未来へつなぐバラード
「命のノート」
博多へ帰る電車の中。窓の外は茜色から群青へとゆっくり移ろい、線路沿いに続く夏の田畑や家並みが次第に夜に溶けていった。
光子はカバンから小さなノートを取り出し、ペンを走らせる。
「ねぇ優子、今の気持ち、忘れんうちに言葉にしとかんと」
優子はうなずきながら、真幸を抱いたときの感覚を思い出す。あの柔らかい温もり、小さな笑顔、そして美香のお腹に宿るまだ見ぬ双子たちの存在。胸が熱くなり、自然に言葉がこぼれた。
「生まれてきてくれて、ありがとう」
「小さな鼓動が、未来を照らす」
光子はそのフレーズを聞くと、即座にノートに書き留める。
「よかね、その言葉。歌にできそう」
二人は交互に思いついた言葉を紡いでいった。
「命のぬくもりは、涙より強か」
「笑い声は、悲しみを越えていく」
「あなたが笑うだけで、世界は優しくなる」
ページはあっという間に言葉で埋まっていく。車窓に映る自分たちの顔は、どこか少し大人びて見えた。
「この曲、きっと美香お姉ちゃんに聞かせたいね」
「うん。お腹の赤ちゃんたちにも。胎教やん」
二人は声を合わせて笑った。
その笑い声もまた、新しい命に届くように――。
美香が最初に感じた命の鼓動を言葉にしてノートに書き留め、それをファイブピーチ★のみんなに見せる。
光子と優子は子どもの目線から「生まれてきてくれてありがとう」という素直な言葉を足し、郷子さんは「守りたいものがあると強くなれる」という母親としての実感を添える。温也くんは「失った命と、いま腕に抱ける命」とを重ね合わせ、静かに音に託す。
最初は寄せ集めのように見えた言葉が、やがてひとつの旋律に導かれるようにつながっていく――。
誰か一人の曲ではなく、全員がかかわって生まれる曲。そこに「命の温もり」を未来へと渡す想いが込められていく。
少し物語風に描くとしたら、
「ノートの真ん中に書かれた美香のフレーズを、光子と優子が覗き込み、鉛筆で自分の言葉を加えていく。郷子が涙ぐみながらも微笑み、温也がギターを手に取って和音を探す。やがて誰かの声が歌になり、誰かの想いがメロディに変わり、音楽室に新しい“命の歌”が響いていった。
タイトル:「いのちのうた ― 未来へ渡す温もり」
音楽室に集まったファイブピーチ★。
机の真ん中には美香のノートが開かれている。そこに、彼女が震える手で書き留めた最初のフレーズがあった。
「あたらしい鼓動が ここにいる
ぬくもりが 私の胸に 答えてくれる」
光子と優子が顔を見合わせ、同時に声をあげた。
「これ、めっちゃきれいな言葉やん!」
「生まれてきてくれるって、なんか奇跡やろ」
ふたりは鉛筆を取り合うようにして、ノートに文字を重ねていく。
「ありがとう 生まれてきてくれて
あなたの笑顔に 出会える日を待ってる」
「わー、うちら詩人やん!」と光子が得意げに叫ぶと、優子がすかさずツッコミを入れる。
「いや、調子乗りすぎやけん!」
笑いながらも、郷子は真幸を胸に抱きながら、その言葉に頷いた。
「ほんとにそう思う。命って…守りたいって気持ちがあると、人は強くなれるんよ」
温也がギターを手に取り、静かに弦を鳴らした。低くあたたかい音が響くと、みんなの言葉が自然とリズムに乗り始める。
「ほら、こうやったらAメロっぽくなるやろ?」
「サビはやっぱり全員で一気に歌い上げたいね!」
光子と優子がハモリを試し、美香が旋律を整え、由美がピアノでコードを重ねる。
次第に、音楽室の空気は熱を帯びていった。
そして数日後。録音したデモ音源を温也と郷子に送ると、二人から返ってきたメッセージには、手直しの言葉と共に、こんな一文が添えられていた。
「命は受け継がれていくもの。歌にもその願いを込めてほしい。」
その言葉を受けて、ファイブピーチ★は最後のサビを書き換えた。
未来を生きる子どもたちへのメッセージとして――。
⸻
完成した歌詞
いのちのうた ― 未来へ渡す温もり
1.
