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さおり落研入部

放課後の校舎。教室を出る生徒たちのざわめきが徐々に遠ざかっていき、廊下には部活に向かう声や足音が響いていた。


優子がさおりの隣を歩きながら、軽く首をかしげて聞いた。

「さおり、部活なんにするか決めたん?」


「うーん……まだ決めてなくて。運動はあんまり得意じゃないしなぁ。」

さおりは指先をいじりながら、少し困ったように笑った。


光子が横からひょいと顔を出す。

「やったら、うちらのとこ来てみらん?見学だけでも。」


「うちらのとこ?」


「落研!」

優子が得意げに胸を張る。


「……らくけん?」

「そうそう。落語研究会の略。あたいたち、今落語やりよるけん。」


「へぇ〜落語かぁ。」

さおりは目を丸くして、興味はあるけど少し想像できないような表情を浮かべる。


光子が続けて笑顔で説明する。

「うちら、笑いを極めたかとよ。歌もコントも漫才もやるけど、落語って“言葉だけ”で笑わせるんやけん、めちゃ難しいし、奥が深かよ。」


「そうそう、言葉と仕草で世界を作り上げるんよ。おもしろかやろ?」

優子も力を込める。


「ふぅん……なんかおもしろそうやね。」

さおりの声が少し弾んだ。


「じゃあ今日、見学してみる?」

光子がにっこりと誘うと、さおりは一瞬迷ってから、ぱっと笑顔を見せた。

「うん、行ってみたい!」


——こうして、さおりの落研見学が始まろうとしていた。





放課後、落研の部室。

畳が敷かれた小さなスペースの中央に、赤い座布団と簡易の高座が置かれている。壁際には落語の本や扇子、小道具が整然と並び、静かな空気の中に独特の雰囲気が漂っていた。


光子と優子は、さおりを伴って扉を開ける。


「こんにちはー!」

「お邪魔しまーす!」


「おぉ、双子コンビやないか。今日はなんね?」

にこやかに声をかけてきたのは、部長の 八幡やはた先輩。三年生で背が高く、落ち着いた雰囲気を持ちながらも、話し出すと柔らかい博多弁で場をあたためる人だ。


「おっ、新顔やね?」

そう言ったのは、副部長の 枝光えだみつ先輩。二年生で少しおちゃめな性格。小道具担当でもあり、落研のムードメーカーだ。


「えっと、この子が転校してきた鹿島さおり。今日、落研見学してみたいって言うけん、連れてきました!」

光子が元気よく紹介すると、さおりは少し緊張しながらもぺこりと頭を下げた。


「か、鹿島さおりです。よろしくお願いします。」


「おぉ、よかよか!気楽に見てってん。ここの部活はね、笑ったもん勝ちやけん。」

八幡先輩が優しく笑いかけると、さおりも少し緊張がほどけたように微笑んだ。


すると、枝光先輩が手を叩いて提案する。

「ちょうどよかやん!光子、先に高座あがってなんか一席やってみらん?」


「おっしゃ、任せとって!」

光子はにやりと笑い、袖から扇子を取り出して赤い座布団の上に正座した。


「それでは…三遊亭ぴか葉として、古典落語の『ヤブ医者』を一席。」


すっと姿勢を正し、両手を膝に置いて一礼。次の瞬間、光子の表情が一気に変わる。


「へぇい、どちらさんで?」

声色を変えて医者の役を始める。続いて、患者の弱々しい声を演じたり、周囲の人を慌てさせたり、ひとりで何役もこなしながらテンポよく話を進めていく。


「はぁ?この薬は“1日3回、食後に服用”ですと?……いや、待て待て!おいら3回も飯食えんとばい!」


場の空気が一気に和み、枝光先輩が「くっはは!」と大声で笑い出し、八幡先輩も肩を揺らして笑う。


さおりも最初はきょとんとしていたが、やがて口元を押さえながら「ぷっ」と吹き出し、その後はお腹を抱えて笑い出した。


——高座の上で生き生きと演じる光子を見て、さおりの目はきらきらと輝いていた。





光子の「ヤブ医者」が大爆笑のうちに終わり、拍手がぱちぱちと起こる。

光子が高座を下りて一礼すると、今度は優子が扇子を片手に赤い座布団へ。


「それじゃ、次は——笑福亭やさしか子として、『目黒のサンマ』を一席やらせてもらいます!」


