夏の終わり
夏の光と笑顔の再会
海の中道海浜公園での発表を終えた光子と優子、美香は、笑いと感動に満ちた余韻を胸に、宗像駅へ向かう電車に乗った。窓の外には、夏の夕陽が海をオレンジ色に染め、風が髪をそっと揺らす。
「お姉ちゃんの曲、ほんとに良かったね。涙出そうになった」と光子。
「うん、私もや。みんなの想いが詰まっとる曲やった」と優子。
電車を降り、宗像駅から少し歩くと、美鈴の実家、黒崎のおじいちゃんとおばあちゃんの家が見えてくる。玄関先で手を振るおばあちゃんの笑顔に、三人は自然と駆け寄った。
「おお、みんな来たねぇ!」おじいちゃんの声が庭先に響く。
「おかえり〜、今日はお疲れさんやったね」とおばあちゃんが迎える。
家に上がると、居間には涼やかな風と懐かしい香りが漂う。光子と優子は、海浜公園での発表や、美香の『光の帰り道』について報告する。
「海のステージで、お客さんの前で歌ったんよ! すごく感動してもろうたんよ!」美香が嬉しそうに話すと、おじいちゃんは満面の笑みで頷いた。
「そりゃよか!みんなの心に届いたやろうなぁ」とおばあちゃんも目を細める。
光子と優子は、二人で手をつなぎながら、ギャグのネタを披露。おじいちゃんとおばあちゃんも笑いながら、落語の小話や昔の福岡の出来事に花を咲かせる。
夏の夕暮れ、笑い声と温かい家庭のぬくもりに包まれ、三人の心はさらに軽やかになった。遠くで蝉の声が響き、窓の外には夕焼けに染まる街並みが広がっていた。
「おばあちゃん、今度また来るね!」優子が手を振ると、
「待っとるけんね〜」おばあちゃんが優しく答える。
その日、黒崎の家は笑いと愛で満たされ、夏の思い出の一ページに新たな光が刻まれたのだった。
黒崎の夜、笑いと記憶のひととき
海浜公園での発表の余韻を胸に、光子と優子、美香は黒崎のおじいちゃんおばあちゃんの家に到着した。さらに、優馬と美鈴も到着し、家はすぐに賑やかになる。
「わー、みんな来てくれたとね!」おばあちゃんが笑顔で迎える。
「こんばんは、今日はちょっと遠くからやけど、来ましたよ」と優馬が丁寧に頭を下げる。
家の中に入り、涼しい風に包まれながら、晩ご飯の準備が進む間、みんなはリビングでくつろぐ。
「お母さんの小さい頃の話、聞かせてよ」と光子が目を輝かせると、美鈴は少し照れくさそうに笑った。
「えーっとね、私、小さい頃はもう、やんちゃでねぇ。走り回るのが大好きで、庭の木に登ってはよく怒られよったとよ」
「ほんなこつ!?」優子が目を丸くする。
「そうそう、それにね、雨の日でも外で水たまりに飛び込むのが大好きで、おばあちゃんに怒られるけど止められんとよ」と美鈴が笑いながら話すと、おじいちゃんも思わず吹き出す。
「お母さんもそうやったとね。元気いっぱいやったんやなぁ」と優馬。
「そうやろ、だから今も元気だけどね」と美鈴もニッコリ。
光子と優子は目を輝かせながら、子ども時代の母親の姿を想像する。「わたしとお母さん、なんか似とるとこあるかも」と光子。
「うん、私も思う」と優子が頷く。
晩ご飯は皆で囲み、地元の旬の食材を使ったおかずに舌鼓を打ちながら、笑い声と昔話が絶えない。夜が更けると、窓の外には夏の星空が広がり、家の中は温かい光と家族の笑顔で満ちていた。
「今日は本当に楽しかったね。また皆で集まりたいな」と光子。
「うん、絶対また集まろう」と優子も嬉しそうに答える。
こうして、黒崎の夜は、笑いと家族の温もりに包まれ、光子たちの夏休みの思い出の一つとして心に刻まれたのだった。
小さな秋とギャグの余韻
黒崎家でのんびりと過ごす夜。秋の虫の声が窓の外からそっと聞こえてくる。日中はまだまだ猛暑が続くが、朝晩にはほんの少し涼しさを感じるようになった。
光子がふと顔を上げて言う。
「ねえ、優子、見て見て。小さい秋、見つけた!」
優子も窓の外を眺めながら嬉しそうに頷く。
