おばさんになる日?
夕方、勉強を終えた「必笑受験塾」のメンバーたちは、リビングに集まっていた。光子と優子が、にこにこと笑いながら口を開く。
「みんなに、ええお知らせがあるっちゃ!」
朱里や樹里、さおり、拓実が顔を上げる。いつもの鉢巻は外しているが、その代わりに期待と好奇心が顔いっぱいに広がっている。
光子が少しはにかみながら話す。
「美香お姉ちゃん、妊娠3ヶ月やって!」
優子も嬉しそうに続ける。
「来年の春には、うちら、おばちゃんになっとるけん。でも、絶対光子お姉ちゃん、優子お姉ちゃんって呼ばせるとよ〜!」
その瞬間、さおりは目を丸くして、
「え、ほんとに?うそ〜!」
樹里も思わず笑顔になり、拓実は驚きとともに、
「お、おめでとう……!」と口ごもる。
光子はニコニコしながら、
「まだ二人ってことは内緒やけん、みんな焦らさんでね。もう少ししたら分かるとよ。」
朱里が、わくわくした顔で聞く。
「二人!?どんな感じになるんやろうね〜。」
優子は手を叩いて笑う。
「それはね、もうちょっと先の話やけん、楽しみにしとくとよ!」
三人の双子が笑顔で話す横で、さおりも樹里も、拓実も、自然と笑みがこぼれる。勉強で汗をかいた後のこの時間は、ただの学びの時間ではなく、みんなの絆をさらに深める温かいひとときとなった。
光子と優子の目には、これから迎える春の未来が、少し先の景色として、ふわりと浮かんでいた。
「来年の春、楽しみやね〜」
「うん、絶対楽しくなるっちゃ!」
みんなの声が重なり、リビングは笑顔と希望で満たされる。そこに漂うのは、受験への決意だけでなく、家族の新しい物語の始まりを祝福する、柔らかい春の空気だった。
夏休みのある日、光子と優子、さおり、朱里、樹里は、今日は拓実の家で「必笑受験塾」の勉強会を開くことになった。外はまだ朝の光が眩しく、風は少し強めに吹いている。
拓実の家に到着すると、リビングは広々としていて、机や椅子が整然と並んでいた。拓実は、みんなを迎えながらにこやかに言う。
「おう、みんな来たね。今日は俺ん家でやけど、勉強はもちろん、笑いも忘れんばい。」
光子は、鉢巻を頭に巻きながらニヤリ。
「うにゃだらぱ〜!」
優子も負けじと鉢巻を巻き、声を張る。
「うにゃ〜あじゃぱー!」
朱里と樹里は目を丸くして、「何その鉢巻……」とツッコミ。さおりも吹き出しそうになりながら、
「また小倉家伝統の必笑鉢巻ね……」
机には教科書やノートが広げられ、さっそく勉強が始まる。しかし、双子ちゃんの鉢巻効果は絶大で、計算問題も国語の読解問題も、いつの間にか笑いが混ざり、正しい答えを出すより、誰が先に笑わせるかの勝負になっていく。
拓実も負けじと、机の下で脚を使った小さなギャグを仕掛ける。「ほら、机の下でスリッパ落とすと音が笑えるんやけど!」
朱里はくすくす笑いながら、
「拓実まで参戦しよる〜!」
さおりは少し顔を赤らめつつも、いつしか鉢巻をぎゅっと握り、
「よし、負けんけん!」と声を出す。
その日の勉強会は、真面目な勉強というより、笑いとドタバタが混ざった「必笑受験特訓」となり、気づけば時間はあっという間に過ぎていた。
勉強の合間に、光子がふとみんなに言う。
「そうそう、来年の春には美香お姉ちゃんの赤ちゃんが生まれるけん、うちらお姉ちゃんになるっちゃ!」
優子もにこやかに続ける。
「名前は春海と春介になるかもやけん、楽しみやね〜!」
拓実は驚きと笑いを同時にこらえながら、
「お、おばちゃんって……いや、お姉ちゃんか……すごかね。」
さおりも朱里も樹里も、笑いながらも、どこか温かい未来を思い描く表情になる。
そして夕方、勉強会は一旦終了。外に出ると、夏休みの夕暮れの光が柔らかく街を照らしている。
