田村被告に判決が下る
田村悠樹被告・最終弁論
3月11日、法廷は張り詰めた空気に包まれる。
双子ちゃんは法廷傍聴席から見守る。光子はピンと背筋を伸ばし、優子も手を握りしめている。
弁護士たちは最終弁論で、以下のことを強調する。
•被告の行為は児童ポルノ禁止法、肖像権侵害、名誉毀損など複数の違法行為に該当すること。
•被害者の尊厳を踏みにじった行為であり、社会的にも大きな問題を引き起こしたこと。
•双子ちゃんの心に受けた傷や精神的苦痛、そして家族が受けた影響も重要な考慮点であること。
傍聴席では、優馬と美鈴も緊張した面持ちで見守る。
裁判長は静かに、だが厳格な口調で最終判断を下す瞬間が迫る。
双子ちゃんたちは、心の中でこう誓う。
「私たちの尊厳と笑いは、誰にも踏みにじらせんばい。」
この後、判決の瞬間が訪れる…
法廷内は張り詰めた空気に包まれ、被告の田村悠樹はうつむいたまま席に座る。双子ちゃんは互いに小さな手を握りしめ、肩を寄せ合った。優馬と美鈴も傍らで静かに息をひそめ、胸の奥は張り裂けそうな思いでいっぱいだ。
裁判長はゆっくりと書類に目を落とし、重々しく口を開いた。
「ここに、被告田村悠樹に対する主文を読み上げます。」
被告は小さく顔を伏せる。法廷内の空気はさらに重く、時計の針の音さえ鮮明に響くようだった。
「被告は、未成年者の写真を違法に改変し、インターネット上に投稿する行為に及びました。その中には、際どい水着姿を貼り付け、卑猥な言葉を添えたものも含まれます。被告は取り調べで、ヌードでないから問題ないと考えたと述べています。さらに、他の女優や女性スポーツ選手、タレントにも同様の被害が確認されており、被告の罪は重大であり、反省の態度も見受けられません。」
双子ちゃんは息を詰め、ふたりで目を合わせる。光子は心の中で「絶対に負けん」と決意を固め、優子も涙をこらえながら、これまでの苦しみがようやく報われる瞬間を待った。
裁判長はさらに重々しく言葉を継ぐ。
「以上を踏まえ、被告の行為は被害者に深刻な精神的苦痛を与え、社会的信用を著しく損なうものです。この点も十分考慮し、判決を言い渡します。」
場内は張り詰めたまま静まり返り、被告は俯いたまま、運命の言葉を待つ。
「被告を懲役三年、執行猶予なしとする。さらに、損害賠償として、被害者の光子及び優子に対し、それぞれ金千万円を支払うこと。罰金五百万円も命ずる。」
双子ちゃんは互いに顔を見合わせ、安堵の息をつきながらも、長く辛い闘いが終わったことを実感する。家族や傍聴者の微かなすすり泣きが混ざり、正義が示された瞬間が静かに刻まれた。
法廷から出た光子と優子は、まぶしい日差しの中、報道陣に囲まれる。カメラのフラッシュが絶え間なく光り、マイクが二人に向けられる。光子は深呼吸し、優子は小さく頷く。
記者のひとりが質問した。
「今回の裁判を経て、率直な気持ちを教えてください」
光子ははっきりと答えた。
「わたしたちは、自分たちの尊厳を守るために戦いました。誰もが安心して、自分の写真や個性を守れる社会であってほしいと思います」
優子も続く。
「誰かを傷つけるような行為は絶対に許されません。わたしたちは、この経験を通して、正しいことを正しく声に出すことの大切さを伝えたいです」
別の記者が尋ねる。
「今回の判決を受けて、加害者に言いたいことは?」
光子は少し顔をしかめ、しかし冷静に答える。
「自分の行為がどれだけ人を傷つけるか、ちゃんと考えてほしいです」
優子も同じく語る。
「他の被害者のことも考えて、二度と同じ過ちを繰り返さないでほしいです」
記者たちがメモを取り、フラッシュが再び光る中、二人は静かにその場を後にする。足取りは軽く、しかし胸には強い覚悟が刻まれていた。
光子が小声で優子に囁く。
「やっと、ほんの少しだけ、心が軽くなったね」
優子はにっこり笑って答えた。
「うん。これからも、自分たちの声を大事にしていこうね」
二人の背中に、家族や支えてくれた人々の温かい視線が重なり、春の光のように柔らかく包み込んだ。
