14歳 そして楽団定期演奏会
スタジオの照明がパッとつくと、ファイブピーチ★のメンバーとゲストたちが揃い、セットには小道具やミニチュアの家が置かれている。今日のテーマは「家族のドタバタギャグ」。
司会がマイクを握り、「さあ、今日はあの伝説の家庭事件を再現!歩いてガソリン給油事件と、お母さんの下着妄想事件、いってみましょう!」と煽る。
舞台中央、奏太が自信満々にお父さん役で登場。
「ほれ、今日は家のガソリン、歩いて給油せんといかんぞ!」
「おいおい、どこに入れるっちゃ!?」と光子役の小春がツッコミを入れる。
続いて優子がナレーション役を務め、事件の背景を説明。「お父さん、何を血迷ったか、歩いて給油って言い出して……スタジオも思わず爆笑!」
美香はお母さん役で登場。「あんた、何妄想しよっと?」
奏太は必死にリアクション。「いやいや、うちのボケは最高やろ?」
小春が笑いながらツッコミ。「いやいや、うちのツッコミが最高やけん!」
そこへハイパーコチョコチョの刑が登場。スタッフが仕込んだ巨大羽毛で奏太をこちょこちょ。
「ぎゃああ!やめてくれ〜!くすぐったい〜!」と必死にのたうち回る奏太に、観客もスタジオも爆笑の渦。
優子が仕込みのツッコミを入れる。「ほら、お父さん、妄想止まらんやろ?」
美香も追い打ち。「その妄想、スタジオ全員巻き込む勢いやん!」
光子役の小春が大げさに転がりながらも、「笑いは正義っちゃ!」と叫ぶ。
観客も手を叩きながら笑い、カメラマンも涙を流しながらシャッターを切る。
最後は全員で「ハイパーコチョコチョ、制覇!」の掛け声とともに舞台を締める。
スタジオ中に響く爆笑の余韻が、番組のハイライトを飾った。
スタジオの照明が暗転し、スポットライトがステージに当たる。ファイブピーチ★のメンバー、光子と優子、そして奏太がマイクを握る。今日の目玉は美香が作った新曲「思春期」。
ポップで力強いビートが流れ始めると、10代半ばの複雑な気持ち、ちょっと反抗したい、でも心の奥では不安や戸惑いを抱える瞬間が、三人の歌声にのって溢れ出す。
光子と優子は、息を合わせて「どうしても大人になりたいけど、まだまだ子どもでいたい」と歌う。
奏太は低めの声で、兄としての葛藤や、友達としての揺れ動く心情を表現。
観客席には、10代の子どもたちや親世代も手拍子で反応し、スタジオ全体に曲のテンションが伝わる。
曲が終わると、すぐにカップリング曲「さよならの海」へ。
こちらはテンポがゆったりで切ないメロディ。美香と小春がマイクを握り、別れを決めた二人の揺れる思いを歌い上げる。
「もう会えないかもしれない。でも、心はずっと一緒……」
二人の声が重なり、波の音を模したサウンドとともに、観客の胸にじんわりと染み込む。
ステージの最後、光子と優子、奏太、小春、美香が手を取り合い、観客席に向かって深くお辞儀。
歓声と拍手が渦を巻き、スタジオは温かい感動に包まれた。
ステージを終えて、ファイブピーチ★のメンバーたちは楽屋に戻った。ライトの熱気から解放され、ほっと一息つく。
「いや〜、今日もめっちゃ盛り上がったね〜」
優子がタオルで額の汗を拭きながら笑う。
光子もにこにこしながら「ほんとね〜。さっきの『ハイパーコチョコチョ』コント、スタジオ中で爆笑だったもんね」と振り返る。
奏太は照れくさそうに肩をすくめながら、「お父さん役、やりすぎて恥ずかしかったけど、でも楽しかったな」とつぶやく。
小春が「光子と優子のノリには敵わんわ〜」と感心するように笑い、
美香も「うん、双子のギャグの切れ味はやっぱりすごい」とうなずく。
そして、楽屋の片隅で朱里と樹里も、「あの靴下ネタとか、チョコのおやつネタとか、ほんと笑った〜」と楽しそうに話す。
「双子ちゃん、ギャグセンス、やっぱり天性やね」と樹里が感心する。
優子がふと、ステージの合間に考えていたことを口にする。
「次の収録では、あのロボ父ちゃんのネタ、もっとパワーアップさせようかな〜」