光子と優子は、手をつなぎながら、
「さあ、次はどんな必笑ギャグが待っとるやろ?」と笑う。
拓実もにやりと笑って、
「俺も負けんけん、次回は俺が何か仕掛けるばい!」
笑いと勉強、そして家族や友達の未来の話が入り混じる時間。これが双子ちゃんたちの夏休みの一日、そして成長の一コマとなるのであった。
次の勉強会の日。拓実の家に集まった双子ちゃんたちは、またもや鉢巻スタイルで登場した。光子は「うにゃだらぱ〜」の鉢巻に加え、今日はさらに「美の焼酎鉢巻」を頭に巻いている。優子も負けじと同じ鉢巻を装着。
朱里や樹里、さおりはまた目を丸くして、机の前で立ち止まる。
「また、意味わからん鉢巻……」
拓実も思わず吹き出す。
「これ、もはや必勝でも必笑でもなく、美の焼酎鉢巻って……どういうコンセプトやねん!」
光子はニヤリと笑いながら、
「これ巻いたら、頭の中がシュワっと爽快になって、勉強も笑いも倍増するっちゃ!」
優子も得意げにうなずく。
「そうそう。これで、うにゃ〜あじゃぱー効果もパワーアップばい!」
朱里はため息混じりに、
「ま、まあ……光子と優子が楽しければそれで……」
さおりもくすくす笑いながら、
「ほんと、毎回どんな鉢巻が出てくるか、予想できんばい。」
机に向かい、ノートを開くと、勉強の合間にも双子ちゃんの鉢巻トークが炸裂。光子が問題を解きながら、
「ほら、見てみぃ、この美の焼酎パワーで、漢字もすらすら出るったい!」
優子は負けじと、
「こっちは理科の計算も、うにゃ〜あじゃぱーで、瞬間理解やけん!」
拓実は呆れつつも、
「いやいや、鉢巻で理解力上がるとか聞いたことなかけど……」と笑いをこらえきれない。
結局、勉強そっちのけで、鉢巻ネタの笑い合戦が続き、さおり、朱里、樹里も次第に巻き込まれ、リビングはまるで笑いの渦に包まれた。
「美の焼酎鉢巻」――意味不明な名前の鉢巻だが、双子ちゃんたちにとっては、学びと笑いを両立させる必須アイテムなのであった。
夏休みのある土曜日、拓実の家で再び勉強会が開かれた。
光子と優子は、ただの鉢巻では物足りず、今回はさらにパワーアップ。
光子の頭には「鼻から桜の花びら噴射鉢巻」、
優子の頭には「鼻からコーヒー牛乳噴射事件鉢巻」を巻きつけていた。
朱里が目を丸くし、
「……それ、マジで頭につけとん?」と驚く。
光子は胸を張り、
「当たり前やん!これで勉強もギャグも倍増やけん!」
優子も得意げに、
「小倉家のお父さんの鉄板ネタば使いよるけん、威力は保証付きやけん!」
拓実は苦笑しながら、
「……ちょっと、もう説明だけで腹痛くなりそうやけど……」
「いや、ほんま効くっちゃ!」光子が机の上の漢字ドリルを手に取り、スラスラ解き始める。
「ほら、鼻から桜ば噴かせとると、漢字も覚えやすくなるっちゃ!」
優子も理科の問題に挑み、
「こっちは鼻からコーヒー牛乳ば噴かせとると、公式ば覚えるスピード倍増やけん!」
さおりと朱里は、最初は目を丸くしていたが、次第に笑いをこらえきれず、
「……もう意味わからんけど、なんか楽しそうやな」と微笑む。
樹里も思わず吹き出し、
「これ……勉強会なんやけど、もう鉢巻コント会みたいになっとる……」
拓実もついに折れたように笑い出す。
「もう、あんたら……頭に何巻いとんねん……!」
光子が得意げに手を広げ、
「これが小倉家伝統の“必笑方”やけん!」
優子もぴょんと飛び跳ね、
「みんなも巻いたら、頭の中スッキリ、笑いも倍増っちゃ!」
リビングは再び、鉢巻ギャグと笑いの渦に包まれる。机の上のノートやペンも飛び交いそうな勢いで、勉強よりもギャグ大会がメインのようになってしまった。
