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猥褻画像合成事件、裁判始まる。初公判から第三回口頭弁論まで

夏休み直前の知らせ



夏休みに入る直前、光子と優子のもとに、学校から連絡が入った。春先に発覚した、水着姿の画像に双子ちゃんの顔が合成されるという事件。その容疑者が特定され、逮捕されたというのだ。


容疑者は、県外に住む二十歳の男、田村悠樹。調べによると、動画の再生回数を増やして金を稼ぐ目的で、違法行為に及んだらしい。


「絶対に、こげなこと許さんばい……」

光子の瞳は怒りで燃えていた。


「うん。私たちは、こういう犯罪行為は容赦せんっちゃ。ぜったいに、あかんとばい」

優子も、拳を握りしめて強く頷く。


家族も同席し、双子の決意を見守る。優馬もアキラも、美鈴も、美香も、全員が深く頷きながら声をそろえた。


「被害者の権利ば守るのはもちろん、二度とこげなことが起きんようにせんとね」

優馬の声には、家族としての責任感と守る意志が滲んでいた。


裁判はすぐに始まった。光子と優子は、証言席に立ち、事件の経緯を語った。怒りと悔しさ、そして同じような被害が広がらないよう願う気持ちを、はっきりと声に出す。


「私たちは、二度とこげなことが起きんように、しっかり声を上げます」

光子の言葉に、法廷は静まり返る。


「犯罪行為は、決して許されんとばい」

優子も続けた。声は震えていたが、毅然としていた。


裁判を通して、双子ちゃんは、ただの被害者ではなく、社会に訴えかける強い存在として成長していくのだった。




決意の双子


双子ちゃんは、ただ怒るだけではなく、事件の本質を理解していた。肖像権、著作権、児童ポルノ規制法、そしてネット上の犯罪行為の怖さ…。


「私たちは、こういう犯罪行為は絶対に許さん。誰かの遊びや金儲けのために、子どもを傷つけるなんて…ありえんっちゃ」

光子は真剣な顔で言う。

「ほんと、そればい。私たちの顔を勝手に使う奴には、ちゃんと責任を取らせるっちゃね」

優子も拳を握り、声を強める。


父・優馬は静かに頷きながら、双子の背中を押す。

「お前たちが立ち上がることが、社会へのメッセージになる。恥ずかしがらず、ちゃんと声を上げろ」


こうして、双子は被害者としての証言だけでなく、同じような被害を受ける可能性のある子どもたちを守るために、自分の言葉で社会に訴えることを決めた。



法廷での証言


裁判当日。法廷は緊張感に包まれていた。双子ちゃんは、母の手を握りながら、証言席に立つ。


「この動画は、私たちの顔を勝手に使って作られました。学校でも友達とも、家族とも笑ったり泣いたりする日常が、勝手にさらされることは、とても怖く、悔しかったです」

光子の声は揺れながらも、確固たる決意を帯びていた。


優子も続ける。

「私たちは、遊びや金儲けのために、子どもを傷つけるような行為は絶対に許しません。誰もが安心してネットを使える社会にしたいです」


傍聴席には、報道関係者や関係者が静かに聞き入る。被告・田村悠樹は、双子の毅然とした姿に言葉を失ったようだった。


裁判官もメモを取りながら、しっかりと聞き入っている。双子の証言は、被害者としての感情だけでなく、社会的な意義も含まれていたため、法廷内には緊張と尊敬が入り混じる空気が漂っていた。



審理の行方


弁護士の尋問では、田村悠樹の動機が明らかになる。

「動画の再生回数を増やして、金銭を得る目的でした」

という供述が提出され、動機の卑劣さが浮き彫りになる。


双子は裁判の場でも、冷静さを失わずに証言を続けた。

「金のために、子どもを傷つける行為は絶対に許しません。私たちのような被害者を出さないためにも、厳しい処罰をお願いします」


傍聴席からは、静かに頷く人々の姿もあり、双子の言葉は確実に社会に届いていることを感じさせた。



家族の支え


裁判を終え、帰宅した双子ちゃんと家族。疲れはあるが、達成感と安心感があった。

美鈴は双子を抱きしめて言う。

「よく頑張ったね。お母さん、ほんとに誇りに思うよ」

光子と優子は、少し照れくさそうに笑いながら、互いに手を握り返す。


「これからも、私たちの毎日を守るために、ちゃんと声を上げるっちゃ」

「うん、絶対に負けんばい」


こうして、双子は単なる被害者で終わるのではなく、自分たちの力で社会を守る一歩を踏み出したのだった。




攻防の法廷


静まり返った法廷に、被告側の弁護士の声が響いた。

「被告・田村悠樹は、今回が初犯であります。未成年の少女を傷つけた行為は決して許されるものではありませんが、更生の余地があると考えられます。したがって、厳しい刑罰は避けるべきであると…」


