インバーカーギル目指して
トランツアルパイン鉱山列車の旅後半
はるか異国の地、ニュージーランドの南島を走るトランツアルパイン高山列車の中。アキラと美香は、双子の光子と優子のギャグコント動画に大笑いしながら見入っていた。
周りの観光客もつられて声を上げる。「Oh my god! This is hilarious!」(なんて面白いんだ!)、「My stomach hurts!」(お腹が痛い!)、「I think my abs are cramping!」(腹筋がつりそう!)と、列車内は笑いの渦に包まれた。
美香は涙を浮かべて笑いながら、「まさか、はるか異国の地でも、うちの妹たちは世界を席巻するばい」とつぶやく。アキラも、「ほんとやな。笑いすぎて、俺も腹筋がやばい」と応える。
列車が終点に到着し、二人は観光客と一緒に降りた。しかし、笑いすぎで体がガチガチにこわばっている。ホテルに戻る途中、自然と整骨院の看板が目に入る。
「…やっぱり、整骨院行かんといかんやろか?」美香が苦笑いで言う。
アキラも頷き、「うちら、笑いすぎて完全に整骨院送りやな」と冗談交じりに答えた。
こうして、はるか異国の地でも、笑いの代償として、二人は再び整骨院のお世話になることになったのだった。
異国の地で整骨院送り
整骨院送りになった後も、二人の笑いは止まらなかった。列車内で一緒にギャグ動画を見ていた外国の観光客たちは、SNSでファイブピーチ★や美香、光子と優子の公式アカウントをフォローし始めたのだ。
「Wow, these twins are amazing!」(うわ、この双子すごい!)、「I need to follow them immediately!」(すぐフォローせんといかん!)と口々にコメントを残し、写真や動画をシェアする人も少なくなかった。
それを見た光子と優子は、学校の休み時間にスマホを覗き込む。
「ねぇねぇ、見て!最近、外国の人のフォロワーさん、めっちゃ増えとるやん!」
「ほんとやー!これって…うちらのギャグ、海外に進出したっちゅうことやんね?」
二人は顔を見合わせ、ニヤリと笑う。まさか、はるか異国の地で自分たちのボケやツッコミが世界に届くなんて、想像もしていなかった。
「これからもっと、面白いことせんといかんばい!」
「うん、世界征服…いや、世界笑わせる作戦ばい!」
こうして、双子の光子と優子のギャグは、文字通り国境を越え、世界中の人々を笑顔にしていくのだった。
ファイブピーチ★の紹介
翌朝、クライストチャーチのホテルのロビーで、列車で一緒になった観光客たちと再会した。みんな、昨夜のギャグ動画の余韻が忘れられない様子で、にこにこしながら話しかけてきた。
「We really loved the videos you showed on the train! Can we see more?」(列車で見せてもらった動画、本当に面白かった!もっと見せてもらえますか?)
美香はにっこり笑いながら、スマホを取り出す。
「Of course! Here are a few more clips of my little sisters’ comedy and our group, Five Peach★.」(もちろん!妹たちのコントや、私たちファイブピーチ★の動画をいくつか見せるね)
観光客たちはスマホの画面に釘付けになり、笑い声がロビー中に響いた。
「You guys are amazing! Your sisters are so funny!」(みんなすごい!妹さんたち、めっちゃ面白い!)
美香はさらに、公式ホームページのアカウント情報を伝える。
「If you want, you can always watch their comedy and see what Five Peach★ is up to on our official homepage.」(公式ホームページを見れば、妹たちのコントやファイブピーチ★の活動をいつでも見られるよ)
「Really? That’s fantastic!」(ほんとに?すごい!)
「We’ll definitely follow them!」(絶対フォローするわ!)
観光客たちは嬉しそうにスマホを操作し、早速アカウントをフォローする。美香とアキラも笑顔で見守りながら、異国の地でも笑いが広がっていく光景を楽しんだ。
なぜか整形外科委員が大盛況?
その日の午後、クライストチャーチ市内の整形外科医院では、いつもと違う光景が広がっていた。
「今日は、なんでこんなに忙しいの〜?」と、受付の看護師が戸惑いながら叫ぶ。
待合室には、昨日列車で一緒だった観光客たちや、ホテルで動画を見た人々が次々に詰めかけ、笑いすぎて腹筋がつったり、腰や背中が痛くなったと訴えていた。
院長も驚いた顔で診察室を行き来しながら、スタッフに声をかける。
「まさか、昨日の観光列車のギャグ動画のせいで、こんなに患者が増えるとは…!」
患者の一人がスマホを見せながら説明する。
「We followed these Japanese twins and Five Peach★ online… we laughed so much, my stomach hurts!」(日本の双子とファイブピーチ★をオンラインでフォローしてて…笑いすぎて腹が痛くなったんです!)
