家族の怒り
「初運転ドキドキ大作戦」
2033年秋、美香はついに自動車免許を取得した。今日がその初運転――しかも楽団のワンボックスを運転して、コンサート会場まで大型楽器を運搬するという大役だ。
ハンドルに手をかけ、深呼吸する美香を見て、優子は助手席から笑顔で言った。
「お姉ちゃん、どげん?緊張しとると?」
「うん、思ったよりスピード出るけん、ちょっと怖かばい…でも、大丈夫、なんとかなるやろ」
光子は先に会場に着いて、搬入の準備を始めている。だが、まだ楽器は車の中。優子は安全確認をしながら、美香に声をかける。
「右折の時は後ろの車、ちゃんと見てや〜。左も同じよ〜」
「わかった、任せとき!」
美香はブレーキを踏みながら慎重に右折し、左折も無事クリア。緊張の連続だったが、優子のサポートで心強く感じる。
会場に到着すると、美香はハンドルを下ろし、大型ワンボックスから楽器を慎重に降ろす。先に到着していた光子が手伝いに加わると、搬入作業はあっという間に進んだ。
「お姉ちゃん、初めてにしては上手すぎるやん!」と光子が笑うと、優子もにっこり。
「緊張したけど、2人がおるけん、無事できたばい」
こうして、美香の初運転による楽器搬入は成功。小さな達成感と共に、3人の絆もさらに深まった瞬間だった。
:「初運転成功からジャズステージへ」
楽器の搬入も無事に終わり、会場内のリハーサルが始まる。美香は自分のトロンボーンを手に、ステージへ向かう。今回の演奏はムード音楽、ジャズを中心に構成されている。
「お姉ちゃん、今日は格好よく決めるばい!」と優子が声をかける。
「わかった、緊張せんごと、楽しんで吹くけん」と美香。
ステージ上、ライトが温かく照らす中、美香は深呼吸し、口をトロンボーンにあてた。最初の音がホールに響くと、観客から柔らかいざわめきが起こる。
リズムに乗り、ジャズのスウィングが流れ出す。美香のトロンボーンは、低音の厚みと柔らかさを兼ね備え、楽団の他のメンバーと見事に調和した。
光子と優子も舞台袖から見守る。
「お姉ちゃん、音がめっちゃ気持ちよさそうやん!」と光子。
「ほんとやね〜、聞いとるこっちまでワクワクするばい」と優子。
演奏が進むにつれ、美香も緊張を忘れ、音楽に心を委ねる。最後の曲が終わると、観客から大きな拍手が巻き起こる。
「よっしゃー、やったね!」美香は笑顔でトロンボーンを下ろす。
「お姉ちゃん、初運転に、ステージでの演奏、ほんとにお疲れさま〜!」と優子が駆け寄る。
「うん、でも、2人がおったけん、心強かばい。ありがとね」
こうして、美香の初運転成功から始まった一日が、ジャズの響きと共に締めくくられた。小さな達成感と家族の絆を胸に、笑顔で楽屋を後にする美香であった。
「舞台裏ギャグ大爆発!」
舞台の熱気が冷めやらぬまま、楽屋の扉が開く。双子ちゃん、光子と優子は、他の楽団員たちともすっかり顔馴染み。
「お疲れさま〜!」と元気いっぱいに声をかける光子。
「今日は演奏もばっちりやったし、次は笑いで締めるばい!」優子がにっこり。
楽団員たちはまだ演奏の余韻でほっとしているが、双子ちゃんのギャグパワーに次第に釣られて笑顔に。
光子が突然、トロンボーンケースを指差して
「ねぇねぇ、この楽器、もし話せたら今日の演奏どう思っとったんやろね?」
優子が即座に返す
「絶対、『おい、もっとピッチ合わせろや〜』って怒っとったばい!」
楽団員たち、吹き出して涙目に。
「じゃあ次は、今日の演奏を漫才にしてみようか!」と光子。
「おう!台本なしで即興ばい、緊張するばってん、やってみる!」優子もノリノリ。
