洗濯機脱水コーヒーゼリーギャグTシャツ販売
玄関の鍵がカチャ。
「たっだいま〜!」
「おかえり〜。今日は洗濯機におやつ入れとらんよね?」と美鈴。
「入れとらん入れとらん!確認は…お父さんよろしく!」
優馬が親指立てて洗濯機のフタを開ける。「本日のラインナップ——空。よし!」
靴を脱ぎながら、光子が笑う。
「昨日の今頃、ちょうど脱水ラテ渦が爆誕しとった時間やね〜」
「まさかスイーツ二連続は想定外やったばい…」と優子。
二人で顔を見合わせてクスクス。
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リビング即席デザイン会議
テーブルにノートPCとスケッチ帳、色鉛筆。
「ほんなら、Tシャツの詰めやるばい。宿題はそのあと30分スパートね」
ミイラ顔面保湿パックT(Hydration Mummy)
•光子「フロントはちっこいワンポイントにしよ。“PON”はぷっくりインクで」
•優子「バックにミイラ兄妹の線画、上に“Hydration makes you smile.”、下に小さく『ぷるん』。暗いとこでうっすら光るやつ」
•光子「KIDSカラーはミントとラベンダー推し!」
•美鈴「文言はやさしかね。『笑うと、つや出る』でも可愛いよ」
洗濯機脱水コーヒーゼリーT(Spin Latte)
•優子「胸のラテ渦、グラデを一段浅めにしとこ。角度でキラッと」
•光子「裾に注意書きいれたい…『ゼリーは冷蔵庫へ。洗濯機へは夢だけ』」
•優馬「裏首の丸ロゴ“ESPRESSO DOTS CLUB”は小さめにな」
•二人「採用〜!」
篠崎店長に送るPOP案もサクッと決める。
光子「キャッチは**『失敗がアートになった日』」
優子「ミイラの方は『うるおいは正義。笑いは最強。』**で」
「じゃ、最終データ書き出し……送信、ぽちっ」
数秒後、店長から既読&即返信。
最高!先行ポップ作るね。サンプル来たらレジ前ドーンでいきます!
「店長の行動力えぐっ」
「助かる〜!」
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宿題スパート(30分勝負)
「よし、30分集中タイム。終わったら甘いもん…ゼリー以外」
「賛成。今日は羊羹で安全運転や」
タイマーを押す。カリカリとシャーペンの音。
「英表、関係代名詞、ここは——」
「“who”か“which”迷ったら、一回深呼吸。それからノリでいかん」
二人でニヤッとしつつ、手は止めない。
ピピピ。30分終了。
「ミッション完了!」
「よっしゃ、羊羹チャンピオン決定戦しよ」
「なにその競技」
「口に入れて笑わずに耐える。ふつうに負ける自信ある」
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夜の小ネタ
風呂前、優子が洗面所からひょいと顔。
「みっちゃん、洗濯機もう一回だけ開けて確認して」
「なんの信頼よ」
二人でフタを覗き込み、声を揃えて——
「空!(セーフ)」
「平和ってすばらしかね」
廊下の電気を落とす前、光子がぽつり。
「今日、波動砲ようけ撃ったね。みんな帰りに笑顔やった」
「うちらもしょぼんしとる時は、家が充電器やけん」
「間違いない。じいじとばあばと、羊羹がフルチャージ」
部屋に入る直前、軽く目を合わせて小さくうなずく。
合図はそれだけ。言葉はいらん。
「おやすみー」
「おやすみ」
明日の洗濯機は——乾燥のみにしとこう。念のためね。
祝宴!翼、入学おめでとう会
入学式が終わって、夕暮れ。
両家合同の祝いの席は、駅近くの小さな料亭。白木のカウンターから良い香りが流れてくる。
「翼くん、入学おめでと〜!」
光子が花束を渡すと、翼は照れ笑いで頭をかく。
「ありがと。来てくれて嬉しかよ」