光子と優子の裁判結果は、全国ニュースでも大きく取り上げられた。テレビのニュース番組では、法廷での二人の姿や、判決言い渡しの様子が繰り返し放映され、SNSでも話題が拡散された。
キャスターは真剣な表情で伝える。
「今回の事件は、未成年者の写真を勝手に改変・投稿する行為がいかに被害者の尊厳を侵すかを改めて示しました。また、被害者の心の傷や社会的影響も軽視できません」
専門家のコメントも続く。
「こうした被害を防ぐには、ネットリテラシー教育の強化や、写真や画像の改変を許さない技術の導入などが必要です。著作権者の許諾なしにコピーや改変が容易に行われる現状は、根本的に見直すべきです」
ニュースの画面には、教育現場でのネットリテラシー指導の様子や、改変防止技術のデモ映像が流れる。視聴者は、被害者の権利を守ることの重要性を実感し、SNSでは「自分も気をつけなければ」「学校で教えるべき」といった声が広がった。
光子と優子の勇気ある行動は、単なる個人の裁判で終わらず、社会全体に「デジタル時代の人権と責任」について考えるきっかけを与えたのである。
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【光子・優子公式SNS・ファンクラブコメント】
•「勇気を出して声を上げてくれてありがとう!私たちも気をつけます!」
•「落語もギャグも最高だけど、今回の話は真剣に考えさせられた…」
•「ネットでの被害、身近にあり得る問題。これを機に家族や友達と話すきっかけになった」
•「光子さん優子さん、強くてカッコいい。尊敬します」
•「SNSでの発信も、責任を持つことが大事なんだと改めて思った」
【ファイブピーチ★公式ホームページの掲示板】
•「今回の裁判と判決、すごく重要なテーマだね。エンタメだけじゃなくて社会問題も考えさせられる」
•「正義がちゃんと通ったって感じで、ホッとしました」
•「小さな子どもや若者にとって、光子ちゃんと優子ちゃんの姿が大きな教科書になったと思う」
•「うにゃ〜あじゃぱーもたまゴジラも大好きだけど、こういう勇気のある行動を見せてくれるのも本当に素敵」
【特集番組公式サイト・コメント】
•「子どもたちが被害に遭わないように、家庭や学校で話し合うきっかけになりました」
•「番組で取り上げられて良かった。ニュースだけでは伝わらない心の部分まで理解できた」
•「SNSの使い方の大切さ、そして被害者の尊厳について考えさせられる内容でした」
•「落語や音楽で笑わせてくれるだけじゃなく、社会問題にも目を向けさせてくれるなんて…すごいコンビ」
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【博多南中学 教職員の反応】
•「光子さん、優子さんの勇気ある行動には感動した。本当に生徒たちの手本になるね」
•「ネットリテラシーの授業で今回の事件を教材に使えるね。現実に起きたことだから、生徒の心に響くと思う」
•「笑いと学びを両立させる双子ちゃんの才能は、学校でも貴重な財産です」
【同級生・クラスメイトの反応】
•「光子ちゃん、優子ちゃん、やっぱりただのギャグコンビじゃなかった…!」
•「SNSでの危険も身近に感じた。僕たちも気をつけようって思った」
•「今回のニュース見て、光子ちゃんと優子ちゃんのすごさを改めて感じた」
【家族・身近な人物の反応】
•優馬(父):「娘たちがここまで強くなったとは。お父さん、心から誇りに思うよ」
•美鈴(母):「落語やギャグで笑わせながらも、今回の件でしっかり自分たちの権利を守った姿に胸が熱くなった」
•美香(姉):「東京からニュースを見て、涙が出そうになった。妹たち、ほんとに強いな…」
•アキラ(美香の恋人):「音楽や舞台だけじゃなく、こういう現実的な問題にも立ち向かう姿勢、尊敬しかない」
•温也(友人):「コロナや悲しい出来事を経験した僕たちも、勇気をもらった気がする」