二人はトロンボーンやサックスの動きを取り入れながら、演奏中にあったハプニングや小さなミスを誇張してギャグに変換。
「トランペットの音が高すぎて、僕の耳が『キャー!』って叫んどったばい!」光子。
「そんで、パーカッションがドンドン叩きよるけど、僕の心臓もドンドン叩きよったっちゃけどね!」優子。
楽団員たちは笑いをこらえきれず、次々に大爆笑。中には転げ回る者も。
「あんたら…やっぱ双子やね、漫才力まで完璧やん!」一人のサックス奏者が拍手しながら言う。
「今日の演奏も良かったけど、やっぱ舞台裏の笑いが最高やったばい!」光子が笑顔で締めくくる。
こうして、舞台裏でも笑いの嵐が巻き起こり、演奏とギャグ、二つのパワーで一日を締めくくる双子ちゃんであった。
:「報告ラッシュ!温也と郷子夫妻とおしゃべりタイム」
家の玄関を開けると、双子ちゃんたちはほっとひと息。するとスマホがブルブルと鳴る。
光子が画面を見ると、温也と郷子夫妻からのビデオ通話だった。
「おーい!双子ちゃん!元気しとったかー?」温也の声が画面越しに響く。
「元気ばい!温也さん、郷子さん!ちょうど今日、色々あったとこやけん、話そうやー」優子も嬉しそうに手を振る。
「なんばしよったと?コンサート、免許のこと、裁判も終わったんやろ?」郷子がにっこり。
「そうそう、まずは美香お姉ちゃん、初めて車運転して、楽団のワンボックスで会場まで運んだとよ!」光子が興奮気味に話す。
「へぇー!お姉ちゃん、運転もばっちりやったとね!」郷子も感心。
「んで、コンサートも無事に終わったばい。ムード音楽とジャズ中心の演奏で、大成功やったと!」優子が報告。
温也が画面越しに拍手して、
「そりゃすごいなー!しかも、双子ちゃんも舞台裏で漫才やって、みんな大爆笑やったって?」
光子が笑顔でうなずく。
「うんうん、即興やったけど、演奏のハプニングまで全部ギャグにして大笑いさせたと!」
「そいで、裁判の二回目の口頭弁論も終わったと。書面で意見提出して、私たちは頑張ったばい」と優子。
郷子が真剣な顔で
「そうやったんやね。双子ちゃんたち、いろいろ大変やったろうに、よく頑張ったね」
温也も続けて
「まさに一日でいろんなことがあったんやな。免許、コンサート、裁判…。お疲れ様や!」
「うん、でもこうして話せると、少しほっとするっちゃね」と光子。
「双子ちゃんたちの成長ぶり、ほんと嬉しかー。コンサートも免許も裁判も、全部ちゃんと乗り越えとる!」郷子も笑顔。
こうして、双子ちゃんたちは温也と郷子夫妻に、最近の出来事を一つ一つ報告しながら、賑やかで和やかな夜を過ごした。
タイトル:「ネット犯罪と私たちの考え」
光子と優子が裁判やコンサート、運転の話を報告していると、温也が真剣な表情で画面越しに口を開いた。
「双子ちゃんたち、裁判のこと、ほんとに大変やったろうな。あんな猥褻な写真ば合成して金儲けしよーとするなんて、あり得んやろ?」
郷子も頷きながら言う。
「ほんとそうよ。ネットの世界やけん、簡単にばれんと思っとったんやろうけど、やっぱりそんなことしても、人を傷つけるだけやね」
優子が画面に向かって返す。
「うん!私たちも絶対に許さないって、裁判でしっかり伝えたとよ」
光子も続けて、
「こういう犯罪を未然に防ぐためにも、ネットリテラシー、大事やなーって思ったっちゃ」
温也がちょっと考え込むように言う。
「うんうん、最近は子どもだけやなく、大人も気をつけんといかん時代やけんね。コピーや改変、無断投稿の怖さ、ちゃんと理解せんと」
