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音楽交流

笑いの渦がようやく落ち着いたころ、舞台の中央に美香とアキラが並んで立った。二人は顔を見合わせて、にっこりと微笑む。美香の手には艶やかなトロンボーン、アキラの手には輝くトランペット。


「さて…ここからは音楽の出番やね」


美香のその一言に、会場の空気がふわっと変わる。子どもたちは目を輝かせ、客席全体が期待に包まれた。


アキラが軽くマウスピースを唇に当て、軽快なファンファーレを鳴らす。トランペットの明るい音色がホールを突き抜け、聞く者の心を跳ね上げる。すぐに美香が低く温かなトロンボーンで応えると、二人の音はまるで会話のように絡み合い、響き渡った。


演奏はジャズ調のリズムに移り変わり、自然と観客たちの体が揺れ始める。手拍子がリズムに乗って広がり、子どもたちは立ち上がって踊り出した。


「イェーイ!」「もっとやって!」


笑い声に混じって、歓声があがる。アミルは両手を大きく振り、アイシャは友達と肩を組んでスキップ。ソフィーやライアンも、思わず体を揺らしてリズムに合わせていた。


美香のトロンボーンがのびやかに旋律を描き、アキラのトランペットがきらめくように掛け合う。まるで二人の新婚旅行の思い出や、これからの未来を歌っているかのような音楽だった。


最後は二人が同時に高らかなロングトーンを響かせ、ピタリと演奏を終える。


シーン…と一瞬の静寂。


そして次の瞬間、割れんばかりの拍手と歓声が会場を揺らした。


「Bravo!!」

「Encore!!」

「もっかい聴かせてー!」


子どもたちは口々に叫び、手を叩き続ける。


美香は少し照れくさそうに笑い、アキラと視線を交わした。アキラが軽く肩をすくめて言う。


「しゃあないな、もう一曲いく?」


美香は大きくうなずいた。




演奏を終えたあと、ホールには割れんばかりの拍手が響き渡った。

美香とアキラはお互いに目を合わせ、少し照れながらも観客へと向き直る。


アキラが一歩前に出て、トランペットを胸に抱えた。

“Thank you, everyone! We wanted to play something that makes your hearts dance, just like our hearts did when we visited New Zealand.”

(みなさん、ありがとう!僕たちは、ニュージーランドを旅したときに心が踊ったように、みんなの心も踊るような曲を演奏したかったんです。)


会場から「Wow!」「Beautiful!」と声があがり、子どもたちは大きくうなずいている。


続いて、美香がマイクを手にする。

“Music has the power to bring us together, no matter where we come from. When we play, we feel connected to all of you, across countries and languages.”

(音楽には、どこから来た人同士でも一つにつながる力があります。演奏していると、国や言葉を越えて、みんなとつながっていると感じるんです。)


その言葉に、前列に座っていた少女アイシャが大きな声で「Yes!!」と答える。彼女の瞳は涙で光りながらも、笑顔に満ちていた。


アキラが続けて、観客席に手を差し伸べるように言う。

“Next time, we want you to join us—not just to listen, but to sing, to clap, and even to dance together!”

(次は、ただ聴くだけじゃなくて、みんなに歌ったり、手を叩いたり、踊ったりして一緒に参加してほしいんです!)


美香も力強くうなずき、

“Because when we move, when we laugh, when we sing together… we are never alone.”

(だって、体を動かして、笑って、歌を一緒に歌えば…私たちは決してひとりじゃないから。)


会場全体が熱気に包まれ、子どもたちは口々に叫んだ。

「I want to dance!」

「Let’s sing together!」

「One more song, please!」


光子と優子が顔を見合わせて、にやりと笑う。

「ほら、出番たいね」





ステージの上、美香が深呼吸をしてからマイクを取った。背後には優子がドラムセットに腰を下ろし、光子がベースを構え、奏太はエレキギターをチューニングし、小春がキーボードの前に座っている。そして、由美、詩織、環奈も加わり、舞台にはまるで国際ジャズフェスティバルのような熱気が漂っていた。


美香は笑顔で観客を見渡し、英語で語りかけた。

“The next song is a jazz classic—In the Mood. This piece has made people dance with joy for generations. Tonight, we want to bring that same swing feeling to all of you.”

