禁止ワード
放課後、音楽室。
昼のコントが残像みたいに残っとって、みんな口の端がどうしても上がる。黒板の隅には光子が書いた貼り紙——《本日の禁止ワード:ようぎちゃん/ちょいぴ/しゃっしゃ・ギュッ・ポイ/壁ゼロ》。見た瞬間、全員「プッ」。
「はい、笑いストレッチしてから始めるけん。にーって10秒、ほーって10秒、ふーって10秒」
光子が手短に仕切る。
優子が続ける。「それでも笑い出したら“めんたいこ→うにゃだらぱ〜”でリセットばい」
顧問の先生が入ってきて、腕を組んでにやり。
「今日は誰も整骨院に送らん。わかったね?」
「はーい……(プッ)」
出だし。静かな入り。
息を合わせて音を出そうとした瞬間、後列から小さく「よう…」と聞こえた気がして、前列の誰かが肩を震わせる。
光子が目だけで合図。「今のは空耳。集中」
優子が口パクで“めんたいこ”。前列、こらえ笑いから生還。
真ん中の盛り上がるところ。
さおりの目が合ったしおり、つられて笑いそうになる。
しおり(小声)「ダメ…“壁ゼロ”が頭の中で暴れよう…」
小春(隣で耳打ち)「“紙むげん”思い出すけんやろ!忘れろ!」
朱里と樹里は背筋を伸ばし、視線を譜面に固定。
顧問が前で、咳払いひとつ。「はい、そこで気持ちが走らん」
クラス全体、「はいっ」と返事。なぜか体育会系。
そのとき、前の席で誰かのイスが「キュッ」と鳴った。
教室全体が0.5秒フリーズして——
「プッ」
点火。
後列から連鎖爆発しそうになるのを、光子が両手で“落ち着けポーズ”。
優子が素早く立札を掲げる——《今は本番のつもり》。
それ見て、みんなの口角がすうっと下がる。生還、二度目。
休憩。
小春「やばい、腹筋ピキッて来た」
さおり「先生、湿布あります?」
顧問「ない!代わりに深呼吸と水。あと“笑いは今から30秒だけ解禁”」
全員「助かる〜〜!」
「ようぎちゃん」「ちょいぴ」「壁ゼロ」——30秒だけ解禁ワードが飛び交い、笑いがサッと出て、サッと引く。
優子「はい終了。笑いは出し切った。ここからは“無表情選手権”!」
二回目。
出だしは静かに、真ん中は肩で呼吸をそろえ、最後の伸ばすところで教室がひとつにまとまる。
誰も吹き出さん。
音がすっと前へ進んで、部屋の空気が薄い膜みたいに震えた。
終わりの合図。
しばしの静けさ。
顧問がゆっくり口を開く。
「……今の“笑い出しそうなのを飲み込んだ落ち着き”、今日いちばんの収穫やね」
光子、ふっと笑う。「昼間のコント、無駄やなかったろ?」
優子もピース。「うちら、笑いで体ほぐして、ここで心しめる」
片付け。
樹里「さっきのイスの“キュッ”、犯人誰ね」
朱里「……私。でももう鳴らさん」
しおり「禁止ワード、明日も続行?」
さおり「続行。けど“めんたいこ→うにゃだらぱ〜”のリセットは常備」
小春「本番の日、朝イチに全員でやろ」
帰り際、顧問がぽつり。
「今日は整骨院に行かんで済みそうや」
教室に笑いが走る——けど、もう誰も“プッ”とはならん。
笑いはちゃんと出て、ちゃんと収まる。さっきまでの騒がしさが、静かな芯になって胸の中に残る。
廊下に出る前、光子が振り向いて合図。
「締めてこ。め・ん・た・い・こ」
優子「う・にゃ・だ・ら・ぱ〜」
昼のコントは笑いの種、夕方の練習は収穫。
笑いでほぐして、前に進む。
明日も多分、誰かが“プッ”と言いそうになる。
でも、そのたびに全員で戻ってこれる。
——うちらはそういうチームやけん。
タイトル:千穐楽おかえり祭り in 朝比奈家
放課後の練習を終えた帰り道、スマホが震えた。
〈美羽〉「全国ツアー、千穐楽終わって福岡戻ってきたよ!」
〈涼介〉「ただいま!元気しとった?」