「このネタ、どこから持ってきたと?」朱里が聞くと、光子はにんまりして、
「小倉家のお父さんの鉄板ネタやけん。長年の経験が詰まっとるっちゃ!」
優子も補足する。
「そうそう!うちのお父さんが昔、桜の花びらとコーヒー牛乳で大爆笑事件ば起こしたっちゃけん、それをリスペクトしとるだけやけん!」
こうして、夏休みの勉強会は、またもや鉢巻と爆笑ネタで盛り上がり、
笑いながら勉強するという、奇妙だけど楽しい日常が続くのであった。
土曜日の午後、拓実の家での勉強会が一段落したところで、光子と優子は急いでタブレットを取り出した。今日は特別に、ニュージーランドのライアンの施設、カナダのソフィーの施設とビデオ通話を繋ぐ予定だったのだ。
「よーし、みんな準備オッケー?」光子が画面を指さす。
優子もにこりと笑い、
「うん、今日も元気にいくばい!」
画面越しに、ライアンやソフィー、オリバー、その他施設の子どもたちの顔が次々と現れる。
「Hi, everyone! 元気にしとった?」光子が手を振る。
「Hi, Mitsuko! Hi, Yuuko!」ライアンも笑顔で返す。
その瞬間、美香とアキラも部屋に現れた。美香は少し照れくさそうに微笑みながら、タブレットの前に座る。
「みんな、ちょっと大事なお知らせがあるっちゃけど…私のお腹に赤ちゃんがおると。今、妊娠3ヶ月なんよ」
画面の向こうで、ソフィーもライアンも、目を丸くして息をのむ。
「Wow! That’s amazing! Congratulations!」
「すごい!本当におめでとう!」オリバーも大声で祝福の言葉を叫ぶ。
優子が興奮気味に、
「うちのお姉ちゃんになるのよ〜!」と小声で光子に耳打ちする。光子も嬉しそうに頷く。
画面越しのライアンは、興奮を抑えきれず、
「This is fantastic news! How exciting!」
ソフィーもにっこり微笑み、
「We are so happy for you, Mika!」
美香は少し照れながらも、
「ありがとう。まだまだ先の話やけど、みんなに一番に伝えたかって…」
アキラもニコニコしながら、
「これからまた賑やかになりそうやね」
画面の向こうの子どもたちからは、祝福の嵐が続く。
「Yay! Baby! Baby!」
「Congratulations, Mika!」
「Can’t wait to meet the baby!」
光子と優子は手を取り合いながら、嬉しそうに画面を見つめる。
「みんな、ありがとー!赤ちゃんできるなんて、夢みたいよね〜」光子が笑うと、優子も
「うん!うちも楽しみや〜!」
その笑顔に、ニュージーランドとカナダの子どもたちも思わず笑みがこぼれる。
「We will send you lots of love from here!」ライアンが画面越しに手を振る。
「いっぱい応援しとるけんね!」ソフィーも嬉しそうに手を振る。
こうして、遠く離れた国々の友だちも一緒に、双子たちと美香、アキラの新しい家族のニュースを祝福し、笑顔あふれるひとときが過ぎていった。
ビデオ通話の画面越しに、光子と優子はにこりと笑った。
「Hi everyone! We’re studying really hard for next year’s high school entrance exams!」
「みんな、こんにちは!うちら、来年の高校受験に向けて、めっちゃ頑張っとるとよ!」光子が元気よく言う。
ソフィーが画面越しに目を輝かせて、
“Wow! That’s amazing! Keep it up, Mitsuko and Yuuko!”
