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夏の真夜中のチン事件

深夜の恋バナ台所会議


家が静かになったころ、台所の灯りだけがぽつん。

やかんがコトコトいって、湯気がふわっと立つ。


「おねえ、紅茶いれるね」

美香がマグを三つ並べた。

光子と優子は椅子を引いて、同時にため息。


「はぁ〜。なんやろ、この時間、なんでも言える気がするっちゃ」

「言いすぎ注意やけどね。…で、今日の議題は“好きな人にひと言”会議!」


美香がテーブルの真ん中に小さなメモ用紙とペンを置く。

「一人一枚。長文禁止。十秒で読める言葉だけ」


光子、ペン先を宙で泳がせる。

「十秒…十秒ね…」

書いた。止まった。書き直した。


『試合前、深呼吸いっしょにして?—光子』


「うわ、かわい。翼くん、絶対ニヤけるやつ」

「いや、ニヤけんで。たぶんドヤ顔になる」

三人、こらえきれずに笑う。


優子も書く。


『帰り道、コンビニアイス半分こしよ。—優子』


「食べ物で釣るのやめんしゃい」

「アイスは正義たい」

美香が肩をぷるぷるさせて笑いながら、そっと自分の紙にも書く。


『明日も“ただいま”言わせてね。—美香』


「…のろけやん」

「更新契約やけん」

湯気の向こうで、三人の目尻がやわらかくなる。


「読み上げ練習いっとく?」

「ひえっ」

「声に出すと、心のガタガタが消えるけん。ほら、みっちゃんから」


光子、背筋を伸ばした。

「……試合前、深呼吸いっしょにして?」

言い終わって、顔を伏せる。

「ぎゃー、恥ずかしかぁ!」

「合格。10秒でしっかり刺さる。はい、優ちゃん」


優子、耳まで赤い。

「帰り道、コンビニアイス半分こしよ。」

少し間。

「…バニラ?」

「抹茶」

「そこは相談しなさい!」三人でまた笑う。


ふと、廊下で小さな足音。

ドアが少しだけ開いて、春介と春海が顔を出す。

「おねえしゃん、なにしてるの?」

「ないしょ話たい。もうねんねの時間よ」

「ないしょ、ききたい」

「じゃあ、特別。**内緒の“ぽん”**だけね」


美香が指先でテーブルをコツッと叩く。

三人と二人がそろって、声をひそめて「ぽん」。

春介と春海、満足げにうなずいて、ふわふわ戻っていった。


「…かわいさ反則」

「反則。—で、封筒に入れよっか」


三人はそれぞれ、小さな封筒にメモを入れ、イニシャルを書いた。

Mは翼、Yは拓実、Aはアキラ。

並んだ封筒を見て、誰からともなく拍手。


「明日、会ったときにさらっと渡すこと。説明はしない。笑うだけ」

「了解」

「了解であります」


時計の針が少し進む。

カップの底に残った紅茶を飲み干して、椅子をそっと戻す。

廊下の影が長く伸びて、灯りを消す直前、三人の声が重なった。


「好きって、むずかしくて、たのしいね」


——カチ、消灯。夜の台所が、ひみつをひとつ預かった。




朝の手渡しミニ事件


朝の台所。パンの匂いと湯気。

テーブルのすみに、昨夜の小さな封筒が三つ——M、Y、A。


「よし、今日は“さらっと”渡すけん」

光子がポケットを叩く。

「バレんごと自然にな」

優子がウインク。


そのとき、廊下からぱたぱた。

春介と春海が寝癖全開で走り込んできて、封筒を発見。


「これ、きらきらの ふうとう!」

「たいせつ、たいせつ〜!」

二人は両手に封筒。スタタタタ——居間へダッシュ。


「ま、待ってぇぇ!」

双子が慌てて追いかける。


居間では、優馬と美鈴が新聞とお茶。

春介が胸を張って叫ぶ。

「じいじ、よんで〜! ないしょ かいてある!」

「ばあばも、きいて〜!」


優馬が苦笑いしながら受け取る。

「どれどれ……“試合前、深呼吸いっしょにして?—光子”」

「ぎゃー! 読まんでよかってぇぇ!」

光子、顔まっ赤でクッションにダイブ。


間髪入れず、春海がもう一通を差し出す。

美鈴が声に出してしまった。

「“帰り道、コンビニアイス半分こしよ。—優子”」

「うわぁぁぁ! お母さんまでぇ!」

優子、床でジタバタ。


トドメはAの封筒。アキラがにやにや受け取って、わざとらしく咳払い。

「“明日も『ただいま』言わせてね。—美香”」

「……それは読まんでよかろうもん!」

美香、耳まで真っ赤。

アキラは満面の笑みで**「はい、よろこんで」**。


春介と春海は得意げに誘惑ウィンク→投げキッス。

「みーちゅ おねえしゃん、どきどき〜?」

「ゆーちゅ おねえしゃん、あいしゅ はんぶんこ〜?」

「う、うるさい〜!」

でも、笑いが止まらない。


そのとき、ピンポーン。

玄関に翼と拓実。ランニングウェアのまま顔を出す。

「朝練の前に寄ったよー」翼。

「おはようございます」拓実。


——時間よ、戻れ。

光子と優子、石像みたいに固まる。


春介がすかさず封筒(新しいメモ入りの替え)をひったくり、二人の前へ行進。

「つばしゃ、これ! たいせつ!」

「たくみしゃん、これ! たいせつ!」


光子、覚悟をきめて一歩。

「……つばさ。今日の試合前、深呼吸いっしょにして」

翼、目を細めて小さくうなずく。

「もちろん。三秒吸って、三秒吐く——いつものやつ」

二人、こっそり試しの深呼吸。朝なのに夕焼けみたいなあたたかさ。


優子も胸を張る。

「帰り道、コンビニアイス半分こしよ」

拓実、照れ笑い。

「了解。抹茶と……抹茶で」

「そこは相談しぃや!」と全員総ツッコミ。

春海が両手をあげて「ぽーん!」と締め、家じゅう大爆笑。


美鈴が手を叩く。

「はい、朝ごはん。恋バナは食べてから!」

優馬が新聞をたたんでニヤリ。

「青春は、よう食べ、よう笑うがいちばんたい」


翼と拓実は「行ってきます」と玄関へ。

光子と優子は背中に向かって、小さく手を振った。

春介と春海は満足そうに頷き、なぞの“勝利ポーズ”。

朝日が差し込む台所に、笑い声がひとつ、ふたつ、転がった。





毎年恒例・トイレチン事件(被害者:光子/加害者:春介)


