第五話「つまりは、そういうことだ」
頭の中は先輩のことでいっぱいだった。
というか、先輩のコト以外を考えることはもう僕に到底できなかった。
入院を何度も進められたが断った。
僕は、先輩の近くにいたい。
そんなある時、ふと公園の近くを歩いていると人影が目に入った。珍しいので目をやってみると――
「せ、先輩っ!?」
先輩が見知らぬ男と口づけをしていた。
「く、國枝くん!?」
僕はショックでその場に倒れこんだ。
そこで意識は途絶えた。
つまりは、そういうことなんだろう。
意識が戻ったときには病院のベッドの上だった。
真っ白な部屋。簡素な作り。
――先輩の顔。
先輩は僕の意識が戻ったことを確認すると、ゆっくりと話し始めた。
あのね、國枝くん。
私、高校……進学できなかったんだ。したくても、できなかった。
両親を人質にとられているの。
私は解放して欲しいと願い、奴らの願いを聞き入れた。
それが今。あなたのそばにいること。
精神的異常なあなたの心に漬け込んで、あなたを私の言いなりにする――というのが命令。
私は苦しかった。
久々に見る大切な後輩の顔が、変わり果てていたのを見ること。とてもできなかった。
だけど奴らの目的はその先にある。
あなたに人殺しをさせる。
そうだったの。奴らの目的は人を殺めること。しかも、無差別に。
もうこれ以上は話せない。
あなたが無事に回復してくれれば、それでいい。
*
「……ということは、さっきのは先輩の恋人……」
「……そういうこと」
僕……何してんだろ。
行かなきゃ。
もう、もう、もう……!
*
「よぉ、ずいぶんと喋ったようだな」
「……っ、あなたは!」
気がつくとドアの前に大柄な男が立っていた。
「まあいい。どっちにしろもう手遅れだ。奴の精神はすでに崩壊している」
私は彼の方を見た。目は虚ろげで何か口をパクパクさせている。
「ね……え、國枝くん……?」
「先輩……どうして……そばに」
「はははははっ! いいよいいよ、その感じ。さて――國枝くん」
國枝くんは男のほうを見た。
「お前の身体には最先端の技術が詰め込まれている。君、パソコン使えるだろ」
そう行って鞄からノートパソコンを取り出した。
「このソフトで君の身体を自由自在に操れる。どんな事でも出来る。物理法則なんてない」
「……殺せるのか、殺せるのか」
やめて……
「あぁ、もちろん」
やめてよ……人殺しなんて……
「くそ……死ね」
やめてよ……
「國枝くんっ!」
「死ねぇえええええええええええええええええええ!」
「っ――!!!!」