「ほんとやね〜。ちょっとずつ秋になっとるね」
布団に入りながら、二人はこれからの季節に食べたいものの話題で盛り上がる。
「りんご、梨、栗、新米、柿、さんま……私ら、食欲の秋じゃね〜、くすくす」
「ほんと、ギャグ振りまくにも、体力いるけん、食欲の秋は必須やね」と光子。
くすくすと笑いながら、今日の楽しい出来事や、黒崎家でのんびり過ごした時間を思い返しつつ、二人は眠りに落ちていった。
夜風が涼やかに窓から入り込み、秋の虫たちの声が静かに重なる。ギャグと笑いの余韻に包まれた光子と優子の夜は、穏やかで幸せなひとときとなった。
笑いで包む安心のひととき
黒崎家の居間には、朝の柔らかい光が差し込み、カーテン越しに揺れる木漏れ日が二人の影を長く伸ばしていた。光子と優子は前日からの夜更かしもなんのその、今日の「とっておきギャグ」のために、元気いっぱいに目を輝かせていた。
「じいちゃん、ばあちゃん、今日のギャグは絶対笑うけん、覚悟しとってね!」
「おう、楽しみにしとるばい」と祖父はにこやかに応える。祖母もにこりと微笑んだ。
二人のギャグが始まると、居間の空気が一変する。光子が身振り手振りを大きく交え、まるで舞台俳優のようにボケると、優子が鋭いツッコミを入れて絶妙なテンポで笑いを増幅させる。
「もう、息が…息ができんばい!」と祖父は椅子に座ったまま腹を抱えて笑い転げ、祖母も笑いながら涙をこぼした。
「もう…お腹痛いわ…ほんとに元気にしてくれとるね!」と祖母が言えば、祖父も頷きながら「事故にあった時とか、あの時の裁判とか、心配で仕方なかったばってん、こんなに元気に過ごしてくれとるけん、安心したよ」としみじみ話す。
光子と優子は少し照れながらも、「うん、もう元気いっぱいやけん、心配せんでね」と答える。過去の辛い出来事――あの飲酒運転事故や、児童ポルノ被害、裁判での戦い――そのすべてが、こうして笑いの中で少しずつ和らいでいくのを感じた。
ギャグの合間には、二人は祖父母の小さい頃の話や、昔の福岡の町並み、家族の思い出話も交え、居間には笑いと温かい空気が満ちていた。祖父母も、「あんたら、ほんとにもう、元気がよかねぇ。昔は心配で夜も眠れん日があったばってん…」と感慨深げに話す。
光子は祖母の手を取り、「ばあちゃん、私たち、昔のことも忘れんけど、こうやって笑顔で過ごす時間をもっと大事にするけん」と笑顔を見せる。優子も祖父の肩に手を置き、「じいちゃん、もっと笑ってて! 私たちが笑わせるけん」と元気いっぱいに言った。
午後になり、外から秋の虫の声が聞こえ始め、日中はまだまだ暑さが残るものの、朝晩の涼しさに秋の気配を感じる。光子と優子は、「小さい秋、見つけた!」と窓の外の庭の木々や、庭先の虫たちに目を輝かせる。祖父母も、「あんたら、本当に毎日が楽しそうやね」と微笑む。
その日の夕方、居間のテーブルには軽くおやつが並び、祖父母と光子・優子・美鈴・優馬は、家族の近況や、これからの学校生活、音楽やギャグの話に花を咲かせた。光子と優子は、こうして笑いの中で過ごすことで、家族の温かさと、自分たちの強さを再確認していた。
「ほんとに…笑うって、最高やね」と優子が小声で呟くと、光子も「うん。ギャグも、笑いも、家族と一緒だともっと元気になるね」と応えた。
夜になり、星空が見える窓の外を眺めながら、四人は布団に入り、明日への元気を蓄えた。ギャグで笑い、家族の温もりを感じ、少しずつ秋の気配を味わう。体力も頭もフル稼働させた二人は、静かに夢の中へと落ちていった。
居間にはまだ、笑いの余韻が漂い、光子と優子のギャグの力で過去の悲しみも、少しずつ和らいでいったのだった。
日曜日の朝の黒崎家
黒崎家の朝は、まだひんやりとした涼しさに包まれていた。窓から差し込む光が畳の部屋を優しく照らす。光子と優子は、ちゃぶ台に向かって鉛筆を走らせていた。