その瞬間、検察側弁護士がすぐさま立ち上がった。

「異議あり!まさに、その“初犯だから軽い刑でよい”という姿勢こそが、同様の事件を繰り返し誘発しているのではありませんか?」


一瞬、ざわめきが走る。

「加害者に甘い裁定が続く限り、子どもたちの笑顔が奪われ、社会の信頼は損なわれるのです。我々はここに、名誉毀損・肖像権侵害・精神的苦痛、さらに経済的に被った損害について、賠償を強く請求いたします」


法廷に重たい空気が流れた。




双子の声


証言台に立った光子は、まっすぐ前を見据え、揺るぎない声で言った。

「反省するのは当たり前です。その上で、自分がやったことの重大さを、厳しい制裁を通して理解してほしいと思います」


優子も隣に立ち、続ける。

「ネットは便利で楽しいけど、悪用すれば人を傷つける武器になります。だから、私たちはもう泣き寝入りしたくないし、同じような被害を受ける子が出ないように願っています」


二人の声は震えていなかった。年齢以上の覚悟と気迫がそこにはあった。


傍聴席の誰もが、少女たちの強さに心を打たれていた。




被告の言葉


被告席の田村悠樹は、うつむきながら、かすれた声で言った。

「…反省しています。本当に、すみませんでした」


しかしその言葉に、優子は静かに首を振った。

「反省は、言葉だけじゃ足りません。私たちは、厳しい制裁を受けることで、本当に分かってほしいんです」


法廷には、彼女たちの声だけが澄み渡った。


裁判官はしばし沈黙し、深く頷く。




暴かれた闇


検察側から提出された追加の証拠は、法廷の空気を一変させた。


「被告・田村悠樹は、今回の件のみならず、他の若手歌手やタレント、スポーツ選手の顔を張り替え、ヌード写真を合成して流布していた事実が確認されました。さらに、卑猥な言葉を添えた改変画像を多数投稿し、その結果、広告収入などで数千万円を不正に得ていたことが発覚しています」


傍聴席がざわめく。記者たちが一斉にメモを走らせる音だけが響いた。


裁判官の表情が険しくなった。

「数千万円…ですか。悪質極まりない」


被告は顔を覆い、声を失っていた。




双子の怒り


光子が証言台に再び立ち、毅然とした声で言った。

「私たちはまだ小学校を卒業する直前でした。『ヌードじゃないから問題ない』なんて、そんな勝手な言い訳が通るはずがありません。私たちにとっては、存在そのものを踏みにじられたのと同じです」


優子も、涙をこらえながら言葉をつないだ。

「たとえヌードじゃなくても、勝手に作られて、勝手に笑われて、勝手にお金にされる。それがどれだけ傷つくことか、わかってほしいです」


その真剣な言葉に、傍聴席は水を打ったように静まり返った。





裁判官の心象


裁判官は、被告をじっと見据えた。

「あなたは初犯だから情状酌量の余地がある、と弁護側は主張しました。しかし、調べが進むにつれ、組織的かつ継続的に同様の行為を繰り返し、他者の尊厳を踏みにじってきた事実が浮かび上がっています。未成年を含む被害者に対して、“ヌードでなければ問題ない”という短絡的な認識は、到底許されるものではありません」


言葉のひとつひとつが、重く法廷に突き刺さった。


被告の弁護士ですら、もはや反論の余地を失っていた。




奪われた夏休み


静寂に包まれた法廷に、優子の声が震えながらも力強く響いた。


「本当なら、いま私たちは夏休みで、友だちと遊んだり、部活を頑張ったり、楽しいことがたくさんあったはずなんです。けれど、あなたのせいで……こうして裁判に出なければならなくなった。本当に、腹立たしい思いです」