あたらしい鼓動が ここにいる
ぬくもりが 胸の奥で 答えてくれる
小さな手のひら まだ見えなくても
きっと届くよ 愛のメロディ
(サビ)
ありがとう 生まれてきてくれて
この世界に 光があふれる
つなぐよ 未来へと
いのちの歌を 響かせよう
2.
守りたい想いが 力になる
涙さえ 勇気に変えて 歩いてゆける
失った悲しみも 抱きしめながら
いまここにある 奇跡を歌う
(サビ)
ありがとう 生きてくれていて
その笑顔が 私を強くする
わたしたち 手を取り合い
いのちの歌を 渡してゆこう
(ラストサビ)
ありがとう 生まれてきてくれて
ありがとう 生きてくれていて
ずっと 未来まで
いのちの歌を 響かせよう
あふれる愛で 守り続ける
⸻
最後の音が消えた瞬間、みんなはしばし黙り込んだ。
光子が小さく呟く。
「…なんか、ほんとに赤ちゃんが歌わせてくれた気がする」
その言葉に、美香は涙をこらえきれず、笑いながら頷いた。
「うん…この歌はね、みんなで産んだ命だよ」
「未来へ紡ぐバラード」
静まり返ったスタジオの中。
マイクの前に並んだファイブピーチ★の五人は、互いに小さく息を合わせるように視線を交わした。
ピアノの前に座る由美が、最初の音をそっと落とす。やわらかな和音が空気を震わせ、時間の流れさえゆるやかになる。
光子が一歩前に出て、震えるように最初のフレーズを口にした。
「――あたらしい鼓動が ここにいる」
その声はまだ幼さを残しながらも、命の奇跡を確かに抱きしめる響きを持っていた。
続けて優子が重ねる。
「ぬくもりが 胸の奥で 答えてくれる」
二人の声が寄り添い、まるで母と子の対話のように響く。
そこへ美香の力強い声が加わる。
彼女の歌には、母になる覚悟と、未来を見つめる優しさが宿っていた。
「ありがとう 生まれてきてくれて
この世界に 光があふれる」
温かさに包まれたその言葉を、アキラが柔らかなテナーで支える。
「つなぐよ 未来へと――」
そして由美の透明な声が、最後の一行を澄み切った空に放った。
「いのちの歌を 響かせよう」
五人の声が重なった瞬間、スタジオは祈りのような静寂に包まれる。
誰もが無言のまま、音に耳を傾け、心で感じていた。
サビを越えるごとに、声は力強さを増し、それでも決して急がず、ただ一歩ずつ、未来へ向かって歩むように歌い続けた。
涙を浮かべながら歌う美香を、光子と優子がちらりと見て、そっと笑いかける。
「だいじょうぶ、みんなおるけん」――その笑みには、歌よりも雄弁なメッセージが込められていた。
最後のフレーズ。
「ずっと 未来まで
いのちの歌を 響かせよう」
五人の声が一つになり、ゆっくりと空に溶けていく。
録音ブースの中で、赤いランプが静かに消えた。
誰もすぐには口を開かなかった。
ただ、胸の奥に残された温もりを確かめるように、目を閉じていた。
やがて光子が、小さな声でぽつりと言った。
「…この歌、真幸くんにも、まだ見ぬ赤ちゃんにも届いたらいいな」
その言葉に、全員が深く頷いた。
歌はただの音ではなく、未来への祈りそのものだった。
「響いた歌、広がる命の輪」
1ヶ月後。夏の陽射しが少し和らいできたある日、ファイブピーチ★は全国放送の音楽番組に出演していた。舞台袖に立つ光子と優子は、深呼吸をしてから顔を見合わせる。
「今日ばいね、私たちの『いのちの歌』、ちゃんと届くやろか」
