福岡市内観光と食のふれあい
到着ロビーでの挨拶がひと段落すると、光子と優子が先頭に立ち、子どもたちを連れてバスへ向かう。今日の行程は、福岡市内観光とミニコンサートの体験だ。
光子:「ほんなこつ、今日はいっぱい楽しませるけんね〜!」
(“Really, today we’ll make sure you have lots of fun!”)
優子:「わくわくするやろ〜?みんな、準備はいい?」
(“Exciting, isn’t it? Everyone ready?”)
バスの窓から見える博多の街並みに、海外の子どもたちは目を丸くする。屋台の明かり、福岡タワー、川沿いの桜並木…。
ソフィー:「Wow! The city looks so lively!」
(「わあ!街がこんなに賑やかなんて!」)
ライアン:「I can’t wait to try all the local foods!」
(「地元の料理を全部食べてみたいや!」)
光子と優子は笑顔で頷きながら、屋台で提供されるラーメンや明太子料理、鶏肉や魚の料理について説明する。
光子:「ここはラーメンが有名やけん、後で食べよーね!」
(“This place is famous for ramen, so we’ll eat some later!”)
優子:「宗教的に食べられんもんあるけん、鶏肉とか魚も用意しとるとよ。」
(“Since some foods might not be okay for everyone, we’ve got chicken and fish too.”)
バスはまず、福岡交響楽団の練習場へ向かう。ここでは、美香お姉ちゃんとアキラが、子どもたちに楽器や演奏の体験をさせる予定だ。
美香:「みんな、初めての体験やろうけど、リラックスして楽しんでね。」
(“Everyone, it’s your first time, but relax and enjoy it.”)
アキラ:「好きな楽器を触ってみて!一緒に音を出してみよー!」
(“Try touching the instruments! Let’s make some sounds together!”)
最初は少し緊張していた子どもたちも、光子と優子の明るい声と、美香とアキラの優しい指導で、次第に笑顔になっていく。小さな手でバイオリンを持ったり、トランペットに挑戦したりする姿が微笑ましい。
ライアン:「Look at them! They’re really enjoying it!」
(「見て!みんな本当に楽しんどる!」)
ソフィー:「It’s amazing to see their faces light up like this.」
(「こんなに笑顔になるなんて、本当に素敵!」)
こうして、福岡市内での交流は、ギャグと音楽、笑顔に包まれながら始まった。今日一日で、子どもたちは日本の文化と食、そして音楽を全身で感じることになるのであった。
福岡空港の到着ロビーでは、ニュージーランドで美香とアキラが出会ったエマも迎えに来ていた。エマは現地での交流をサポートしてくれた人物で、子どもたちもすぐに打ち解ける。
美香「エマさん、また会えてうれしか〜!」
(“Emma, so happy to see you again!”)
アキラ「ニュージーランドでお世話になったね〜!」
(“We were so grateful for your help in New Zealand!”)
エマは微笑みながら、子どもたちの手を握って答える。
エマ:「It’s wonderful to be back in Japan with all of you! I’m excited to see how much fun today will be.」
(「みんなと一緒に日本に戻れてとても嬉しいです!今日はどれだけ楽しめるか楽しみですね。」)
バスに乗り込むと、光子と優子はエマと一緒に子どもたちを案内する。福岡市内を巡りながら、屋台や名所を見せつつ、笑いと交流の時間が続く。
光子:「今日は博多の美味しいもん、いっぱい食べよーね!」
(“Today, we’ll eat lots of delicious Hakata food!”)
エマ:「I’ve been looking forward to trying all these dishes!」
(「全部の料理を楽しみにしてたの!」)
優子:「モレモレマンも、ニュージーランドで笑わせたけど、日本でもやるけんね!」
(“Mo-re Mo-re Man made everyone laugh in New Zealand, now we’ll do it in Japan too!”)
こうして、エマも加わったチームは、子どもたちと一緒に日本での初めての一日を笑顔とギャグ、音楽で満たしていくのであった。
福岡空港では、ニュージーランドで美香とアキラが出会ったオリバーも迎えに来ていた。オリバーは現地での食文化や民族音楽を子どもたちに紹介してくれた人物で、今回の来日でもその役割を担う。
光子:「オリバーさんも来とったとね!今日もよろしく〜!」
(“Oliver, you’re here too! Looking forward to today!”)