光子と優子は顔を見合わせ、同時に親指を立てる。
「行こ!」
「行くしかないやろ!」
すぐ家のグルチャに一報。
〈光子〉「いまから美羽さんち寄って帰るけん」
〈優子〉「朝比奈家コースです〜」
〈美鈴〉「了解。ライト点けてヘルメット!」
〈優馬〉「帰り“鼻からスポドリ噴射禁止”」
〈美香〉「写真送って〜」
夜風のなか、ペダルは軽い。いつもの坂も、今日は下りみたいに感じた。
朝比奈家の前。ブレーキがきゅっと鳴り、二人は息を整える。
「行くよ」
「うん」
――ピンポーン。
「あいよー!」内側から元気な声。
ガチャ、とドアが開いて、美羽が笑顔で手を振った。頬にツアー帰りのいい疲れが見えるのに、目はきらきらしている。背後から涼介がひょっこり顔を出して、二人に手を振る。
光子:「ただいま戻ってきた人〜!」
優子:「**おかえり〜!**待っとったばい!」
美羽:「ただいま〜!あんたたち、相変わらず元気やねぇ」
涼介:「チャリのライト、えらい明るいやん。準備万端やね」
玄関で靴を脱ぎながら、双子は早口に近況報告。
光子:「きいて!今日、学校でコント披露してね——」
優子:「担任が腹筋つって整骨院行きになった」
美羽:「ちょっと!プロ顔負けの爆笑被害出しよるやん!」
涼介:「本番よりリハが一番ウケるってやつやね。あるある」
リビングに通されると、テーブルの上に全国のおみやげ山。ご当地ラベルが派手だ。
美羽:「これ、ツアーの戦利品。北海道のバターサブレ、広島のレモンケーキ、大阪のうまい棒詰め合わせ。好きに持ってって」
優子:「うわ、紙むげんならぬおやつむげん!」
光子:「壁はゼロ、皿はフル!」
涼介がソファに腰を下ろしながら、ツアーの話を少し。
涼介:「最後の会場、拍手がさ、波になって押し寄せてきた。千穐楽って、やっぱ特別やね」
美羽:「袖に戻ってから、楽屋でみんな泣いて笑って、写真200枚」
優子:「200枚て!そのうち変顔は?」
美羽:「198枚」
光子:「ほぼ変顔やん!」
しばらく笑ってから、双子は顔を見合わせる。
光子(小声):「…やる?」
優子(小声):「やろ」
ふたりは玄関マットをステージに見立て、すっと立つ。
光子:「特別公演、千穐楽おかえり記念。演目は『双子刑事 vs 落書き大魔王〈ダイジェスト〉』」
優子:「最初の一本目はどこ?」
光子(春介モード):「ソファのした!」
優子(春海モード・腕組み):「かべはしない」
美羽&涼介、声を上げて笑う。
美羽:「“かべはしない”、名言やね〜!」
涼介:「そのテンポ、舞台で通るわ。MCで使いなさい」
笑いが落ち着いたところで、美羽がふっと柔らかくなる。
美羽:「…帰ってきて、最初に会いたかった顔が、あんたたちやったけん。来てくれて、ありがと」
優子:「うちらも会いたかったけん。おかえり」
光子:「また一緒に遊べる季節、戻ってきたね」
写真を撮って、家族グルチャに送る。
〈光子〉[写真:朝比奈家でピース×4]
〈優子〉「千穐楽おかえり祭りなう」
〈美鈴〉「楽しそうで何より」
〈優馬〉「プリン買って帰ってきて(急)」
〈美香〉「おみや一つ残しとって〜」
時計を見た涼介が言う。
涼介:「そろそろ門限やろ。送って行こか?」
光子:「だいじょうぶ、チャリのライト全開やけん!」
優子:「でも玄関先まで**“しゃっしゃ・ギュッ・ポイ”**の速度で帰る」
美羽:「速度の単位が分からん!」
外に出ると、空気がすこし冷たい。
門のところで、もう一度手を振る。
美羽:「また来んしゃいね。今度はツアー裏話、もっと話すけん」
涼介:「安全運転で。下見て歩けよー」
光子&優子:「了解ー!」
ペダルを踏む。ライトが路面を切り取る。
