ニュージーランド最初の夜
街角のメロディ
ウェリントンの小さな広場に差し掛かると、路上で演奏する人たちの音が響いていた。美香とアキラは思わず足を止める。
「Hey, would you like to try playing with us?」(ねぇ、一緒に演奏してみませんか?)と、にこやかな路上ミュージシャンが声をかける。
美香は笑顔で答える。
「Yes, we’d love to! I play trombone, and my husband plays trumpet and saxophone.」(はい、ぜひ!私はトロンボーン、夫はトランペットとサックスです。)
アキラがトランペットを手に取り、二人は即席でセッションを始める。小さな広場は、二人の音で瞬く間に賑やかになる。
通りすがりの観光客や地元の人々が立ち止まり、楽しそうに拍手を送る。
「Wow! You sound amazing! Are you professionals?」(わあ!すごい音だね!プロなの?)と、近くにいた地元の女性観光客が声をかける。
「Thank you! Yes, we’re musicians from Japan, Fukuoka. Music is a big part of our lives.」(ありがとう!はい、日本の福岡から来た音楽家です。音楽は私たちの生活に欠かせません。)
演奏を終えると、路上ミュージシャンたちと手を取り合い、笑顔で写真を撮る。美香は英語で話しかける。
「Can we exchange emails? We’d love to share some music from Japan with you.」(メールアドレスを交換できますか?日本の音楽をぜひお届けしたいです。)
「Of course! And please send us some photos from Fukuoka too!」(もちろん!福岡の写真もぜひ送ってね!)
こうして、ウェリントンの街角は、日本とニュージーランド、二つの国を結ぶ小さな音楽の輪で温かく包まれた。
黄昏のタクシー
ウェリントンの街をあちこち見て回った美香とアキラ。観光を楽しみながら歩き続けるうちに、空は次第にオレンジ色に染まり、黄昏時を迎えていた。
「Let’s head back to the hotel.」(ホテルに戻ろうか)
美香がアキラに声をかけると、二人は通り沿いでタクシーを止める。
運転手が笑顔で窓を開け、尋ねた。
“Where to?”
(どちらまでですか?)
美香が答える。
“To the hotel near the airport, please.”
(空港近くの、このホテルまでお願いします)
“OK. Are you newlyweds, then?”
(わかりました。お二人さんは新婚さんですか?)
美香は微笑んで答える。
“Yes, we had our wedding yesterday in Fukuoka, Japan.”
(はい、昨日日本の福岡で挙式したばかりです)
運転手は笑顔で頷き、タクシーはゆっくりと街の灯りを背景に、二人をホテルへと運んでいった。
外の景色が次第に夜の帳に包まれ、柔らかい車内の明かりの中で、美香とアキラは肩を寄せ合い、今日一日の旅を静かに振り返った。
ホテルチェックインと新婚の夜
タクシーは静かにホテル前で停まった。美香とアキラは荷物を下ろし、ホテルのフロントへ向かう。
フロントの男性が笑顔で迎える。
“Good evening! Welcome to Wellington Grand Hotel. May I have your reservation, please?”
(こんばんは!ウェリントン・グランド・ホテルへようこそ。ご予約はございますか?)
美香が予約確認の書類を差し出す。
“Yes, we have a reservation under Akamine, for two nights.”
(はい、赤嶺の名前で2泊予約してます。)
“Perfect. Could I see your passports, please?”
(かしこまりました。パスポートを拝見できますか?)
二人がパスポートを差し出すと、スタッフはキーを渡しながらにっこり笑う。
“Here are your room keys. Your room is on the 12th floor with a beautiful view of the city. Enjoy your stay!”
(こちらがルームキーです。お部屋は12階で、市街の美しい景色が見えます。ご滞在をお楽しみください!)
“Thank you very much!”
(ありがとうございます!)