(次の曲はジャズの名曲、イン・ザ・ムードです。この曲は、何世代にもわたって人々を喜びで踊らせてきました。今夜、私たちも同じスウィングの感覚を皆さんに届けたいと思います。)


観客から「Woo!」「Swing!」と声が飛ぶ。優子がスティックを軽く掲げ、光子が「よっしゃ、任しとき!」と小声でつぶやく。


美香がカウントをとった。

“One, two, one-two-three-four!”


軽快なリズムで優子のドラムが始まり、光子のベースがうねるように響く。奏太のエレキギターがシャープに刻み、小春のキーボードが明るい和音を重ねる。由美と詩織、環奈も加わって厚みのある音の世界が広がると、会場は一気にスウィングの渦に巻き込まれた。


観客席では子どもたちが立ち上がり、体を揺らしながら手を叩いている。ソフィーやライアンも、自然と足でリズムを取りながら笑顔を交わしていた。


演奏を終えると大きな拍手と歓声がホールを揺らした。美香は再びマイクを取り、少し感慨深げに語りかけた。


“And now, a very special piece for me. It’s from Japan—Lupin the Third, in a jazz arrangement. When I was a student, I used to play this piece with my friends at music college. It always reminds me of youth, of challenge, and of fun.”

(そして次は、私にとってとても特別な曲です。日本の作品で、『ルパン三世』をジャズアレンジしたものです。音楽大学の頃、友人たちとよく演奏した曲で、いつも青春と挑戦、そして楽しさを思い出させてくれます。)


優子がドラムスティックを構え、光子が低音を響かせる準備をし、奏太と小春も息を合わせた。


美香はにっこり笑って、ピアノに手を置く。

“Ready? Let’s go—Lupin Jazz!”


イントロが鳴り響いた瞬間、観客から大歓声があがる。軽快でスリリングなリズムに、会場は一体となり、拍手と足踏みが音楽に溶け込んでいった。





会場の照明が少し落ち、舞台の上に集中した光が差し込む。

美香がピアノの前に座り、優子はドラムスティックを軽く回しながらリズムの準備。光子はベースの弦を低く唸らせる。奏太はギターを構え、小春はキーボードの鍵盤にそっと指を置いていた。


そして、その横で由美がホルンを抱え、詩織はユーフォニアムを抱えている。二人とも舞台の熱気に負けないくらい凛とした表情で、深呼吸をしていた。


美香がマイクを取り、英語で語りかける。

“The next song is a jazz classic—In the Mood. It’s a tune that makes people want to dance. And tonight, our special brass section will make it even more exciting!”

(次の曲はジャズの名曲、イン・ザ・ムードです。誰もが踊りたくなる曲。そして今夜は特別に、金管セクションがさらに盛り上げてくれます!)


観客席から「Yay!」「Brass!」と歓声が飛ぶ。


美香がカウントをとる。

“One, two, one-two-three-four!”


優子のドラムが軽快に走り出し、光子のベースが力強くリズムを刻む。奏太のエレキギターがシャープなカッティングを響かせ、小春のキーボードが明るい和音を重ねる。


そこに、由美のホルンが深く豊かな音色でテーマを奏で、詩織のユーフォニアムが温かく支えるように響きを重ねていく。ホルンとユーフォの音色が、ジャズのスイングに新しい彩りを与え、会場の空気は一気に華やいだ。


観客の子どもたちが思わず立ち上がり、手を叩きながらリズムに合わせて体を揺らす。ソフィーとライアンも顔を見合わせて笑い、音楽に身を委ねていた。


曲が終わると、ホールは割れるような拍手に包まれた。由美と詩織も「やったね」と小声で顔を見合わせ、少し誇らしげに笑った。


美香はマイクを取り、次の曲を紹介する。

“And now, a very special piece for me: Lupin the Third, jazz version. This piece always takes me back to my student days, full of challenge and fun. Tonight, let’s enjoy it together.”