座敷にはずらりと両家。最初の膳は鯛の薄づくり、春野菜の天ぷら、茶碗蒸し。
父ズが挨拶を短くまとめ、乾杯。
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「ほな、余興タイムいくばい!」
優子が手を叩くと、光子&優子の漫才スタート。
光子「本日の主役は——」
優子「新入生の翼くん! ただし迷子防止にランドセル背負ってもらいます」
翼「サイズ合わんわ!」
(どっと笑い)
光子「キャンパス広いけん、まず“大学あるある”やるね」
優子「“どこでもWi-Fiある気がする”の顔!」
(二人で無駄にドヤ顔→すぐ無音フリーズ)
翼の家族「顔芸の無駄づかいや〜(笑)」
テンポよく畳みかけて、拍手。料理の第二陣――鰆の西京焼きが出てくる。
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続いて、ゲスト出演:双春(しゅんすけ&はるみ)。
小さな和服風セットアップで前へ。
春介「ぼく、ミニたまゴジラでしゅ」
春海「わたち、ミニたまゴジラ彼女でしゅ」
(すでに会場ざわつく)
春介「にゅうがく、おめでとビーム!」(ウィンク→投げキッス)
春海「ちか! 顔ちかい!」
全員「かわいか〜!」
勢いそのまま、春介は翼へウィンク&投げキッス。
翼「うわ、被弾した……元気チャージされた」
春海は翼の妹&姉にもウィンク連打。
「ちょ、ちょっと!」「心臓が忙しいって!」
座敷、爆笑の波。
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光子「ここで家族連携コント、タイトルは『入学式、靴なくした事件』!」
優子「主役は——翼!」
翼「なんで俺やねん!」
(畳の上で即席“探し物”芝居。座布団をロッカーに見立て、障子の影から“靴”が登場)
光子「見つからん時の顔!」
翼「(真顔で絶望)」
優子「合格! ほんで見つかった時の顔!」
翼「(秒で笑顔)」
春介・春海「はなまる〜!」
料理は鯛めし、だし巻き、筍の土佐煮。お椀の湯気がやさしい。
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クールダウンにミニライブ。
光子がベースを抱え、優子はタンバリン。
「“おめでとうの三小節”だけ、行くばい」
軽快なウォーキングベースに、手拍子が自然にそろう。
最後はスッと無音のキメ——拍手、どーん。
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デザートのわらび餅が配られる頃には、笑いで全員ほてり顔。
翼の母「よう笑ったねぇ。涙出たばい」
美鈴「笑い皺ふえたけど、本日の勲章やね」
帰り際。
光子「翼、これから勉強に部活に忙しゅうなるけど——困ったらすぐ呼んで」
翼「呼ぶ。3分で元気にするやつ、また撃って」
優子「よかよか。弱め設定でいくけん」
玄関で靴を履きながら、双春が最後のサービス。
春介「つばしゃ、がんばえ」
春海「がんばえ」
二人同時にウィンク→投げキッス。
「本日ラスト被弾!」と全員で倒れこむフリ。座敷がまた笑いに沈む。
店を出る頃には、みんな笑い疲れで限界ギリギリ。
夜風が気持ちよくて、足取りはふわふわ。
翼は門のところで振り返って、大きく手を振る。
「ほんと、来てくれてありがとう!」
「おめでとう!」と両家の声が重なった。
——笑いで満タン。
祝宴は、大成功。
料亭の暖簾を出たところ。夜風がひんやり。
優馬「翼のお父さん、せっかくやしもう一軒いきますか?うまい地酒の店、すぐそこに——」
翼父「おっ、賛成!語り足りんもんねぇ」
美鈴「——あんた?明日仕事やろ?」
(空気、ピタッ)
優馬「……はい。(小声)すみません」
翼父「(小声)また今度にしとこか……」