美香とアキラはエレベーターに乗り込み、12階へ。部屋に入ると、窓の外には夜の街の灯りが広がる。
美香が笑顔で言う。
「いや〜、やっと着いたね、アキラ。ほんと、疲れたばってん、気持ちよか〜」
アキラも荷物を置きながら応える。
「うん、着いたばってん、景色ば見たら、疲れも飛んだばい。やっぱ新婚旅行は特別やね」
美香は窓際に立ち、夜景を見つめながら微笑む。
「ふふ、うちらの初めての海外二人旅やもんね。これからの思い出、いっぱい作らんと」
アキラは美香の肩に手を回し、優しく抱き寄せる。
「そうやね、美香。今日はゆっくり休んで、明日から楽しもうばい」
二人は深く息をつきながら、静かで特別な夜を迎える準備をした。
新婚旅行初日のライン祭り
美香とアキラはホテルの部屋に落ち着くと、まずは家族に今日の到着写真を送ることにした。窓から見える夜景をバックに、二人で笑顔のツーショットを撮影。
スマートフォンを取り出し、光子と優子、優馬と美鈴、そして赤嶺の祖父母に一斉に送信する。
送信してすぐに、光子と優子から返信が届く。
光子:
「お姉ちゃんたち、新婚旅行ばいと?え?夜景の中でラブラブすぎて火事にならんごとね〜!(笑)」
優子:
「わぁ〜、うちらも一緒に行きたか〜!でも、その笑顔ば見せられたら、こっちもメロメロなるばい(笑)」
添付された写真は、二人が顔を寄せ合い、手でハートを作っているギャグっぽいポーズ。
美香は思わず吹き出す。
「もう〜、光子と優子は何ばしよんね(笑)」
アキラもスマホを覗き込み、笑顔。
「うちも笑い転げたばい。いや〜、双子ちゃんのギャグセンスはほんと最強やね」
次々に優馬や美鈴、祖父母からも温かいコメントが届き、ホテルの部屋は小さな家族のやり取りで笑いと幸せに包まれた。
夜景を眺めながら、二人は画面越しでも、家族の笑顔と温かさを感じて、旅の始まりに心を躍らせた。
ニュージーランド便り
美香はラインの画面に向かって打つ。
「ニュージーランドはすごく過ごしやすかよ〜。福岡の寒さとは全然違う。湿気も少なくて、カラッとしてるけん、ほんと快適ばい。」
アキラも横で頷きながら補足する。
「街の雰囲気も穏やかで、空気が澄んどる感じばい。海沿いの風も気持ちよか〜。」
画面越しに光子と優子がすぐ返信する。
光子:
「うちらんとこは阿蘇ん方、雪が降ったっちゃけん、風邪ひかんごと気をつけてね〜!」
優子:
「福岡はめちゃくちゃ寒かけん、あったかかニュージーランドば満喫してね!」
美香は笑いながら、画面越しの双子の声に返す。
「はいはい、うちらも寒い思いせんで済みそうやけん、安心しとって〜!」
こうして、新婚旅行の最初の夜も、画面越しに家族とのやり取りで笑いと温かさに包まれたまま、二人は明日からの観光を思い描き、寝支度に入った。
双子の新婚旅行妄想コント
小倉家の居間。光子と優子はソファに座り、目を輝かせながら妄想を広げる。
光子(博多弁)
「もしうちら、新婚旅行でニュージーランド行ったら、まず飛行機で寝るんば、旦那さんに頭乗せて…うわ〜、重か〜!」
優子(博多弁)
「ほんで、着いたら羊ば追いかける観光ばしよるっちゃろ〜。え?羊に追いかけられる新婚旅行ってアリなん?」
光子
「そん次は、タクシー乗ったら運転手のおっちゃんと会話ばしよって、『新婚さんやけん、特別に絶景ポイント行こか〜』ってなって、でも道に迷って、羊に道案内させるとか!」
優子
「そいで、夜はホテルで、ベッドん上でギャグ大会!『枕投げで愛を確かめるばい!』って旦那さんに言うとか!」
二人は大笑いしながら、手振り身振りを交えて妄想劇を繰り広げる。
光子
「うわ〜、めっちゃ楽しそうやん!」
優子
「ほんとやね〜。でも、うちらはまだまだ新婚やないけど、4年後には…!」
笑い声が居間に響き、小倉家に久しぶりに平和で賑やかな午後が流れる。
光子と優子の妄想コントを聞きながら、優馬と美鈴は微笑む。
優馬(博多弁)
「あんたら、四年後にはもう結婚すると?大学生やろ、学生結婚かいな…まあ、どげんなるか楽しみやねぇ。」
美鈴(博多弁)
「そいね〜。二人はどうやろうねぇ?でも、多分大学には入るやろうし、学生結婚ってこともあり得るかもね」
光子は腕を組んで得意げに、優子は手をヒラヒラさせて答える。
光子(博多弁)
「そげん学生結婚って、毎日お弁当作って、授業中もギャグば考えとる感じちゃう?」