「わぁ、それすごい!光子ちゃん、優子ちゃん、頑張ってね!」
優子もにっこり笑い、
“Yes! We want to do our best and make everyone proud!”
「うん!うちら、全力で頑張って、みんなに自慢してもらえるようになりたいっちゃん!」
ライアンも画面越しで、
“That’s the spirit! We believe in you!”
「その意気やね!うちら、信じとるけん!」
オリバーも大声で手を振りながら、
“Good luck, you can do it!”
「頑張れ!絶対できるよ!」
光子は笑いながら、
“We’re studying together with our friends every day, it’s fun and tough at the same time!”
「うちら、毎日友達と一緒に勉強しよると。楽しいけど、同時に大変や〜」
優子も頷き、
“And we also try to make each other laugh so studying doesn’t get boring!”
「それに、勉強がつまらんくならんように、お互い笑わせ合いもしてると!」
ソフィーとライアンは画面越しに笑顔で、
“That’s great! Keep that balance, and you’ll do amazing!”
「それはええね!そのバランスを大事にしとったら、絶対うまくいくよ!」
光子と優子は画面に向かって手を振りながら、
“Thank you! We’ll do our best!”
「ありがとう!うちら、全力で頑張るけんね!」
こうして、遠く離れたニュージーランドとカナダの友達にも、双子たちの受験に向けた努力と笑顔が届いた。画面越しの励ましに、二人のやる気はさらに高まった。
光子が画面に向かって手で髪を押さえながらにっこり笑い、頭に巻いた鉢巻を見せる。
“Look! Our special headbands for studying!”
「見て!うちらの勉強用の特別な鉢巻よ!」
優子も負けじと、自分の鉢巻を強調して、
“And mine says ‘unyadara pa~’!”
「うちのは“うにゃだらぱ〜”って書いとると!」
ソフィーが目を丸くして、
“Oh wow! That’s so cute and funny!”
「わぁ、めっちゃ可愛くて面白い!」
ライアンも笑いながら、
“I love it! How do they help you study?”
「最高やん!それで勉強の助けになると?」
光子は胸を張って、
“It gives us motivation and makes studying fun!”
「勉強のやる気が出るし、楽しくなるとよ!」
優子も笑顔で、
“And when it gets too hard, we just look at each other’s headbands and laugh!”
「それに、難しくなったら、お互いの鉢巻見て笑うと!」
オリバーも画面越しで大笑い、
“That’s amazing! I want one too!”
「すごい!僕も欲しいな!」
光子はカメラに向かってウインクし、
“Maybe one day you can get the official Mitsuko & Yuuko headbands too!”
「いつか、公式の光子&優子鉢巻、手に入れられるかもよ!」
こうして、遠く離れた友達も、双子のユニークな鉢巻に大笑い。勉強のモチベーションだけでなく、笑顔まで届けられる時間になった。
光子と優子はカメラの前で、頭に巻いたギャグ鉢巻を次々に見せ始めた。
“Look at all our crazy headbands!”
「うちらの変てこな鉢巻、全部見て〜!」
光子が自慢げに「うにゃだらぱ〜」を、優子は「うにゃ〜あじゃぱー」を掲げる。
“And this one is ‘More More Man’!”
「んで、これが“モレモレマン”!」
さらに、二人で手に持った「美の焼酎」「鼻から桜の花びら噴射」「鼻からコーヒー牛乳噴射鉢巻」を次々に見せる。
“Can you believe these?”
「信じられる?これ全部よ!」
ソフィーは大笑いして、
“Oh my gosh! That’s hilarious!”
「きゃー、めっちゃウケる!」
ライアンも吹き出して、
“I can’t stop laughing! How do you even come up with these?”
「笑いが止まらん!どうやって思いつくと?」
オリバーも手を叩き、
“This is the funniest thing ever!”
「これ、今までで一番面白いやん!」
光子は得意げに、
“When studying gets tough, we just look at these headbands and laugh!”