「届くよ。ぜったい届く。…だって、心から歌うけん」
やがて照明が落ち、ピアノの静かなイントロが流れる。
メンバー全員の声が重なり、会場に柔らかな響きが広がった。スローなバラード「いのちの歌を響かせよう」。歌う彼女たちの瞳はまっすぐで、観客席に、テレビの向こうに、命の尊さと未来への希望を伝えていく。
歌い終えた瞬間、スタジオはしんと静まり、やがて大きな拍手と涙交じりの歓声に包まれた。
その直後、美香が少し緊張した面持ちでマイクを握る。
「実は…来年の春、母になります。しかも双子なんです」
会場から驚きと喜びの声が上がる。光子と優子は隣で「おばさんになる実感、まだ全然なかけどね!」と笑いをこらえきれずにこっそりつぶやく。
番組放送後、SNSには感想が溢れた。
「涙が止まらなかった」
「命をテーマにした歌に救われた」
「美香さん、おめでとうございます!」
「ファイブピーチ★の歌は、ただの歌やなかった。生きる力をもらった」
「新しい命の話に、心が温まった」
そんな言葉が日本中を駆け巡った。
光子と優子はスマホを手に、感想の投稿を次々と読み上げては笑い、時に涙を浮かべた。
「お父さんお母さん、見た? うちらの歌、ちゃんと届いたっちゃね」
「しかも、美香お姉ちゃんのおめでたも、いっぱいお祝いのコメントばもらっとる!」
その夜、小倉家のリビングには笑顔があふれていた。音楽を通して届けた「命の歌」が、多くの人々の心に灯をともしたこと。そして、美香の新しい命の知らせが、さらにその光を大きく広げていた。
「北の大地に響く笑顔の歌」
夏休み。ファイブピーチ★は全国ライブツアーの一環として、初めて北海道へと足を運んだ。目的地は新しい聖地――エスコンフィールド北海道。
大きな会場に詰めかけた観客の熱気は、夏の青空にも負けないほど。光子と優子は舞台袖で深呼吸をして、メンバー全員と手を合わせる。
「よっしゃ、北の大地にも、うちらの笑いと歌、届けるばい!」
「今日は特別やけん、ギャグ鉢巻も準備しとる!」
舞台に飛び出すと、観客の大歓声が迎える。
最初はアップテンポなナンバーで一気に会場を温め、続いてトークコーナーでは双子の掛け合いが炸裂。博多弁でのボケとツッコミに、札幌のファンも腹を抱えて笑った。
「北海道ラーメン食べすぎて、体重がうにゃだらぱー!」
「どげな単位ね、それ!」
観客が笑いの渦に包まれる中、ステージの雰囲気は一気に和やかに。
そして後半、静かに照明が落ち、バラード「いのちの歌を響かせよう」のイントロが流れる。観客席にはペンライトが揺れ、青白い光が波のように広がっていった。
光子と優子は互いに目を合わせ、心を込めて歌い出す。北海道の空に、音楽と想いが重なり、会場全体がひとつになった。
歌い終えた瞬間、観客は総立ちとなり、鳴り止まぬ拍手と歓声が会場を包み込む。涙をぬぐう人も多く、その姿にメンバーは胸を熱くした。
ステージの最後に、優子がマイクを握る。
「今日ここで歌えたこと、一生の宝物です。命は大切で、そして笑うことはもっと大切。うちら、これからも日本中に笑顔と歌を届けていきます!」
その言葉に再び大きな拍手が巻き起こる。
ライブを終えた後、控室でメンバーは北海道ならではのジンギスカン弁当を囲み、笑い合った。
「観客の笑顔、めっちゃすごかったね!」
「うちらの歌、北の大地にも響いたんやね」