(そして次は、私にとって特別な曲。『ルパン三世』のジャズバージョンです。この曲は、私の学生時代を思い出させる、大切な思い出の曲です。今夜、みんなで一緒に楽しみましょう!)


美香が合図を送ると、優子がリズムを刻み、光子がベースを鳴らし、奏太と小春も加わる。そして由美のホルンと詩織のユーフォがスリリングなメロディを彩り、舞台は一気にジャズクラブさながらの熱気に包まれた。


観客からは「Lupin!」「Amazing!」と声が飛び、子どもたちも歓声をあげながらリズムに合わせて体を揺らす。

音楽と笑顔が混ざり合い、会場は最高の盛り上がりを見せた。






曲が終わると、会場には一瞬の静寂が訪れ、次の瞬間、歓声と拍手が渦のように巻き起こった。子どもたちは体を揺らしながら、自然にリズムを取り、楽しさが会場全体に広がる。


光子がマイクを取り、英語で呼びかける。

“Wow, that was amazing! Everyone, did you enjoy it? Let’s make the next one even funnier!”

(わぁ、すごかったね!みんな、楽しんだ?次はもっと面白くしてみよう!)


優子も笑顔で続ける。

“Yeah! Now it’s time for our gag comedy! Get ready for some laughs!”

(うん!次はギャグコメディの時間よ!笑う準備はいい?)


観客席の子どもたちからは、「Yay!」「Funny!」「More gags!」と歓声が上がる。エマとオリバーも手を叩きながら、ニュージーランド式のステップを加えてリズムを取る。


美香はピアノのリズムを軽く鳴らしながら、アキラに合図。

アキラのトランペットと金管二重奏での軽快なメロディが加わり、舞台は笑いと音楽で一層華やかに。


光子と優子が息を合わせ、舞台の中央でギャグコントを始める。優子が「さぁ、ガソリンを給油しに歩いて行こうか!」とボケると、光子が「え?歩いて行くの?ガソリン入れたら飛べるんじゃなかったっけ?」と突っ込む。


子どもたちは声を上げて笑い、時には手を叩き、時には椅子から身を乗り出してリアクション。

「Hahaha!」「I got it!」「So funny!」


オリバーは横で「In New Zealand, we don’t have this kind of crazy fun! It’s amazing!」

(ニュージーランドでは、こんなクレイジーな楽しみはないよ!すごい!)と目を輝かせ、エマも「It makes me want to join too!」

(私も一緒にやりたくなるわ!)と笑顔を見せた。


奏太と小春も飛び入りで、コントの小道具を持ちながら参加。ひなたとさくらも小さなギャグを加え、会場全体が一体となった。


最後に光子が「Remember, laughing is the best! Keep smiling!」

(覚えてね、笑うことが一番だよ!笑顔を忘れずに!)

優子も「Let’s make the world happy together!」

(みんなで世界を幸せにしよう!)


会場は大歓声と拍手に包まれ、ギャグと音楽が交じり合った、最高のステージとなった。子どもたちも、大人も、全員が笑顔になった瞬間だった。





舞台の最後、ファイブピーチ★のメンバー全員が前に並び、観客に向かって静かに語り始めた。


「私たち、僕たちもね、このメンバーみんな、それぞれにね、忘れたくても忘れられん辛い痛みを抱えとると。」

“All of us, we each carry pains that we can’t forget, even if we wanted to.”


「でもね、人を恨んだり、憎んだりしても、何も解決せんし、もっと自分が苦しゅうなると。」

“But holding grudges or hating others solves nothing—it only makes ourselves suffer more.”


観客席には、ニュージーランドから来た子どもたちも混じっており、みんな真剣な眼差しで聞き入っていた。


「そんな時はね、今日みんなでここで思いっきり笑うたことを思い出してね。」

“At times like that, just remember how we all laughed together here today.”


一息置いて、優しい笑顔を見せながら続ける。


「えっと、明日は野球観戦に行くんやったっけ?野球もね、面白いけん、みんな一緒に応援しようねぇ。」

“So, tomorrow we’re going to watch baseball, right? Baseball is fun too, so let’s cheer together!”


