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僕の名前

後ろの大きなゴミ箱の上から、突然やさしい声がして驚いて振り返った。

そこには、真っ白なメスネコが居た。すごく奇麗な真っ白のネコ。

「・・・っ・・・」

返事をしなきゃ。そう思って口を開いたのに、声が出ない。

「っ・・・っ」

どうしよう、早く返事しなきゃ怒られる。そう思えば思うほど、ますます喉に何かが引っかかって声が出ない。

「どうしたの?」

分からない。僕はどしたんだろう。体がガタガタしてきた。

白ネコは真っ直ぐこっちを見てる。どうしよう。

「もしかして、喋れないの?」

白ネコは首を傾げて不安そうに僕を見てる。

喋れない。せっかく話しかけてくれたのに、喋れない。どうしてなんだろう。

僕は俯いて小さく頷いた。

「そう・・・」

白ネコは、そっとゴミ箱の上から下りてきて僕の目の前に来た。

「ひとりなの?」

ひとり。うん、もう僕は独りぼっち。もう家族は居ない。

僕はまた、小さく頷いた。

「そっか」

もうきっと、お母さんのところには帰れない。僕が帰る場所なんてない。

「ねえ、よかったら一緒に来ない?」

…え?

「ここにいても、つまらないよ」

僕が顔を上げると、白ネコはニコッと笑った。

「こっち来て」

白ネコはゆっくりと僕の前を通って路地の奥の方へ進んだ。

来てって言った?僕なんかが行っても本当にいいのかな。

どうしていいのか分からない。ぼくはまた下を向いた。

「おいで」

また顔を上げると、少し先で白ネコは立ち止まってこっちを見てる。お母さんとは違う優しい声。

僕は黙って白ネコについて行ってみることにした。

白ネコは僕のことを気にしながらゆっくりと進んで行く。僕はのろのろとその後をついて行く。

路地の少し明るい所に着いた。そこには、双子みたいにそっくりな犬ニ匹と黒いオスネコと縞模様のオスネコが居た。

「シロ、その子誰?お客さん?」

縞ネコは興味深々な様子で僕をじっと見てる。

「さっき向こうで会ったの」

シロって呼ばれた白ネコは微笑みながら僕の方を見た。

黒ネコと双子犬は不思議そうな顔をして、僕を見てる。気持ち悪いよね。だって他に見たことなんてないよ、こんな毛の色のネコなんて。気味悪く思うのも当然だよ。

「ひとりでいるみたいだったから、連れて来たの。ちょっとお喋りが出来ないみたい。ねえ、みんな。私はこの子を仲間に入れたいと思ってるの。どうかしら?」

シロは僕に優しく微笑んで頷いた。

僕を仲間に?こんなに可笑しな色してるのに。気味が悪いのに。どうして、仲間に入れたいなんて言ってくれるの?きっと、“こんなバケモノ嫌だ”そう言われるに決まってる。いいんだ、僕はもう独りぼっちのままで。

「いいんじゃないか」

俺は賛成だ。黒ネコが素っ気なくそう言った。

賛成?それって…。

「大歓迎さ」

「断る理由はないな」

よく似た二つの頭が縦に動いてる。

「わーい!仲間が増えた!」

縞ネコは嬉しそうに飛び跳ねてる。

「賑やかになるな」

「そうだな」

双子犬は楽しそうに頷いた。

「決まりだな」

黒ネコもちょっとだけ笑ってるような気がする。

シロは微笑みながらそっと近づいて来て、僕に頭を寄せてすりすりしてきた。あったかい。そう感じたら、僕の目から勝手に涙が出てきた。痛くないのに、苦しくないのに、どうして?しかも、この涙あったかい気がする。

「どうしたの?!泣かないで」

「おい、具合でも悪いのか?」

「痛いとこあるか?」

突然泣き出した僕を変に思ったのか、みんなが寄って来た。

ううん、違うよ。僕は頭を横に振った。

「きっと、嬉しくて涙が出ちゃったのね」

嬉しい…?涙って嬉しくても出るんだね。知らなかった。なんだろう、さっきまで痛かった胸の辺りがもう痛くない気がする。

「それぐらいで泣くな、男だろ」

黒ネコは軽くポンポンと僕の肩を叩いた。

「泣いて喜んでくれるなんて、ボクとっても嬉しいよ!ボクはシマシマだからシマ!よろしくね」

「俺は見たとおり、クロ。よろしくな」

「オレはタロ」

「オレはジロ」

よろしくな!。見分けがつかない双子犬はとっても息ピッタリでちょっと驚いた。一緒に居たら、いつかは見分けがつくようになれるかな。

「大丈夫、タロとジロは慣れれば見分けられるようになるわ。私はシロ、よろしくね」

シロの優しい顔すごく安心する。

ありがとう。こんな気味の悪い僕を仲間に入れてくれて、本当にありがとう。

「お前は名前、なんていうんだ?」

「教えてくれ」

タロとジロにそう聞かれてハッとした。僕の…名前?僕に名前なんて無い。“おい”とか“バケモノ”ってしか呼ばれたことなんてない。答えられない。

僕は下を向いて、頭を横に振った。

「名前、ないの?」

シマが心配そうに僕の顔を覗き込んだ。

うん、名前ない。小さく頷いた。

「なら、オレ達がつけよう」

「そうだな、オレ達がつけよう」

嫌じゃないか?タロとジロはそう聞いてくれた。

嫌なわけない。だから、頭を縦に振った。

「賛成!賛成!」

何がいいかな?ってシマは楽しそうに考えてる。

シロも、どんな名前がいいかしらってシマの様子を見ながら笑ってる。

「“ソラ”ってのはどうだ?」

僕をじっと見てたクロがそう言った。

「お、いいな。その名前」

「空みたいないい色の毛だもんな」

かっこいいよな。羨ましいってタロとジロは言った。僕の毛色が羨ましい?気味が悪くて気持ち悪いって言われてた僕の色が?かっこいい?

どうしたんだろう、胸の辺りがぽかぽかしてきた。これが嬉しいってことかな。

「ボクも賛成だから決定ね!よろしくね、ソラ」

「ソラ、よろしくね」

「よろしく、ソラ」

「今からお前はオレ達の仲間だ。よろしく頼むぞ、ソラ」

「楽しくやっていこうな、ソラ。遠慮は要らないぞ」

うん!よろしくね。僕は頭が飛びそうになるくらい、大きく頷いた。

夢みたいだ。嫌われて、名前もなかったバケモノの僕がみんなの仲間になった。勿体無いくらい素敵な名前を貰った。“よろしく”なんて言葉、初めて言われた。

僕、ここに居てもいいんだね。僕が居れる場所なんて、何処にも無いんだって諦めてた。もしこれが夢だったとしても、僕は充分幸せだと思う。

そう考えたら、また涙が出て来た。

「お前、なかなかの泣き虫だな」

クロが笑ってる。だって、止まらないんだもん仕方ないじゃないか。

「泣きたい時は、たくさん泣いちゃえソラ!」

「シマの言う通りよ、ソラ。泣きたい時は思いっきり泣かないと、次に泣きたくなった時泣けなくなっちゃうわよ」

シロの言う通りかもしれない。ずーっと前、泣いても何も変わらないって思って泣かないようにしてたらどんなに辛いことがあっても涙なんて出なくなったんだ。

「ほら、泣け泣け」

「今のうちだぞ」

みんな優しく笑ってる。


この夜、僕は延々と泣いてた。みんなは僕が泣き疲れて眠るまで傍にいてくれた。

僕は“ソラ”って名前のネコになった。











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