美鈴「今度は打ち上げん時に家族総出で行けばよか。今日はおひらき!」
光子「父ちゃんら、二軒目の顔になっとったよ」
優子「看板見たら入る人の顔やったね」
美鈴「看板も見らん! まっすぐ帰る!」
門の前で両家が手を振り合う。
翼父「今日はほんとありがとう。笑い過ぎて腹筋バキバキ」
優馬「こちらこそ。翼くん、大学生活楽しんでなー!」
翼「任せんしゃい!」
それぞれ逆方向へ。
帰り道、アスファルトに足音がとん、とん。
優馬「……二軒目、心にしまっとく」
美鈴「永久保存しとき」
三人でくすっと笑って、歩いて帰る。
街の灯りが、さっきの笑い声をまだ少し抱えていた。
座敷を出て、夜風にあたったら一気にまぶたがトロン。
春介「おとうしゃん、だっこ〜」
春海「はりゅみも、だっこ〜」
アキラ「はいはい、特等席おいで」
美香「こっちもふわっと抱っこ〜」
二人とも肩にコテン。帰り道は、提灯みたいに小さく上下する寝息だけ。
家に着いたら、光子と優子がそっと靴を脱がせ、ふわふわのパジャマにお着替え。
光子「重たなったねぇ。大きゅうなっとる」
優子「うん、でもこの寝顔はずるい」
美香「ほら、毛布トントンしてあげて」
アキラ「……爆睡しとるな」
春介がむにゃっと口を開けて、アキラの肩によだれアタック。
アキラ「おっと、愛のマーキング入りました〜」
美香「洗濯機はゼリー禁止、よだれはOK」
全員ぷふっと小声で笑う。
枕元の豆電球を落として、ドアを少しだけ開けておく。
廊下に出たところで、四人そろって小声。
光子「よく寝とるね〜」
優子「今日も満腹→爆睡の王道コース」
アキラ「明日は公園連れてって、帰りは肩車やな」
美香「はいはい、筋トレ確定」
最後にもう一度だけ寝顔を見て、そっと手を振る。
家の空気が、やわらかく笑っていた。
帰り着いて、パジャマに着替えたら一気に現実モード。
ソファで髪をタオルで拭きながら、光子がぽそっと。
「はぁ…翼ももう大学生かぁ。テニス頑張るっち言いよったけど、試合とかで忙しゅうなるんかなぁ…」
キッチンからマグを二つ持ってきた優子が、にやっとする。
「なるなる。けど、忙しか=会えんやないやろ。うちら、朝30秒ボイス・昼写真3枚・夜3分通話の約束やったやん?」
「…やったね。忘れとったわ。ありがと優ちゃん」
ちょうどスマホがピロン。
『明日6:00朝練。腹筋バキバキ。プリン食べたい(翼)』
セルフィー付き。目の下にうっすらクマ。
光子、即レス。
『プリンは冷蔵庫へ。洗濯機はアート工房やない(重要)』
優子、横から追撃スタンプ
「それとな、会える日は黄色い付箋貼っとこ。学祭、定演、試合。月イチはどっちかが会いに行く。遠距離でも“行事”で会うが最強やけん」
「賛成。あと“お守り”作ろ。うちはベースのピックに翼のイニシャル刻む。翼にはガットの切れ端、キーホルダーにして渡す」
「よかやん。拓実にはスティックのチップ詰めた小瓶渡そ。——あ、ヘックチン禁止札も付けとこ」
二人でくすっと笑って、ローテーブルに付箋とマジックを広げる。
光子は“テニス:予選/本戦/応援可”と小さく書き分け、優子は“定演/リハ/打ち上げ(ノンアル)”と並べていく。
またピロン。
『今日来てくれてサンキュー。被弾(※元気ビーム)したけん復活。明日勝つばい(翼)』
光子、画面に小さく手を振るみたいに親指でハートマーク。
「……大丈夫やね。忙しゅうても、繋がっとる感じがする」
優子がマグを手渡す。
「ほら、カフェオレ飲んで落ち着け。心がしゅんてなったら、まず水飲む→背中トン→うなずく。これでだいたい回復」
光子もうなずく。
「よし。今日は付箋カレンダー仕上げて、寝よ。翼の初試合、黄色二重丸っと…」
壁の小さな月間カレンダーに、明るい色の丸が増えていく。
離れとっても、予定は並ぶ。
それだけで、ちょっと安心できた。
「ミイラ保湿」と「スピンラテ」発売日!