光子が続ける。涙をこらえながら、まっすぐ前を見据えて。

「私たちの大切な時間を、返してください。私たちの未来を、二度と誰にも奪わせないために……どうか厳しい判断をお願いします」


その言葉は、被告に向けられただけでなく、法廷にいるすべての人々の胸に突き刺さった。


裁判官は一度深く頷き、静かに木槌を打つ。

「本日の審理はこれにて終了する」


無機質なはずの法廷が、双子の涙と声によって、確かな熱を帯びていた。




束の間の夏


一回目の裁判が終わった日から、光子と優子は、少し肩の荷が下りたように笑顔を取り戻していた。

「次の裁判は9月末やけん、それまではうちら、普通に中学生ばしよーや」

光子がそう言って、優子は「そうたいね」と笑った。


学校に戻れば、授業も部活も、いつも通りの時間が流れる。

翼は卓球部で汗を流し、拓実はソフトテニスのラケットを振る。双子も落研の先輩に鍛えられ、ギャグの腕を磨く毎日だ。


そんなある日、優子の机に一通のラブレターが入っていた。クラスの男子からのものだった。

「え、なにこれ……」

優子は真っ赤になり、隣の光子にひそひそ声で見せる。光子はお腹を抱えて笑った。

「モテモテやん!けど、拓実おるけんね」

優子は深呼吸して、丁寧に返事を書いた。――「ごめんなさい。私には大切な人がいます」


光子の方も、休み時間に翔太から声をかけられることが増えていた。

「この前のギャグ、めっちゃおもしろかったな!」

「ありがとう。でも、あんまり褒めすぎたら調子乗るけんね?」

そんな軽快なやり取りが続き、クラスの空気は明るくなるばかりだった。


夏の終わりには、翔太やクラスの女子たちとも一緒に出かける機会が増えた。みんなでカラオケに行ったり、アイスを食べながら公園で話したり。翼や拓実とも自然に混ざり、4人+αのグループは笑いが絶えなかった。


光子と優子にとって、それはただの遊びではなく、「普通の生活」を大切に取り戻すための時間でもあった。

笑って、ふざけて、時には真剣に語って――。双子の心に少しずつ、夏の青空が戻っていった。




夏の終わり、博多南中学のグラウンドには大きなテントが立ち並び、赤と白の旗が風にはためいていた。体育祭の本番だ。


「よっしゃー!今日はうちらが盛り上げ隊長やけんね!」

光子が腕まくりをし、優子が「笑いで点数稼いだる!」と張り切る。


まずは入場行進。双子は揃って変顔を披露しながら行進し、観客席の保護者たちが一斉にスマホを構える。担任の白石彩先生は「こらこら〜!」と叫びつつも、顔は笑いで崩れていた。


続いて玉入れ。普通なら無言で玉を投げ入れるところだが、光子がわざと自分のポケットに入れて「これもカウントしていい?」と叫ぶ。すかさず優子が「それ泥棒やん!」とツッコミ、会場は爆笑。


騎馬戦では、相手のハチマキを取ろうとせず、光子が「ちょっと待って!その髪型めっちゃ可愛いやん!」と褒め始める。相手チームの子まで笑ってバランスを崩し、ハチマキを自分で落としてしまった。


極めつけはリレー。バトンを受け取った光子が全力疾走――と思いきや、わざとコケたふりをして観客をハラハラさせ、そこから優子にバトンを投げ渡す。「ナイスキャッチ!」とツッコむ優子が笑顔で走り抜け、クラス全員が声を合わせて応援した。


最終結果は惜しくも総合優勝を逃したが、会場の笑いと盛り上がりは間違いなく双子の勝利だった。

「うちら、点数よりも笑いで勝ったっちゃね!」

「体育祭はスポーツやろ!……いや、ギャグも競技に入れてほしいけん!」


観客席からの拍手と笑い声に包まれながら、双子は今日も“笑撃”をかっさらっていった。




法廷の静寂、揺れる言葉


9月末、福岡地方裁判所。夏の喧騒が過ぎ、秋の気配が漂う中、第二回口頭弁論が始まった。

光子と優子は、この日は学校があるため、直接の出廷はせず、弁護士を通じて提出した書面による意見陳述となった。


書面にはこう綴られていた。


「私たちはまだ中学生です。本来なら勉強や部活動、友達との楽しい時間を過ごしているはずなのに、あなたの行為によって、それが大きく奪われました。

私たちの顔を無断で使い、卑猥な内容に加工したことは、絶対に許されることではありません。

初犯だから、反省しているから、という理由で軽く扱ってしまえば、同じような被害者がまた生まれてしまうでしょう。

私たちは、今後二度と同じようなことを繰り返させないためにも、厳正な処分を望みます。」


裁判官がその書面を読み上げると、傍聴席からは小さなどよめきが起こった。中学生の少女たちの真剣な声は、静まり返った法廷に重く響く。


一方、被告の弁護側はこう主張した。

「被告は今回が初犯であり、深く反省しております。社会的制裁もすでに受けており、これ以上の厳罰は更生の妨げになると考えます。寛大な処分をお願いしたい」


だが検察側の弁護士は即座に反論する。

「初犯だからといって被害の深刻さが軽くなるわけではありません。未成年を含む複数の被害者が存在し、被告はそれによって数千万円を不当に得ていたことが明らかになっているのです。これは悪質極まりない犯行であり、社会的影響も甚大です」