ぴしっと背筋を伸ばして礼をすると、優子はすぐに物語の世界に入り込んだ。



「ある殿様がのう……お家来衆を連れて狩りに出たわけですたい。」


殿様役は堂々と低めの声で。

家来役はおろおろした声で。

そして庶民の魚売りは軽妙に。


優子は声を巧みに使い分け、テンポよく演じ分ける。



「おお、なにやら香ばしい匂いがするぞ……なんじゃ、これは?」

「へい、焼いたサンマでございます。」

「サンマ?聞いたことがない魚じゃ……よし、わしも食うてみるか!」


殿様がサンマを一口食べる場面で、優子はわざと大げさに目を見開き、扇子を口に当ててむしゃむしゃする仕草。


「う、うまいっ!!この世にこんな美味なる魚があったとは〜!」


——ここで見ていた部員たちやさおりからも「アハハ!」と笑い声が上がる。



やがて物語が進み、殿様が城に戻ってもサンマを忘れられず、家来に命じる場面。


「おい、サンマを持ってまいれ!」

「ははっ!……でございますが殿、サンマは脂が多うございますゆえ、胃に毒でございます。目黒あたりで食べるのが一番にございます。」

「なにっ!?……サンマは目黒に限るのかっ!」


ここでオチをつけると、八幡先輩と枝光先輩は膝を叩きながら大笑い。

さおりは口を押さえて「ぷふふっ!」と笑いをこらえきれず、最後には涙目で肩を震わせていた。



高座を降りた優子がぺこりと頭を下げる。

「ご清聴、ありがとうございました〜!」


大きな拍手が起こる。

枝光先輩が「いやぁ〜、双子そろって芸達者やねぇ!」と感心し、八幡先輩も「こりゃほんとに落研の即戦力たい」としみじみと頷く。


その横で、さおりはまだ余韻に浸ったようにぽつりとつぶやいた。

「……すごい。落語って、こんなに面白いんだ。」





枝光先輩がにっこり笑って、さおりに扇子を差し出した。


「鹿島さんも、せっかくやし一回やってみらん?簡単なやつでよかけん。」


さおりは一瞬きょとんとして、

「えっ……わ、わたしが?」と目を丸くする。


光子と優子はすかさず横から声をかける。

「大丈夫大丈夫!最初は誰でも初心者やし、やってみてん!ほら、うちらも最初はセリフ飛ばしたり、オチすっ飛ばしたりしよったっちゃ。」

「そーそー、なんならさおりの暗記力でいったら、すぐにモノにできると思うけん!」



さおりは少し戸惑いながらも、扇子と手ぬぐいを持って座布団へ。

「……じゃあ、えっと、『寿限無』を……」


と選んだのは、長い名前をひたすら唱える小咄。



「寿限無寿限無五劫の擦り切れ……」


さおりの暗記力は本物だった。

名前の長台詞をつっかえずにスラスラ言い切る。


「……やぶらこうじのぶらこうじ、パイポパイポパイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの……」


そのテンポの良さに、見ていたみんなはどんどん引き込まれていく。


八幡先輩が「おおっ、すごか!止まらんやん!」と感心し、枝光先輩は「暗記が得意ってのはほんとやったんやなぁ」と目を丸くする。



そして最後、名前があまりにも長すぎて役所に届けができない、というオチを言い終わると——


どっと拍手と笑い声が起こった。


光子と優子は飛び跳ねるようにして「すごいやんさおり!」「初舞台でこんだけできるとか、天才やん!」と大興奮。


さおりは顔を赤くして、

「えへへ……でも、ちょっと緊張した……でも楽しかった!」と笑った。



八幡先輩はにっこりしながら、

「よし、鹿島も落研入部決定やな!」と声をあげる。


さおりは目を丸くして、

「えっ、わたし……もう入っちゃった?」


「入部届より先に芸のほうが先に出とるけんね!」と枝光先輩がオチをつけると、部室は大笑いに包まれた。





枝光先輩が手をポンと叩いて、にやりと笑った。


「そやねぇ、落語家に弟子入りしたら“柳”とか“笑福亭”とか、みんな師匠から名前もらうっちゃろ?うちら落研も伝統的に“柳”をつける決まりやけん、鹿島も芸名つけんと!」