•郷子(友人):「SNSやネットの危険性を改めて考え直すきっかけになった。子どもたちに教えたい」
【教育関係者・外部の声】
•「全国の中学校で、光子・優子さんの行動や発信を教材にする動きが広がっている」
•「子どもたちが『笑いと学びを同時に得られる』ことの重要性を感じられる、貴重な事例」
•「ネット上での被害者支援や肖像権の大切さを子どもに伝える具体例としても有効」
裁判で判決は下されたものの、加害者・田村被告とその親族は賠償金の支払いを一切行わず、光子・優子にとってはまだ安心できない状況が続いていた。
みらいのたねの顧問弁護士であり、裁判時の弁護人でもある弁護士は、被告本人の資産状況だけでなく、親族の財産状況も徹底的に調査。田村被告の口座に残されていた預貯金は凍結され、さらに不足分については督促状を送付。支払いに応じなければ強制代執行の手続きを行うことを通知した。
すると、被告の両親は言い訳ばかりを並べ始めた。
「うちの子、そんなにお金持ってないし…」
「今までテレビ出演とか、色々稼いでるんだろ。なんでそんな金持ちに払わなければならないのか…」
その言葉はSNSで公開されるや否や、大炎上。ネット上では批判の嵐が巻き起こった。
「加害者家族が何言ってるんだ!」
「子どもを傷つけた責任をどうして果たさないの?」
「こんな親だから、被告もそうなるんだ!」
ネット上での非難は収まらず、メディアも取り上げる事態に。光子・優子やその家族の立場は守られつつも、社会全体に、賠償金の履行や被害者救済の重要性が改めて認識されることになった。
ネット上で加害者やその親族を非難する投稿が相次ぐ中、中には「天誅を下せ」や殺害予告と受け取れるような過激な書き込みも見られた。光子と優子は公式ホームページやSNSで、落ち着いた口調でコメントを発表する。
「みんな、落ち着いて。あまりに過激なことを書いていると、書いた人が罪に問われることになります。私たちはそんなことを望んでいません。」
この呼びかけによって、ファンやネットユーザーたちは冷静さを取り戻し、過激な書き込みは徐々に減少。大炎上騒ぎも、次第に下火になっていった。
光子と優子は、ネット社会の恐ろしさと同時に、自分たちの言葉で人々を落ち着かせる力を持っていることを再認識することになった。
渋々という表情を浮かべながらも、田村被告の親族は凍結された口座からの賠償金と、不足分の支払いのために、所有していた家財のほとんどを売り払って資金を工面。光子と優子への賠償金は、ようやく全額振り込まれた。
しかし、田村被告の犯した罪はこれだけでは終わらなかった。被害を受けたタレントや女優、女子スポーツ選手たちは、手を取り合い、合同で各地裁に訴訟を起こすことを決意。札幌、仙台、東京、新潟、名古屋、大阪、広島、高松、福岡――全国各地で提訴され、被告には天文学的な賠償金の支払いが請求されることとなった。
この動きは、メディアでも大きく報じられ、ネット上でも被害者支援や肖像権保護の議論が白熱。被害者たちの行動は、同じような被害に苦しむ人々に勇気と希望を与え、社会全体に肖像権やネットリテラシーの重要性を問いかける契機となった。
光子と優子は、全国での提訴のニュースを知り、まず驚きと複雑な思いが交錯した。
光子は眉をひそめながらも、落ち着いた声で言う。
「うちらだけやなくて、同じように苦しんどる人たちがおる。これは、みんなで立ち上がらんといけん事やね」
優子も頷き、真剣な眼差しで付け加える。
「私たち、泣き寝入りせんでええって証明せんと。正しいことを守るんやけん」
二人は、公式SNSやホームページで再び呼びかける。
「みんな、安心して。私たちは冷静に戦います。応援してくれるみんなのおかげで、私たちは強くなれると信じとるばい」
全国で提訴された裁判は、各地で同時進行する形となった。
