転校してきた少年と好転してきた少女
全校朝会はいつも通り、委員会や生徒会からの連絡だったり、生活指導の先生が自転車の鍵をかけろとかそんなことをいっていた。
それから校長の話……。眠たいなあ。
退屈していた舞子は、うとうとしては起こされ、うとうとしては起こされを繰り返していた。
「それでは転校生の紹介です。どうぞ前へ」
促されて犬飼颱が、壇上にあがっていく。校長が脇にどけて、マイクを転校生の顔の高さに調節した。
「今日からサクサク中に転校することになった、犬飼颱です。ちなみに犬は飼っていません。学年は二年生です。勉強に部活にがんばりたいです。よろしくお願いします」
ウソ。
胸がドキリとした。
同じ学年じゃなかったの?
せっかく意気投合したのに……。
舞子は三年生、颱は二年生だった。
拍手をされながら転校生は退場していった。
「ざんねんだったねー、舞子はん」
「京都っぽくいわなくていいから」
桜乃舞子と山女魚皐月は、いっしょに弁当を食べていた。
いまは昼休みでクラスの中はおいしそうな匂いに満ちていた。
「好きなんでしょ?彼のこと」
鶏の唐揚げをはしでつまみながら、かまをかける皐月。彼女はそれを口に運んで舌つづみをうった。
「は、はあああ!」
大仰に驚く舞子をみて、
「そういうリアクションはどうでもいいよ」
皐月は冷静にいう。
「大袈裟なリアクションをしたせいで、胸につかえた……」
舞子は咳き込んで、胸部をどんどんと叩いた。
「おっちょこちょいだなー。舞子は」
「なによ、皐月。これはただの偶然で……」
訴えかける舞子に、
「私はなにもいってないよ。卵焼きを食べてたし」
「えっ?じゃあ……」
「俺だ」
「犬飼颱だ」「犬飼颱か」
またいっしょのタイミングで同じことをいってしまった。
「ひゅーひゅー、お二人さん。息ぴったりだよ」
「皐月さんうるさいです」「皐月うるさい」
沈黙しながら顔をみ合わせる 颱と舞子。
「真似……」「真似……」
両者はにらみ合いながら、
「すんな」「しないで」
二人から重いため息が流れでた。
ピリピリしたような、そうでもないような、へんな感じの雰囲気が醸成される。
舞子はいっしょに話し始めるのを防止するために、手で制してから、
「なにしに来たの?」
「ひまつぶし」
「友だちは?」
「いない。ぼっちだ」
「だったら図書室にいけば?」
「なおさら、ひまになる」
「それじゃあ体育館へいけば?」
「三年生が独占してる」
「勉強してれば?」
「するわけねーじゃん」
「お弁当を食べれば?」
「早弁した」
「グラウンドで野球してくれば?」
「そこも三年生が使ってる」
「じゃあ、ここにいれば?」
「はじめからそういえっての!」
「はあ?」
舞子はあきれた。どれだけ夜郎自大なやつなんだ。
「舞子、素直じゃないよ」
皐月が冷やかすので、舞子はよけいに素直になれなくなってきた。
「勘違いしないでよ。私は……」
「俺は好きだよ」
「えっ?」
舞子は口をあけたまま固まってしまった。
「えっ、えっと……」
【私も好き。すごい好き。付き合おうよ。とか皐月のまえではいえないし、告りたいのに告れないじゃない!】
昼休み終了のチャイムが鳴るまで、舞子は動けなかった。