光子が身を乗り出して、

「うちらは“三遊亭ぴか葉”(光子)と“笑福亭やさしか子”(優子)やけんね。さおりは……柳やけん、“柳〇〇”がよかっちゃろ。」


優子も目を輝かせて、

「さおり、好きな言葉とか、好きな食べ物とか、なんかヒントになるものある?」



さおりはちょっと考えてから、

「えっと……好きな食べ物はメロンパンかな。あと……動物やと猫が好き。」


すると部員たちが口々に案を出し始める。


八幡先輩:

「“柳メロン”とかどうや?響きかわいいやん!」


枝光先輩:

「いやいや、“柳にゃんこ”やろ!猫好きやけん!」


光子:

「うち的には“柳さおにゃん”とか似合いそう!」


優子:

「んー、それかシンプルに“柳メロ子”とかどう?」



わいわい盛り上がる中、さおりは頬を赤くしながら笑った。

「えー、どれも面白いけど……“柳さおにゃん”はちょっと恥ずかしいかも……」


すると部員全員が爆笑。


「恥ずかしい方がええんよ!お客さんの耳に残るけん!」と枝光先輩が言い、さらに笑いが広がる。



最終的に、多数決で——


「柳さおにゃん」


に決定。



光子と優子はさっそく声を揃えて、

「よっ、“柳さおにゃん”!」


さおりは顔を覆って「やだぁ、はずかしい〜!」と叫ぶが、みんなの拍手と笑いにつつまれて、正式に落研メンバーとして仲間入りしたのだった。






    


放課後、学校の校門前。

光子がさおりに声をかける。


「ほんなら、今日ばここでお別れね。さおり、また週末に遊ぼうや。」


さおりはニコッと笑って、「うん、楽しみにしとるっちゃ。みっちゃん、ゆうちゃんと一緒やけん、安心やもん」と答える。


優子が両手を振りながら、「気をつけて帰るとよ〜。家に着いたら、お父さんとお母さんにちゃんと『ただいま』言うとよ」と、ちょっとおせっかい気味に付け加える。


「はい、わかっとる。今日はほんとにありがとうね!」


光子と優子はそろって笑顔で、「うん、また学校帰りにでも会おうや」と言って、さおりを見送る。


さおりが歩き去る後ろ姿を見ながら、光子が小声で優子に言う。


「うち、さおりと仲良くなれそうやね」


優子も頷きながら、「ほんとね。こっちも楽しかったし、さおりも楽しそうやったけん」と返す。


二人はそのまま学校の校庭を抜け、部活の準備をしに教室へと向かう。

空には夕陽が少しだけ差し込み、なんだかあったかい気持ちになる午後だった。





夕方、鹿島家。

さおりが本屋の袋を抱えて帰ってくる。


「ただいまー!」


母・静子が台所から顔を出す。

「おかえり、さおり。今日はちょっと遅かったねぇ。なんば買うてきたと?」


さおりが袋から本を取り出して見せる。

「じゃーん!落語の入門書ば買うてきたっちゃん!」


静子が目を丸くして近寄る。

「えっ、落語!?さおり、落語する気なん?」


さおりは嬉しそうに頷く。

「うん!うちね、こっちに転校してきて最初に仲良うなった、みっちゃんとゆうちゃんがおるっちゃろ? 二人とも落語研究会に入っとってね、今日見学に行ったらめちゃくちゃ楽しかったと!」


静子がにっこりしながら、でも少し驚いた様子で。

「へぇ〜。さおりが落語ねぇ…。で、なんて名前もろうたと?」


「柳町さおにゃん!先輩たちが考えてくれてさ、かわいかやろ?」


思わず静子も吹き出す。

「あはは!さおにゃん!…似合っとる似合っとる。よかったやん、楽しみもできて友達もおって。お父さんの転勤でこっち来て、正直ちょっと心配やったとよ。けど安心したばい」