郷子もにっこりしながら補足する。
「SNSやネットで楽しいことばかりじゃなく、こういう危険もあると知っとくことが大事やね」
優子が笑顔で言う。
「うちたちも、今回のことで、ほんとに色々学んだっちゃ」
光子も同意して、
「せっかくの夏休みやったのに裁判とか大変やったけど、みんなの助けもあって乗り越えられたし」
温也が安心した声で、
「そっか。じゃあ、ちゃんと学べて、みんな成長したってことやな。ほんとにえらい!」
こうして、双子ちゃんたちは温也と郷子夫妻と、裁判の出来事を振り返りつつ、ネット社会での危険や注意点についても学ぶ、有意義な会話を交わした。
タイトル:「学びと注意の時間」
博多南中学の教室。双子の光子と優子は、事件の概要をクラスメイトに話していた。
「みんな、うちたちのことやけど、ネットに勝手に写真を使われるとか、そういうことが実際に起こったとよ。ほんとに怖か体験やった」
優子が続ける。
「だから、SNSとかネットに写真や動画をあげるときは、絶対に自分の権利とか、プライバシーに気をつけてほしいっちゃ」
教室の後ろで、白石彩先生と藤原梨花先生も真剣な表情で聞いている。
白石先生が声をかける。
「光子さん、優子さん、裁判を傍聴して、どんなことが印象に残ったの?」
光子が答える。
「被告は田村被告という二十歳の男性で、最初は反省しているように見せてたけど、弁護士に追及されると、答えに窮する場面もあったと」
藤原先生も補足する。
「裁判では、被害の大きさや精神的苦痛も詳しく説明されていました。ネット上での行為がどれほど人を傷つけるか、実感したそうです」
優子が真剣な顔で話す。
「うちたちも、あのとき本当に怖くて、悔しくて、でも裁判でしっかり自分の気持ちを伝えたっちゃ」
白石先生は頷きながら、
「この話を聞いて、皆さんもネット上での危険やマナーについて考える機会になるわね」
藤原先生もにっこり笑い、
「光子さん、優子さんがしっかり話してくれたから、クラス全体で注意できるわね。とても大事な学びの時間になったと思います」
教室には静かでありながらも、学ぶ意欲に満ちた空気が流れた。双子ちゃんたちは、自分たちの経験を通して、同級生たちにネットリテラシーの大切さを伝えることができたのだ。
タイトル:「デジタルタトゥーの重み」
光子は深く息をつき、教室のみんなに真剣な表情で言葉を続けた。
「けどね……一度ネットにあげられた写真とか動画は、完全には消えんとよ。『デジタルタトゥー』って言われるけど、サイバー空間にずっと残り続けるっちゃん」
優子も頷きながら口を開く。
「だから、うちらは裁判でも、『コピーや改変ができんように仕組みを作ってほしい』って訴えたと。そやけど、今回の被害はうちらだけやなくて、有名な女優さんや、スポーツ選手、タレントさんにも及んどったとよ」
クラスの空気が一気に重くなる。
光子は続ける。
「そん被害で、犯人は数千万円も荒稼ぎしとって……被害者のみなさんから一斉に裁判を起こされて、数億円の損害賠償を請求されよると。しかも、今回の件は悪質やけん、自己破産もできんとよ」
教室のあちこちから、小さな驚きの声が漏れる。
優子はまっすぐ前を向いて、言葉を紡いだ。
「けん、ネットに投稿するときは、ちゃんと考えてほしいと。他の人の尊厳とか、人権を侵害しとらんか、傷つけることにならんか……。その慎重さがめっちゃ大事なんよ」
白石先生も、藤原先生も、深く頷いた。
藤原先生は静かに言葉を添える。