外では夏の夕暮れが広がり、遠くには大地を駆ける風の音が聞こえていた。ファイブピーチ★の新しい旅が、また一歩、大きな未来へと広がっていくのだった。
「北の大地を震わせた笑顔の歌声」
翌朝、北海道新聞の一面の片隅には、こんな記事が掲載された。
ファイブピーチ★、エスコンフィールドで初ライブ
福岡発の人気グループ「ファイブピーチ★」が、夏休み特別ツアーとして北広島市のエスコンフィールド北海道でライブを開催した。
会場には全国からおよそ二万人の観客が集まり、笑いと涙の渦に包まれた。
特に、新曲『いのちの歌を響かせよう』は会場を一つにし、観客の中には感極まって涙を流す姿も多く見られた。
メンバーの一人、美香さんが来春に出産を控えていることも発表され、拍手と祝福の声が響いた。
記事の写真には、鉢巻を巻いておどける光子と優子、そして真剣に歌う五人の姿が並んでいた。
――SNSも大盛り上がりだった。
#ファイブピーチ北海道ライブ がトレンド入りし、投稿があふれる。
•「笑いすぎてお腹痛いw 北海道に笑いをありがとう!」
•「新曲バラード、涙腺崩壊…。命って尊いって改めて感じた」
•「美香ちゃんおめでとう!ママになっても応援するよ!」
•「ギャグ鉢巻、どこで買えるん?公式通販はよ!」
•「双子ちゃんの掛け合い、札幌ドーム並みに爆笑」
その熱気は、まるでライブ会場の余韻がSNS空間にまで広がっているかのようだった。
光子と優子はその夜、ホテルの部屋でスマホを見ながら顔を見合わせ、笑った。
「お父さんの鉄板ネタ、全国区になっとるやん」
「ほんとやね。次は世界デビュー狙おうか〜?」
二人の笑い声が、夏の夜の北海道に溶けていった。
「新千歳空港に響く笑顔の余韻」
ライブから一夜明けた朝、新千歳空港はまだ夏休みの旅行客で賑わっていた。
チェックインを終えたファイブピーチ★の五人が出発ロビーに姿を現すと、そこには前日のライブを観に来ていたファンたちが、手作りの横断幕や色紙を手に集まっていた。
「ファイブピーチ★、ありがとうー!」
「また北海道に来てねー!」
温かい声援に、光子と優子は思わず手を振って駆け寄る。
「昨日のライブ、来てくれとったと?」
「うん!双子ちゃんのギャグ鉢巻、最高だった!」
笑いながら写真を一緒に撮り、サインを書きながら、ふと光子がファンの一人の小学生の女の子に声をかけた。
「鉢巻、気に入ったん?」
「うん!うちも、うにゃだらぱーの鉢巻欲しい!」
「それ、公式通販で買えるとよ〜。届いたら一緒に巻いて勉強しぃよ」
女の子は嬉しそうに頷き、お母さんと顔を見合わせた。
一方、美香はお腹をそっと撫でながら、ファンから差し出された小さな花束を受け取る。
「赤ちゃんも一緒に応援してます!」
その言葉に、美香は瞳を潤ませながら微笑んだ。
「ありがとう…この子たちも、みんなに会える日を楽しみにしてると思う」
アキラは控えめに荷物を抱えつつ、ファンから「お兄さんも鉢巻して!」と冷やかされて苦笑い。
横で光子がすかさず叫んだ。
「アキラにいちゃん、次の演奏会は“モレモレマン鉢巻”で登場決定〜!」
空港に笑いが広がり、美香のツッコミが響いた。
出発ゲートに向かうとき、ファンたちが一斉に拍手を送る。
その音に包まれながら、五人は振り返り、深く一礼した。
「また必ず戻ってくるけん!」
そう告げてゲートをくぐる姿に、北海道のファンたちは目を輝かせながら手を振り続けた。




