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大切なあなたへ

大切なあなたへ


ある日の午後、光子と優子、そしてさおりは小倉家のリビングに集まっていた。

美香が手に持つのは、新しく作った楽譜。


美香

「さおりちゃんのことを思って作った曲やけん、聴いてほしい」


ピアノの音が静かに響き出す。曲のタイトルは――


『大切なあなたへ』


ゆったりとした旋律の中に、優しさと温かさが満ちている。

音符のひとつひとつに、互いを思いやる気持ちが込められているのが、自然と伝わってくる。


光子は目を閉じ、心の中で曲に合わせて深呼吸する。

優子はそっとさおりの肩に手を置き、にっこり笑う。

さおりも、目に涙を浮かべながら、小さく頷く。


ピアノの最後の音が静かに消えると、リビングにはしばしの静寂が訪れる。

それは、言葉にできない感謝や優しさを共有した瞬間だった。


美香

「ところで、うちらの次の定期演奏会のチケット、福岡市民ホールで送られてきたよ」


光子

「ほんと?それって見に行ける?」


美香

「もちろんやよ。光子と優子、それにさおりちゃんも、ぜひ聴きにきてね」


さおりは目を輝かせ、嬉しそうに答える。

「うん、絶対に行きたい!」


音楽を通して生まれたつながり、互いを思いやる気持ち――。

その温かい余韻は、三人の心に深く刻まれた。




の音に心を奪われて


福岡市民ホールの座席に座る光子、優子、そしてさおり。

周囲には観客たちのざわめきがあるが、三人の心は次第に高まっていく。


照明が落ち、指揮者が舞台に現れる。

静まり返ったホールに、深く響く弦楽器の音が立ち上がる。


さおりは、目を大きく開け、耳を澄ませた。

「すごい……生の演奏って、こんなに迫力があるんだ……」


曲が進むにつれ、金管楽器の高らかな響き、ティンパニの重厚な振動、木管楽器の柔らかな旋律――

全てが身体に直接届き、心の奥まで震わせる。


光子は小さく息を呑み、肩を揺らしてリズムを取る。

優子はさおりの手を握り、感動を共有する。


さおりは思わず目を閉じ、曲の世界に没入する。

音の波が体中を駆け抜けるたび、胸が高鳴る。

「私も、こんな風に人の心を動かせるようになりたい……」


その瞬間、音楽と人の心が重なり合う、言葉にならない感動が生まれた。

三人とも、息を飲むように舞台を見つめ、音楽の力に心を奪われたのだった。






言葉にしたい感動


演奏が終わり、拍手が鳴り止んだあとも、さおりの胸の高鳴りは収まらない。

ホールの暗がりの中で、さおりは光子と優子に小さく声をかける。


「ねぇ……私、この感動を、言葉でちゃんと伝えたいんだけど……どうしたらいいかわからなくて……」


光子はさおりの肩にそっと手を置き、微笑む。

「そりゃ無理もなかよ、さおり。こんな迫力の演奏やし、言葉だけで表すのはむずかしかろうもん」


優子も頷きながら、「でもね、思ったこと、感じたことを正直に話すだけでええと。ちょっとずつ、言葉にしていけばいいっちゃ」


さおりは少し安心した顔で頷く。

「うん……じゃあ、私、感じたままを言葉にしてみる……」


光子はさおりの手を握り、優子も肩をポンと叩く。

「うちらがついとるけん、思いっきり表現してみんね」


さおりは深呼吸して、舞台の余韻を胸に、言葉を紡ぎ始める。

その感動を、伝えたい人たちに届けるために――。





感動を言葉に


さおりはゆっくりと息を吸い込み、胸の中に残る震えるような余韻を言葉に変えようとする。