優子:「ニュージーランドの音楽や食べ物、楽しみにしとったとよ!」
(“We’ve been looking forward to your music and food from New Zealand!”)
オリバー:「It’s wonderful to be back in Japan! I can’t wait to share the Maori songs and traditional dishes with everyone.」
(「日本に戻れて本当にうれしい!みんなにマオリの歌や伝統料理を紹介するのが楽しみです。」)
バスに乗り込み、光子と優子、エマ、オリバーのチームは、子どもたちを連れて市内の観光地や屋台、名所を巡りながら、笑いと学びの時間を進めていく。
光子:「今日は博多のうまかもんば、いっぱい食べさせるけんね!」
(“Today, we’ll make sure you try lots of delicious Hakata food!”)
オリバー:「And we’ll also enjoy Maori songs and dances—let’s make it a cultural adventure!」
(「そしてマオリの歌や踊りも楽しもう。今日は文化の冒険にしよう!」)
優子:「モレモレマンも日本で活躍させるばい!」
(“Mo-re Mo-re Man will perform in Japan too!”)
こうして、ニュージーランドで出会った仲間たちも加わり、福岡での国際交流の初日は、音楽とギャグ、食文化を通して子どもたちの笑顔で溢れる一日となった。
福岡の市内観光が始まると、オリバーとエマも子どもたちの前に立った。
オリバー:「Alright everyone, today I’ll show you some traditional Maori music from New Zealand. Listen carefully to the rhythms and chants!」
(「みんな、今日はニュージーランドのマオリ音楽を紹介するよ。リズムと歌い方に注目してね!」)
オリバーが手にしたウクレレやパーカッションを使い、マオリの伝統的な歌や踊りを披露する。子どもたちは目を輝かせ、手拍子を打ちながらリズムに合わせる。
光子:「わぁ、リズムば体で感じられるとね!」
(“Wow, you can really feel the rhythm in your body!”)
優子:「めっちゃ楽しい〜!」
(“This is so much fun!”)
一方、エマはテーブルに伝統料理の材料を並べ、マオリ族の文化や食事の習慣を説明した。
エマ:「Today, I’ll show you how Maori people prepare traditional dishes like hangi. It’s cooked with heated stones in an earth oven.」
(「今日はマオリの伝統料理、ハンギの作り方を紹介するね。石を熱して土のオーブンで蒸し焼きにする料理だよ。」)
子どもたちは熱心に聞き入り、実際に触れたり香りをかいだりして、ニュージーランドの文化を体感する。
優子:「へぇ〜、こんなふうに料理してたとね!」
(“Wow, they cook it like this!”)
光子:「食べてみた〜い!」
(“I want to try it!”)
オリバー:「And don’t forget the songs! We’ll sing together while learning about the food.」
(「歌も忘れずにね!料理を学びながら一緒に歌おう。」)
こうして、音楽担当のオリバー、料理と文化紹介担当のエマと一緒に、子どもたちはニュージーランドの伝統を楽しみながら学び、笑顔でいっぱいの時間を過ごした。
福岡市内の会場。ギャグや音楽で盛り上がったあと、場の空気がふと落ち着いた。ソフィーとライアンは、少し真剣な表情で光子と優子に向き合った。
Sophie:
“In Canada, I support children who escaped from war zones. One girl… she saw her parents shot in front of her. She still wakes up screaming at night.”
(「カナダで私は、戦争地から逃れてきた子どもたちを支援しています。ある女の子は…目の前で両親が銃で撃たれるのを見てしまいました。今でも夜中に悲鳴をあげて目を覚ますんです。」)
会場の空気が凍りつくように静かになった。
Ryan:
“And in New Zealand, I met children who lost their families to the earthquake and tsunami. Others ran through bullets, barely surviving. Their pain is… something that never leaves them.”