「はい! アメリカの気候区分、これでオッケー!」
「五大湖周辺の工業の特色…自動車産業や鉄鋼業が発展しとる…って書いとこ」
二人は黙々と宿題を片付けていく。祖父母は台所で朝ごはんの準備をしながら、孫たちの様子を微笑ましく見守っていた。
やがて、宿題が終わった瞬間。光子がふと鉛筆をくるくる回しながら言った。
「なあ優子、これって…ギャグにできるっちゃない?」
「お! ええやん。五大湖とか、めっちゃネタになりそうやん!」
二人は目を輝かせ、ノートに書いた答えをネタ帳代わりにして、すぐさま「お笑いモード」に切り替える。
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五大湖ギャグショー in 黒崎家
居間に家族全員を集めると、光子が胸を張って宣言する。
「それではこれより! 『アメリカ五大湖ギャグショー』を始めまーす!」
祖父が「なんやそれは!」と突っ込みつつも、笑顔で腰を下ろす。
優子がまずは大げさに地図を描くふりをして、叫ぶ。
「ミシガン湖が〜、お腹減ってカップラーメン湖になりました〜!」
光子がすかさず、「いやいや、汁すすったら五大湖全部なくなるやん!」とツッコミ。
さらに優子が続ける。
「エリー湖がエリーーっと伸びて、もう琵琶湖よりデカなったわ!」
「なに勝手に巨大化しとんねん!」
祖母は腹を抱えて笑いながら、「あんたら、宿題で何書いとったん!」と呆れ顔。
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気候区分もネタに
光子が真面目な顔でノートを開く。
「アメリカの気候はね、東海岸は温暖湿潤気候です」
そして急に顔をしかめて、汗を拭う仕草。
「湿気がすごすぎて、髪の毛ボンバーなるっちゃけどー!」
優子が頭をかきむしりながら、「うわー、アメリカ行ったらアフロになるわ!」とボケると、祖父母はまた大爆笑。
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勉強と笑い
一通りギャグをやりきった二人は、ちゃぶ台に戻り、ふぅと息をついた。
「やっぱり、勉強したことって、こうやって笑いに変えると忘れんね」
「そうそう、笑いながら覚えるのが一番やん!」
祖父母は、涙を拭きながら「ほんとにあんたたちは元気がよかねえ。勉強もしっかりして、笑いも忘れんなんて、最高や」と目を細めた。
光子と優子は顔を見合わせ、にんまり笑った。
州名ギャグ・博多弁バージョン
優子が「うわー、アメリカ行ったらアフロなるわ!」と叫んだあと、光子がすかさずノートを見て叫ぶ。
「ほんなら、ニューヨーク州はニューヨークしよーよ、って州やね!」
優子が両手を広げて、キザなポーズ。
「オレ、ニューヨークしよーよって誘われたら、絶対ついて行くわ!」
祖父が吹き出して、「なんやそれ!」と突っ込み。
続けて優子が、わざとらしく眉間にシワ寄せて。
「テキサス州は、“テキトーにサス” から来とーっちゃん!」
光子「いやいや、めっちゃ雑な語源やんか!」
さらに光子が続ける。
「ミシシッピ州はね、“水しっぴしっぴ” って言いよったらできたと!」
優子「おー、湿気やばすぎてもう川増水やん!」
祖母はお茶吹き出しそうになって、「あんたら、アメリカで笑い取れるばい!」と笑い転げる
光子「アーカンソー州はね、“あー、かんそう(乾燥)しとー” から来とーっちゃん!」
優子(両手で顔あおぎながら)
「うわー、乾燥しすぎて肌カサカサやん!オロナイン塗らな!」
祖父「はははっ!ほんとに乾燥しとる州やないか!」
祖母も笑いながら、
「うちも冬場はアーカンソーやねぇ〜」と自分に突っ込み。
『再会の夕暮れ』
夕暮れの博多駅前。夏の名残の熱気がまだ漂う中、光子と優子が荷物を抱えて戻ってきた。