看護師も思わず笑ってしまいながら、診察券を準備する。院内は笑い声と痛がる声で、不思議な騒ぎとなった。
クライストチャーチの静かな街に、まさかの日本ギャグ旋風が吹き荒れる一日。これも、新婚旅行中の美香とアキラ、そして双子姉妹の笑いの力だった。
まさかの国際的バズリ
一方、遠く離れた福岡の小倉家。光子と優子は、相変わらず家のリビングでギャグコントの練習中だった。
「お姉ちゃんたち、海外で動画見られよるんやって!」と誰かが言っても、双子ちゃん本人たちは耳を疑ったように首を傾げる。
「えー、マジで?うちらが海外でバズっとると?」
「そんなこと、夢にも思わんやったばい!」
二人は、スマホを覗き込んで、フォロワーがどんどん増えている通知を見て、ただただ目を丸くするばかり。
「ほんなこつ、うちらのギャグが外国の人に通じとると?」
「英語字幕つけとるけんね、世界中の人に笑ってもらえるったい!」
笑いと驚きで二人の部屋は小さな興奮の嵐に包まれる。家族はその様子を見守りながら、四年後には自分たちも海外で笑いの旋風を巻き起こすのか、と微笑んだ。
この日、双子ちゃんはまだ気づいていない。彼女たちのギャグは、はるか遠くニュージーランドで整形外科医院を大忙しにさせ、街中の人々を笑いでつなげていることを――。
ニュージーランドから帰国した観光客たちは、スマホの動画を自分の国のSNSにシェアし始めた。たちまちその動画はヨーロッパや北米、アジアのユーザーにも届き、コメント欄には次々と書き込みが増えていく。
「この双子ちゃん、めっちゃ面白い!」
「子どもたちのギャグでこんなに笑ったのは初めてだ!」
「英語字幕も完璧で理解できたよ。天才的!」
世界中の人々が、福岡の小さな双子姉妹のユーモアに感動し、笑い、共感していた。光子と優子はもちろんまだこの事実を知らず、家のリビングで今日もギャグの練習に夢中だ。
「ねぇ優子、うちらのギャグ、海外でもバズっとるっちゃろか…?」
「いやいや、まさかね〜!」
それでも、ひとつの動画が国境を越えて、多くの人々を笑顔にしていることは確かだった。小さな笑いが、瞬く間に世界に広がる――そんな奇跡の瞬間であった。
コメント欄には、ヨーロッパやアジアだけでなく、中東やアフリカの紛争地域に暮らす子どもたちからも書き込みが届き始めた。英語やアラビア語、スペイン語、フランス語――さまざまな言語で、彼らはこう綴っていた。
“We are going through hard times, but your videos made us laugh. Thank you!”
(「大変な時期だけど、君たちの動画で笑えたよ。ありがとう!」)
“Once the war ends, we want to make everyone laugh like you do!”