(「ニュージーランドでは、地震や津波で家族を失った子どもたちに出会いました。ほかにも、銃弾の中を命からがら逃げ延びた子もいます。その痛みは…一生消えることがないのです。」)
優子は両手をぎゅっと握りしめ、涙をこらえながら言葉を発した。
優子 (Yuko):
“I… I don’t know what to say. Just hearing this, my heart feels crushed. I wish we could take their pain away.”
(「…なんて言えばいいか分からん。聞いただけで胸が押し潰されそう。子どもたちの痛みを少しでも取り除いてあげたい…。」)
光子は深くうなずき、子どもたちの目をまっすぐ見つめる。
光子 (Mitsuko):
“That’s why we want to keep making you laugh. Laughter doesn’t erase the past… but it can give you a moment of light, and maybe strength to move forward.”
(「だからこそ、うちらは笑わせ続けたい。笑いは過去を消すことはできんけど…一瞬でも光を灯して、前に進む力になれるかもしれん。」)
すると、傍らにいたひとりの少年が小さく手を挙げた。
少年:
“When you made the silly face earlier… I forgot my sadness for a moment. I want to laugh more.”
(「さっき変な顔してくれたとき…悲しいことを忘れられた。もっと笑いたい。」)
その言葉に、会場全体が少しずつ温かい空気に包まれていった。光子と優子はそっと顔を見合わせ、また何か新しいネタをやろうと目で合図した。
光子は一歩前に出て、ゆっくりと会場を見渡した。優子も隣に立ち、真剣なまなざしで子どもたちに語りかける。
光子 (Mitsuko):
“We believe that humans are happiest when they are laughing. If we forget how to laugh, we forget how to be truly human.”
(「人間は、笑っている時が一番幸せやと思う。もし笑うことを忘れてしまったら、人間は本当の意味で人間でなくなってしまうんよ。」)
優子 (Yuko):
“That’s why we want to share laughter with you. Even if only for a moment, we want you to feel happiness, to remember that your heart can be light again.”
(「だから、うちらはみんなと笑いを分かち合いたい。たとえ一瞬でも、幸せを感じて、心がまた軽くなることを思い出してほしいん。」)
光子と優子はそっと顔を見合わせ、また会場を見つめ直す。
光子 (Mitsuko):
“We can’t erase the pain you’ve gone through. But together, we can create moments of joy. That is what we want to give you.”
(「みんなが経験した痛みを消すことはできん。でも、一緒に喜びの瞬間を作ることはできる。それを私たちは届けたいんよ。」)
子どもたちは目を潤ませながらも、自然と口元に笑みを浮かべていった。中には拍手をする子もいて、場は静かな感動と、温かな希望の空気に包まれた。
会場は、柔らかな光に包まれていた。福岡市のホールの一室、舞台の上には光子と優子が並んで立ち、目の前の客席には日本の子どもたちと、遠い国からやって来たソフィーやライアンの施設の子どもたちが座っている。中には初めて日本に来た子も多く、緊張で表情がこわばっている子もいたが、光子と優子の登場で空気は一気に和らいでいた。
優子が両手を腰に当て、わざとらしく深呼吸すると、ニヤリと笑った。
「じゃあ、ギャグ行きますか!」
その言葉と同時に、会場の空気が一気に変わる。子どもたちの目がキラキラと輝き、期待に満ちた笑顔が並んだ。
「もちろん!」と光子が答え、舞台の中央に一歩踏み出す。「今日のテーマは……『お父さんがトイレの場所を忘れた時!』」
会場に小さな笑いが起こる。海外の子どもたちは一瞬きょとんとしたが、すぐに通訳を通して意味が伝わり、口元がほころんだ。
優子が眉を下げ、困ったような顔を作る。左右に視線を泳がせ、舞台をうろうろ歩きながら言った。
“Excuse me, where is the toilet? I think I left it somewhere around here…”
(「すみません、トイレどこですか?ここら辺に置き忘れた気がするんやけど……」)
光子が大げさに目を見開き、両手で頭を抱える。
“Hey! You can’t just leave a toilet behind like a bag!”
(「ちょっと!トイレをカバンみたいに置き忘れるなって!」)
その瞬間、客席が爆発するように笑いに包まれた。日本の子どもたちは「ぎゃははは!」と声を上げ、海外から来た子どもたちは膝を叩きながら笑った。通訳が追いつくより早く、状況の可笑しさだけで十分に伝わっていた。
笑いの波が一段落したところで、優子がさらに畳みかける。
“Wait, wait… maybe the toilet went shopping without me!”