札幌、仙台、東京、大阪、福岡――各地裁では、被害者側と弁護団が緻密に準備を重ね、証拠の提出や証人尋問が進む。光子・優子の証言も、全国の裁判所で参考資料として提出され、被害の重大性を裏付ける材料となった。
被告側は資金不足や反省の態度の不十分さを理由に、各地で弁護活動を展開するも、被害者側の強固な弁護団と証拠の前に、防戦一方の状況が続く。
一方、光子と優子は、全国の被害者や支援者とオンラインで情報を共有。被害拡大防止のためのネットリテラシー啓発や肖像権教育にも力を注ぎ、裁判だけではなく、社会全体に訴えかける活動を同時に行った。
全国裁判の進行は長期戦となったが、光子と優子は決して屈せず、笑顔とギャグで心の余裕を保ちながら、正義を貫く姿勢を崩さなかった。
2036年春、全国各地で被害者側から提訴が相次いだ。被害者は光子・優子だけではなく、著名な女性タレントや女優、女性スポーツ選手にまで広がっていた。
札幌地方裁判所では、20代のアイドルグループのメンバー、佐藤彩乃(25歳)が提訴。自らの画像を無断で改変されたことに心を痛め、法廷では淡々と証言するものの、瞳には深い悲しみが宿っていた。傍聴席には同僚やファンが見守り、SNSでは「彩乃さんの勇気が励みになる」と反響が広がる。
仙台地方裁判所では、元女子プロバスケットボール選手の山下恵(28歳)が立ち上がった。試合中の写真を性的に加工されたことで、精神的ショックを受けたと証言。「私の身体は私のもの。勝手に弄られることは許せない」と力強く語る。法廷内は静まり返り、傍聴者たちは思わず息を飲む。
東京地方裁判所では、光子・優子も証人として出廷。全国的に注目された裁判で、法廷外には報道陣が集まり、二人の姿は大きく報道された。光子は落ち着いた声で言う。「私たちは笑いを届ける仕事をしてきました。だけど、自由に笑えない状況を作られることは、許せません」
優子も続ける。「こういう被害が二度と起きないよう、立ち上がることが大事です。泣き寝入りする人がなくなりますように」
名古屋地方裁判所では、若手女優の藤田真琴(23歳)が証言。SNSでの拡散を受け、大学での友人関係も壊れてしまった体験を語る。「普通に生活してただけなのに、私の人生が壊されるようで…」と嗚咽しながらも、毅然と立ち向かう姿に傍聴者の目に涙が光る。
大阪地方裁判所では、現役の女子バレーボール選手の森田真由美(27歳)が立つ。プレー中の写真が卑猥に加工されて流出し、スポンサー契約にも影響が出た。「スポーツ選手として、信頼もキャリアも傷つけられた。絶対に許せません」と強い口調で語る。
広島地方裁判所では、20歳の新人女優、小林茜が被害を訴える。「撮影時に撮られた写真を勝手に改変され、周囲に拡散されました。学校や友人にも迷惑がかかり、精神的に追い詰められました」と涙ながらに証言。
各地裁の裁判は、被害者が抱える精神的苦痛の詳細な描写と共に進む。光子・優子も、それぞれの証言に深く共感し、自分たちの行動が同じ境遇の人たちに希望を与えていることを実感する。法廷の後、二人は支援者たちとオンラインで情報を共有し、「泣き寝入りせんでええ」というメッセージを全国に広めた。
報道陣やネットでは、光子・優子の姿勢が絶賛される。「勇敢な姉妹」「被害者の声を届ける象徴」との声が続々と投稿される。教育関係者も反応し、「SNSリテラシー教育の教材としても活用できる」「子どもたちに、情報の扱い方を教える良い機会」とコメント。光子と優子の行動は社会的に大きな影響を与え、単なる芸能ニュースではなく、教育・法律・ネット倫理の課題を浮き彫りにする出来事となった。
被害者や支援者、全国の裁判関係者たちの心理も複雑だ。怒り、悲しみ、無力感が渦巻く中、光子と優子の毅然とした行動が希望の光となり、精神的な支えとなる。被害者たちは法廷での証言を通じ、少しずつ心の整理をつけていく。
全国提訴裁判は長期戦を覚悟せねばならなかったが、光子と優子は笑顔やギャグで自分たちの心の余裕を保ちながら、同じ境遇の人たちと共に戦い続けることを選んだ。