朝いち、プリント工場からメール。「最終データOK/試作品発送」。
二日後、玄関にでっかいダンボールがドン。
優子「キタキタキター!」
光子「開封の儀、よろしゅうございます!」
テープをベリベリ、ふわっとインクの匂い。
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試作品チェック(家族総出)
•Hydration Mummy(ミイラ顔面保湿パックT)
•ミント/ラベンダーのKIDSと大人サイズ。
•背中の「ぷるん」が暗闇でほんのり発光。
•首元内側のプリントタグは肌あたり◎。
•Spin Latte(洗濯機脱水コーヒーゼリーT)
•クリーム/モカ。胸のラテ渦のグラデ美。
•裾の注意書き「ゼリーは冷蔵庫へ。洗濯機へは夢だけ。」に全員クスクス。
•首裏の極小丸ロゴ「ESPRESSO DOTS CLUB」も上品。
美鈴「発光、もう一段だけ控えめが好きかも」
優馬「ラテ渦の線、1pt太くすると写真でも映えるね」
光子「KIDSのラベンダー、もう半トーン淡くしたい」
優子「了解、指示まとめて返信するね」
30分後、修正反映のサンプル画像が到着。
全員「それ!」
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販売スタート
•オンライン&ミライマート音大前店(店長:篠崎悟)同時発売
•カラー:
•Mummy:Mint / Lavender
•Latte:Cream / Mocha
•サイズ:KIDS(90–130)、YOUTH(140–160)、ADULT(S–XL)
篠崎店長から即LINE:
「レジ前ドーンで展開完了。POPは『失敗がアートになった日』、もう一枚は『うるおいは正義。笑いは最強。』。反応バチバチです!」
オンラインの在庫メーターがグイグイ減る。
「KIDS 110 Mint 残りわずか」「Mocha M 残少」——通知の嵐。
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反響(抜粋)
•吹部後輩:部室で集合写真→「洗濯機はアート工房やない」の裾アップがバズる。
•前原先生:大人Mocha着用で「今日の課題:笑ってから基礎」と黒板に。
•保育士さんフォロワー:園児が暗室で“ぷるん”体験→「夜が少し楽しみに」。
•篠崎店長:開店2時間で追加入荷連絡。「親子リンク買い」が想像以上。
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双子の発売記念ポスト(抜粋)
光子:
新作Tできました!
① Hydration Mummy(ぷるんはほんのり光る)
② Spin Latte(裾の注意書きに心を込めて)
失敗の日も、あとで見たらネタになる。よかったら、おそろで。
優子:
ゼリーは冷蔵庫へ、笑いは胸元へ。
今日も安全運転で回そう、洗濯機は洗濯だけ(ここ重要)。
コメント欄は**「買った!」「職場用にも」「祖父母にMint」**でお祭り状態。
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夜。
発送ラベルを貼り終えた箱がリビングに山。
光子「スイーツ脱水からのグッズ完売って、人生わからんね」
優子「うん。でも、笑いに変えた瞬間から、たぶん勝ちや」
美鈴「ほんなら今日はスイーツ“冷蔵庫”にいれて、ゆっくりお茶しよ」
優馬「異議なし」
湯のみから湯気。
通知音は鳴りっぱなし——うれしい忙しさの夜になった。
天神の商店街。新作T(Spin Latte)を着たまま歩いとったら——
小さな女の子が指さして、満面の笑顔。
女の子「あ!コーヒーゼリー洗濯機に入れたお姉ちゃんや!」
優子「……ずこーー。(しゃがみ込み)当たっとうだけに…反論ゼロ…」
お母さん「ご、ごめんなさい!いつもテレビとSNS見てて…!」
光子「よかよか、正解です!」
優子「むしろ称号として受け取ります…!(胸に手)」
女の子がTシャツの裾を見て読む。
女の子「『ゼリーは冷蔵庫へ。洗濯機へは夢だけ。』」
優子「そやけん、覚えとってね〜。ゼリーは冷蔵庫!」
光子「洗濯機は服だけ!アートにするのは心だけ!」