優子(博多弁)
「朝は寝坊して、旦那さんに『ごはんまだ〜?』って言われて、二人で爆笑とか!」
二人の妄想劇に、優馬と美鈴は思わず笑い、居間には和やかでほっこりした空気が広がった。
居間には、柔らかな午後の光が差し込み、窓際のソファに優馬がどっかりと腰を下ろした。ため息交じりに笑いながら、ぽつりと呟く。
「お前らが結婚して、この家出たら、家の中一気に静かになるやろうな〜」
その言葉に、光子はにやりと笑い、優子は手をヒラヒラさせながら答えた。
「ふふーん。お父さん、ひょっとして寂しいとか思うと?」
「うちらが出たら、お父さん、お母さんの特等席独占状態じゃん!」
美鈴はくすくすと笑い、優馬の肩を軽く叩いた。
「そいね、二人がおらんくなったら、ほんまに静かになりそうやね〜」
居間には、笑いとほのかな寂しさが混ざった、あたたかい空気が流れた。
光子と優子の目がきらりと光る。
「お父さん、二人きりになったら、お母さんと超激甘な毎日過ごすんやろ?」
優子がすっと立ち上がり、手を大きく広げて演技を始める。
「ほら〜!お父さん、お母さん、朝起きたらチュー!昼はハグ!晩ご飯はラブラブごはんやろ〜!」
光子も負けじと加わる。
「夜はお風呂も一緒で、ブクブク泡だらけのラブラブタイムやんね〜!」
優馬と美鈴は、思わず吹き出す。
「…いやいや、想像しただけで、ほんまにうるさそうやな(笑)」
居間には、双子のギャグコントで作られた、笑いと妄想の甘い世界が広がった。
居間の空気は、一瞬にして双子の舞台に変わった。光子が勢いよく立ち上がり、手を広げて叫ぶ。
「みなさーん!新婚旅行行くなら、こうなるっちゃけん!」
優子も負けじと飛び出す。
「そうそう!朝起きたらベッドが迷路!右に曲がるとお父さん、左に曲がるとお母さん〜!」
光子が小道具として枕を取り出す。
「昼ごはんは、ラブラブサンドイッチ!食べたらキスせんと次に進めんとよ〜!」
優子はおもむろにフライパンを振り回す。
「夜はお風呂バトル!泡だらけで、誰が最初に滑るかゲームやんね〜!」
二人のテンポは止まらず、擬音や効果音も炸裂する。
「ドーン!ズコー!ピャーン!」
優馬はソファに座り、頭を抱えながらも笑いをこらえられない。
「…もう、家の中、カオスすぎるやろ…(笑)」
美鈴は微笑みながらもツッコミ。
「光子、優子、ほんとに四年後こんな感じになりそうやね〜」
双子はお互いににっこり笑い合い、最後に勢いよく決めポーズ。
「これが、うちらの新婚妄想ギャグコントやけん!」
居間は笑いと妄想でいっぱいになり、静かになる暇など微塵もなかった。
ウェリントンの夜は、静かに街灯だけが光を放っていた。現地時間は22時を少し過ぎたころ。長旅と市内観光で疲れた二人は、ホテルのベッドに倒れ込むように横たわった。
アキラは、美香をそっと抱き寄せるようにして目を閉じる。疲れが体を包み込み、まぶたは重くなる。すると、寝息の間に小さな寝言が漏れた。
「美香〜ちゅ〜…」
その瞬間、美香も夢の中で応えるように、うとうととつぶやく。
「アキラ〜。抱っこ〜…」
互いの存在を確かめるように、二人は眠りの中でも手をつなぎ、抱き合ったまま夢の世界へと沈んでいった。
ニュージーランドの夜風は窓から届き、遠くの波の音と静かな街のざわめきが、二人の眠りを優しく包み込んでいた。
朝のウェリントンは、さわやかな光が窓から差し込み、海の香りがわずかに漂っていた。アキラと美香は、ホテルのレストランへ向かう。地元の新鮮な魚介類が並ぶビュッフェに、二人の目は自然と輝いた。
「ほら、アキラ。見て、朝からこのでっかいエビ!夜は肉やったけん、今日は魚が食べたかぁ」と美香。
「うん、ほんとラッキーやね。やっぱり海に囲まれた国はええなぁ」とアキラも嬉しそうに頷く。
二人は箸を進めながら、家族にもこの景色と料理を見せたいと思い、スマホで写真を撮る。海鮮の鮮やかな色が画面いっぱいに映る。
現地時間は朝8時。日本時間だとまだ早朝で、きっとすぐには既読にならんやろうと思いながらも、スマホを確認すると、予想外にもすぐに双子ちゃんから返信が来た。
「でっかいエビじゃん!私も食べたい〜!」
「すごいね、美香お姉ちゃん、アキラお兄ちゃん、美味しそう〜」
画面越しに届く双子ちゃんの絵文字混じりのメッセージに、二人は微笑みながら、朝のひとときをさらに楽しく過ごした。