田村被告から光子と優子宛に届いた封書には、乱れた文字で「死んで罪を償います」と書かれていた。二人は封書を手に取り、言葉を失ったが、すぐに冷静さを取り戻す。
「これは…絶対に許せん」と光子が静かに言う。優子も頷き、すぐに福岡拘置所の看守に電話をかけた。
「もしもし、そちらの田村被告ですが…死んで逃げるなんて絶対に許しません。しっかり自分の犯した罪と向き合わせてください」と光子。
優子も続ける。「生きて、一生をかけて償わせます。封書が届いたことも報告してますので、最新の注意をお願いします」
電話の向こうで看守は静かに頷き、「承知しました。すぐに対応を強化します」と応答する。
二人は封書を前に、ただ怒りをぶつけるだけでなく、どこか優しさを込めていた。加害者が逃げず、責任と向き合うことが、被害者や社会への最善の償いだと、二人は心から信じていた。
光子は封書を手元に置き、深呼吸して言った。「これで、もう一歩前に進めるね」
優子も微笑みながら頷く。「私たち、負けんばい。笑顔も守るし、正義も守る。絶対に逃がさん」
封書は二人にとって、怒りの象徴であると同時に、責任と向き合うための決意を再確認させるものとなった。
福岡拘置所の面会室。看守は田村被告の前に立ち、静かに声をかける。
「田村被告、先ほど光子さんと優子さんから電話がありました。あなたに直接伝えてほしいとのことです」
田村はうつむきながら、か細い声で応じる。
「…光子さんと、優子さんから…ですか」
看守は落ち着いた口調で続ける。
「はい。生きて、しっかり罪を償って欲しいと。死んで逃げるなんて絶対に許さない、と。優しさも込めての言い方でした」
田村の目にうっすら涙が浮かぶ。肩を落とし、震える声で答える。
「す、すみませんでした…。本当に…すみません」
看守は頷き、静かに言葉を添える。
「逃げずに、自分の犯した罪と向き合うことが、あなたにとっても、被害者のためにも最善です」
田村は深く息をつき、ゆっくりと頷いた。心の奥で、初めて罪の重さと被害者への責任を噛みしめた瞬間だった。
光子と優子の声は、遠く離れていても被告の心に届き、逃げることではなく、生きて償う道を選ばせる力になったのである。
光子と優子は、家族や翼、拓実、それにファイブピーチ★のメンバーをリビングに集めて話し始めた。
光子が口を開く。
「ねぇ、私たち…一回、田村被告と腹割って話してみたかとよ。ただ厳しい罰ば望むっちゃなくて、ちゃんと私らの気持ち伝えたいし、今どげな様子しよるかも知りたかと。」
優子も真剣な表情で続ける。
「そうそう。私たちば一番苦しめたっちゃけど、でも生きて罪ば背負うていかんと意味なかと思うっちゃん。直接、面と向かって言うてやりたかとよ。」
父・優馬は腕を組みながらゆっくり頷いた。
「お前たちがそこまで考えとるんなら、わしらは尊重するばい。光子と優子が一番つらか思いばしとっちゃけん、気持ちに従うてよか。」
母・美鈴も柔らかく笑みを浮かべて言った。
「そうよ。お母さんも賛成ばい。…ただ、心ば痛めんごとせんといかんけんね。」
美香も静かに口を添える。
「二人が考えたことなら、私も全面的に応援するよ。ほんと、立派やね。」
翼と拓実も勢いよく賛同する。
「俺たちも賛成や!二人の思い、ちゃんと伝えたほうがいい!」
「そやね!それに…二人のギャグなら、きっとあの人の心にも届く思うわ!」
その晩、小倉家は全員が一つにまとまった。
そして翌日。拘置所に電話をかけると、光子が受話器を握りしめて話し始める。
「あの、私たち中学生やけん、平日は学校があって面談は無理っちゃけど…土日やったら時間とれるとです。どうか一度、田村被告さんと直接お話させてもらえんですか。」
優子が横から続ける。
「それと…もし許されるなら、いつか早いうちに、拘置所で私たちのギャグ満載のお笑いライブばさせてもらえんでしょうか。あの人に、ちょっとでも“生きる希望”ば持ってもらいたかとです。」
電話口の担当者はしばし沈黙したあと、驚き混じりの声で答えた。
