零章 月の軍師 2
プロローグ二回目です。
ミリタリー要素を深めるべきか自衛隊色に染めるべきか・・・と悩んでいます。
幻想郷は満月の夜だった。
軍用に改造した月の羽衣には、レーダーどころか月の光さえあれば誰の目にも映らないという特殊な繊維で作られているので、霊夢どころか幻想郷の賢者 八雲紫にすら見つかることなく竹林に降下した。
ついてきた兵士は月の使者のものとほぼ同じヘルメットを被り、ブレザーにサスペンダーとバックパックを装着している状態だった。収納コンテナから銃を取り出す。銃は、AK-74に酷似 (あるいはそのもの)しているが地上のものとははるかに高性能で、かつ相手の脳の中枢を一時的に麻痺させるグレネードランチャーを標準装備している。
構成する兵士は12名。
各自で装備に何も問題ないことを確認すると、グッドサインを送った。
「陽炎分隊、行動開始。」
彼についてきた玉兎達は地球降下を想定し、専門の訓練を受けてきた空挺部隊であった。
ただし、真軍の玉兎達は中隊から小隊等の 分隊 がまとまった部隊に所属しているが、彼女らに限っては、専門性や玉と本来の性格が原因で陽炎分隊一個しか存在しなかった。
それゆえ、一個分隊のみ、あるいは単体での独立行動が取れるようにも訓練してきた。
訓練の結果、とてつもない適応能力を身につけ、あっという間に重い地球の重力に慣れてしまった。
一言も声を出すことなく、竹林を前進した。
もちろん音も一切出さない。
しかし、
「こんばんわ。何してるの?」
早速見つかった。
何故と一瞬焦ったが、見つかるのも当たり前だ。
見つけた相手は 兎 だったから。
「君たち甘いよ。こそこそと何やってんだか知らないけど、永遠亭からでも簡単に聞こえるんだから!」
兎は調子に乗って、ペラペラと話し始める。
聴いていた真軍は
「永遠亭・・・。」
すぐ横にいた玉兎にハンドサインを送った。
サインを受けた玉兎は、すぐさま小銃についているグレネードランチャーを発射した。
空中で爆発し、兎はその場で倒れると、痙攣を起こした。
「手荒な真似をして済まない、永遠亭と聞いたのでな。教えてくれないか?脳の中枢を一時的に麻痺させたとは言え、話せるはずだ。」
「ひ・・・む・・・むり・・・はやせやせん(話せません。)」
兎は手足をビクビク震わせながら、そう答えるでけで精一杯であるようだ。
「やはり地上の妖怪には効果ありすぎたか・・・。」
とつぶやくと
「何しているの!?」
背後からまたもや兎が現れた。しかし今度は背筋が伸びてる。
「ほう・・・君は玉兎かね?」
「ええ、そうよ。私の目を見て狂わずにいられるかしら?」
兎はそう答えると、目が妖しく光る。
しかし、真軍は わざと 目を合わせてきた。
同時に真軍の目が赤く染まる。
鈴仙はふらりと近くの竹に寄りかかり、しばらく放心状態になった。
「鈴仙・優曇華院・イナバ・・・か。
君を玉兎と呼ぶ人間は月の者しかいないはずだ。目を向けることは自滅行為だと教えられているだろう。」
真軍は再び鈴仙の目を見た。
・・・完全に輝きを失ってる。思いのほかうまくいったな。
「急遽変更だ。近くにキャンプを構える。」
「はっ!」
分隊は近くの竹林に姿を消した。
一週間後
澤森一等陸佐は自衛隊の特務部隊を引き連れ、幻想郷に立っていた。
―大丈夫よ。あなたならうまくやっていけそうだわ―
ふと女性の声がした。
約60年もの間、平和を享受していた日本にテロが起こった。扶桑という敵に。
正体もつかめぬまま警察と山中で激しい攻防戦になった。
もちろんテロ組織に機動隊が勝てるはずもなく、SATはおろか自衛隊出動すら決断した時
「私はこの国の楽園の賢者、八雲紫 です。扶桑からこの国を救って差し上げましょう。
その代わり・・・少し頼みたいことがあるのです。」
突然八雲紫名乗る奇抜な服装に加え怪しげな雰囲気を放つ女性がその姿を見せた。
最初はその場にいた警官に取り押さえられ、署に連れて行かれたが、すきま を使い再び首相の目に戻り、境界線を弄る事で一分間首相を 幻想入り させてしまった。
さすがの日本政府も重い腰をあげ、彼女に協力することになった。