家に向かう途中、懐かしい声が響いた。
「光子〜!優子〜!久しぶりっちゃん!」
振り返ると、そこには中学に上がってから母親の転勤で学校を移った 樹里 が立っていた。
光子「えっ、樹里じゃん!」
優子「うちら元気元気!久しぶりじゃね〜!」
三人は駆け寄って、勢いよくハグ。
樹里はちょっと拗ねたように笑いながら言った。
「転校先の中学さ、なんか静かすぎて…退屈〜。ギャグもツッコミも飛ばんけん、体がなまって仕方なかと。二人の声聞けて、またパワーもらえそう!」
光子「ほうね〜!うちらの声はビタミン剤みたいなもんやけん!」
優子「聞きすぎたら副作用で腹筋崩壊するけどね!」
樹里は吹き出しながら、
「そうそう、その感じ!ほんと久々に元気もろうた〜!」と笑顔を取り戻す。
夕陽が三人の笑顔を照らし、また新しい日常の始まりを予感させていた。
――再会の笑いは、夏の終わりを鮮やかに彩った。
優子がニヤリと笑って、手を叩いた。
「じゃあ、久しぶりに即興ギャグやる?」
光子「おっ、来たね〜!腹筋鍛える時間が始まったばい!」
樹里「まっ、待って!うち、久しぶりやけん勘が鈍っとるかも…!」
優子「その鈍った感じが逆にオイシイとよ〜!」
三人はその場で円陣を組むように顔を寄せ合った。
光子「テーマは…そうねぇ、『夏休みの宿題』でいこか!」
優子「よっしゃ、スタート!」
樹里はランドセルを背負う真似をして、急に走り出す。
「うわぁぁぁ!宿題がオニのように追いかけてくるぅぅ!」
光子、即座にツッコミ。
「いやいや!それ自分でサボっとっただけやろ!」
優子は机を出す真似をして、必死に宿題をやるふり。
「数学、英語、社会…って、なんでプリントの最後に『お母さんの似顔絵描きなさい』って書いとーと!?」
光子「それ自由研究やん!宿題と合体させんな!」
樹里は大げさに倒れ込みながら、
「うち、もうプリントに飲み込まれる〜!」
優子「いや、それはもう宿題っていうより“紙の妖怪”やん!」
三人とも吹き出して、お腹を抱えて笑った。
「やっぱ、こういう即興ギャグが一番楽しいね〜!」
光子は涙をぬぐいながら、
「やっぱ樹里がおったら、テンション2倍やね!」
優子「いや、3倍やろ!」
樹里「いやいや、うちら合わせて∞(むげん)や〜!」
その場はまるで即席の小劇場みたいに、笑い声で包まれた。
光子が腕を組んで、しみじみとつぶやいた。
「なんか懐かしいわ〜。樹里のギャグの勘、ぜんぜん鈍ってないやん。」
優子も笑いながらうなずく。
「そうそう。即興やのに、やっぱ切れ味は健在やね!」
樹里は照れくさそうに頭をかきながら、
「いや〜、でも久しぶりでちょっと心配やったっちゃけど…やっぱ二人とやると、体が勝手に動くわ〜!」
少し間が空いた後、光子がふと思い出したように口を開いた。
「そうそう。あの時のこと思い出すわ。痴漢の被害にあった時、お世話になったのって、樹里のお母さんやったよね。元気にしてる?」
樹里の顔がパッと明るくなる。
「もう、めっちゃ元気! あの小柄な体のどこに、あれだけのパワーが内蔵されてるんかってくらい。相変わらず現場でもピシッと動いとるし、家でも全然パワーダウンせんのよ。」
優子が目を丸くして大げさに言う。
「うわ〜、あの“スーパー刑事ママ”は健在なんやね!やっぱ憧れるわ〜!」
光子は真剣な表情でうなずく。
「ほんと。あの時、樹里のお母さんがおらんかったら、うちらどうなっとったか分からん。感謝してもしきれんよね。」
樹里は少し照れ笑いしながらも、どこか誇らしげに胸を張った。
「ふふっ。うちのママ、褒めてもらえると、たぶんまた張り切るわ〜。“わたしはまだまだ現役ばい!”とか言って。」
三人は顔を見合わせて吹き出した。
その笑い声には、懐かしさと安心感、そしてこれからも続く友情の温かさがにじんでいた。