「…中学生さんがそこまで考えて…。わかりました、検討します。正式な返答はまたご連絡しますが、前向きに考えさせていただきます。」
受話器を置いた光子と優子は顔を見合わせ、同時に小さく笑った。
「よし、第一歩やね」
「うん、私たちの気持ち、きっと届くばい!」
正式に拘置所から「許可が下りました」との連絡が届いた。
小倉家の居間でみんなが集まって、その知らせを聞いた瞬間、光子と優子は思わず手を取り合った。
光子「やったー!ほんとに許可が出たっちゃね!」
優子「うちらのお笑いと歌で、少しでも心に灯りをともせたらいいねぇ」
美鈴はうるっとしながら、双子をぎゅっと抱きしめる。
美鈴「2人がここまで考えて行動したことが、ほんと誇らしかよ。中学生でこんな大役、そうそうできるもんやなかもん」
優馬も腕を組みながら頷く。
優馬「ただの慰問やなか。罪を犯した人に“生きて償う”ことの意味を伝えるって、すごい責任あることやけんね。けど…光子と優子ならできるって、俺は信じとる」
はなまるツインズのみずほとひなたも興奮気味に叫ぶ。
みずほ「わー!あたしたちも一緒に舞台に立てると!?」
ひなた「絶対ドカーンって笑い取って、たまゴジラで締めるばい!」
美香は優しく笑って、楽譜を広げる。
美香「じゃあ、音楽パートは任せて。私と環奈ちゃん、塁くんも加わって、ファイブピーチ★で心に届くハーモニーを作ろう」
光子「よっしゃ!お笑いと歌の二本立て!笑いあり涙ありのライブにするっちゃん!」
優子「進級前の最高のステージにするばい!」
家族全員が大きく頷き、その場は期待と緊張でいっぱいになった。
――4月初め。博多の春風とともに、拘置所での特別ライブ「ファイブピーチ★ 笑顔と希望のステージ」が正式に決まったのだった。
4月の初め。桜の花びらが風に舞うなか、光子と優子、ファイブピーチ★のメンバー、そして美香や環奈たちが、拘置所の門をくぐった。
全員そろって着ていたのは、ファンクラブ公式の「ギャグTシャツ」。
「たまゴジラ」「うにゃだらぱー」など、それぞれが象徴する言葉が大きくプリントされていて、緊張した空気を少し柔らかくしていた。
面談室のドアが開き、田村被告がゆっくりと入ってくる。
その瞬間――彼は目を大きく見開いた。
「……え?……ほんとうに……」
驚きと戸惑いで声が震え、目を逸らすようにして座った。
光子が口を開く。
「びっくりしたやろ?今日はうちらの気持ち、ちゃんと伝えたくて来たとよ」
優子も頷きながら言う。
「死にたいとか言いよったやろ。そげなこと言うて逃げたら、何も償いにならん。生きて償う、それが一番重たい罰やって思っとると」
田村被告は手を膝に置いたまま、小さく震えながら言った。
「……俺は、あんたたちに一生許されんことをした。判決を受けてからも、罪の重さに押しつぶされて……正直、どう生きていいかわからん」
しばし沈黙。
その空気を破ったのは光子の明るい声だった。
「生き方がわからんやったら、笑って生きればよかろ? うちらのお笑い、バカみたいやけど……人を笑わせるって、すごい力あるっちゃん」
優子も続ける。
「ほんと。あんたが罪を犯したことは消えん。けど、生きて、反省して、少しでも人のためになることをしていけば、罪と向き合えるやろ?うちらはそれを信じたいと」
田村被告は顔を覆い、声を震わせながら「……すいませんでした……」と絞り出すように謝罪した。
光子は少し笑いながら、けれど真剣に言った。
「謝るのは大事。でも謝るだけじゃ足りんとよ。生きて償う。ちゃんとそれば忘れんでね」
優子も「うちら、ギャグTシャツまで着て本気やけん」と冗談っぽく言うと、面談室に少しだけ笑いが広がった。
面談が一段落したところで、看守が声をかけてきた。
「時間です。では、食堂に移動をお願いします」
田村被告は怪訝そうに眉をひそめた。
「……え? 食堂? まだ飯の時間やなかろうに……」
促されるまま立ち上がり、光子と優子、ファイブピーチ★のメンバーと一緒に廊下を歩いていく。