背中で、朝比奈家の「またね」がいつまでも手を振っていた。
角を曲がる直前、二人だけの合図。
光子:「め・ん・た・い・こ」
優子:「う・にゃ・だ・ら・ぱ〜」
千穐楽の余韻と、おみやげの甘い匂いをカゴに乗せて、福岡の夜道がさらさらと流れていった。
掃除応援救助隊、学校に再出動(男子、お花畑リターンズ)
朝の連絡網に一本。
〈部室のカオス、限界〉
〈至急、“お掃除応援救助隊”求む〉
――放課後。光子と優子は腕に「掃」「除」の腕章、エコバッグぱんぱんで現場入り。部室前には、段ボール山と謎の片方だけの上履き、干からびたペットボトルが三名ほど。
光子「状況、想定の三倍」
優子「カオスの香り、強め〜」
そこへ男子がわらわら集合。昨日の“シックスパック騒動”が尾を引いて、目がとろん。
男子A「お手伝い……しま……す(見惚れ)」
男子B「オレ、重いの持て……(見惚れ)」
男子C「今日も腹筋……(見惚れ)」
光子、指をパチン。
「男子、目線は顔→床→コーン!足元確認から開始!」
優子、「お花畑注意報」と書いた三角コーンをスッと置く。
作戦会議。
光子「ゾーンA:紙の山、ゾーンB:忘れ物地帯、ゾーンC:床。基本動作は“しゃっしゃ・ギュッ・ポイ”。ほんなら——」
全員「出動!」
——開始10秒。
男子A、床のバケツを見忘れてズボンごとジャボン。
男子B、養生テープをビーーッと伸ばしすぎて、自分の口を封印。
男子C、ゴミ袋を持ち上げた瞬間、底が抜けてプリント紙吹雪。
廊下に紙の桜吹雪、床にしっとり男子、空気にスッ……と笑いの予感。
優子、笛ピッ。
「花畑解除! せーので“め・ん・た・い・こ”」
全員「め・ん・た・い・こ」
優子「“う・にゃ・だ・ら・ぱ〜”」
全員「う・にゃ・だ・ら・ぱ〜」
(男子の目に理性が戻る)
光子「男子A、バケツから退避。靴下しぼって“ギュッ”。男子B、口のテープは横から剥がす。男子C、紙は“ポイ”に集中。はいもう一回!」
二巡目。今度はみんなノってきた。
「しゃっしゃ!」(机を拭く)
「ギュッ!」(雑巾しぼる)
「ポイ!」(分別ゴミへ)
そこへ、さらに“お花畑”の罠。
優子が腕まくりした瞬間、男子の脳内で鐘が鳴る。
男子全員(心の声)『(シックスパック……)』
そのまま床の“ぬれてます”ゾーンへ一直線。
光子、横滑りで前に立ちふさがる。
「ストーーップ!足は地面、心は空! いいね?」
男子「は、はいっ!」
優子、三角コーンをくるっと回して、男子の前に足型のテープをペタン。
「足型の上だけ歩く。ラッキーは安全第一の上で噛みしめる。了解?」
「了解!」
足型レーン導入で、男子の動きが急にシャキーン。
紙吹雪は束ねられ、忘れ物は持ち主当てクイズで回収。
「この片方上履き誰のー?」「オレやった……」「3週間ぶりの再会おめでとう」
笑いが起こって、でも作業は止まらない。いい流れ。
顧問が覗く。
「……すご。ビフォー“洞窟”、アフター“住める”」
光子「施工は友情」
優子「請求は笑顔100枚」
顧問「領収切っとくわ(意味不明)」
仕上げ前に、最後の試練。
男子D、コーンを片付けようとして被る。
男子E、モップを立てかけようとして自分に倒す。
男子F、「終わった〜」とジャンプ→足型レーンを外れる。
優子、素早く札を掲げる——《本日の教訓》
1.下を見る(現実)
2.コーンは被らない
3.レーン外は恋でも仕事でも危険地帯
男子D「被ってもうた」
男子E「倒してもうた」
男子F「レーン外れたら幸せも逃げる(名言風)」
光子「よし、全員“深呼吸→三歩だけ後ろ→再開”。花畑は隙間から見ろ。作業中は地面!」
——ラスト五分。
「しゃっしゃ」「ギュッ」「ポイ」だけが部室に優しく響く。