「皆さん、光子さんと優子さんの話をよく心に留めてください。ネットでの軽い気持ちが、取り返しのつかない結果を生むことがあるのです」
教室全体がシンと静まり返った。双子の真剣な語りは、クラスメイト一人ひとりの胸に強く響いていた。
タイトル:「裁判コント、開廷!」
教室は静まり返り、深刻な話を聞いたクラスメイトたちは、まだ言葉を失っていた。
そんな空気を感じ取った光子が、スッと立ち上がる。
「……じゃあ最後に、裁判のときのことを――ギャグコントで再現しまーす!」
優子が「異議ありっ!」と手を挙げる。
「光子弁護士!その髪型、法廷じゃあツッコミ禁止やけど、ツッコミたいんやけど!」
光子は胸を張る。
「なにを言うとか!このアフロヘアは裁判官のカツラの代わりったい!」
クラスがどっと笑う。
続けて、優子が田村被告の役をやりだす。
「反省しとりますぅ……反省してるから、ラーメンのスープは残さんと飲み干すようにしましたぁ……」
光子(裁判官役)が机をドンと叩き、声を張り上げる。
「それは健康に悪いけん、控訴より先に血圧を控えなさいっ!」
爆笑の渦。
さらに優子が被告役のままおどける。
「でも先生〜、ネットの怖さはわかったとですぅ〜。もう二度とやりません。せいぜい、猫の動画で再生数稼ぎますぅ〜」
光子(裁判官役)がニヤリと笑い、決め台詞。
「よかろう!判決!……有罪!そして再犯防止のため、毎日『博多ギャグ50連発』の刑に処す!」
ドッと笑い声が広がり、しんみりした空気は一瞬で吹き飛んだ。
クラス全員、腹筋を抱えて笑いながらも、光子と優子の本当の思い――「ネットの怖さと大切さ」――はしっかりと伝わっていた。
タイトル:「テレビの前で、私たちの声を」
月に一度のレギュラー番組。スタジオのライトが眩しく輝き、カメラがゆっくりと光子と優子を映す。
司会者が二人に向かって問いかけた。
「光子さん、優子さん。実は今、大変な出来事と向き合っているそうですね。」
二人は顔を見合わせ、覚悟を決めて頷いた。
光子がマイクを持ち、はっきりとした声で語り始める。
「はい。実は、私たちの写真が無断で合成されて、かなり際どい水着姿に加工され、さらに猥褻な言葉と一緒に投稿されました。もちろん、私たちはそんな写真を撮ったこともないし、絶対に許されないことです。」
優子が続ける。
「それで、警察が動いてくれて、刑事事件になりました。今は裁判が進んでいます。…私たちがこうやってテレビで話すのは、同じような被害にあっている人たちに、声をあげてもいいんだって伝えたいからです。」
スタジオがしんと静まり返る。
共演しているタレントたちの表情も、真剣そのものになった。
光子は一息置いて、笑顔を取り戻すように言った。
「もちろん、裁判ってすごくしんどいです。でも、私たちは負けません。ネットでの犯罪は、どんなに小さく見えても、人を深く傷つけるんだって、しっかり伝えていきたいです。」
優子も笑顔で頷く。
「だからこそ、うちらはギャグも忘れんよ。落語研究会で鍛えた“笑いの力”で、この事件にも立ち向かうけん!」
司会者が感心したように「素晴らしい姿勢ですね」と拍手すると、観覧席からも温かい拍手がわき起こった。
二人の思いは、画面を通して全国へと届いていった。
光子は真剣なまなざしで、スタジオの観客とカメラを見つめた。
「私たちはまだ未成年です。でも、犯人は“ヌードじゃなければ問題ないだろう”って勝手に思って、私たちの写真を無断で合成したんです。けれど、それは大きな間違いです。私たちの人権や尊厳を踏みにじる行為で、絶対に許されません。」
優子も続けた。
