忘れていた気持ち
僕は気が付いたら生きていたんだ。
薄暗い路地の裏だった。お母さんとたくさんの兄弟と一緒に居た。でも僕は、いつも独りぼっちだった。
「おい、バケモノ。邪魔だ」
「痛いっ…」
「気持ち悪いんだよ」
「早く消えろ」
そう、バケモノ。
だって僕は、生まれつき青い毛色の猫だから。みんなと毛の色が全く違うから、蹴られたり殴られるのは当たり前。仕方ないことなんだ。
でもね、お母さんは僕にそんな事言わないんだ。お母さんはやさしい。だけど、お母さんは僕と遊んでくれない。仕方ないんだ、兄弟がいっぱい居るから。きっと僕の番がまだ回ってこないだけなんだ。
ある日の夜だった。
僕はいつものように自分で取ってきた夜ごはんを食べようとしてた。するとそこに、ミケがやって来た。
「バケモノのくせに美味そうなの食ってるじゃないか」
ジリジリと狙う様にミケは近づいて来る。今日もごはんを盗られるんだ…。
「よこせって言ってんだろ!」
ミケの頭突きで僕は倒れた、そんな僕を横目にミケは僕のごはんを美味しそうに食べてる。
傷みと同時にお腹の音が鳴る、お腹すいた。
ミケはあっという間に食べ終わって口を舐めてた。
「物足りん、もっとあるだろ!よこせ!!」
「ないよ…もうない」
逆らえない。だから正直にそう答えた。
「ふんっ!役立たず」
役立たず…僕は役立たず。
「おーいみんな来てくれ!このバケモノが俺のメシ盗んだんだ!」
「!?」
僕のごはんを盗ったのはミケなのに、ミケは僕がごはんを盗ったって大声でみんなを呼んだ。ミケの声を聞いて、僕達を囲むようにぞろぞろとみんなが集まって来た。
「ドロボウ!」
「違う…僕はそんなことしてない…」
恐くて声が上手く出せない。やってない…僕は何もしてないのに。
「ウソつくな」
「お前が盗ったんだろ」
「白状しろバケモノ」
みんなは口々にそう言って迫ってくる。恐い。足が震えて動けない。
「違う…僕じゃない…」
「黙れ!!」
僕を否定する声と同時にみんなが飛びかかってきた。
「僕じゃない…僕じゃない…」
殴られて蹴られる中で何度も呪文のようにそう唱え続けた。でも僕の味方なんて居ない、居ないんだ。
痛い…。でも、このまま大人しくしていればすぐ終わる。早く終わらないかな…苦しい。
「やめなさい」
その声が聞こえると、みんなの動きが止まった。
そう、お母さんがみんなを止めてくれたんだ。
「お母さん…」
お母さんが僕を助けてくれる、そう思った。
「退きなさい」
お母さんはみんなの間をすり抜けて、僕の目の前にやって来た。
「お母さん、僕…」
「お前は最低だね」
ミケのごはん盗ってないよ、そう言いかけた僕をお母さんはとっても冷たい目で見てる。僕は一瞬何が何だか分からなかった。
「お前みたいなバケモノに居場所を与えてやってるってのに、何が気に食わないんだい」
お母さん…?
「違うよお母さん…僕は…」
「お黙り!」
大きな声を張り上げたお母さんに、僕はもう言葉が出てこなくなった。
「ここがそんなに気に食わないんなら、さっさと出ておいき!あたしはあんたみたいな気味の悪い子どもを産んじまって恥ずかしいったらありゃしないよ!」
お母さん…お母さんだけは僕の味方してくれるって信じてたのに。今までずっとそう思ってたんだね。だから、僕のこと構ってくれなかったんだね。
もう、言葉なんて出てこなかった。ただ、胸の辺りがギュウッてする気がして動けなかった。
「出てけ!」
「消えろ!」
みんなが口々にそう言ってるのが聞こえる。お母さんは睨むように恐い顔で僕を見てる。
もう、ここには居れないだ。
そう思ったら、さっきまで動かなかった足が勝手に動いて走り出してた。
何を言われても、殴られても蹴られても大丈夫だったのに…。胸の辺りが痛い。涙だって勝手に出てきて止まらない。
さっさと出ておいき!。お母さんの声が頭の中をグルグル回ってる。僕なんて、居ない方がいいんだ。死んじゃった方がみんな幸せなんだ。
僕はひたすら走った。行く宛なんてないのに。
前も良く見ないで走ってたら、小さな石に足をとられて転んだ。周りは真っ暗。ここはどこなんだろう。少し遠いところでザーザー音がする。だいぶ走ったみたい、ちょっと疲れたから少し休もう。
これから、どうしようかな…。僕に生きてる意味なんてあるのかな。
「あら、見かけない顔ね。どうしたの?」