床が光って、空気が軽くなって、笑いはにこにこに落ち着く。
ビフォー/アフター写真を並べて、記念撮影。
男子A「……正直、さっきまで頭がチューリップ畑やった」
男子B「でも今は、床が超まっすぐ見える」
男子C「たぶん、これが“現実に戻る”ってやつ」
優子「ナイス帰還」
光子「お花畑は休憩中に全開でどうぞ。作業中は足元ガチ確認」
解散前、顧問がひとこと。
「今日の成果:部室がきれい。もう一個の成果:男子の視線が下に戻った」
男子全員「はい!(キリッ)」
最後はいつもの合図で締め。
光子「め・ん・た・い・こ」
全員「め・ん・た・い・こ!」
優子「う・にゃ・だ・ら・ぱ〜」
全員「う・にゃ・だ・ら・ぱ〜!」
廊下に出ると、足型レーンの先に夕日。
男子たちはちゃんと足型を踏んで歩いていく。
頭の中に花は咲いても、足元は今日からずっと、滑らない。
放課後スイーツ戦線—イートインの陣
放課後。音楽室の空気は、今日だけはやけに軽かった。
一回通し。ミスなし。全員の顔が「いける」の顔。
先生は棒を下げて、顎だけでうなずいた。
「うん。これなら十分通用する。よし、今日は少し早いけど、ここで終わり。」
「やったー!」
「センセ、愛してる!」(即撤回)
ざわっと笑いが走る。緊張がふわっと抜けて、その隙間に食欲がズドンと入ってきた。
光子がくるっと振り向く。
「コンビニでおやつ買って帰ろうや!」
優子が手を上げる。
「異議なし!今日は“糖分で優勝”の会!」
さおり・しおり・朱里・樹里の四人も、手を挙げたり挙げなかったりで全員参加確定。
*
自動ドアが「ウィーン」と開き、冷気がドッと襟から入り込む。
コンビニ特有の匂い——コーヒー、おでんの出汁、揚げ物、印刷したてのレシートのインク。
店内BGMが絶妙に小さいのも、なぜか今日は可笑しい。
「ミッション発表!各自、お気に入りのスイーツ一個。あと飲み物。争いはやめる、譲り合いの精神!以上!」(光子)
「最後だけ急に道徳」(優子)
棚の前で、六人が一斉に“発見”の顔になる。
●光子:とろける系プリン(カラメル別袋)
「これ、カラメル後がけタイプって勝ちなんよね〜(カラメル振ってドヤ)」
●優子:巨大シュークリーム
「顔くらいある。幸せの横幅やん」
●さおり:いちごのミルフィーユ(危険)
「層が…神。もはやJENGA」
●しおり:抹茶ロール
「落ち着きこそが正義。緑は心を鎮める」
●朱里:バスクチーズケーキ
「“バスク”って言うと急に強そう」
●樹里:いちご大福(季節限定)
「和と洋のダブルパンチやけん」
飲み物コーナーでは、優子がペットボトルのお茶を手に取りつつ、ホットスナックの「からあげ棒」を斜めに見ている。
「……見なかったことにしよ」
光子が耳打ち。「見たね」
セルフレジに突入。
光子の後ろで、優子がバーコードを連打して「ピッピッピッピ」と音を鳴らし、突然黙祷みたいに固まる。
「……袋、いるかいらんかどっち押したか忘れた」
「目の前に袋はある」(店員さんが神対応で差し出す)
さおりはポイントカードアプリを立ち上げるつもりが計算機を開いて「3+3=6(ドヤ)」
「しおり、これポイント加算された?」
「計算されとる。違う意味で」
レジ横で誘惑に負けた優子が、からあげ棒を1本だけカゴにねじ込む。
「見なかったことにしよ」
「二回目やぞ」(光子)
*
イートインスペース。窓際の席に六人が輪になって座る。
親切な貼り紙——《お静かにご利用ください》
「よし“静かに”やけん、盛大に心の中で騒ごう」
「口は静かに、手は豪快に」
「手は静かに」(しおり)
第一波:開封の儀。
光子のプリンはカラメル袋の切り口が異常に小さい。
「ちょ、え、ちょい、出ん!」
