少女と詐欺師と少年の歯軋り
「おいおいおいおいっ!」
犬飼颱は眉根を寄せて、桜乃舞子をにらみつけた。
旧体育館を出発して、学校に向かう道中。
コンビニで買った弁当を、運悪く――というか、颱が蹴ったから、その衝撃で起きてしまった萬門に。
「スーツのクリーニング代は、もちろん払ってくれるんだろうな?」
と脅され、しかも、
「それが嫌ならお前らの弁当を寄越せ」
と、言葉巧みに(?)コンビニ弁当をぶん取られたので(舞子のぶんも含まれている)、再びコンビニへと足を運んでいる道中。
颱は舞子をにらみつけたのである。
「なんであんな腹黒スーツ野郎に、メアドとケー番を教えてしまったんだよ? そんなことしたらいつでもどこでもGPS機能で、お前の居場所が漏洩してしまうんだぞ」
そうなのである。友好のしるしと称して、欲張り詐欺師はいたいけな少女から連絡先を訊き出していたのだ。
普段であればいざ知らず、萬門の自前と思われるスーツを汚してしまった手前、颱は口を出すことがはばかられ、仕方なく黙って指をくわえてみていたのだった。
それゆえに颱は舞子を怒鳴りつけたが、
「代わりに萬門さんのメアドとケー番を教えてもらったから、それでおあいこでしょ?」
少女は開き直ったというか、反省すらしていない様子であった。
「あいこじゃねーよ。たとえじゃんけんで、同じ手を出したとしてもあいこじゃねー。引き分けはイコール負けだからな」
「あいこだよ。ジャイアンの妹くらいあいこだよ」
「…………。それはジャイ子だろ!」
いきなりの、脈絡をまったく無視してのボケだったので、颱の反応はすこし遅れてしまった。
今のは彼女なりの笑わせかたで、彼女なりに知恵をしぼって気を遣ってくれたんだな、と犬飼颱は察する。
彼は――舞子がメアドを交換したのも、本を正せば自分がまいた種だと、それでも遠慮した気持ちを抱いていたのだが、どうやらそんな気持ちは簡単に見破られていたらしい。
言葉だけがコミュニケーションツールではないのだと、颱はそんなことを思った。
「で? 腹黒スーツ野郎に対する連絡手段は?」
「LINEまたはTwitterだよ」
「なんであの腹黒スーツ野郎は、そんな機能を使いこなせるんだよ、ジェネレーションギャップとかはねーのかよ」
俺は霊界に戻ったときに、逆カルチャーショックを受けないか心配だぜと、とジェネレーションギャップをほとんど感じていなかったはずの地縛霊はそういった。
こうしてみると、犬飼颱も萬門もどっこいどっこいではあるのだが。