さおりは照れくさそうに笑いながらページをめくる。

「ありがとう。うち頑張って覚えて、今度はちゃんと一席やってみるけん!」


ちょうどそのとき、玄関のほうからドタバタと音がする。

弟の翔介が帰ってきたらしい。

「ただいまー!友達んちで遊んできたー!」


静子が声をかける。

「おかえり、翔介。手ば洗ってから晩ごはんよ」


さらに電話が鳴り、静子が出ると父・恵一から。

「もうすぐ仕事終わるけん、帰るよー」


家の中にだんだん家族の気配が集まって、あたたかい夕方の時間になっていった。





夜、リビング。

さおりはソファに座って、膝に落語入門書を広げていた。


「ふむふむ……扇子は箸にも煙管にも、刀にもなるんやねぇ。手ぬぐいは本にも財布にもなるっちゃ」


本に書かれた仕草や作法の説明を、一つひとつ真似してみる。

扇子を手にしたつもりで、そっと膝の前に構えて頭を下げてみたり、手ぬぐいを箸に見立てて食べる真似をしたり。


「……あはは!これ、意外とリアルかも!」


一人で声を出して笑いながら、ページをめくる。

やがて古典落語の「寿限無」の一節に出会うと、目を輝かせた。


「なっが!でも、めっちゃおもしろいやん。これ、覚えて言うたらきっと笑いとれるばい!」


本を読み進めれば進めるほど、心がわくわくしていく。

――自分もいつか、高座に上がってみたい。

そう強く思った。


やがて時計の針が夜八時を回り、母・静子の声が飛んでくる。

「さおり〜、お風呂沸いたばい!先に入りんしゃい!」


「はーい!」


さおりは本を大事そうに閉じ、パジャマとバスタオルを手にして浴室へ。


シャワーで体を洗い、髪をごしごしと泡立てて洗い流す。

そのあと湯船にゆっくりと身を沈めた瞬間、全身がほぐれていく。


「はぁぁ……きもちよか〜」


目を閉じると、今日のことが次々と思い浮かぶ。

光子と優子と一緒に笑った放課後。

落語を初めて体験した高座の興奮。

そして二人の堂々とした演じっぷり。


「……ほんと、みっちゃんとゆうちゃん、すごかねぇ。あんなふうにお客さんを笑わせられるって、かっこよか」


心の奥からじんわり憧れが湧き上がり、思わず口元がにんまりとほころぶ。

湯気に包まれながら、さおりの心は未来への期待でふくらんでいった。





夜。光子と優子はそれぞれ布団に寝転びながらスマホを手にしていた。

部活でのことを思い出しつつ、グループチャット「ファイブピーチ★+はなまる」にメッセージを送る。


光子

「今日からさおりが落研に入ったっちゃ!柳名は《柳町さおにゃん》に決まったよ」


優子

「最初は緊張しとったけど、すぐ馴染んで楽しそうやった」


すぐに通知が連続して鳴る。


ひなた(はなまるツインズ)

「わぁ〜!光子お姉ちゃんと優子お姉ちゃんの、お笑い仲間がふえたんやね〜」


みずほ(はなまるツインズ)

「さおにゃんって、名前かわいかぁ」


美香

「いいじゃん!ますます芸の幅が広がりそうだね。いつか一緒にステージ立てるといいなぁ」


「落語かぁ。俺、まだ生でちゃんと聞いたことないっちゃん。今度披露してくれん?」


小春

「うんうん!さおりちゃん、暗記得意って言ってたし、落語ぴったりなんじゃない?」


拓実

「お〜、さおりちゃん頑張れ!俺らも応援しとるけん!」


優馬(お父さん)

「さおりちゃんも仲間入りか。よし、今度“落語でボケ倒し大会”でもするか〜?うにゃだらぱ〜!」


美鈴(お母さん)