(「戦争が終わったら、僕たちもみんなを笑わせたいんだ!」)
画面の向こうの声に、美香とアキラは言葉を失った。遠く離れた場所で、戦争や紛争に苦しむ子どもたちが、笑いという希望を求めている――その事実が、胸に深く響く。
「優馬さん、美鈴さん、うちらが作った笑いって、こんなにも遠くまで届いとうとね…」
美香の声には、驚きと感動、そして責任感が混ざっていた。
アキラも静かに頷き、二人は画面に映る小さな手や笑顔に目をやった。笑いは、国境も戦争も越えることができる。小さな双子姉妹のギャグが、遠い国の子どもたちの心をつなぐ――その事実が、二人の胸を温かく満たした。
その夜、クライストチャーチのホテルの一室。
美香とアキラは、整骨院送りになった観光客たちの話を思い出しては、ベッドの上で声を上げて笑っていた。
「まさか海外の人たちまで、腹抱えて笑ってくれるとは思わんかったね」
「ほんとたい。フォロワー、なんか急に増えとるけど…きっと、あの列車で一緒やった観光客さんらがシェアしたっちゃろうね」
スマホの画面に並ぶ数字を、美香はなんとなく眺める。確かに、公式アカウントのフォロワー数はここ数日で驚くほど伸びていた。けれど、その意味を、このときの二人は深く考えていなかった。
「ま、人気が出るのはええことやん。妹たちも喜ぶやろ」
「やね。帰国したら、光子と優子に自慢話せんといかん」
二人は笑い合い、部屋の明かりを落とした。
そのときはまだ――そのフォロワーの中に、紛争地に暮らす子どもたちの声や、海外からの温かなメッセージが隠されていることを、夢にも思っていなかった。
インバーカーギルへ
ニュージーランドでの滞在も、いよいよ残り二日。
翌朝、二人はクライストチャーチのホテルをチェックアウトし、南島のさらに南へと向かう飛行機に乗った。行き先はインバーカーギル。
「世界最南端の駅があった街、かぁ。なんか響きがロマンチックやね」
美香は窓の外に広がる広大な景色を眺めながらつぶやく。
「うん。世界一って聞いたら、行きとうなるよね。しかも、鉄道好きにはたまらん場所やろうし」
アキラが笑って応じる。
インバーカーギルの空港に降り立つと、そこはどこか素朴で穏やかな町だった。中心部にほど近い場所には、かつて「世界最南端の鉄道駅」として知られたブラフ駅へと続いていた鉄路の跡が残っていた。
駅はすでに廃止されて久しいが、その跡地には記念碑と、当時をしのばせる展示が並んでいる。潮の香りを含んだ風が吹き抜け、遠くには海がきらめいていた。
「ここが、世界で一番南の駅…かつては列車が走っとったんやねぇ」
美香は案内板を読み上げ、想像するように目を細める。
「そう考えたら、なんか不思議やね。俺ら今、地球のほんと端っこにおるっちゃもん」
アキラは笑いながらスマホを取り出し、記念碑の前で二人並んで写真を撮った。
二人の笑顔の背後には、広大な南の海。
その先にはもう南極が広がっている。
二人はインバーカーギルの市街を抜け、レンタカーでさらに南へと走った。
やがて見えてきたのは、港町ブリフ。ここは漁業で栄え、そして「南の果て」として世界中の旅行者が訪れる場所だった。
車を降りると、潮風が一層強く頬を撫で、空にはカモメが鳴き声を響かせている。
そして視界に飛び込んできたのは、スターリング・ポイントのサインポスト。
「わぁ……! これが有名なやつやね!」
美香は思わず声を上げた。
白いポールの先には、黄色い矢印の看板がいくつも伸び、東京、ロンドン、ニューヨーク、シドニー、南極といった地名と距離が刻まれている。
「東京まで……一万キロ以上かぁ。めっちゃ遠かぁ」
アキラが看板を指差しながら感嘆する。
「でも、こうして繋がっとうって思ったら、不思議と近く感じるよね」
美香はにっこり笑い、ポールにそっと手を触れた。
二人はそこで写真を撮り合い、動画も回した。
美香はカメラに向かって笑顔で言う。
「ここが、世界の端っこ! ブリフのスターリング・ポイントです! 風がすごいけど、めちゃくちゃ気持ちいい〜!」
アキラが横から割り込むようにして、
「福岡からはるばるここまで来ましたー! ……けど帰りはどうする? ヒッチハイクで南極まで行く?(笑)」
とギャグをぶっ込み、美香が大笑い。
その様子を通りすがりの観光客たちも楽しそうに眺めていた。
ある旅行者が「Could you take a picture for us?(写真撮ってもらえますか?)」と声をかけてきたので、美香は快くカメラを受け取り、代わりにシャッターを押す。