「勉強が大変になったら、この鉢巻見て笑うと!」
優子もニコニコしながら、
“And it makes everything better, even hard math problems!”
「それに、難しい数学の問題も、これで楽しくなると!」
ビデオ通話の向こうで、ニュージーランドのライアン、カナダのソフィー、オリバーも大爆笑。画面越しに声が弾け、笑いの嵐が広がった。
こうして双子のギャグ鉢巻は、距離を越えて、みんなに元気と笑いを届けるアイテムとなった。
ビデオ通話が終わり、画面の向こうにいるソフィーやライアン、オリバーたちと手を振り合った光子と優子。笑顔が絶えず、まるで部屋中に太陽が差し込んだかのようだった。
「また今度会おうね!」
「うん、楽しみにしとるよ!」
画面が徐々にフェードアウトし、通話は静かに終了した。
その後、美香は妊産婦検診へと向かった。診察室で医師から告げられた言葉に、思わず息を呑む。
「おめでとうございます。双子ちゃんです。」
美香の頬に自然と笑みがこぼれ、手をそっとお腹にあてる。光子と優子は目を見開き、互いに顔を見合わせた。
「え、双子!?うそ、すごい…!」
「じゃあ、胎教に、うちらのギャグ聞かせたら、赤ちゃんもお笑い好きになるかねぇ?」光子の目はキラキラと輝き、優子もにっこり笑った。
「うん、やってみよう!」
そう言って二人は立ち上がり、ギャグ鉢巻を頭に巻き、得意のボケを披露する。光子が「うにゃだらぱ〜!」、優子が「うにゃ〜あじゃぱー!」と叫ぶと、鉢巻を揺らしながら両手を大きく振った。
「見て、赤ちゃん!これが笑うスタイルよ!」光子はお腹に向かって言い、優子も同じくお腹に向かって顔芸を交えながら動く。
「鼻から桜の花びら噴射鉢巻も登場!」優子が大げさに鉢巻を回して、光子も「鼻からコーヒー牛乳噴射鉢巻」を見せながら、両手をぶんぶん振る。
「うちらみたいに、面白くなるとよ!」光子の声は元気いっぱいに響き、優子はくすくす笑いながら付け加えた。
「もしかしたら、赤ちゃんは、もっとぶっ飛んだギャグを考えるかもね!」
美香は微笑みながら、お腹に手をあてる。目に見えぬ小さな命も、二人の全力の笑いに包まれているような温かさを感じた。
こうして、光子と優子のギャグは、次世代への小さな橋渡しとなった。お腹の赤ちゃんも、笑いに満ちた毎日を過ごすのだろう——そう思うと、美香は胸がいっぱいになった。
ある日の夕方、美鈴は台所で慌ただしかと。今日は特別に、光子と優子に晩ご飯を持たせて、美香の住むマンションまで届けてもろうとるとよ。
「よーし、今日もいっぱい作ったけん、光子と優子、しっかり持って行きよ。」美鈴は料理を袋に詰めながら、双子に託す準備をする。
「わかった!お母さん、任せときんしゃい!」光子が袋を受け取り、優子も「美香お姉ちゃんに届けるけん!」と元気よく答える。
美鈴は笑顔で、「あんたら、気をつけて行きんしゃい。料理がこぼれんごとね。」と念を押す。
「はーい!」双子は袋を抱えてマンションに向かう。もうすぐ4ヶ月になる美香の妊娠中を考え、重すぎんごと軽く分けた料理も入っとるとよ。
マンションに着くと、エントランスを抜け、美香の部屋の前でノックする。美香は丸みを帯びたお腹を抱えながら、明るく「わぁ、光子、優子!ありがと〜!」と笑顔で迎える。
「はい、届けに来たばい!」光子が袋を差し出し、優子も手伝う。美香は丁寧に受け取りながら、「お母さんのご飯、ほんと助かる〜。お腹の赤ちゃんにもきっといい胎教になるばい。」と感謝する。
光子と優子は、母の愛情たっぷりの晩ご飯を無事届けられて満足そうに笑い、少し誇らしげな顔を浮かべるのだった。
