いざ再戦のとき
「さあ、決着をつけようか、出美亜丹」
「本当にお人好しなんだね。犬飼颱は」
うなじに垂れた長髪を、手の甲でそっとかきあげながら、出美亜丹は笑った。
心から嬉しそうな笑みで。
「狂おしいほどに愛しいし、妬ましいほどに羨ましいよ。人を好きになるって素敵だね」
「そうかい」
風が吹いて、河川敷の草花を揺らした。
薄暗い天然芝を弱々しい太陽が照らし出す。自然だけではなく人間にも、光は当たっていた。
元地縛霊・犬飼颱――
悪魔界序列低級クラス
と、
妬み嫉み恨み羨みの出美亜丹――
悪魔界序列第三位
前回は犬飼颱の勝利で幕をとじた。
水辺ではない場所。
出美亜丹にとって、陸上で戦う鮫のように不利な戦場ではあったが、しかしそれは言い訳にならない。なすすべもなく、文字通りに首をはねられたのだ。みじめどころの話ではないし、話にもならない醜態である。
だからこそ、ここでの汚名返上が不可欠だった。
――河川敷。
近くにあるのはほかでもない――水、水、水である。
蛟竜雲雨を得。
これならば負けられない条件はついても勝てない条件は一つもない。
「いざ尋常に――」
人差し指を犬飼颱に向けて、
「勝負!」
出美亜丹はそういって、地面に伏せた。
犬飼颱は、もう一つ疑問に思うことがあった。
出美亜丹はなんで、自分を霊界に連れ帰ろうとしているのか。いや、厳密にいえば連れ帰ることは出来なかったはずだ。
彼女がいっていることが正しいのだとすると、「死して自動転送を待つか、時間切れの強制転送を待つか」の選択になる。自由意思で霊界に戻ることは出来ないのだ。
つまりいっしょに霊界に帰るということは、いっしょに死ぬということを意味する。
まあタイムリミットで帰るということもあり得たが、しかしどうやらそちらではなさそうだった。
要するに――とても遠回しな表現ではあるが、
「いっしょに死のう」
か、
「死ね」といいたかったのであろう。
でも――なんで殺しに来たんだ?
地面に伏せて、いまにも第四匍匐前進をやりかねない、そんな戦闘体勢の出美亜丹に不自然さを感じた。
なにがそんなに、気にいらないんだ?
殺したい理由は、名誉と退勢を挽回するためか?
なんでもいいけど、二回も同じ相手を殺すのは嫌だなあ。
と。
犬飼颱はまるで格下と戦うつもりで、初撃を躊躇してしまった。肌に密着させるかたちで持ち歩いていたナイフを使用しなかったのだ。