夕暮れ時。博多の街を歩いていると、向こうから颯爽と歩いてくる小柄な女性の姿があった。
樹里が手を振る。
「ママ〜!こっちこっち!」
樹里の母・恵子は警察の制服から私服に着替えていたが、その立ち姿からはキリッとしたオーラがあふれていた。
「おお、光子ちゃんに優子ちゃん!久しぶりやねぇ!」
光子と優子は同時に立ち上がり、
「わぁ〜!樹里ママやん!相変わらずバリかっこいい〜!」
恵子はにっこり笑って、
「なに言いよると。うちはただの“スーパー刑事ママ”やけん!」
優子がすかさずツッコむ。
「いや、自分で言うなや!肩書き自称すな!」
すると光子が両手を腰に当てて、舞台調に声を張り上げる。
「出ました〜!必殺!自己申告ヒーロー!」
樹里も負けじと乗っかる。
「その正体は〜!昼は正義の刑事、夜は最強のギャグ戦士〜!」
優子が振りをつけて叫ぶ。
「名付けて、“スーパーおかんレンジャー!!”」
四人は息を合わせて、ヒーローポーズ。
観客でもいないのに、街角でギャグコントは全力全開。
通りすがりのおじさんが思わず足を止めて拍手する。
「お、おもしれぇ〜!あんたら漫才師かね?」
恵子は胸を張って、
「いえ、わたしは警察官であり、母であり、そして時々…コメディアンばい!」
光子と優子が同時にツッコミ。
「何役やっとるんか〜い!」
樹里は笑いすぎてお腹を押さえながら、
「やっぱ、うちのママ、ギャグの血筋もバリバリやわ〜!」
四人の爆笑は夜の博多の街に響き渡った。
街角での即興コントが一段落し、四人でベンチに腰を下ろす。笑いすぎてまだ肩で息をしている優子が、樹里ママこと恵子を見て笑いながら言った。
「いやぁ〜、朱里ママ、やっぱギャグセンス持っとるわ〜!」
光子も大きくうなずいて、
「もう完全に“ギャグの師匠”やん!」
すると恵子が即座に両手を振って、笑いながら否定する。
「いやいやいや、ギャグの師匠は光子ちゃんと優子ちゃんやけん!あれだけ人を腹筋痛にさせる笑い、そうそう生まれるもんやなかよ!」
その言葉に光子と優子は同時に「えぇ〜!」と声を上げ、顔を見合わせてからすぐにおどける。
光子「…ちょっと師匠って呼ばれて照れるなぁ〜!」
優子「いや、照れるどころか本気で信じそうやん!」
樹里は横で爆笑しながら、
「ほら見て、ママの“師匠返し”炸裂やん!」
恵子は肩をすくめて、冗談めかして言った。
「ほんなら…弟子入り希望します!これから毎週、ギャグの修行つけてください!」
優子がすかさず立ち上がり、目を細めて人差し指をピッと突き出す。
「入門は厳しかばい!まずは“10分間笑わずに鏡の前で変顔し続ける修行”からや!」
光子もすぐに続く。
「さらに“ツッコミ100連発”の課題もあるけんね〜!」
恵子は一瞬目を丸くしたが、すぐに真顔で頷く。
「…やるわ。警察学校よりキツそうやけど、やってみせる!」
四人はまたもや大笑い。
博多の夜に、腹筋崩壊寸前の笑い声が響き続けた。
「それじゃ、私たち帰るからね。また家にも遊びにおいで。」
笑顔で告げる恵子に、光子と優子は声をそろえて「はーい!絶対行くけん!」と元気に返す。
「またね〜!」
樹里も手を大きく振りながら、お母さんと並んで歩いていく。二人の背中は夕暮れに溶け込むように遠ざかっていった。
「ほんなら、うちらも帰ろっか。」
優子がふっと笑みを浮かべて言うと、光子もうなずく。
空は茜色から群青へと少しずつ変わり始め、街のあちこちに灯りがともりだす。商店街の看板や屋台の赤ちょうちん、すれ違う人たちの笑い声。それらが黄昏の中に混ざり合い、夏休みの終わりをどこか名残惜しく彩っていた。
「さっきの樹里、全然ギャグの勘鈍っとらんかったね。」
光子がぽつりと言うと、
「うん。むしろパワーアップしとったわ。」
優子が肩をすくめて笑う。
二人はそんな他愛もない話をしながら、オレンジ色に染まる街をゆっくりと歩いて帰っていった。