裁判官は静かにうなずきながら、次回期日に向けて更なる証拠の精査を命じた。

法廷を後にした弁護士は、双子に報告するメールを送る。


「あなたたちの声は確かに届きました。裁判官の表情にも重く響いていたと思います」


その知らせを受け取った光子と優子は、胸を撫で下ろした。

「よかった……ちゃんと伝わったんやね」

「うん。うちらの時間、無駄にせんためにも最後まで頑張らんと」


その夜、ふたりは机に向かい、明日の授業の予習をしながらも、星空に願った。

「どうか、正しい裁きが下りますように」




暴かれる真実


10月に入り、博多の空気は少しずつ冷え込みを帯びていた。

その頃、第三回口頭弁論が開かれる。


今回も光子と優子は学校があるため出廷せず、弁護士に一任していた。

しかし法廷では、予想外の展開が待っていた。


検察側が提出した新たな証拠資料には、被告・田村悠樹(20)が、過去に投稿した膨大なデータの解析結果が記されていた。

それは、双子の写真だけではなく、複数の若手アイドル、歌手、スポーツ選手の画像を不正に合成したものだった。しかもその数は数百件を超えており、収益は5,000万円以上にのぼると明らかにされた。


傍聴席はざわめき、被告の表情は蒼白になる。


「これは……単なる一度の過ちではありません。計画的かつ常習的に行われた悪質な犯行です」

検察官の言葉は、冷たく法廷を貫いた。


弁護側は必死に食い下がる。

「被告はまだ若く、更生の余地が――」


だが裁判官は静かに言葉を遮った。

「若さを理由に被害を軽んじることはできません。未成年を含む被害者の存在は重大です」


その一言で、弁護側の主張は一気に色を失った。




双子の声、未来への願い


学校から帰った光子と優子は、弁護士からの報告を受ける。

パソコン越しに、弁護士の真剣な声が響いた。


「今回、新しい証拠が提出されました。あなたたちだけじゃない。多くの人が同じ被害を受けていました」


光子は拳を握りしめる。

「やっぱり……うちらだけやなかったんやね」


優子も深くうなずいた。

「でも、それならなおさら許せん。これ以上、泣く人を増やしたらあかん」


ふたりは机に向かい、判決公判に向けた最終意見書を書き始めた。


「私たちは中学生です。本当なら毎日、部活や勉強、友達との時間で笑っているはずでした。

けれどあなたのせいで、その大切な時間が裁判に奪われました。

どうか、これ以上の被害者が出ないように、厳しい処罰を望みます。

未来を守るために――」


書き終えた紙を抱きしめながら、優子は空を見上げた。

「判決の日、きっと正義が勝つよね」


光子は笑いながらも、涙をこらえて言った。

「当たり前やん。うちらの声、絶対届いとるけん」




第三回公判後の展開


田村悠樹(20)の事件は、光子と優子のケースだけにとどまりませんでした。

警察と検察が押収したパソコンやスマホの中から、数百名規模の被害者データが見つかり、そこには若手の歌手やタレント、スポーツ選手に加え、一般の未成年まで含まれていました。

•有名アスリートの顔を合成した卑猥画像

•人気アイドルの身体を差し替えた虚偽動画

•SNSでの拡散による誹謗中傷の連鎖


こうした行為が次々に明るみに出て、田村悠樹は追加で刑事事件の被告人として起訴されることに。


同時に、複数の芸能事務所やスポーツ団体からも、**民事訴訟(損害賠償請求)**が相次いで提起されました。

•名誉毀損による慰謝料

•事務所やスポンサー契約への経済的損害

•精神的苦痛に対する損害賠償


光子と優子のケースが「児童ポルノ規制法違反」を含む最重要案件だったことから、二人の訴えは社会的にも注目を集め、ニュースやワイドショーで大きく取り上げられる。



光子(怒りを込めて)

「うちらだけやなくて、たくさんの人が被害に遭っとる。ぜったい許されん。」


優子(静かにうなずきながら)