力を入れた瞬間——**ビュン!**カラメルが弧を描き、空中で時間が止まる。
「うわっ」
朱里、反射でカップを前進させ、奇跡の捕球。
「ナイスキャッチ、捕球は友情」
「請求は笑顔100枚」(全員ボソッ)
店員さんが見て笑いをこらえているのが、横目に見えた。
優子の巨大シューは、粉砂糖が吹雪。
「ふわぁ〜……雪やん」
樹里のいちご大福にも、ふわっと積もる。
「私の大福が、初冠雪」
さおりのミルフィーユは、層をフォークで刺すとパリンと音がして、板が斜めに倒壊。
「ジェンガ言うたらジェンガやった……!」
しおりが黙ってナプキンを敷く。「足場からやり直そ」
第二波:女子トークの陣。
さおり「今日の通し、なんであんなにうまくいったんかな」
しおり「昼のコントで余分な力が抜けたとよ。笑いは筋肉の邪魔をしない(名言風)」
朱里「あと、男子がまた花畑発症しよって足型レーン作ったやん?あれ見て“足元見ろ”って自分にも効いた」
樹里「現実は足元にある。お菓子はここにある。わかりやすい」
優子がからあげ棒を掲げる。
「現実とからあげは常にここに」
光子「はい出た、言い訳棒」
第三波:恋バナの地雷原(自爆型)。
さおり「てかさ、男子、今日も“ラッキーだったかも〜”って顔で歩いとったやん?」
しおり「腹筋触った件ね」
朱里「『岩やった…』って言いよった」
樹里「岩って言われる女もどうかと思う」
優子、からあげ棒を縦に持って「筋の解説入ります」
光子が被せる。「男子よ、ラッキーのあとに足元見ろ。そして我々に唐揚げ一本ずつ上納せよ」
「治安維持費?」
「油分維持費」
店の奥から、さっきの店員さんがやってきて、テーブルに紙ナプキンをそっと追加。
「……応援してます(小声)」
六人「え、店全体が味方?」
第四波:ドタバタ集中砲火。
・しおり、抹茶ロールのフィルムをはがそうとして表裏逆に剥がす→クリーム面にフィルム再貼付。
「貼り直さんでよかとに!」(光子、救出)
・朱里、バスクをフォークで押したら、皿がキュッと鳴る→全員サッと無表情(さっきの練習の癖)。
・樹里、いちご大福のいちごを逃す→優子のシューの粉で滑走→光子のプリンにワンバウンドして戻る。
「野に放たれたいちごが帰ってきた!」
「捕球は友情(2回目)」
そして事件。
さおりのミルフィーユ、最後の一片が自重崩壊。
「きた……ハラハラの瞬間……!」
時間がスローモーションになる中、六人の手が猪木のコールみたいに震える。
さおり「いける、私ならいける……」
フォークがそっと入る——サクッ。
「取れた……!」
「やったーー!」
イートインの隅から、知らんおじさんが親指を立てた。
「この店、全員味方説」(優子)
第五波:将来の話(真面目1割、ボケ9割)。
しおり「本番、笑い封印できると思う?」
光子「封印はせん。適切に出して適切にしまう。それが“うちらのやり方”」
樹里「笑いは準備体操。演奏は本番。どっちも本気」
朱里「あと、次に男子がまた花畑になったら足型レーン常設しよ」
さおり「予算は?」
優子「男子の“幸運税”から徴収」
全員:「え?」
第六波:お会計の葛藤(食べた後にやるタイプ)。
「ポイント二重取りって、いつできると?」
「いつでもしない」
「りょかい」
片付けフェーズ。
光子「では“しゃっしゃ・ギュッ・ポイ”で撤収!」
全員「しゃっしゃ(テーブル拭く)、ギュッ(ゴミ袋口しばる)、ポイ(指定の箱へ)!」
店員さん、目で拍手。「職人」
帰り際、窓に夕焼けが映って、六人のシルエットだけが少し背伸びして見えた。
優子がドアの前で振り返る。
「今日の名言、決めとこ」
さおり「『糖分は友情、片付けは信頼』」
しおり「『足元ガチ確認、笑いは合図で』」