「福岡にはね、ホークスっちゅう、めっちゃ強いチームがあるけん、明日はホークスを応援しようね。ルールはライアンさんとソフィーさんに聞いてね。」

“In Fukuoka, there’s a really strong team called the Hawks. Tomorrow, let’s cheer for them! For the rules, ask Ryan and Sophie.”


そして最後に、全員で手を振りながら、にっこり笑顔で締めくくった。


「明日また会おうね〜!」

“See you all again tomorrow!”


観客も自然と拍手で応え、舞台は温かい余韻の中で幕を閉じた。子どもたちも、大人も、笑いと希望の気持ちを胸に抱え、明日のホークス応援に胸を弾ませていた。





舞台の緞帳がゆっくりと降りると、光子と優子、ファイブピーチ★のメンバー、美香、アキラは舞台上に残り、肩を寄せ合うように座って話し始めた。


「なんかね、あの子達のために、私たちにできること、ないやろか…」と光子がつぶやく。

“Is there anything we can do for those kids…?”


「今、現実的に困っとるんは、多分、資金的なことばい。」と優子。

“Right now, what they really need is probably financial support.”


「うちらのグッズとか、ライブの売り上げのほんの一部だけでも、寄付できんやろか?」と詩織が真剣な顔で提案する。

“Maybe we could donate just a small part of our merchandise or concert earnings?”


みんなが頷き、意見を出し合う。由美は計算用紙を取り出して、実際にどのくらいの金額を寄付できるかを示した。環奈も「小さくても毎回積み重ねたら、結構な支援になるやん」と補足する。


美香が静かにまとめる。

「うん、わかった。じゃあ、ライブとグッズの収益の一部を、あの子たちに定期的に寄付する方向で進めよう。無理のない範囲で、でも確実に。」

“Okay, got it. Let’s donate a portion of our concert and merchandise earnings regularly. Within our means, but steadily.”


アキラも頷きながら言う。

「俺たちが楽しくやることと、誰かの笑顔につながることができるなら、それが一番やんね。」

“If what we enjoy doing can also bring smiles to others, that’s the best thing.”


その場にいた全員の表情が少しずつほぐれ、心の中に温かい希望が広がった。目の前にいる仲間と一緒に、少しでも世界の誰かを笑顔にすることができる——その決意が静かに、でも確かに芽生えた瞬間だった。





翌日、光子と優子、ファイブピーチ★のメンバー、美香、アキラは、学校の空き教室に集まった。机の上には、寄付用に使える売上データや書類が整然と並べられている。


「じゃあ、まずは前回のライブとグッズの売り上げの一部をまとめるとこからやね。」と光子が切り出す。


「うちらが決めた割合、10%を寄付に回すってことでええと?」と優子。


「うん、それで大丈夫ばい」と美香。


由美と詩織は、送金手続きの書類を丁寧に確認し、誤送金がないようにチェック。環奈は、送り先の現地施設の住所や連絡先を再度確認しながら、数字を一つ一つ確認していく。


「じゃあ、送金のボタン、押すばい」とアキラが深呼吸しながら言う。


光子と優子が頷き、みんなで画面を見つめる。全員の指がキーに触れ、送信完了の表示が出た瞬間、教室には小さな拍手が湧き上がった。


「わぁ…これで、少しでもあの子たちが笑顔になれるんやね」と優子が微笑む。


光子も笑顔で、「うん。うちらの笑いと楽しさが、遠くの誰かに届くって思うと、なんか嬉しいね」とつぶやく。


教室の空気は柔らかく温かく、希望に満ちていた。目の前のパソコンの画面は、単なる数字の羅列ではなく、遠くの子どもたちの未来につながる希望の証のように見えた。


「ねぇ、次はもっといろんな企画もやれるといいね」と由美。


「うん、グッズもライブも、もっと楽しくして、その一部をまた寄付に回せるように」と環奈。


「うちらが楽しんで作ったものが、誰かの幸せにつながるって、なんかすごくない?」と詩織。


「ほんとやね。笑いって、世界をちょっとだけ変えられるんやね」とアキラが頷く。


その日、彼らはただ寄付を完了させただけではなく、自分たちの力を少しでも世界の誰かの幸せにつなげられることを、心から実感したのだった。




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