相手の姿も見えないから問題なかろう。


「タロー様、申し訳ありませんが我が国には奴隷制度は存在しておりません。

 他国では一般的に使われているのですが、魔王を倒し我が国の王となった先代の勇者様により、奴隷制度は廃止されております。

 これは魔族の魔法で、奴隷の身分に縛られた被害者を救う為だったと伝えられています」


 えー。余計な事するなよ勇者さんよぅ。

 日本のモラルを異世界に持ち込むのはルール違反だぜ。

 奴隷制度は残して解放するだけで良いだろう。

 まあいいや。これから行く国にはないが、魔法契約で奴隷を縛る事は出来るという事は解った。

 

 正規の手続きを踏んで、勇者の仕事で稼いだお金を払えば

 この世界では手に入らないモフモフ獣人娘さん。

 この世界では手に入らないツルツルお肌のエルフさん。

 この世界では手に入らないモンスター娘さん。

 その他諸々全てが手に入るチャンスがある。それだけじゃない。

 俺が奴隷商人になれば、倒した相手を無力化する事も可能という事だ。

 オレは、殺す覚悟を持つ気は毛頭ない。夢の世界に殺伐は要らねえ。


「それと、ペットの犬を連れて行っても良いですか?」


 これは大事な事だ。

 オレの大切な家族を、連れて来るなと言うなら助ける気はない。


「従者様の為に最適な環境をご用意させていただきます』


 ペットOKの王宮なんて聞いた事ないが、普通に許可が出たね。

 考えてみたら、王宮がどういう物か知らなかった。



『……それでは、詳しい契約内容については翌朝メールでお送りいたします。

 内容にご納得いただけるようでしたら、返信をお願いします』


 妄想をしていたら、いつの間にか話が終わっていたようだ。何か聞き逃してないか? 

 夢だし、どうでも良いか。


「あッハイ 本当にメールが来たら二つ返事でお受けしますよ! 

 ファンタジー大好きですからね! 来ればいいねメール。来たら即ハボですよ!」


『……それでは失礼いたします。

 グリンオークでタロー様とお会いできる日を、楽しみにお待ちしています』


 エリカさんの声しか聞こえないのは俺の想像力が足りないからか。

 異世界人見た事無いし、仕方ないけどね。







 目を覚ました直後ほんの少し期待してメールをチェックする。


 何もない。 


 知ってた




「……まぁいい夢を見させて貰ったよ。全然悔しくないしな」


 スマホを眺めて落ち込んでいると、飼っている犬が寄って来てオレの顔を嘗め回した。

 きっと落ち込んだオレを気遣ってくれているのだろう。


「おはようトト、顔舐めるのは止めなさい。慰めてくれるのか……優しい子だな。お前は」


 顔舐め回したり、足にしがみ付いて腰振っても笑って許される犬のコミュ力ってヤバいよね。

 落ち込んでても、いつの間にかよーしパパ散歩行っちゃうぞー、とか言ってるの。

 何がパパだよおめでてーなオレ。


「ハッヘッハッハッ ㇷッハッハッハッ ヘプシッ!!」


 今日も朝からテンション高いなあ。


 顔を洗ってスマホを見ると、そこには胡散臭いメールがあった。





  只今グリンオーク王国は勇者様を募集中です

 <勇者資格をお持ちのあなたにピッタリの職場です!>


 剣と魔法の世界で勇者の伝説を作ってみませんか?


 異種族・異世界からの転生大歓迎!

 笑顔の絶えない職場です!

 未経験でも安心の研修制度!

 一流の講師陣が丁寧に指導します!

 元の世界に帰れるのか? 私物の持込は出来ないのか? 

 空白期間が出来てしまうでは、とお悩みではありませんか?

 グリンオークならそんな心配は無用です! 

 ご契約いただければその場で、支度金として金貨1000枚を支給!

 更に、アイテムボックススターターキットをお送りいたします!

 その上、勇者様の御愛用品等から、転移の魔道具を作成致します!

 ノルマ達成後は、ご希望のタイミングで元の時間にお帰しします!

 ※強さが失われる事はありませんのでご安心下さい。


※使い古した下着を、2つに切り分け、片割れをお持ち下さい。

 下着を(もと )に魔道具をお作りします。

 残った半分が、ご帰還の際の目印となります。

 もう半分は、宝箱に入れて大切に保管して下さい。

 目印が消失してしまうと、元の世界に戻れなくなる可能性があります!

 ご注意下さい!


 ■□ お任せしたいお仕事 □■


 当方選抜メンバーと共に、都心部を中心としたセキュリティ業務からキャリアをスタートしていただきます。

 約1年を目安に、大陸北西部に根城を構える魔王軍を掃討、もしくは無力化していただきたいと思います。

 過去に現れた魔王は、いずれも勇者様のパーティーにより半年以内に討ち取られております。

 ご安心ください!


 ■□ 契約について □■


 ご契約頂ければ、金貨1000枚とアイテムボックススターターキットをお送りします。

 金貨1000枚と、アイテムボックスを使い、召喚までの10日間で準備を整えて下さい。

 文献によると過去の勇者様は、調味料や嗜好品、本やネット等故郷の品を求めて涙したとの記述があります。

 召喚後は、魔力が溜まるまでは決してお帰し出来ませんので、お忘れ物の無い様にお願い致します。

 魔王討伐成功の暁には、お望み通りの報酬をお支払いいたします。



 夢の異世界転移がまさかのマジ話でしたよ!! 

 ここは、イヤッッホォォォオオォオウと喜ぶところなんだが、生憎今は朝の4時。

 ご近所の迷惑を考えて大声は出せません喃。

 仕方なく通販で買った金属製グラディウスとバックラーを振り回して喜びを表現する。



「ディス! イズ! スパルタ! 


 ディス! イズ! スパルタ! 


 ディス! イズ! スパルタ! 


 ディス! イズ! スパルタ!!」




 金貨は換金しに行っても、出所を疑われてその場で捕まりそうだから置いておくとして、アイテムボックスか! 

 ゲームでは空気みたいな扱いだが、現実世界で使えるとなると話が変わってくる。

 小説やゲームでよく見るタイプの、入れた時のコンディションが維持される物なら、夢が拡がるってもんだ!

 熱々のたこ焼きを、一粒ずつ食べる事すら可能な夢のアイテムだ! 

 テンション上がってきた! 漸くオレにも運が向いてきたようだな。

 不利益になりそうな記述がないか確認して、ワクワクしながらメールを送った。




 すると突然PCデスクの上に大きな宝箱が現れて落下。

 金属で補強された角の部分でノートPCとフィギュアに致命傷を与え、ついでにフローリングに大きな傷を付けた。

 どういうことだよ……

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