記念にワンショット。優子はお約束で土下座ポーズ、光子は注意プレート芸。
周りからクスクス、拍手ぱらぱら。
別れ際——
女の子「きょうから洗濯機にゼリー入れん!」
お母さん「助かります…!」
二人で歩き出して。
光子「優ちゃん、街の安全啓発大使やん」
優子「不名誉な実績からの栄転ね…」
光子「今夜の家訓:冷蔵庫→ゼリー/洗濯機→服」
優子「はい復唱。ゼリーは冷蔵庫!」
背後からもう一度、ちいさな声。
女の子「ゼリーはれいぞーこ〜!」
二人、親指グッと立てて振り返り、にっこり。
ミイラ人気、まさかの求婚ラッシュ
マンションの中庭。春介と春海が手をつないでテクテク。
エントランスから同じ階の子たちがわーっと駆けてきた。
近所キッズA「この前、お顔ミイラになっとったよね〜!」
近所キッズB「ネットで見た!ぷるんって光っとった!」
春介「ぼく、しゅんしゅけ。きょうはぷるん解除〜」
(ウィンク→ちゅ! 投げキッス)
春海「はりゅみも、ちゅ! ちゅ!」
——ぱしゅーん!(心を射抜く音がした気がした)
キッズA(女の子)「わたし、春介くんのおよめさんになる〜!」
キッズB(男の子)「ぼく、春海ちゃんとけっこんしゅる〜!」
キッズC「だってなげキッスしてくれたんだもーん!」
近所のお母さんたち、目を丸くして顔を見合わせる。
ママ1「え、えっと……ステキなプロポーズやけど、まずはおともだちからね〜」
ママ2「そうそう、結婚は20年後の予約にしとこっか〜(やわらか笑顔)」
ママ3(小声)「※PTAマニュアルに**“投げキッスからの求婚”**の章ってあったっけ……」
春介「じゃ、けっこんのまえに、すなばシェアしよ〜」
春海「ブランコも順ばん〜」
場を取り持つように、春介が砂場のダンプカーを差し出す。
キッズ全員「やったー!」
空気がふわっと和む。
お母さんたち、ひと安心してニッコリ。
ママ1「**“投げキッスは1人1回、順番こ”のおやくそくにしようね〜」
ママ2「ついでに“およめ・おむこ宣言は今日の思い出バッジ”**ってことで」
春海「きょうのばっじ、はーと!」
春介「なかよしバッジ、ぽん!」
そのまま全員で砂場へ直行。
春介はダンプカーを押しながらウィンク自粛モード、
春海はブランコを押して順番管理長。
お母さんたちはベンチでホッと一息。
帰りがけ——
キッズA「およめさん予約は、しゅくだいできたらにしとく〜!」
ママ1「いい条件出た〜(笑)」
春介と春海、手を振ってにこにこ。
今日の学び:“求婚より先に、砂場の貸し借り”。
そしてマンションの新ルール——投げキッスは順番制、無事可決。
リビング。マンション中庭の“求婚ラッシュ”話を聞き終えて——
光子「なぁ優ちゃん…もし、うちらがウィンクと投げキッスしとったら、どうなるやろ…?」
優子「ややこしゅうなるけん、やめとき」
光子「想像してみ?――ほら、通りすがりの人が『キャー!』ってなって、商店街で小規模パニック」
優子「ほら始まった。次は**“投げキッス渋滞”発生やろ?信号青でも誰も動かんやつ」
光子「ニュース速報『博多でぽん警報**発令』」
優子「発令すな。ほら、お母さんに怒られる」
そのタイミングで美鈴が顔を出す。
美鈴「家の外でむやみに“ビーム”撃たんごとね〜。家族限定かステージ上にしとき」
優子「了解。家庭内運用で」
光子「ガイドライン作ろ:『1日3回まで/21時以降はサイレントウィンク』」
優子「誰向けの条例やねん(でも採用)」
試しに、家族に“安全運用テスト”。
光子(ばあばへ小ウィンク)「ちょいビーム。」
美鈴「被弾〜。はい、今日の晩ごはん豪華にしちゃる」
優子(じいじへ指ハート)「弱めでどうぞ」
優馬「MP+50回復。よし、風呂掃除やっとく」
光子「……やっぱ家ん中だけで充分やね」
優子「うん。街で暴発したら、ほんとにややこしか。双春に任せとこう」
光子「決まり。うちらはステージと家族にだけ“ぽん”配給」
優子「外では目ぇ合わせて小さくうなずくだけ。これ最強」
二人、目を合わせてコクン。
——それだけで、ちゃんと伝わる。
ぽかーん×2デート
光子 × 翼(河畔カフェのベンチ)
夕暮れ、川面がオレンジ色。
ストローをカラコロ回しよった翼に、光子が身を乗り出す。