「……うーん……あの……音が、体の奥まで響いて……胸が、ぎゅーってなって……涙が出そうになったんです」


優子がにっこり笑う。

「うんうん、それでいいとよ。まずは自分の素直な気持ちから始めんね」


光子も頷く。

「そのあとに、何が一番すごいと思ったとか、どんな場面で心が動いたかを言葉にしてみると、もっと伝わるっちゃ」


さおりはうなずき、思いを整理する。

「あの、金管の迫力が……まるで空気が振動するみたいで、音の波に包まれて……弦楽器は優しくて、でも奥深くて……それでいて、全員の音が一つに溶け合って……」


優子が目を輝かせる。

「すごか、さおり!まるで絵を描くみたいに音を感じとるとね」


光子も拍手する。

「その感覚を、文章や話にしても十分伝わるっちゃ。あとは、自分が感じた感動の理由を少し添えてあげると、もっとぐっとくるとよ」


さおりは少し照れながらも、笑顔で言う。

「えっと……みんなが一生懸命奏でて、それぞれの音が重なって、でも決して喧嘩せずに……一つの大きな物語みたいになって……だから、心がすごく温かくなったんです」


光子と優子は顔を見合わせ、満足そうに頷く。

「うん、さおり、ばっちりやん。ちゃんと自分の言葉で感動を伝えられとる」


優子がニコッと笑いながら、肩に手を置く。

「次は、その気持ちをお手紙にしてみたり、クラスのみんなに話してみたりするのもいいかもね」


さおりは頷きながら、小さく笑った。

「うん……みっちゃん、ゆうちゃん、ありがとう。私、一歩ずつでも、ちゃんと言葉で伝えられるように頑張ってみる」


その夜、さおりの心には、クラシックの余韻と、光子と優子の優しさが静かに重なり、暖かい安心感が広がっていた。





 心に響いた旋律


さおりはコンサートホールの座席に深く腰を下ろし、目を閉じて息を整える。生演奏の迫力は、ただ音を聞くだけではなく、体の隅々まで振動として届くようだった。


「まず……ドナウ、モルダウ……水面を滑るように流れる旋律が、頭の中に景色を描くみたいで……心が穏やかになって、でも力強く流れて……」


光子がそっと肩に手を置く。

「うんうん、その感じ、大事にしてね。曲をただ聴くだけじゃなくて、景色や感情と重ねると、言葉で伝えやすくなるっちゃ」


優子もにっこり笑って頷く。

「次は威風堂々やね。あの勇壮なリズム、胸がぐっと張る感じ、まるで自分も行進してるみたいやったろ?」


さおりは目を輝かせる。

「はい……鼓動が速くなって、胸の中がふわっと熱くなって……自分も一緒に前に進んでいるみたいで、勇気が湧いてくる感じでした」


光子は微笑む。

「そして最後はワルキューレの騎行。あの疾走感と高揚感、鳥肌が立つくらい凄かったよね」


さおりは両手を軽く握りしめ、興奮気味に話す。

「はい……まるで風の上を駆け抜けているみたいで……心臓が高鳴って、景色も空気も全部一緒に流れていく感じで……こんな感覚、初めてです」


優子が笑顔で言う。

「さおり、その感覚をちゃんと言葉にしてみて。曲を聴いた時に何を感じたか、どこで心が動いたか、少しずつ書き出すと伝わりやすかよ」


光子も頷きながら、

「自分の心の動きを素直に表現すれば、誰が聞いてもわかるっちゃ。無理に飾らんでいいと」


さおりは深く頷く。

「はい……みっちゃん、ゆうちゃん、私、言葉でこの感動を伝えられるように頑張ってみます」


その夜、さおりの胸の中には、ドナウの流れ、威風堂々の勇壮さ、ワルキューレの疾走感が鮮明に残り、言葉にできる日を楽しみに待っている自分がいた。

    