そのとき、玄関の方から「ただいま〜」と元気な声が響いた。アキラが帰宅したのだ。手に持ったカバンを床に置き、軽く伸びをしながら、二人と美香に笑顔を向ける。
「おっ、光子、優子、今日もご苦労ばい。美香、大丈夫か?」アキラは優しく声をかけ、少しふっくらしてきた美香のお腹に手を添える。
「うん、ありがとう。光子と優子が持ってきてくれたけん、ほんと助かったばい」美香は笑顔で答える。
光子は「うちたち、任務完了やけん!」と胸を張り、優子も「お腹の赤ちゃん、元気に育っとるといいなぁ」とそっと手を置く。
アキラは微笑みながら、「ふたりとも、ちゃんと運べたんやな。お母さんも喜ぶやろうね」と言った。部屋には、家族みんなのあたたかい空気が漂い、笑いと優しさに包まれる夕方のひとときとなった。
光子と優子は、美香のマンションへの任務を無事に終え、家路についた。夕暮れの風が少し肌寒く、二人は手をつなぎながら歩く。家に着くと、リビングには優馬と美鈴が待っていた。
「おかえり、二人とも。お疲れ様やったね」と優馬が笑顔で言う。
美鈴もにこにこしながら、「そうそう、今日はお父さんも張り切っとるけん、何か面白いこと起こるかもよ」と付け加える。
光子は「え〜、なんか怖かねぇ。お父さんの料理、前も鼻芸事件あったやん」と半笑いで言うと、優子も「うちも怖か〜。でも楽しみばい」と続ける。
テーブルに並べられたのは、美鈴が張り切って用意した手料理の数々。彩りも鮮やかで、香りが部屋いっぱいに広がる。
「ほら、二人とも食べんしゃい!」と美鈴が笑顔で手を広げると、光子と優子は互いに顔を見合わせてにっこり。家族みんなで囲む夕食は、いつもどおり笑いと温かさに満ちていた。
優馬は箸を手に取りながら、「お、これは美味か〜!ほんなら、今日も楽しい晩御飯ば楽しむばい」と一言。光子と優子も「いただきます!」と声をそろえ、賑やかな夜が始まった。
夕食後、家族がそろってくつろいでいるリビング。
光子と優子は顔を見合わせ、意を決したように席を立った。
光子が腕を組んで宣言する。
「ねぇ、お父さん、お母さん。うちら、ちょっと大事な話があるっちゃ」
優子もうなずき、真剣な表情で言葉をつなぐ。
「来年から“おばさん”になるっちゃろ? でも、全然実感なかと! だって、うちらまだ花の中3やん!」
美鈴は思わず吹き出した。
「そうねぇ……“おばさん”て言われても、あんたたちには似合わんもんね」
光子は胸を張り、声を少し張り上げた。
「でもね、お母さん。うちら決めたっちゃん! ファイブピーチ★として、もっともっと歌が上手くなりたいけん!」
優子も力強く付け加える。
「それで、美香お姉ちゃんと同じ福岡高校の声楽科に進むって、二人で決めたと!」
リビングは一瞬静まり返る。
優馬が驚いたように目を見開いた。
「……声楽科? 本気で言いよるんか?」
光子は即答した。
「本気たい! うちらの声で、もっとたくさんの人を笑わせて、感動させたいと!」
優子も頷きながら続ける。
「ギャグも歌も、両方本気で極めるけん!」
美鈴は目を細め、優馬と視線を交わした。
優馬の表情には、驚きと同時に、どこか誇らしさがにじんでいる。
「……そうか。自分で選んだ道なら、全力で頑張れ」
美鈴もゆっくりと笑みを浮かべて言った。
「お母さんも応援するよ。あんたたちなら、きっと大丈夫やけん」
その言葉に、双子の顔がぱぁっと輝いた。
「やったーーー!!!」
二人の声は、リビングの天井を突き抜けるように響きわたり、美香のお腹に宿る双子の赤ちゃんにまで届いたかのようだった。