家じゅうが寝息をそろえる真夜中。

光子はそっと布団を抜け出して、用を済ませ、手を拭きながら廊下へ。


──その時。


床のあたりでパッと光。

懐中電灯を下から当てた小さな顔。白いパジャマ。

「……ぼく、トイレの……おばけ……」

低い声のつもりの春介。


「ぎゃあぁぁぁぁーーーっ!!」


悲鳴に家が跳ねた。

優子が枕を抱えたまま飛び出す。「なんしよーと! 心臓止まるかと思ったやん!」

美香もアキラも寝ぼけ目。「火事? 地震? おばけ?」

春海は目をこすりながら登場。「おばけ どこ?」


光子は壁にもたれて、膝から力が抜ける。

「は、春介……それ、やめんしゃい……マジで幽霊に見えたっちゃん……」


春介、懐中電灯を抱えてしゅん。

「ごめんにゃさい……みーちゅ おねえしゃん、びっくり させたかっただけ……」

優子がしゃがんで目線を合わせる。

「夜中の“おばけごっこ”は禁止。朝にしーや。分かった?」

「……わかった。あさに する。ぽん(小さく頷く)」


美鈴が遠くから声。「ついでに懐中電灯は没収、明日はトイレ掃除のお手伝い決定〜」

春介「えぇぇぇ〜……でも、がんばる」


空気がやわらいだところで、優子がニヤリ。

「てか毎年やられよるよね、トイレチン事件」

光子「去年はドアの上から光やったもん……心の準備ばさせてぇ」

アキラ「はい解散。被害者は深呼吸して、加害者は母ちゃんに抱っこされて寝直し」

春海「はりゅみも だっこ!」

美香「両手ふさがったやん……幸せやけど!」


寝室へ戻る前、光子が春介の頭をそっとなでる。

「……怖かったけど、ちゃんと謝れたけん、許す。でも来年は光じゃなくて“ピン”にして。音だけ」

春介「“ちん”?」

「そう、それ。それなら笑えるけん」


灯りが消え、夜はもとの静けさに。

廊下のどこかで、誰かが小さくつぶやいた。

「……来年も、たぶんあるね」

「絶対ある」と、枕の中から優子の声。

そして、すぐにすやすや。





トイレチン番外編2


—被害者:優子/加害者:春海—


深夜。家はしんと静か。

喉がかわいて目が覚めた優子が、そろり台所へ。


「水だけ飲んで、さっさと寝るばい……」


コップを手にした瞬間、テーブルの下がふわっと白く動いた。

シーツをかぶった小さな影。頭にはザル、手には懐中電灯。光は下からボワ〜。


「……わたち、ばばけ〜……」


「ぎゃああああああぁぁーーっ!!」


驚いた優子、思わず後ずさりしてスリッパでつるり。

コップの水が空中でスローモーション、「やべっ」

→ そのまま自分の頭にジャバーン。


「つめたっ!なんしよーとあんたぁぁ!」


シーツおばけ=春海、ザルの下で得意げに胸をはる。

「ゆーちゅ おねえしゃん、びっくり せいこう!」

懐中電灯を“ぽーん”と床に落として、勝者のポーズ。


そこへ光子が寝癖のまま乱入。

「何の音ね!? って、ザルおばけやないと!」

「みっちゃん みて〜、ばばけ じょうず?」(ドヤ顔)