感動を言葉に


放課後の教室は、いつもより少しざわついていた。


「さおりがなんか話したいことがあるみたいだぞ」


男子の声に、クラスメイトたちが顔を上げ、さおりに注目する。さおりは手元のノートを握りしめ、肩を小さく震わせながら立ち上がった。


「え、えっと……こ、こないだの……コンサートで……私……」


どもりながらも、勇気を振り絞る。光子と優子は隣でにっこりと微笑み、うなずき合った。


「…す、すごく……心に……響いて……」


さおりは深呼吸をひとつして、言葉を続ける。


「ドナウ、モルダウの……流れが……目の前に景色を描くみたいで……心が静かになるのに……力強くて……」


教室の空気が一瞬、静かになった。クラスメイトたちは目を丸くし、彼女の声に耳を傾ける。


「威風堂々……胸の奥が熱くなって……勇気がわいて……前に進みたくなる気持ち……わかりますか……?」


優子が小さくうなずくと、光子も手をそっと握る。さおりの顔には、まだ少し赤みが差している。


「ワルキューレの騎行……風を切って駆け抜けるみたいで……心臓がドキドキして……景色も空気も全部一緒に……流れていく感じでした……」


その瞬間、教室の中に静かな感動が広がる。普段は冗談や雑談でにぎやかなクラスが、さおりの真剣な声に吸い込まれるように静まり返った。


「…これを……みんなに……伝えたくて……」


さおりの言葉はどもりながらも力強く、真剣な思いがそのまま伝わった。クラスメイトたちは、拍手ではなく、静かにうなずきながら、さおりの気持ちを受け止める。


光子と優子は互いに目を合わせ、小さく微笑む。たったひとりでも、自分の言葉で心を伝える勇気。さおりはそれを、自分の力で示したのだった。





クラスの反応と温かい輪


さおりの声が止まると、教室は一瞬の静寂に包まれた。しかしその沈黙は、緊張や戸惑いではなく、誰もが彼女の気持ちを真剣に受け止めている証だった。


すると、男子の一人が口を開いた。


「す、すごいな……さおり、そんなに音楽に心を動かされるんだな」


周りからも、同意のうなずきや「わかる」という小さな声があちこちから聞こえる。普段はふざけてばかりのクラスメイトたちも、さおりの真剣さに引き込まれていた。


「私も、そんな風に音楽を感じてみたい……」と女子の声。


「ねぇ、今度みんなでコンサート行かん?」と光子が自然に提案する。優子も「そしたら、さおりちゃんの感動、もっとみんなで分かち合えるっちゃね」と付け加える。


さおりの顔は、赤く染まりながらも、ほっとしたように柔らかく笑った。


「うん……行きたい……」


教室の空気が一気に和む。ちょっとした笑い声も交じりながら、みんながさおりの勇気ある発表を讃え、自然に輪になって話し始める。


「さおりちゃん、今度みんなでコンサート行くとき、案内お願いね!」と光子。

「うん、任せて!」とさおり。


優子がにやりと笑い、「これでクラスの中でも、さおりちゃんのこと、もっと知れるっちゃね」と言うと、クラス全体がさらに温かい雰囲気に包まれた。


こうして、さおりの発表をきっかけに、クラスの仲間意識が一層深まった。小さな勇気が、周囲の心を動かし、支えの輪を広げていく――そんな瞬間だった。


光子と優子は、お互いに微笑み合い、さおりの頑張りを心の中で讃えた。さおりは、仲間と共に新しい一歩を踏み出すことができた喜びを、胸いっぱいに感じていた。





グルチャでの報告と爆笑トーク


さおりは、コンサートでの感動を胸に、帰宅後すぐにスマホを手に取った。


「みんな……今日、コンサート行ってきたとよ。すっごく感動して……私、なんか言葉にして伝えたくなって……クラスのみんなの前で話したと。」


送信ボタンを押すと、すぐに温也と郷子から返信が来た。


「さおりちゃん、そのままでいいとよ。思ったことを素直に言えたんやもん、十分すごいっちゃけん。」

「そうそう、無理せんでいいとよ。さおりちゃんらしくおれば、それでよかと。」


さおりは、二人の優しい言葉に胸が温かくなるのを感じた。


「ありがとう……」


続けて、グルチャはいつもの通りの爆笑タイムに突入。光子と優子、温也、郷子、そしてさおりも笑いながら参加する。


「今日ね、電車乗り遅れた理由が……」

「えー、なんやったと?」

「優子ちゃんが、駅でおにぎり食べよったけん、見てたら時間ぎゃんた!」


全員が大爆笑。さおりも、お腹を抱えて笑った。


「さおりちゃん、もう腹筋崩壊やね!」と郷子。

「うん、笑いすぎてお腹痛い!」とさおり。


翔介も後から参加し、さらに爆笑の輪が広がる。電車のネタや日常のドタバタ、うにゃだらぱ〜ネタまで飛び出し、グルチャは笑い声で溢れた。


さおりは、自分が笑わせてもらうだけでなく、みんなを笑わせることもできるんだ、と小さな自信を感じ始める。


こうして、コンサートでの感動の余韻と、グルチャでの爆笑トークが混ざり合い、さおりの心は充実感でいっぱいになった。






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