朱里「『壁は白、皿は空』」
樹里「『コンビニは第二の部室』」
光子「全部採用。Tシャツ作ろ」
「予算は?」
「男子の幸——」
「やめんか!」
外に出ると、風が甘い。
練習の“よし”は胸ポケットでまだ温かく、プリンのカラメルは袖にうっすら残っていた(犯人は誰だ)。
チャリのハンドルを握り、光子が小さく言う。
「め・ん・た・い・こ」
優子「う・にゃ・だ・ら・ぱ〜」
四人「う・にゃ・だ・ら・ぱ〜」
笑い疲れと満腹がちょうど良く混ざって、ペダルが軽い。
今日の“終わり”は、明日の“始まり”を明るくする味がした。
ジェンガは家族を試す(でも主に腹筋を試す)
放課後が思いのほか早く終わって、チャリのライトがまだ明るい時間。
光子と優子はペダルをくるくる回しながら顔を見合わせた。
「春介と春海の顔、見て帰ろっか」
「行こ行こ。今日の“通し優勝”の報告ばい」
ピンポーン。
「はーい!」と玄関が開くより早く、ちいさな弾丸が二つ。
春介&春海:「おねえちゃん、きたー!」「ぴと!」(両足ホールド)
光子:「ただいま〜。あ、ぴとの吸着力、今日も安定」
優子:「バキューム規格満たしとる」
奥から美香が笑いながら顔を出し、少し遅れてアキラがエプロンの紐をほどきながら現れた。
「いらっしゃい。ちょうどお茶いれるとこ」
「俺は皿出し係〜。今日は皿も白のままで頼むね」
「よし、今日のメインイベント、出しまーす!」(光子)
どん、とテーブルに置かれたのはおなじみジェンガ。
春介の目が星、春海の眉がきゅっと上がる。
優子「これね、やってみる? 面白いっちゃんね〜」
春介「やるーー!」
春海「たおさん。わたし、かんとく」
美香「出た、監督」
ルール説明(なぜか重め)
光子:「ルールはかんたん。片手のみ。揺らしたら“ごめんね”を三回。崩した人は罰ゲーム」
優子:「罰ゲームは“家の名言を即興で一句”」
アキラ:「それ、意外と重いやつ」
美香:「はい、全員深呼吸。笑いすぎると即倒壊やけん」
塔の名は福高タワーに決定。テーブル中央にまっすぐ積み上がる木のブロック。
春介が指を伸ばした瞬間、春海が小声で「ちょいぴ」と囁く。
光子「自己申告は減刑。でも今は“ちょいぴ”禁止ターン」
一巡目:静かに始まるドタバタ
先鋒・優子。
「ほいっと……裏の二段目いきます!」
ススス……ピタ。成功。ドヤ顔。
次・光子。
「中央の“呼吸ポイント”から一本抜き!」
すんなり成功して、塔がほんの少し背伸びした。
アキラが解説モードで親指を立てる。
「いいね、家鳴りがせん。これはイケる」
美香「“家鳴り”とか言わんでよか」
春介の番。
人差し指でそーっと触れて、猫の肉球みたいにちょんちょん……
「……とれた〜!」
拍手。春海は腕組みして「よか」。監督の承認おりた。
春海の番。
監督は監督らしく中央列に挑む。目が真剣。
「ここ、いく」
カタ……
塔が傾いた。
全員「……っ!」(空気が固まる)
春海「……ごめんねごめんねごめんね(速読)」
優子「減刑どころか癒やし」
二巡目:父、名言が重すぎる
アキラがやや調子に乗る。
「ここは男らしく下段の端だ」
スッ……ガガガ……
ミシ……(音がした気がした)
光子「ミシ言うた!ミシ言うたよ!」
美香「静かに!声で倒れる!」
奇跡的に抜ける。皆ホッ。
アキラ(ドヤ)「名言出ます。“下段の端は人生の土台”」
優子「罰ゲームの前払いやめて」
美香はお茶を配りながら、ついでに台拭きを手元に置いた。
「倒れたら“しゃっしゃ・ギュッ・ポイ”までがセットやけん」
光子「よし、家庭内オペ準備万端」
三巡目:事件は笑いとくしゃみで起きる
塔はもう“カリカリに焼いたラスク”くらいのスリル。