光子も「お父さんのボケは無限大やけん、まだまだ使えるっちゃ」と笑う。
美香はにやりとしながら、「じゃあ、新曲『思春期』のパワーと、このギャグで、次は視聴者の心も爆笑と感動のダブルでいただくね」と宣言。
楽屋は笑い声と小話であふれ、収録の余韻が静かに、でも温かく残っていた。
楽屋での小話もひと段落し、光子と優子はスマホを取り出して、美羽と涼介に連絡を送った。
「今日の収録、無事に終わったよ〜!来週日曜の朝10時から放送されるけん、見てね〜」
すぐに返信が届く。
美羽からは「お疲れ様!絶対見るからね〜」
涼介も「光子ちゃん、優子ちゃん、テレビにも出るなんてすごいじゃん。楽しみにしてる〜」
双子は顔を見合わせてにっこり。
「わ〜、見てくれるんやね!」
「嬉しいな〜、先輩たちに褒められたっちゃ!」
楽屋の空気がふわっと和らぎ、二人の胸は期待とワクワクでいっぱいになった。
来週の日曜、テレビの前で笑顔を届けることを思うと、自然と頬がゆるむ。
放送当日。美羽と涼介はテレビの前に座り、番組のチャンネルを合わせた。
画面に映るのは、ファイブピーチ★の面々。光子と優子、奏太、そして美香と小春が、スタジオいっぱいに笑いを巻き起こすギャグコントを次々と繰り広げる。
最初のボケから、光子の「歩いてガソリン給油事件」まで一気にノンストップ。優子のロボ父ちゃんネタ、奏太の絶妙な間の取り方、美香の絶対笑わせるための表情……すべてが完璧にハマる。
美羽も涼介も、画面に釘付けになりながら笑い続けた。
笑いすぎて、二人の顔は次第に半分引き攣り始める。
「ふふふ…ははは…もう、顔が…」
「ぎゃははは!止まらん!」
最後には二人ともソファに深く沈み込み、笑い疲れて、声もかすれ気味。
それでも、胸の奥には、久しぶりに心の底から笑った満足感があふれていた。
「光子ちゃん、優子ちゃん、本当にすごいね……」
「うん、ノンストップで笑わせてくれるなんて……最高やった」
画面の向こうで輝く双子たちを見て、美羽と涼介は、自然と温かい笑顔を交わした。
2035年7月7日。双子の光子と優子の14歳の誕生日
レストランを丸ごと借り切った店内は、カラフルなバルーンと双子の好きなキャラクターで装飾され、テーブルには特製ケーキや料理がずらりと並ぶ。光子は「わぁ、すごかね〜!」と目を輝かせ、優子も「うにゃ〜、なんか全部可愛か〜!」と手を叩く。
集まったのは、ファイブピーチ★のメンバーに加え、環奈と塁のカップル、はなまるツインズのひなたとみずほ、美香の大学の同級生由美と詩織、生き返った美羽と涼介、そしてさおりも加わる。
さおりはこの日、奏太と手をつないでにっこり。二人の相思相愛ぶりは、周囲からも自然と微笑まれて見守られるほどだ。さおりは双子と肩を並べ、光子と優子の日常をネタにしたギャグコントを披露しつつ、奏太も参加して笑いを誘う。
光子はお父さんがお母さんのセクシー下着を干す妄想事件をネタに、優子はお父さんがロボ父ちゃんになる話をコントにして、爆笑の渦が店内を包む。朱里や樹里も大爆笑で、「もう涙で前が見えん〜!」と喜ぶほど。
ひなたとみずほは双子用に手作りの小さなプレゼントを渡す。光子は「わぁ、ありがと〜!」、優子も「嬉しか〜!」と大喜び。
ケーキカットの時間、光子と優子、そしてさおりの三人で息を合わせてろうそくを吹き消すと、店内全員が拍手喝采。さおりは奏太の手をぎゅっと握りながら「これからも一緒に楽しい毎日を過ごそうね」と微笑む。
光子は「また一年、元気に頑張るけんね!」、優子は「うん、笑顔で過ごすばい!」と宣言。奏太も「さおりと一緒に最高の毎日を作るばい」と応じる。
この日、笑いと愛、友情がぎゅっと詰まった最高の誕生日パーティーは、光子と優子、そしてさおりと奏太の心に、ずっと残る思い出となった。
ケーキカットの後、店内が少し落ち着くと、光子がニヤリと笑いながら言う。
「せっかくみんな集まっとるけん、即興謎かけ問答やってみん?誰か一文で出題して、それに答えるとよ!」
