悲惨な事故の生存者
「ようこそ、いらっしゃいました。私はこの屋敷のオーナーです」
多くの人々が遊園地。
その中の一つ、幽霊屋敷。
案内人らしき青年は丁寧な動作でお客様へ挨拶をした。
「お二人はこの屋敷で何があったかご存じですか?」
その言葉の直後。
頭上から女性が落ちてきた。
怖がりのくせにここに来た客の多くが悲鳴をあげた。
「安心して。作り物だよ。それかCGか。いずれにせよ、よくできている」
「そう。そうだよね……」
おそらくは幽霊など信じていないであろう者が小声で話す。
実際、落ちてきた女性は倒れ伏したまま氷が解けるように消えた。
その通りだ。
こんなこと実像があれば出来るはずもない。
「ふふふ。もちろん、ご存じですよね」
青年はやはりプロだ。
客が作り物だと分かっていても眉一つ動かさない。
それどころか、役に入り切って説明を続けていた。
「そう。この屋敷は数十年前に悲惨な火事があり、一家全員が命を落としました。今の女性は逃げる途中で足を踏み外し上階から落ちて命を落としたこの屋敷の奥様です」
そういう設定だ。
そう分かっているのにやっぱり少し怖い。
ううん。
滅茶苦茶怖い。
そんな内心が聞こえてきそうな客の様子に微笑みながら青年は言葉を続ける。
「多くの人が亡くなりました。屋敷のご主人も。奥様と姉妹のように仲の良かった使用人も。使い走りの少年も……今から私がこの屋敷をご案内いたします。なにせ、お二人は本物の幽霊を見たいからこの場所に来たのだから」
「確かに本物にしか見えなかったよ。だけど、所詮作り物だ」
誰かがそう言った。
ショーを見る側としてはアウトな言動ではあるけれど、だが同時に健全な反応だ。
「ふふふ。そう思うのもご自由です。さぁ、ご案内いたしましょう。未だこの世を彷徨う幽霊の住まう屋敷の中を――」
*
「お疲れさまでした。どうぞ、足元にお気をつけてお帰りください」
そう深々とお辞儀をして青年は客を見送った。
今日もまた多くの客が幽霊屋敷の恐ろしさに身震いし悲鳴をあげていた。
当然と言えば当然だ。
この幽霊屋敷はそんじょそこらのものと違う。
何せ――。
「いい加減、普通に働いてほしいのだけれど」
客達に声が聞こえない距離となってから、屋敷の奥様が青年へ言った。
「うるせえな。ちゃんと働いているじゃねえか」
ぶっきらぼうな青年の言葉を聞いて黙り込む奥様の後ろから屋敷の主が現れて思い切りゲンコツをする。
「親父。いい加減学べよ。幽霊の手じゃ俺を殴れねえよ」
「それが口惜しくて仕方ない」
「諦めな。俺を残して死んだアンタらのせいだろ」
そう言って青年は振り返る。
真っ黒こげになった全身からは表情も何も伺えない。
「それにしてもとんでもない人に成長しちゃいましたね。お坊ちゃまは」
呆れ言葉を吐きながら使い走りの少年が現れる。
倒れてきた柱のせいで体はぺしゃんこだ。
服の下なんて想像もしたくない。
「まったくですよ。悲惨な火事の最後の生存者がなさることですか」
当時、幼かった青年を何とか逃したものの煙に巻かれて命を落とした使用人の女性が現れる。
そう。
この屋敷に出てくる幽霊は皆、作り物ではなく本物だ。
あの事故から二十年あまり。
青年の涙ぐましい努力により、紆余曲折の末に凄惨な事故の現場は遊園地の人気アトラクションとなっていた。
「まさか、身内の死を最大限に利用する悪人に育つなどとはな」
黒こげの屋敷の主の言葉に青年は吐き捨てた。
「前を向いて立派に生きていると言ってほしいけどな――ほれ。次の客がそろそろ来るぞ。持ち場へ戻れ、死人ども」
このアトラクションは今日もまた盛況だ。