光子「つばさ、ちょい前向いて。…発射準備よか?」
翼「え、なにが——」
光子「超誘惑ウィンク…ぽん!」(片目シュッ → 指ハートをスッ…からの投げキッス「ちゅ」)
(時間停止)
(カモメも停止)
(翼、ぽかーん)
翼「…………(CPUフリーズ)…………」
(ストロー、口からスルッ)
光子「ふふ。被弾報告お願いします」
翼「……被弾しました。MP……満タン超え。てかずるい、反則級やん」
光子「反則やない、“応援技”やけん」
翼「じゃあ…お返し」
(おでこ、コツン)
光子「うわ、クリティカル。——はい、復旧完了。今日の勝者、翼くん」
二人、笑いながらベンチに寄り添う。
川風が気持ちよくて、会話の間も甘い。
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優子 × 拓実(図書館裏の小さな公園)
ベンチでレポート広げたまま、拓実がうとうと。
優子が指先で合図。
優子「たく、3分休憩。ご褒美いくよ——
超誘惑ウィンク…ぽん!」(ウィンク連打→エアちゅ→指ハート)
拓実「…………ぽかーん…………」
(ノート、ひざからススッと落下)
優子「えーと、被弾ログ取れてますか〜?」
拓実「……はい。被弾。思考、砂時計。心拍、BPM+20」
優子「よし、生体反応良好。じゃ、追いぽん(小声で「ちゅ」)」
拓実「追撃!? ありがとう。——これであと2ページいける」
優子「期末前は最大3発までね。家内条例やけん」
拓実「遵守します。…ねぇ、それ毎日でも」
優子「可決」
(ふたり、くすっと笑ってノートを拾う)
⸻
夜の報告(双子トーク)
光子《ミッション完了。ぽかーん達成》
優子《こっちもぽかーん。ノート落下確認》
光子《副作用:照れ笑い長引く》
優子《効能:やる気+200/眠気−150》
ふたり《遠恋支援スキル:有効》
夕暮れの川沿い。風が水面をすべって、ベンチの影が少し伸びた。
光子が空を見上げて、ぽつりと笑う。
「つばさ、きょうは——お返しぽん、ちょうだい?」
翼は一瞬だけ目を丸くして、すぐに照れ笑い。
「了解。発射——」
片目がやわらかく閉じて、指先で小さなハート。
つづけて、手のひらにそっと息をのせるみたいに「ちゅ」。
それを光子のおでこにポンとあてた。
「……被弾。ずるい、効くやん」
光子は頬をおさえて、ふふっと肩をすくめる。
「ん〜、満タンなった。ご褒美は勝利プリンでよか?」
「冷蔵庫へ。洗濯機は禁止」
二人で同時に笑った。合言葉みたいに。
――――
図書館裏の小さな公園。ベンチに広げたレポート用紙が、風でカサリと鳴る。
優子が目を細める。
「たく、3分休けいしよ。…お返しぽん、できる?」
「もちろん」
拓実のウィンクは、からかわないやさしさがあった。
軽く「ちゅ」と小声で、指ハートがすべってくる。
優子は上を向いたまま、口の端だけで笑う。
「被弾。生き返った。あと2ページいけるわ」
「じゃ、終わったら30秒コントね。題名は——」
「『締切と私』。オチはココアで乾杯」
二人の声が重なる。紙の音が、またひとつだけ鳴った。
――――
小雨のバス停。ガラスの屋根に水の粒がつぶつぶ集まる。
光子が傘の端をつつきながら、横目で翼をうかがう。
「……きょうは特別やけん、MAXいってみる?」
「よかよ」
翼は自分の手のひらに「ちゅ」を置いて、
光子のおでこにポン。
間髪いれず、もう一度やわらかく指ハート。
光子は声を出さずに目だけで笑った。
「ね、反則やん」
「応援技です」
バスが来るまでの数分が、やけに短く感じた。
そのころ、別の屋根の下。
優子が小指を立ててくいっと合図する。
「お返しぽん、もう一回」
「承知」
拓実は今度、サイレントで。
ウィンク一回、指ハート一回。
優子はこくりとうなずく。
「十分。——ありがと」
――――
夜。姉妹のグループチャットが光る。
光子《本日のお返しぽん:MAX1、ノーマル1。副作用=にやけ止まらん》
優子《こっちも被弾。効果=やる気+200、眠気−150》
光子《明日はソフトでお願いする予定》
優子《了解。1日3発まで/21時以降サイレント(家内条例)》
送信を終えて、二人は同じタイミングでスマホを伏せた。
遠くても、ちゃんと届く合図がある。
それだけで、胸の奥があたたかくなった。