「しかも被害は私たちだけじゃなくて、人気タレントさんや有名な女優さん、歌手の方、スポーツ選手にまで広がっていました。犯人はその写真をSNSに投稿して、再生回数を稼いで、お金をもうけてたんです。その額は数千万円…。でも、その結果、刑事裁判で重い罪に問われて、さらに数億円規模の損害賠償を請求されています。自己破産すらできない状況です。」
スタジオの空気が一瞬で重くなる。観覧席の人々の表情も硬くなり、息をのむような静寂が流れた。
光子はゆっくりと言葉を結んだ。
「だから、これは決して他人事じゃありません。ネットに何かを投稿するとき、その向こうに“人”がいることを忘れないでほしいんです。」
司会者は深く頷きながら、
「本当に大切なメッセージですね」と声を絞り出した。
観客席から自然と拍手が広がっていった。
司会者の西村アナウンサーが、双子を見つめながら言葉を紡いだ。
「ネットの怖さ、本当に身にしみますね。私も以前、全く身に覚えのない噂をネットに書かれたことがありました。気にしないようにと思っても、やっぱり心が傷つくんです。だから、今日のお二人の話は、本当に胸に響きます。」
隣に座っていた人気タレントの水野彩花が、少し目を潤ませながら語った。
「私も芸能活動を始めたばかりの頃、加工された変な写真を出回らされたことがあります。笑い話にしてごまかしたけど、本当はすごく怖かった…。だから、光子ちゃんと優子ちゃんが勇気を出して、こうやって発信してくれること、ほんとうに大事なことやと思います。」
芸人の川崎が、腕を組みながら真剣な顔で頷いた。
「ネットって便利やけど、間違った使い方したら、人の人生狂わせてまうんですよな。僕も後輩によう言うんです。“笑いは人を幸せにするためのもんで、人を傷つけるためのもんちゃう”って。今回の事件はまさにその逆。ほんまに許せへん。」
会場全体がしんと静まり返り、観客たちもそれぞれに考え込む表情を浮かべていた。
そんな中、光子が少し口角を上げて言った。
「でもね、うちらは負けんけん! ギャグでこの事件も笑い飛ばすぐらいの気持ちでおるっちゃん!」
優子もすかさず乗っかる。
「そげんたい! 犯人には“恥ずかしいで賞”でも贈っときゃよかったっちゃね!」
観客席にドッと笑いが起き、重かった空気がふっと和らぐ。
司会者もつられて笑いながら、
「最後にきっちり笑わせてくれるあたり、さすが博多南中の双子ちゃん!」と締めくくった。
拍手と笑い声に包まれながら、番組は次のコーナーへと進んでいった。
⸻
収録が終わり、双子ちゃんはスタッフに見送られて控室へ戻った。
まだ余韻の残るように、廊下には観客の笑い声や拍手の名残が漂っていた。
控室に入ると、先に待っていた美香お姉ちゃんがスマホを握りしめて立ち上がった。
「おつかれー!もう、テレビであんなにしっかり話して、ほんとすごいと思ったよ。あんたたち、堂々としすぎ!」
光子はタオルで汗を拭きながらニカッと笑った。
「お姉ちゃん、見てくれとったん?恥ずかしかー。でも、うちらは言うべきことは、ちゃんと言わんとね。」
優子もドリンクを一気に飲み干してから、
「そうそう!でも最後の“恥ずかしいで賞”はウケたっちゃろ?視聴者も爆笑やったはず!」と得意げ。
美香は吹き出して笑いながら、手元のスマホを見せた。
そこには、すでにSNSで「双子ちゃんのコメント最高!」「泣いたあとに笑わせられた!」という投稿が数百件も寄せられていた。
「ほら!みんな感動して笑っとる。やっぱり、あんたたちの力はすごいよ」
そのとき、控室の電話が鳴った。スタッフが出て、すぐに受話器を双子に渡す。