優子もすかさず「うんうん、わくわく〜!」と手を叩く。
最初にさおりが手を挙げる。「じゃあ、私から〜。謎かけ。『双子とコントとかけまして、夏の風と解きます。その心は?』」
奏太が考えて答える。「どちらも“吹き飛ばす”でしょう!」
さおり「正解〜!」
次はひなた。「『ケーキとギターとかけまして、未来の夢と解きます。その心は?』」
優子「う〜ん、どちらも“音を楽しむ”!」
ひなた「ピンポーン!」
美羽も参加。「『幽霊とお笑いと解きます。その心は?』」
涼介がにやりと。「どちらも“人を驚かせて笑わせる”でしょう!」
美羽「大正解〜!」
塁が思いつきで出題。「『双子の靴下とファイブピーチ★と解きます。その心は?』」
光子「う〜ん…“柄が豊富で迷う”!」
塁「お見事!」
朱里も負けじと。「『ハイパーコチョコチョと笑いの嵐と解きます。その心は?』」
樹里「どちらも“止められん楽しさ”!」
美香もひとこと。「『思春期の歌と友情と解きます。その心は?』」
小春「どちらも“心が揺れる”!」
笑いとアイデアが入り混じる問答は、止まることなく続く。光子と優子も、さおりも、それぞれ得意なギャグを絡めて答え、スタジオのように笑いがあふれ、家全体が笑顔で包まれる。
誰かが「じゃあ、次はお父さん!」と振ると、優馬がやや照れくさそうに立ち上がり、即興ボケを交えて出題する。
「よし…じゃあ、俺から。『ガソリン給油と笑いと解きます。その心は?』」
光子と優子「“歩いて行くなんて誰が思うと〜?”」
一同大爆笑。「正解〜!」
こうして、誕生日パーティーは、笑いの止まらない即興謎かけ問答で大盛り上がり。誰もが一瞬のひらめきで笑いを生み出し、家族も友達も、みんな心の底から楽しむ時間となった。
ケーキも食べ終わり、プレゼントも一通り開けた頃、光子が立ち上がる。
「さぁ、今度は大喜利やろうや!テーマは何でもあり、笑いのセンス見せんとね!」
優子も「うんうん、勝ったらアイス奢ってもらおうかな〜」と目を輝かせる。
まずはさおり。「お題:お父さんがロボ父ちゃんになったら、一番困ることは?」
奏太が即答。「充電中でもボケ続けるところ!」
さおり「大正解!」
次は光子。「お題:お母さんの下着を干して妄想が止まらん事件、なぜ優馬はハイパーコチョコチョの刑に?」
優子「答えは、“妄想が止まらんけん、家族全員の笑いが巻き起こった”!」
一同爆笑。「その通り!」
美羽も参加。「お題:幽霊カップルが現れたら、一番驚く瞬間は?」
涼介「答えは“フリフリのスカートがゆらゆら浮いて目の前に現れたとき!”」
美羽「大正解〜!」
小春が手を挙げる。「お題:双子がファイブピーチ★でテレビ出演して一番笑わせる瞬間は?」
光子「答えは“お父さんのガソリン歩きボケが画面越しに炸裂するとこ!”」
一同「うわ〜!確かに笑い死ぬ〜!」
朱里がニヤリ。「お題:靴下選びで一番悩む瞬間は?」
樹里「答えは“うにゃ〜あじゃぱーにするか、うにゃだらぱ〜にするか、悩みすぎて裸足になりそうになるとこ!”」
全員爆笑。「もうやばい〜!」
最後に優馬も。「お題:家庭内でボケて、ハイパーコチョコチョにされる一番危険な瞬間は?」
光子と優子「“お母さんのジト目が近づいてきた瞬間!”」
美鈴がニヤリ。「その通り!」
こうして、即興大喜利は延々と続き、誰もが爆笑しながら順番にボケたりツッコんだり。笑いの連鎖で、部屋中が楽しさであふれ、誕生日パーティーは最高潮に達した。
お開きの時間。笑い疲れた一同が帰路につく中、美鈴はふと美羽と涼介を見つめる。
「ふふっ、あんたたち、生き返ったけど、幽霊の頃の癖で壁をすり抜けようとしたり、壁と喧嘩しとるんやなかろうね?」
美羽は照れ笑い。「そ、それは……まだつい癖で……」
涼介も苦笑。「でも、もう人間界だから壁にはぶつかるしかないね」
光子がすかさずツッコミ。「幽霊のときと違って、壁には突進できんやろー!」