ドアを開けると、そこにはすでに多くの受刑者たちが整列し、食堂に集まっていた。ざわつきが一瞬で広がる。
「なんやこれは?」
「え、まさか……」
ざわめきの中、舞台代わりに設えられたスペースに、ギャグTシャツ姿のファイブピーチ★と、はなまるツインズが並んで立った。
――そして、軽快なイントロが鳴り響く。
一曲目、ファイブピーチ★の代表曲が明るく食堂に響きわたり、受刑者たちも驚きと戸惑いながらも、徐々に手拍子が広がっていった。
田村被告も思わず口を開けたまま見つめ、信じられないといった表情を浮かべていた。
曲が終わると、場内には自然な拍手が起きた。
美香が一歩前に出て、マイクを握る。
「みなさん、今日は特別に、ここでライブをさせてもらえることになりました。
どんな立場にあっても、音楽や笑いは心を少し軽くする力があるって、私たちは信じとるけん。
どうか、この時間だけは、肩の力を抜いて楽しんでください」
その言葉に、食堂の空気が少し和らぎ、受刑者たちの表情も徐々に緩んでいく。
光子が「次は、みんなで笑えるネタやけん、覚悟しときよー!」と声を張ると、会場から小さな笑いが漏れ、優子がすかさず「覚悟するってどげな覚悟よ!」と突っ込みを入れる。
その瞬間――食堂の中に、笑い声がぱらぱらと広がり始めた。
音楽ライブが終わるや否や、舞台は一気にギャグ全開モードへ。
ファイブピーチ★やはなまるツインズが、ドタバタコントや漫才を次々と繰り出す。
光子は「さぁ、みんなよー聞いときよ! 今日のたまゴジラは、冷蔵庫の卵が消えた事件ばい!」
優子は「うちのお父さんのうにゃだらぱーも見せちゃろかー!」
囚人たちは大爆笑。転げ回る者、手を叩いて笑う者、涙を浮かべて笑う者もおる。
光子と優子の落語も大ウケで、たまゴジラやうにゃだらぱーのギャグを落語に織り込み、腹筋を直撃する内容ばい。
さらに謎かけ問答も始まる。
「この刑務所とかけまして、冷蔵庫と解きます。さてその心は?」
囚人たちは「うーん?」と考え込む。
「どちらも、開けたらびっくりがあるでしょう!」
拍手喝采、笑いの渦が食堂いっぱいに広がる。
光子は息を弾ませながら、最後にニヤリと一言。
「明日はみんな腹筋痛になっとると思うけん、ちゃんとお医者さんに見てもらってね〜!」
優子も続ける。
「ほんまに、無理したらアカンよ〜! でも、笑うのは大事ばい!」
会場の空気は、笑いと活気でいっぱい。
田村被告も、驚きと戸惑いの表情から、少しずつ微笑みを浮かべ、笑いながら拍手を送るようになっとった。
ライブのドタバタと笑いが続く中、田村被告は自分の胸に手を当て、静かに呟いた。
「……あんなに優しか子たちに、俺は自分のことだけ考えよった。再生回数が増えればそれでええ、そう思いよった。ほんま、大変なことをしてしまった……すまんかった」
囚人たちの笑い声の中、田村被告の目には、初めて自分の罪の重さがズシンと響いたような光が差す。
「……これからは、生きて、罪を償っていかんといかん……」
光子と優子の笑顔や、舞台上で繰り広げられるギャグを見つめながら、少しずつ肩の力を抜き、心の中で決意を固める田村被告。
「この子たちの優しさに応えるためにも……俺は、ちゃんとやり直さんといかん……」
面談とライブ、そしてお笑いドタバタコントを終えたあと、みんなで一息つきながら、
「ふぅ〜、やっと一区切りついたねぇ」
と、笑い疲れも混じりつつ話す。
光子がちょっと真剣な顔で言う。
「罪を犯すっちゃ、もちろん許されることやなかばってん、生きて罪を償うために、私たちにできることもあるんじゃないかな?」
優子もうなずきながら、
「今日のこの訪問で、私たちの活動のテーマの一つが見えてきた気がするばい。ファイブピーチ★として、笑いと優しさで、少しでも力になれること…それを大事にしていかんと」
みんなでうなずき合い、肩の力を抜きながら、温かい達成感とこれからの使命感を胸に、それぞれの帰路についた。
