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第八話「先輩」
「やめてよ」
「……」
ふっとキーボードから手を離す。
そして声のあった方にゆっくりと身体を向ける。
月明かりに照らされている先輩が立っていた。
「どうして……殺したはず……」
僕はボソリといった。
後ろから嫌なほど苦しい悲鳴が聞こえてくる。
「あなたは……殺せなかったよ」
「そんな……」
僕は体中の力が抜けてその場に崩れ落ちた。
その一言は僕のすべてを意味していた。
「僕は……先輩のことが好きだったんだ」
「……うん」
先輩は頷いた。
「だから僕は殺せなかった」
「そう」
「じゃあ、僕……どうすれば」
それに対する返事はなく、ふっと先輩が優しく僕を包んだ。
あぁ……懐かしい。
いつしかこんなことがあったっけ。
僕はそんなことを思った。
優しい先輩に抱かれ、僕は静かに意識を失った。
先輩。
ありがとうございました。