優子も「それに、生き返ったからには、ギャグも人間界仕様で頼むよ〜」と笑う。
美羽と涼介は、笑いながらも少し照れつつ、これからの新しい人生に胸を膨らませる。
美鈴は心の中で、かつて自分も幽霊として彷徨った日々を思い出し、今こうして笑顔でみんなと過ごせる幸せをかみしめた。
「ほんと、生き返ってよかったわね……」
家の前で手を振り合い、光子と優子も「またね〜!」と叫ぶ。
その声を聞きながら、美鈴は微笑み、これからも続く日常と、笑いに満ちた家族の時間を想像した。
11月3日の結婚式を控え、ウェディングドレスやタキシードの選定、前撮りのスケジュール合わせなど、忙しい毎日を送る美香。だが、今日は特別に自分の24歳の誕生日を迎える日でもある。
夏の定期演奏会が近づいていることもあり、忙しさは増す一方だが、心は喜びに満ちていた。
「今年も誕生日を迎えられる……幸せやなぁ」
美香は微笑みながら、チケットの準備に手を伸ばす。優馬と美鈴、光子と優子、さおり、朱里と樹里には、それぞれ定期演奏会のチケットを送ることにした。美羽と涼介には直接手渡す。
「みんな来てくれるかな……」
手渡されたチケットを受け取りながら、美羽が笑顔で言う。
「もちろん見に行くよ!楽しみにしとくね、美香さん」
涼介も笑顔で頷く。
「うん、絶対に応援しに行く。美香さんの演奏、久しぶりに生で聴けるの楽しみやし」
美香は胸が熱くなるのを感じながら、家族や友人、そして親しい仲間たちの笑顔を思い浮かべた。忙しい日々の合間でも、この瞬間の喜びと感謝が、彼女の心を温かく包んだ。
「よし、今日も頑張るぞ!」
そして美香は、結婚式の準備や夏の定期演奏会に向けたスケジュールを確認しながら、充実した一日を始めた。
美羽と涼介にとって、美香が所属する楽団の演奏会に足を運ぶのは初めてのことだった。
チケットを手にしたときから二人は、どこかワクワクしていた。
「クラシックの演奏会って、実は初めてなんだよね」
涼介が少し緊張したように笑うと、美羽は頷いた。
「うん。でも美香さんが演奏するんでしょ?それなら絶対に楽しいはず」
会場に足を踏み入れると、そこには落ち着いた雰囲気と、期待に満ちた観客のざわめきが広がっていた。
普段はコメディやギャグ満載の仲間たちと一緒に笑い合っていることが多い二人にとって、この空気はどこか新鮮だった。
「なんか……背筋が伸びるね」
美羽が囁くと、涼介も小さく笑った。
「うん。でもこういう雰囲気も悪くない」
やがて照明が落ち、指揮者が登場。ステージに整然と並んだ楽団の中に、美香の姿を見つけたとき、二人の胸は自然と高鳴った。
演奏が始まると、会場全体が一気に音楽の世界へと包まれていった。重厚な響き、繊細な旋律、心に直接語りかけるようなハーモニー。その中で、美香が奏でる音は特に輝いて聴こえた。
「すごい……」
美羽は思わず小声で呟く。
涼介もまた、目を離せないようにステージを見つめていた。
演奏会が終わったとき、二人は拍手が鳴り止まない客席に混じって、誰よりも大きな拍手を送った。
「美香さん、めっちゃかっこよかったね」
「うん。普段の優しいお姉ちゃんみたいな雰囲気と全然違う。プロってすごいな」
二人の心には、美香への尊敬と感動が深く刻まれていた。
演奏がすべて終わり、会場を後にしようとしたときだった。
人だかりの向こうから、美香がドレス姿のまま、汗を少しにじませながらも爽やかな笑みを浮かべて歩いてきた。
「美羽ちゃん、涼介くん!来てくれてありがとう!」
二人は驚きながらも、思わず立ち上がって拍手を送った。
「美香さん……すごかったです!」
美羽の目は輝いていた。
「なんか、鳥肌が立ちっぱなしで……あんな風に音楽って、人の心に響くんですね」
涼介も頷きながら、少し照れくさそうに言った。
「うん、ほんと。普段は気さくで、笑顔で冗談言ってくれる美香さんなのに……舞台に立ったら別人みたいで。めちゃくちゃかっこよかったです」
美香はふっと頬を染め、照れ隠しに笑った。