世界の果てで、見知らぬ人たちと笑顔を交わす――その瞬間、二人の胸にはまた一つ、大切な思い出が刻まれた。
サインポストの前で写真を撮っていると、次から次へと観光客がやってきた。
「Where are you from?(どこから来たの?)」
「Japan! From Fukuoka!(日本の福岡から来ました!)」
と答えると、相手の顔がぱっと明るくなる。
「Oh! Japan! Beautiful country!」
「福岡って、ラーメンで有名なところでしょ?」
思わぬ言葉に美香とアキラは顔を見合わせ、同時に吹き出した。
「そうそう! 博多ラーメン! 替え玉もあるんよ!」
「替え玉? What’s that?」
と尋ねられ、アキラは身振り手振りで替え玉システムを説明。観光客たちは大笑いしながら「I need that in New Zealand too!」と冗談を飛ばす。
さらに地元の年配の夫婦が近づいてきて、
「新婚さん? Congratulations!」
と温かい笑顔で声をかけてくれる。
美香は照れながらも「Thank you very much!」と答え、アキラは腕を組んで「Honeymoon at the end of the world!(世界の果てで新婚旅行!)」と茶化す。
その場にいた人たちは、思わず拍手をして祝福してくれた。
まるで即席の国際パーティーのような雰囲気になり、笑顔と笑い声が絶えなかった。
「ここに来ると、ほんといろんな人と繋がれるんやね」
美香が小声でつぶやくと、アキラはうなずきながら肩を抱いた。
「世界の端っこで、こんなに温かい気持ちになれるっち、不思議やな」
潮風に吹かれながら、二人は世界の広さと、人の心の近さを改めて感じていた。
ブラフオイスター
観光客たちとの賑やかな交流の後、地元のご夫婦が微笑みながら声をかけてきた。
「Have you tried Bluff oysters?(ブラフ・オイスター食べたことある?)」
二人は顔を見合わせて首を横に振る。するとご夫婦は、
「You must try! It’s the best in the world.(絶対食べるべきよ、世界一だから!)」
と力強く勧めてきた。
その言葉に押されて、二人は近くの食堂に案内される。
テーブルに運ばれてきたのは、殻から外したばかりの大ぶりの生ガキ。
磯の香りがふわっと立ち上がり、透き通るような身がつややかに光っている。
「わぁ……大きかねぇ」
「こりゃすごか……」
恐る恐るレモンを絞って口に運ぶと――
濃厚でクリーミー、だけどすっきりとした潮の香りが広がった。
「う、うまっ!」
アキラが思わず博多弁で叫ぶと、隣の席にいた観光客たちも拍手と笑い声を上げる。
「How is it?(どう?)」
「It’s…amazing!!(最高です!)」
美香も笑顔で親指を立てた。
それを聞いた店の主人は得意げに胸を張る。
「These oysters are the pride of Bluff!(これがブラフの誇りさ!)」
その後、観光客たちと自然に乾杯が始まり、見知らぬ人たちと一緒にブラフ・オイスターを味わうという、なんとも贅沢で心温まる時間となった。
外は冷たい潮風が吹いていたが、店の中は笑顔と拍手であふれ、二人の心には温かい思い出がまたひとつ刻まれていった。
ニュージーランド最後の夜
ニュージーランド滞在も、いよいよ最後の夜を迎えた。
クライストチャーチのホテルの前に広がる広場は、静けさに包まれ、街の灯りが遠くに淡く瞬いている。
二人は肩を寄せ合いながら、夜空を見上げた。
そこには、北半球では決して見ることのできない星々が、圧倒的な輝きで広がっていた。
「見て、アキラ。あれが南十字星よ。」
美香が指さした先には、まるで宝石を四つ並べたように、はっきりと形を成す星々があった。
「ほんとやなぁ……北の空じゃ見られん景色や。なんか、不思議な気分やね。」
アキラは小さく息をのんだ。
そして、その横にうっすらと白い雲のように広がるのが、大小のマゼラン星雲。
地平線に沈むことなく夜空に漂うその姿は、二人にとって初めて目にする宇宙の風景だった。
「こがん星、いつまでも眺めときたかね。」
「うん……なんか、心が澄んでいくみたい。」
美香はそっとアキラの腕に頭を預け、彼も優しく抱き寄せる。
夜風は少し冷たかったが、その温もりがすべてを包み込んでくれた。
「いつかまた来ようね、二人で。今度は、家族も連れて。」
「うん。今日の星空、ぜったい忘れんよ。」
二人は言葉少なに、ただ星々の瞬きに心をゆだねた。