「光子さん、優子さん。ご両親からです」
電話口から聞こえてきたのは、父・優馬の豪快な声だった。
『お前ら、ほんとによく頑張ったな!あんな大勢の前で、あんなふうに堂々と話せるなんて、父ちゃんは胸張って自慢できるぞ!』
続いて母・美鈴の優しい声が重なる。
『テレビで見とったよ。涙が出るくらい立派やったし、最後のギャグで思わず笑ってしもうたわ。ほんと、あんたたちは私たちの宝物じゃね。』
光子は、受話器を胸に抱きながら小さく照れ笑いをした。
「父ちゃん、母ちゃん…ありがとう。うちら、まだまだ頑張るけん!」
優子も続けて、
「そうそう!ギャグで日本中を笑わせるけん、見とって!」
電話の向こうで、優馬も美鈴も、楽しそうに笑っていた。
その声に包まれ、双子の胸の中にじんわりと温かさが広がっていく。
優馬の心境
お父さんは、表面上はいつもどおり豪快に笑い、双子を励ましていた。だがその胸の内は、嵐のようにざわついていた。
「なんで、うちの子が……」
法廷で娘たちが毅然と証言する姿を見ながら、心の底から誇りに思う一方で、まだ十三歳の少女たちが背負うにはあまりにも重い現実に、どうしても胸が締めつけられた。
仕事場では平静を装った。だがふとした瞬間、パソコンの画面やスマホのニュース記事を目にすると、怒りと無力感がこみ上げてくる。
「俺がもっと守ってやれとったら、こんな思いはさせんで済んだんやないか…」
父親としての責任感と後悔が、夜更けにひとりの時間になるたびにのしかかってきた。
⸻
美鈴の心境
お母さんは、双子のそばで寄り添い続けた。泣きたいときもあったが、子どもたちの前では決して涙を見せないと決めていた。
「子どもたちがあんなに強く戦っているのに、私が泣いてどうするの」
けれど、寝室でふと布団に入ったとき、こぼれる嗚咽を止められない夜もあった。
母親として、娘たちを守りたい気持ちは人一倍強かった。だが法律や世間の壁の前では、自分がどれほど無力かを痛感させられた。
その無力さを補うように、彼女は裁判の進行を一つひとつ調べ、記録し、学校や先生とも連絡を密にとった。
「私は絶対に、この子たちをひとりにしない」
その思いだけで、気持ちを保っていた。
⸻
二人の心境の交わり
夜、夫婦で向かい合って話す時間が増えた。
優馬は悔しさをにじませて語り、美鈴はそれを静かに受け止めながらも「今は子どもたちを信じて支えるしかない」と言った。
互いに不安や怒りを抱えながらも、娘たちが必死で前を向いていることに励まされる毎日だった。
そして、双子が法廷で堂々と発言する姿を見たとき、二人は心の奥底で誓った。
――この子たちを、どんなことがあっても守り抜こう。
その誓いは、二人の心を固く結びつける鎖のように強くなっていた。
美香の心境
光子と優子の姉である美香は、妹たちの裁判をめぐる状況をずっとそばで見てきた。
中学生の妹たちが、法廷で大人顔負けに毅然と立ち向かっている姿は、本当に誇らしかった。けれどその誇らしさ以上に、胸を突き刺すような怒りと悲しみが渦巻いていた。
「どうして……あの子たちが、こんな目に遭わなきゃいけないの」
ニュースで事件が報じられるたびに、胸が締め付けられた。自分の大切な妹たちの顔が、勝手に、卑猥な合成に使われ、見知らぬ人に晒された――想像するだけで血が逆流するような思いだった。
姉として、自分は何ができるのか。
裁判では証言台に立つのは妹たち。両親は、法律や学校との連絡で必死に動いている。自分は何もできていないのではないか――そんな無力感に苛まれる日々が続いた。