「ありがとう。そう言ってもらえると、頑張ってきた甲斐があるわ。私にとって音楽は、みんなと一緒に笑うことと同じくらい大事だからね」
「……うん、わかります」
美羽は感慨深げに頷いた。
「でもね」
美香が急におどけた表情に変わる。
「実は緊張して、途中で“お父さんが歩いてガソリン給油しに行く”ってボケを思い出しちゃって、吹き出しそうになったんだから」
「えぇーっ!?」
美羽と涼介は同時に噴き出し、さっきまでの厳かな空気が一気に和らぐ。
「やっぱり、美香さんは美香さんですね」
涼介が苦笑すると、美香も肩をすくめた。
「そうよ、私はどこに行っても“美香お姉ちゃん”だからね。だからこれからも、真剣と笑いの両方を大事にしていくつもり」
美羽は微笑んだ。
「そんな美香さんだから、みんなに愛されるんですね」
演奏が終わり、拍手の余韻がロビーに漂う。
美香は晴れやかな表情で、仲間たちを前に胸を張った。
「みんな〜!今日きてくれたうちの大事な人たちば紹介するけんね!」
最初に両親を紹介し、次に双子を呼び寄せる。
「この子らが光子と優子。妹たちね。今日も元気いっぱい聴いてくれたっちゃん」
団員の一人が「こないだテレビ出とったよね?」と声をかけると、二人は顔を赤くして「は、はい!」と答えた。
そして、美香はそっと隣に立つ少女へ目をやる。
「それから……さおりちゃん。実は、うちの演奏会はこれで2回目なんよ」
「えっ、そうなん?」と楽団員の声が上がる。
さおりは一瞬うつむき、少し恥ずかしそうに答えた。
「はい……前より、ちゃんと音が心に届いた気がしました」
「お〜、二回目ともなると聴き方も変わるっちゃろね!」
「次はもっと楽しめるばい!」と温かい声が飛ぶ。
光子が横から茶化すように言った。
「さおりは最初のとき、めっちゃ緊張して聴きよったっちゃんね〜。手に汗かいて!」
優子も笑いながら続ける。
「今日はリラックスしとったけん、途中で小さくリズムとっとったやん」
「や、やめてよ〜!」
さおりの顔は真っ赤になるが、その様子に楽団員たちの笑みが広がる。
美香は続けて朱里と樹里、そして美羽と涼介を紹介していった。
みんながそれぞれ感想を口にし、場は一層和やかに。
最後に、美香は少し照れながらも堂々と胸を張った。
「こうして家族も友達も、二回目の人も初めての人も……うちの演奏を聴いてくれる。ほんとに幸せばい」
その言葉に自然な拍手が起こり、会場は温かい空気に包まれた。
団員のひとりが、にこやかに問いかけた。
「ところで、今日の演奏会で一番心に残った曲は、どげなやった?」
優子が一番に手を上げる。
「私はね、**『静かに眠れ』**やった。音がね、やさしく包んでくれるみたいで……なんか、自分がちっちゃい子どもに戻った気分になったっちゃん」
楽団員の一人が「お〜!中学生でそれ選ぶの渋かね〜!」と笑うと、優子は照れ笑いで肩をすくめた。
続いて光子が胸を張って答える。
「うちは断然、『田園』!あの盛り上がりと力強さ、聴きよったら胸がぐわ〜って熱うなって……なんか自分も一緒に舞台立っとる気分になったっちゃん!」
「元気もらえる曲よね〜」と団員たちもうなずく。
そして視線がさおりに集まった。少し考え込んでいた彼女は、小さな声で言った。
「私は……『アンパンマンのマーチ』、です」
一瞬の沈黙のあと、周囲が「おお〜!」とどよめく。
光子が目を丸くして「さおりらしいね〜!」と笑った。
さおりは頬を赤らめながら、でもしっかりと続けた。
「あの歌詞みたいに、元気や勇気をもらえる音がして……なんか、泣きそうになりました。二回目に聴いたからこそ、余計に心に響いたんかもしれません」
その言葉に、美香は目を細めてうなずいた。
「そうやろ?アンパンマンのマーチはね、大人になって聴いても、心にず〜んと響くとよ」
楽団員たちも口々に「いい選び方やね」「若いのに深か思いしとる」とさおりを褒め、さおりはさらに顔を真っ赤にしていた。