南半球ならではの果てしない夜空は、新しい人生の旅立ちを祝福してくれているようだった。
夜が更け、星空を眺めていると、広場の先にある草むらから、ひょこひょこと小さな影が現れた。
「……あっ!アキラ、見て!ペンギンやん!」
美香の声が小さく弾む。
街灯に照らされ、ちいさなペンギンたちが草むらを抜けて道を横切り、よちよちと歩いている。
まるで行進のような可愛らしい姿に、美香は思わず目を輝かせた。
「かわいい〜……!野生のペンギン、初めて見た!」
「ほんとやねぇ。寝床に帰りよるっちゃろか?」
ペンギンたちは短い足で一生懸命に歩き、波打ち際の方へと消えていった。
美香は胸の前で両手を合わせ、そっと声をかけた。
「気をつけて帰ってね……」
その姿に、アキラはふっと微笑み、横顔を見つめる。
「美香って、ほんと優しかね。……ずっと、こうやって動物たちが安心して暮らせる環境であって欲しいね。」
「うん……自然も、人も、幸せであって欲しいね。」
二人はそのまま、最後の夜を大切に抱きしめるように過ごした。
ホテルの浴室で肩を寄せ合い、湯けむりの中で何度も唇を重ねる。
互いを確かめ合うように、時間を忘れて愛し合った。
そして、湯上がりのままベッドに潜り込み、裸の温もりを感じながら眠りについた。
美香はアキラの胸に頬を寄せ、安らかな寝息を立てていく。
その微笑みは、幸福そのものだった。
朝の光がホテルのカーテン越しに差し込み、美香はゆっくりと目を覚ました。
「……アキラ、おはよう。今日でニュージーランドともお別れやね。」
「ほんとやね。あっという間やったなぁ……。でも、いっぱい思い出作れたね。」
二人はベッドの上で顔を見合わせ、微笑み合った。
朝食を済ませ、荷物を最終確認する。昨日のうちに買い揃えた土産物は段ボールに詰め、航空便で小倉家に送ってある。
「多分、もう家には届いとるかもしれんね。」と美香が言うと、アキラも頷いた。
出発前にスマホを開き、家族のLINEグループにメッセージを送る。
『今日帰るよ〜!ニュージーランド、最高やった!たくさんのお土産送っとるけん、楽しみにしとってね』
間もなく既読が並び、続々と返信が届いた。
母からは「気をつけて帰ってきてね」、
義祖父母からは「無事に帰ることが一番のお土産だよ」、
光子と優子からは「お土産食べ尽くす準備しとるけん!」とギャグ交じりの返事が返ってきた。
そんな温かいやりとりに笑顔を浮かべながら、二人はチェックアウトを済ませ、タクシーに乗り込む。
空港への道すがら、窓の外には広々とした牧草地と、遠くにそびえる山並みが広がっていた。
「ニュージーランドとも、いよいよお別れかぁ……」
美香が窓の外に視線を向けると、アキラはそっと彼女の手を握った。
「でも、ここでの思い出は一生もんやね。またいつか来れるよ。」
クライストチャーチ空港に到着し、ウェリントン行きの便に搭乗。
飛行機が滑走路を離れ、機体が浮かび上がると、二人は声をそろえた。
「さよなら、ニュージーランド!」
窓の外に広がる大地と青い海を見つめながら、二人はこの旅で得た数々の体験と、心に刻まれた人々の温かさを胸に刻み込んだ。
さよならの空、帰国の空
ウェリントン空港を飛び立った機体は、ゆっくりと旋回しながら高度を上げていく。
窓の外には、碧くきらめく海と、入り組んだ海岸線、そして緑に覆われた丘陵が広がっていた。
「わぁ……きれいやね。」
美香が窓に額を寄せて、名残惜しそうに外を見つめる。
眼下には、小さな家々や港町が点在し、やがて点のように小さくなっていく。
街並みの向こうには、どこまでも広がる太平洋の水平線。白い雲がゆったりと漂い、まるで帰国する二人を見送っているかのようだった。
アキラは隣の席から、美香の横顔をじっと見つめた。
「なんか……ほんとに夢みたいな旅やったね。まだ昨日のことみたいやのに、もう日本に帰るなんて。」
美香は小さく頷き、彼の手を握る。
「うん。あっという間やったね。でも、この空から見える景色……きっと一生忘れんと思う。」
飛行機は北へと進路をとり、ニュージーランドの大地を離れていく。
二人の心の中には、雄大な自然、出会った人々、笑い合った瞬間の数々が鮮やかに蘇っていた。
「また絶対、戻って来ようね。」
美香の声は、窓に映る空の青に溶け込むように、柔らかく響いた。
アキラは頷き、彼女の肩を抱き寄せる。
「もちろん。次は……家族みんなでやな。」
二人は微笑み合いながら、北へ北へと進んでいく機体の窓の向こうに広がる大空を、いつまでも見つめ続けていた。