「はいはい、お父さんのネタは置いといて(笑)。さおりちゃん、ほんとにいい友達に出会えてよかったね✨」


グルチャの画面は、賑やかなスタンプや「www」でいっぱいになり、光子と優子は声を出して笑っていた。


光子

「うちら、ほんと仲間に恵まれとるね」


優子

「うん。さおりもきっと、この輪の中でのびのびできると思う」


スマホを胸に抱え、二人は幸せそうに目を閉じた。



昼休み。教室の隅っこでお弁当を食べ終えた光子と優子は、さおりを呼んだ。


光子

「ねぇさおり、うちらファイブピーチ★の仲間とか、はなまるツインズとか、いろいろ一緒に活動しよる人たちでグループチャット作っとるっちゃけど、よかったら入らん?」


さおりは少し驚いたように目を丸くした。

「えっ……うちも入っていいと?まだ転校してきたばっかやし……」


優子

「よかよか!あんたもう立派な仲間やけん!しかも今日から落研メンバーやろ?当然やん♪」


そう言って、優子がスマホを取り出し、グルチャの招待リンクをポチッと送る。

通知音が鳴り、さおりのスマホにメッセージが表示された。


《ファイブピーチ★+はなまる》

「鹿島さおり(柳町さおにゃん)が参加しました」


すぐにメッセージが飛び交い始める。


ひなた

「わぁ!さおりちゃん!はじめまして〜」

みずほ

「うちらははなまるツインズやけん、よろしくね!」


美香

「落研デビューおめでとう!さおにゃんっていい名前だね」


「さおりちゃん、よろしく〜。俺ら、けっこうふざけとるけど気にせんでね」


小春

「うんうん。さおりちゃん、なんでも一緒に楽しもうね!」


拓実

「さおりちゃん、よろしく!部活でも勉強でも力になるけん!」


優馬(お父さん)

「おぉ〜、さおりちゃん仲間入り!ほんなら今度“落語VSダジャレ”大会ばすっか? うにゃだらぱ〜!」


美鈴(お母さん)

「それ絶対お父さんだけ滑るやつでしょ(笑)。さおりちゃん、ようこそ✨」


メッセージの嵐に、さおりは顔を赤くしながらスマホを見つめる。

「うち……こんなに歓迎してもらえるなんて……なんか、すごく嬉しい」


光子

「ほらね、もう仲間やろ?」


優子

「これから一緒にいっぱい笑ってこー!」


さおりは思わず涙ぐみながらも、にっこり笑って「よろしくお願いします!」と打ち込んだ。





夕方。部活を終えて帰宅したメンバーは、家でそれぞれスマホを手にしていた。

グルチャには「自己紹介大会しよー!」という美香お姉ちゃんの一言が流れ、早速盛り上がり始める。



光子

「じゃあトップバッター、うちから!小倉光子、中学2年!ポニーテールがトレードマーク。漫才・コント・落語なんでもやるで〜」


優子

「んで、うちは双子の妹、小倉優子!ツインテールやけん見分けてね。歌とツッコミ担当ばい!」


小春

「吉塚中の小春です!光子と優子の同級生。笑いも勉強も大好きやけん!」


美香

「小倉家の長女・美香です。音大卒のトロンボーン奏者。作曲も担当してます!」


「中学男子代表、翼っす!ノリだけは誰にも負けん!」


拓実

「拓実。スポーツ担当。中学男子その2。笑いはちょっと修行中(笑)」


ひなた

「博多南小2年、はなまるツインズのひなたです!ひまわりみたいに元気いっぱい」


みずほ

「枝光みずほです!ピンクが好き!笑うの大好き。お姉ちゃんが落研にいます。お姉ちゃんはさくらです」


優馬

「父ちゃんの優馬!ファイブピーチ★公式“ダジャレ王”やけん、覚悟しときや〜。うにゃだらぱ〜!」


美鈴

「母ちゃんの美鈴です。優馬のギャグのフォロー係(笑)」



そしてついに、新入りの番。


さおり

「柳町さおにゃんこと、鹿島さおりです!転校してきたばかりの中学2年。暗記は得意やけど、応用はちょっと苦手。でも落語は大好きになりそう!みんなよろしくね!」


スタンプの嵐が飛び交う中、ひときわ長い文章を打ち込んできたのは——


奏太

「えっと……俺は奏太。ギター担当で、大学1年。ファイブピーチ★のサポートメンバーやってます。

さおりちゃん、暗記得意なんや?すごいね。よかったら今度、セッションのとき一緒に歌とかやってみん?」


メンバーたちが「おぉ、なんか積極的やね〜」と冷やかすスタンプを次々と送る。


優子

「おやおや〜?奏太兄ちゃん、めずらしく早いアプローチやんw」


光子

「さおり、モテ期到来やね(笑)」


さおり

「えっ!?ちょ、ちょっと待って!///」


スマホを握りながら顔を真っ赤にするさおり。

その夜、彼女の胸の中には「なんで奏太さん、うちにだけ…?」という不思議なざわめきが生まれていた。


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