優子、光子、さおりが答えたあと、自然と視線が美羽と涼介に向いた。
美羽が少し考えてから口を開く。
「うちはね……**『思い出のワルツ』**やった。音が優しくて、切なくて、なんか昔のこと思い出して、涙がじわっと出そうになったと」
涼介も微笑みながら続ける。
「うちは**『星降る夜に』**っちゃ。メロディがきれいでね、聴いとるだけで心がふわっと浮くような気分になったとよ」
「うわ〜、二人とも大人の選曲やな〜」と光子が驚きの声をあげる。
優子も「うちも聞きたかった〜!」と手を叩く。
さおりが小さく笑って、「美羽さん、涼介さんのも素敵やね。うちも次はそういうのに注目して聴いてみよう」と言うと、二人もにっこり頷いた。
美香が後ろから、「ほんと、みんなそれぞれ心に残る曲が違うとね。演奏会って不思議やね〜」と感慨深げに言った。
こうして、みんなで今日の演奏会の思い出を語り合いながら、夜はゆっくり更けていった。
その時、アキラも会場に合流。少し照れくさそうに笑いながら、「お疲れ〜」と声をかける。
優馬が目を輝かせて、アキラの演奏の話を始める。
「いや〜、あんた、初めての演奏やったとに、トランペットの迫力ばっちりやったね!テナーサックスの甘い音色も最高やった!」
美鈴もうなずきながら、「ほんとやね〜。堂々としてて、聴いとるだけで胸がじーんときたわ。アキラ、すごいやん!」
アキラは少し照れながら、「いやいや、まだまだやけど、褒めてもろうて嬉しかったばい」と笑う。
光子と優子も興奮ぎみに、「うちも聴いとって感動した〜!かっこよかったもん!」と声を揃える。
さおりもにっこりして、「やっぱりアキラ君、演奏中は本当に生き生きしとるね」と感想を添える。
美羽と涼介も、「二人とも音楽に対して真剣やね。すごく素敵やった」と笑顔で頷いた。
こうして、演奏の感動を共有しつつ、家族や仲間たちの輪は温かく広がっていった。
美香とアキラは、演奏会の余韻を胸に、舞台裏へ向かって歩き出す。楽団の片付けもあるため、二人で息を合わせて歩くその姿は、演奏中と同じように自然で息ぴったり。
美羽がふと声をかける。
「二人揃っての演奏、ほんと素敵やったね〜」
涼介も笑顔で頷く。
「うん、二人の音、重なった時の迫力と柔らかさ、どっちも最高やったばい」
アキラが照れくさそうに答える。
「いや〜、でも美香お姉ちゃんが隣で吹いてくれたけん、安心してできたとよ」
美香も微笑みながら返す。
「私もアキラと一緒やったけん、めっちゃ気持ちよく吹けたとよ」
二人はしばらく、舞台裏の薄暗い空気の中で、演奏の余韻と互いへの感謝を噛み締めるように歩いていった。
夏休みの夕暮れ、小倉家のリビングには、打ち上げのために集まった家族の笑い声が響いていた。演奏会の余韻を胸に、優馬と美鈴、光子と優子、美香とアキラが揃ってテーブルを囲む。
美鈴がにこにこしながら、手際よく飲み物やおつまみを並べる。
「さぁさぁ、みんな揃ったけん、乾杯しよっかね〜」
優馬もグラスを手に取り、笑顔で応じる。
「今日はみんな、おつかれさまやったな!演奏会も大成功やったし、ちょっとだけ祝杯ばああげよか」
光子が小さな声でつぶやく。
「お父さんの乾杯、なんかやっぱ面白かね〜」
優子も続ける。
「うん、でもお父さんのボケとお母さんのツッコミがセットやけん、笑いながら乾杯できるばい」
美香はアキラの方を見ながら、ほほえむ。
「アキラ、今日の演奏も最高やったね〜」
アキラは照れくさそうに肩をすくめて答える。
「いや〜、美香お姉ちゃんが隣におったけん、心強かったとよ」
テーブルには、サラダやカレーの残り、お菓子など、夏らしい軽食が並び、みんなで食べながら、演奏会の話や小さな失敗談、練習中の面白エピソードなどで大笑い。光子と優子は、演奏中のハプニングやお父さんのボケ話を盛り上げ、みんなを笑顔にした。
笑い声と夏の夕日の光がリビングを包み込み、家族の温かさと賑やかさが、ゆっくりとした幸せな時間を紡いでいた。