結局紫が現実世界の扶桑を片付けてしまい、後は幻想郷にいる残党討伐のみとなった。
残党討伐は陸上自衛隊の普通科連隊、対戦車ヘリコプター隊による大規模な作戦を展開することとなった。
幻想郷の賢者が政府に協力しているため、地形や生態系、環境などは知り尽くしているが、現実世界の人間が90%以上妖怪の巣窟になっているこの幻想郷でどれだけ生存できるのか、また扶桑がどんな動きをしているのかを 偵察 すべく、防衛省 特務機関隷下の第一特務中隊 第四特務中隊 普通科中隊 からなる 特殊偵察隊 の編成がおこなわれ、幻想郷に派遣された。
この地において車両が居るどうか議論になったらしいが、後方支援や継続能力の関係や自衛隊車両の実戦データを得るという口実の元、特殊偵察隊に車両の配備が決定した。
車両は 82式通信指揮車 87式偵察警戒車 10式戦車 96式装輪装甲車 軽装甲機動車4両 高機動車 73式小型トラック2両 73式中型トラック2両 七トントラック 14両である。
できるだけ威圧的な兵器|(10式戦車等)の配備は控えて欲しいという意見があった為、戦車であるのにもかかわらずデータリンクシステムを利用することで 端末車両 として82式通信指揮車とセットで運用されるということになった。
おそらく防衛省が 10式戦車はこういった運用法もある。もし災害等でネットワークが麻痺した際、臨時の通信端末にもなるし、福島以上の原発災害の際にも指揮車両として対応が取れる。だから、ただ大砲をうち、走行車両を破壊するだけの車両と思わないでくれ。 なんて財務省に売り込みをするんじゃないだろうか。
確かにパソコンや携帯電話、スマホですら使えるようになる。ただ、それなりのアップグレードを行う必要があるが。まあ、インストール一つでそれができるようになるんだからそれは問題ない。
だが、本当に防衛省が財務省にそのような売り込みをする気なら少し情けないかもな・・・。
とにかく、澤森はそう考えながら10式戦車と82式通信指揮車を見つめていた。
「たしかここは無縁塚って言ってたな。」
地図を確認し、ここが無縁塚であるとわかると、早速小型UAVを飛ばすことにした。
小さな機体が静かに飛行していった。
「火口・・・おい、火口!」
澤森はCP|(指揮所)のテントの入口をあけ、火口を探す。
「き・・・貴様!」
東方projectと書かれた同人誌を顔にかぶせ、椅子に寄りかかるように寝ていた。
「起きろ!地上任務だ!」
澤森は、火口をたたき起こした。
「ん・・・ふあああ・・・おはようございます・・・。」
・・・・。こんなやつが第四特務中隊の 指揮官 とはな。
火口隆馬 三等陸佐。
彼は、一応特務隊の指揮官を務めるほどの実力どころか、防衛大臣と親交を深めるほど認められている男だ。
正直自分でも思わず嫉妬するくらい演習では、優秀なのだが、少し・・・まあ、少しで許そう、怠慢グセがある。
そしてなによりこんな態度とってるくせに幻想郷派遣に起用された最大の理由は、東方projectオタク であることだ。
オタクとしては普通と自分では言っているが、多分この部隊の中では一番詳しいだろう。
この二つの要因があって、幻想郷派遣に編入されることに至った。
「偵察だ。この先の再思の道から魔法の森に出てくれ。
実は細かいルートがわからんから、道なりに進んでUAVから撮影される航空写真を参考に細かな地図を作成して欲しい。」
「んー・・・」
「大丈夫だ。お前は有名なアニメーターやゲームメーカーから一般ゲストとして起用されるほどの画力はあるじゃないか。地図くらいどうってことないだろ?」
「え・・・?あんま関係ない話だと思いますが・・・頑張ってみます。」
火口は頭を人差し指で掻きながら答えた。
ちなみにアニメやゲームに起用されたのは本当だ。火口が制作した同人ゲーム・火口が関与した公式ゲームを買ってクリアした所、キャストのゲスト欄に火口のコードネームがペンネームになっていたことに気づいた。
本気で殴ってやろうという怒りと衝動を抑え、苦しんだ記憶が未だに薄れないからだ。
「では、」
火口と第四特務中隊の隊員をを乗せた高機動車と96式装輪装甲車の二両が無縁塚を後にした。
澤森はこれを見送った。