けれど、美香には美香にしかできないことがあると、やがて気づく。
それは、妹たちの「日常」を守ることだった。学校から帰った妹たちに「おかえり」と声をかけ、部活や勉強の話を聞いてやること。落語研究会の新しいネタを一緒に考えて笑い転げること。楽団の練習に連れて行き、音楽の楽しさを分け合うこと。
「私が普通でいることで、あの子たちも普通でいられるんやないかな」
そう思うようになってから、美香は意識して明るく振る舞うようになった。ときには自分が抱える不安を胸に押し込みながら。
――怒りは消えない。
だが、その怒りを力に変えて、妹たちの背中を守る。それが姉としての自分の役割だと、彼女は心の奥で固く誓っていた。
家族の怒り
法廷で田村被告が供述したその言葉は、光子と優子、そして両親・美香の胸に鋭く突き刺さった。
「未成年だけど、ヌードじゃなければ問題ないと思った――」
信じられない。呆れと怒りが一瞬で全身に駆け巡る。
優馬(父)は、目の前が真っ赤に染まるような感覚を覚えた。怒りで声が震え、手のひらに力が入りすぎて爪が食い込む。
「なに言うとっとや、こいつ……!」
と、心の中で何度も叫ぶ。声に出さずとも、瞳に怒りと絶望が渦巻いていた。
美鈴(母)も同じように、言葉にならない怒りに胸がいっぱいになる。冷静でいようと深呼吸をしても、心臓の鼓動は早く、震えが止まらない。
「どうして……どうしてうちの子たちに、こんなことを……」
母としての無力感と、加害者への憎悪が交錯する。
美香は姉として、妹たちを守る決意をさらに固める。
「このやろう……。あんた、絶対に許さん。」
握りしめた拳を胸に当て、静かに、しかし確実に怒りを燃やす。
光子と優子も、悔しさに目を潤ませながら、互いの手を強く握る。
「絶対に、こんなこと、許さない……」
まだ中学生の小さな声ながら、その決意は法廷の空気を震わせるほど強かった。
家族全員が、加害者の身勝手極まりない言い訳に心の底から怒りを覚え、同時に互いに支え合う気持ちを新たにする。
この怒りは、決して消えることはない。裁判が終わるその日まで、そしてその先も――妹たちを守るための強い力に変わるのだった。
家族の支え合い(博多弁バージョン)
法廷でのやり取りが終わり、束の間の休息で帰宅した小倉家。
優馬はリビングのソファにどっしり座り、深く息を吐く。
「……なんちゅうやつや。許さんばい。」
美鈴はテーブルに手を置き、目を伏せながらも夫の背中を見つめる。
「お父さん、落ち着きや。けど、ほんまにひどか話やね。」
美香は妹たちの部屋から戻ると、二人の肩を抱き寄せた。
「光子、優子……怖かったやろ。けど大丈夫。うちたち家族で守るけん。」
双子は小さく頷き、涙をぬぐう。まだ心の奥には不安が残るが、姉の言葉に少し安心する。
優馬も立ち上がり、二人の肩に手を置いた。
「光子、優子、怖かのは当たり前や。けど、もう一人やなか。家族みんなで一緒に戦こーけん。」
美鈴も加わり、四人で輪になって手を重ねる。
「絶対、この経験で負けらんばい。うちらの時間や権利を、取り戻さんといかん。」
その夜、小倉家には静かな決意が満ちた。怒りと悔しさは消えないが、それを力に変え、互いに支え合う家族の絆がより一層深まった。
光子と優子は、まだ中学生で小さな手ではあるが、家族の温かさと力強さを感じながら、明日への勇気を胸に抱く。
美香も姉として、妹たちの笑顔を守るため、何ができるかを考え続ける。
家族の力は、この事件の中で、誰よりも強く、確かなものとなった。