(「ちょっと待って……もしかしたらトイレが買い物に行ったんかも!」)
光子が素早くツッコミを入れる。
“That’s not a toilet, that’s your brain going shopping!”
(「それトイレちゃうやろ!買い物に行ったんは、あんたの脳みそや!」)
客席の笑い声はさらに大きくなる。海外の子どもたちの中には、笑いすぎて涙を流す子もいた。普段は笑顔を見せることが難しいと言われていた子どもが、肩を震わせて笑っているのを見て、ソフィーとライアンはそっと目頭を押さえた。
光子はそんな観客の様子を一瞬見やり、心の中で思った。――やっぱり、人間は笑っているときが一番幸せだ。言葉や文化が違っても、ギャグの力は境界を越える。
優子が締めに入るように舞台の端に駆け寄り、大声で叫んだ。
“Attention, everyone! If you see a toilet walking down the street, please tell me!”
(「皆さん!もし街を歩いてるトイレを見かけたら、ぜひ私に教えてください!」)
光子がすかさず飛びついて頭を叩く仕草をし、二人同時に深々とお辞儀をした。
会場は大爆笑と拍手の渦に包まれた。
その笑いの中で、子どもたちの表情は生き生きと輝いていた。笑顔を取り戻した彼らを見て、大人たちの胸にも温かいものが広がっていった。
拍手と笑い声が渦のように広がる会場。光子と優子が深々とお辞儀をしたまま顔を見合わせ、こっそりと小さくガッツポーズを交わした。観客席の空気は完全に温まっている。
すると、前の方に座っていた小さな男の子が、おずおずと手を挙げた。ソフィーがそっと背中を押すと、その子は恥ずかしそうに立ち上がり、たどたどしい英語で言った。
“I… I want to try a funny story too.”
(「ぼ、ぼくも…おもしろい話をやってみたい」)
会場が一瞬静まり返り、すぐに温かい拍手が巻き起こる。光子がにっこり笑って手を差し伸べた。
「よかよか!おいで!」
ステージに上がったその子――シリアから来たアミルは、少し緊張しながらも勇気を振り絞って言葉を続けた。
“My joke is… about a camel in my village. One day, the camel walked into my uncle’s kitchen and ate all the bread!”
(「ぼくのジョークは…村のラクダの話。ある日、そのラクダが叔父さんの台所に入って、パンを全部食べちゃったんだ!」)
光子と優子が同時に目を丸くし、わざとらしく大げさに叫ぶ。
“What?! The camel was hungry, but why in the kitchen?!”
(「なんやて?!ラクダは腹減っとったんかもしれんけど、なんで台所やねん!」)
観客からドッと笑いが起こる。アミルは驚いたように客席を見渡したが、すぐに顔をくしゃっとさせて笑った。緊張がほどけ、彼の目に涙のような光が浮かんだ。
その姿に続くように、今度は津波で家族を失ったインドネシアの少女、アイシャが手を挙げた。
“My story is about… my little brother. He thought fish could fly like birds, so he threw them in the air… and they never came back.”
(「私の話はね…弟のこと。魚は鳥みたいに空を飛べると思って、空に放り投げたの。そしたら、二度と戻ってこなかった」)
優子がすかさず両手を広げて叫ぶ。
“Oh no! Free sushi in the sky!”
(「あー!空飛ぶ寿司になってもうた!」)
その一言に、会場はまた大爆笑。アイシャも口を押さえて笑い、肩を震わせた。彼女のその笑顔に、ライアンの目からは一筋の涙がこぼれ落ちた。
次々と子どもたちがステージに呼ばれ、国籍も背景も違う彼らが「ギャグ」という共通の遊びで繋がっていく。
――笑いが言葉の壁を越え、悲しみの記憶さえ一瞬忘れさせる。
舞台袖で見ていた美香とあきらは、そっと手を握り合った。美香が小さくつぶやく。
「やっぱり、光子と優子はすごいね…」
その言葉に、あきらも深くうなずいた。