「罪の重さを、本人も、そして社会もちゃんと理解せんと…また同じことが起こるけんね。」



田村悠樹に対する刑事裁判と民事裁判は、並行して長期戦になる。

だが双子ちゃんは、弁護士や家族の支えを受けながら、

「もう泣かない。今度は守るために声をあげる」

と強い覚悟を持ち始めるのでした。




第二回公判


九月二十九日。

博多地方裁判所の小さな法廷には、秋の乾いた光が窓越しに差し込んでいた。


その場に光子と優子の姿はなかった。

彼女たちは学校の授業があるため、今回は弁護士に一任していた。けれど、二人の想いを綴った書面が弁護士の手にしっかりと握られていた。


裁判官が入廷し、静かな声で進行を告げる。


「それでは、被害者側の意見陳述を読み上げます」


弁護士が立ち上がり、光子と優子の言葉を代弁した。


――本来なら、夏休みはもっと楽しい思い出を作るはずでした。

それを奪われたことが、何よりも悔しいです。

私たちは絶対にこのような犯罪を許しません。反省するのは当たり前のこと。その上で、厳しい処分を望みます。


法廷内に、重苦しい沈黙が広がった。

誰もが二人の声を想像し、その無念を受け止めていた。


やがて、被告側弁護士が立ち上がった。

「被告は反省しております。初犯であり、また若年でもあることから、寛大な処分を――」


その言葉に、検察官が即座に反論した。

「初犯であることは、犯罪の重大性を軽減するものではありません。被告は未成年者を含む多数の被害者を標的にし、数千万円もの利益を得ていました。悪質性は極めて高く、社会的影響も甚大です」


法廷の傍聴席には、他の被害者の代理人や関係者も並んでいた。

若手歌手の事務所関係者、スポーツ選手の代理人。彼らもまた、田村悠樹を告訴していた。


「うちの選手も、精神的なショックで練習に集中できなくなった」

「合成写真が拡散され、イメージを傷つけられた。被害は計り知れない」


声が次々と上がるたび、田村の表情は硬直していった。


裁判官は冷ややかな眼差しを被告へ向ける。

「あなたが行ったことは、単なる『遊び』や『小遣い稼ぎ』では済まされません。社会的に重大な影響を及ぼした犯罪です」


傍聴席からは小さなざわめきが漏れる。

もはや被告への心象は最悪だった。


被告は小さな声で「反省しています」と繰り返すばかり。

だが、その声はあまりにも軽く、誰の胸にも響かなかった。


次回の期日を告げる木槌の音が、法廷に乾いた音を響かせた。


――光子と優子の言葉は届いたのだろうか。

だが少なくとも、この裁判が社会に「警鐘」を鳴らしていることだけは、確かだった。



第三回公判 ― 被告人質問


十一月、冷たい風が街を吹き抜ける頃。

博多地方裁判所の第六法廷には、張り詰めた空気が流れていた。


「それでは、被告人質問を始めます」


裁判官の声に促され、証言台に立ったのは田村悠樹、二十歳。

やつれた顔には青白さがにじみ、目は落ち着きなく泳いでいた。


まず弁護側が質問を始めた。

「田村さん、あなたは今回の行為をどのように反省していますか?」


「……二度と、しません。軽い気持ちでやってしまいました」


か細い声。

だが、その「軽い気持ち」という言葉に、傍聴席がざわつく。


すぐさま検察官が鋭く切り込んだ。

「軽い気持ちで、と言いましたね。ですが、あなたは複数のアカウントを使い分け、広告収入を得るために何百枚もの合成写真を投稿していた。これは計画的ではありませんか?」


「……い、いえ……最初は遊び半分で……気がついたら……」


「気がついたら数千万円も稼いでいた、と? 都合が良すぎますね」


田村の声は次第に小さくなり、証言台の前で言葉を探すように口を開け閉めするばかり。


さらに被害者側の弁護士が前に進み出た。

「田村さん、あなたは『ヌードでなければ問題ない』と考え、小学生を卒業したばかりの少女の顔を合成しましたね。なぜそのような発想に至ったのですか?」


「……えっと……その……再生数が、伸びると思ったからです」


法廷の空気が凍りついた。

光子と優子の両親、そして傍聴に来ていたクラス担任の白石先生と藤原先生は、奥歯を噛みしめていた。


弁護士はさらに畳みかける。

「あなたは、自分の利益のために、未成年の人格と尊厳を平然と利用した。

その子たちがどれほど傷つくか、想像できなかったのですか?」


田村は顔を伏せ、答えられない。

沈黙が重苦しく法廷を覆った。


裁判官が低い声で告げる。

「答えてください」


「……すみません……考えていませんでした……」


その一言に、傍聴席から誰かの嗚咽が漏れた。

検察官も弁護士も、それ以上の言葉を重ねる必要はなかった。


被告人質問は終了した。

田村の姿は、もはや反省というより逃避にしか見えず、その態度が裁判官の心証をさらに悪化させていった。


次回期日、いよいよ最終弁論が行われることが告げられ、法廷は静かに幕を下ろした。






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