第二話「発展する事態」
その小説は転送に転送を重ね、またたく間に広まっていった。
そして僕はそのことをいちいちみんなから言われるようになった。
そのたびに否定した。だけどみんな信じなかった。
「お前が卑猥な小説を女子に送ったという噂を聞いたんだが……止めようと思ったんだがお前ならやりそうだなと思って黙ってた」
僕の友人でさえこの有様だ。笑えるよな。
「あっははは! そりゃ面白いな」
笑ってやったさ。笑い飛ばさなきゃ僕の精神は何れ限界が来る。そうでもしなきゃ、この事態は乗り切れそうにない。
僕はそんなことがあっても部活に出席していた。今思えばよくやったと思う。廊下を歩けばみんなが脇により、話しかければ無視される。日常茶飯事だ。
「……」
「……」
あれだけ好きだった四万さんと目を合わせるのが嫌になった。彼女もあからさまに僕を避けるようになり、噂では僕の名前を聞くだけで気分を悪くするそうだ。今まで見てきた四万さんとは全然違う一面に思い、とても信じられなかった。
だけどもう取り返しのつかないことだった。
事態は悪化をたどる一方だ。
僕はだんだん精神的に苦しんでいった。
みんなの目が怖い、頭が痛い。
夜が長い、眠れない。
どうしようもない不安感、めまい。
吐き気、動悸。
そしてとうとう学校を休んだ。
もう嫌だよ。こんなの。
「そうだ……」
仕返しをしよう。あいつに最低最悪なことをしてやればいい。
僕はネット上で調べながらJavaScriptを構築し、奴に送りつけることにした。
久々にメーラーを起動し、奴にそれを送る。
「冗談だろ……?」
返ってきたのは、そのメルアドが使われていないという内容のもの。こうなることを先に読んで変更したというのか。僕はそこでパソコンを閉じ、布団に戻った。
どうすればいいんだ。
そして二日後、僕は学校に復帰した。
特に変わっていない。
いつもの日常。
だけど相変わらず皆は僕を軽蔑の眼差しで見てくる。
被害妄想かもしれないけれど、それだけ僕は病んでいるのかもしれない。辛かった。部活にはもうずっと出席していない。吹奏楽部には下嶋がいるからだ。あいつと一緒の空気は吸いたくない。それに行っても周りは敵だらけ。去年までたくさんいた男子部員のほとんどが三年生。もう卒業して部活には僕しか男子部員がいないのだ。
「ねえ」
僕が部活をサボって靴を履いていると目の前に二本の足が並んだ。僕は顔を上げずに立ち上がった。
「部活、ちゃんと来いよ」
「……っ!」
「サボるなよ」
僕はそいつの脇を通りぬけ外に出た。
雨が降っている。傘は持ってきたが下駄箱だ。奴がいる。戻れない。走って帰ろう。
僕は歯を食いしばって走りだした。
このままどこかに逃げたかった。
どうしても、そうしたかった。