優子、目を細める。「ふふふ……ここやな」
その時——。
春介「ハクシン!」
(※くしゃみを可愛く言うフェーズ)
塔がプル。
全員「やめてェェ!」
春介「ごめんねごめんねごめんね!」(自動再生)
優子「よかよか、くしゃみは自然災害」
空気がゆるんだ隙に、光子がスッと一本抜く。
「はいはい、災害救助完了」
アキラ「名言。“笑いの後には深呼吸”」
美香「それ今日二回目やん」
四巡目:双子刑事、ジェンガを取り調べる
双子がいきなりコスプレ無しの刑事モードに入る。
光子「被告・福高タワー、構造上の弱点を申告ください」
優子「黙秘なら、下から三段目真ん中を頂きます」
塔「(無言)」
優子、抜く。成功。
光子「黙秘は不利やけんね〜」
春海「タワー、しゃべらん」
春介「タワー、えらい」
五巡目:名言が止まらない人たち
さあ、アキラのターンに家族の視線が集まる。
アキラ「“足元ガチ確認”、よし」
(彼だけ床の足型テープを無意識に探す癖がついている)
スッ……成功。
アキラ「名言。“幸運は足元を見た人に微笑む”」
光子「はい、幸運税徴収されます〜。唐揚げ一本」
アキラ「なんで俺が払うん」
美香「家の治安維持費やろ」
クライマックス:監督、動く
塔はもはや風鈴。
監督・春海が、無言で中央列のハイライトに指を当てる。
ス…ス…
光子「いける?」
春海「いける。気持ちでいける」
優子「出た、根性論!」
カタ……
塔の上層がすこし浮く。
春介も無意識に息を止めて、頬が膨らむ。
アキラ「息!息して!」
美香「でも息で倒れる!」
全員「どうしたら!」
小さな指が最後の一押し——
スポッ。
「とれたあああああ!」
歓声。拍手。タワーは生き延びた。
春海、胸を張る。「監督、仕事」
光子「今日のMVP」
優子「Most Valuable ぴと(抱きつきもセット)」
エンディング:そして塔は落ちた(気持ちよく)
最後の最後、優子が“勝利の一本”を狙う。
「ここを抜いて、てっぺんに置いたら、写真撮ってグルチャやね」
指が触れる。
塔が、ほんの少しだけ——考え直してから——
ドドドドド……バサーーッ!
床一面に木の雨。
一拍の沈黙ののち、家が爆笑で揺れた。
美香「はい、しゃっしゃ・ギュッ・ポイ〜!」
光子「しゃっしゃ!」(台拭き)
優子「ギュッ!」(袋口しばる)
アキラ「ポイ!」(お片付け箱へ)
春介「しゃっしゃ!」
春海「ぎゅっ!」
全員「ポーーーイ!」
罰ゲームの一句は、崩した張本人・優子。
優子、胸に手を当てて詠む。
「壁は白 紙は無限 塔は友」
光子「よか句〜」
美香「採用!」
アキラ「Tシャツ化!」
春介「Tシャツって、おいしい?」
春海「おいしくない」
締めに記念写真。
光子がセルフタイマーをセットして、全員で塔の残骸を囲む。
「はい、“笑って合わせる”の顔〜」
パシャ。
グルチャに送信。
〈光子〉[写真:全員ピース+床に散るブロック]
〈優子〉「福高タワー、笑いのち倒壊」
〈美鈴〉「ちゃんと片付けた?」
〈優馬〉「名言一句、すこ」
〈先生〉「明日の練習も“倒れない”で」
帰る時間。
玄関で靴を履きながら、春介と春海がもう一度ぴと。
春介「また、いっしょに、やろ?」
春海「こんどは、たおさん」
光子「約束。倒れても笑って片付ける」
優子「家族ルールやけんね」
外は少し涼しくて、星が穴あきみたいに見える夜。
門のところで、いつもの合図。
光子:「め・ん・た・い・こ」
優子:「う・にゃ・だ・ら・ぱ〜」
家に向かう夜道、ハンドルが軽い。
ポケットの中にはプリンのカラメルの香り(犯人はまだ名乗らない)と、
胸の中にはカタカタ鳴るジェンガの音——
どっちも、今日の“楽しかったけん”の証拠やった。