今日の経験は、ファイブピーチ★のこれからの活動にとって、大きな一歩となるばい。
光子の日記
2036年4月5日(日)
今日は一生忘れられん日になった。
優子と一緒に、ファイブピーチ★のみんなと、はなまるツインズで拘置所を訪問した。
まず、田村被告と面談。あの人の目は暗くて沈んどったけど、私たちが「生きて罪を償って」と言った時、少し涙ぐんどった。心の奥に届いたのかな…そう思いたい。
そのあとは食堂を特設会場にしてライブ。音楽を歌ったあと、コントや漫才、私の落語もやった。
ほんとに囚人さんたちが声をあげて笑ってくれて、私は涙が出そうやった。笑いって人の心をこんなに揺さぶるんやなって。
今日のことは、きっと私たちの活動の大きな意味になる。
これからも「笑いの力」を信じたい。
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光子のクラス(2年A組)の反応
翌日、朝のホームルーム。
担任の**藤原先生(国語担当、40代)**が日直から提出された光子の日記を手に取り、少し目を通したあと、クラス全員に向けて言った。
「光子さんが書いた日記、すごくいい内容だったから少し紹介しますね」
先生の声が静まり、クラスメイトたちの目が光子に集まる。
「拘置所でライブをして、囚人たちが心から笑ってくれた。笑いには力があるんだと実感した、そういう内容でした」
すると、教室の後ろの席の男子・山下が小声で「マジか…刑務所ライブってプロの芸人でも大変やろ」と呟き、前列の小春が「さすが光ちゃんやね」と笑顔でフォロー。
藤原先生は少し間を置きながら言った。
「光子さん。あの体験は、あなたたちにしかできないことだったと思います。これからも、自分たちにできることを考え続けてください」
光子は小さくうなずき、頬を赤らめた。教室の空気はいつもより少し真剣で、誇らしげでもあった。
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優子の日記
2036年4月5日(日)
今日は拘置所に行って、田村被告と面談した。
私たちの顔を見て驚いていたけど、「死んで罪を償います」なんて言葉を書いてきた本人が、私たちの言葉に「すいませんでした」と言ったのは、正直、少しだけ安心した。
でも、それだけじゃなくて、ライブで囚人さんたちが大笑いしてくれたとき、「笑わせることの意味」をすごく感じた。
私たちがギャグを言って、誰かが笑ってくれる。それって命を繋ぐことにもなるんだって。
今日のことは絶対に忘れない。きっとこれからの私の生き方を変えていく。
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優子のクラス(2年C組)の反応
担任の**佐伯先生(理科担当、30代)**は、日記を読んだあと優子を見つめて言った。
「優子さん。よく正直に書きましたね。普通の中学生が拘置所に行って囚人と向き合うなんて、なかなかできないことです。勇気があったと思います」
クラスのざわめきが大きくなる。
「え、優ちゃんマジで囚人の前でギャグやったと?」
「めっちゃカッコよくない?笑わせるとか…芸人でも難しかろ」
「優ちゃん、うちの学校の誇りやん!」
教室は笑いに包まれた。
佐伯先生も苦笑しながら、
「まぁ、授業中にやるのはほどほどにしてくださいね」
と釘を刺す。
優子は「はいっ」と返事しながらも、どこか誇らしい表情をしていた。
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二人の姿を見て
光子のクラスと優子のクラス、それぞれの担任もクラスメイトも、彼女たちを「ただのギャグ好き」ではなく、「笑いを通して人を救える存在」として見るようになっていた。
光子と優子自身も、「拘置所ライブ」という特別な経験が、仲間や先生からの尊敬の眼差しに変わっていくのを強く感じていた。