優子は前髪からぽたぽた水を垂らしながら、腰に手。

「春海、夜中の“お化け芸”は禁止っちゃ言いよるやろ? 心臓止まるか思たばい!」

春海、シーツの中で小さく「……ごみゃんにゃさい」。


そのとき、ガランッ!

ザルがずれて床を転がり、壁にカーン。

音にびっくりした春海、自分で自分にビビってぷるぷる→

「こ、こわい〜〜〜!」と逆ギャン泣き。


「泣くんかーい!」

光子と優子、同時に総ツッコミ。


結局、優子がずぶ濡れのまま春海をむぎゅー。

「ほら、もう大丈夫。おばけさんはやさしい“ぽん”しかしません」

優子がテーブルを指先でコツッ。

「ぽん。」

春海も涙声で「ぽん……」

泣き笑いの空気に、光子もほっと息。


廊下の奥から美香の声。

「はい、犯人は明日トイレ&台所拭き掃除〜。懐中電灯は没収〜」

春海「ええぇ〜……でも がんばる……」


優子はタオルで頭を拭きながら、ジロッ。

「来年は光やなくて**音だけ“チン”**にして。うちは濡れるオチはもうイヤたい」

春海、真顔でこくこく。

「つぎは……やさしい ばばけショーに しゅる」

光子が笑う。「それは見る価値あるわ〜」


最後に春海、涙のあとを拭いて誘惑ウィンク→投げキッス。

「ゆーちゅ おねえしゃん、だいちゅき」

「……反則やろ、その締めは」

濡れ髪の優子、負け笑い。


家は再び静かに。

ザルだけが、床の上で小さくコロンと転がった。





チン事件・キッチン編


—被害者:美鈴/加害者:美香—


夜更け。台所の灯りだけがぽつん。


「なんか甘かもん食べたかねぇ…」

美鈴が戸棚をあさって、お餅を一個。

「ちょい温めて砂糖醤油ばつけよ」

レンジに入れて、スタート。


そこへ、泊まりに来ていた美香がひょこ。

「お母さん、夜食? よかね〜」

「静かにね、春介と春海起きるけん」


……チン。

レンジの音と同時に、餅がぶわっとふくらんで、内側でボフッ。

「ぎゃっ、ふくれすぎた!」

美香、慌てて扉を開けたら、白いふくらみがむにーっとあいさつ。

「お、おばけ餅やん…!」


その瞬間。

カウンターに置いてあったサービス用の小さいチーンを、美香がつい出来心でチーン。

耳元ド直球。


「ひゃあぁぁぁぁーーっ!!」

美鈴、しゃもじを落としてカン!、砂糖醤油はつるり、餅はぴとっとお皿の外へ着地。


「ちょ、ちょっと美香! なんば鳴らすと! 心臓飛び出すかと思うた!」

「ごめんごめん! タイミング完璧すぎて指が勝手に…」

「その“完璧”いらんっ!」


そこへ寝癖二名、春介・春海がフラフラ登場。

「ばばけ…?」「ちん…した?」

美香が慌てて餅を持ち上げ、にっこり。

「ばばけじゃなくて、おいしか餅です! ほら、見んね? チンでふくらんだだけ!」


春介と春海、同時に誘惑ウィンク→投げキッス。

「ばあば、こわくなかったね?」「みかおねえしゃん、ちん じょうず〜」

「褒めんでよかとこば褒めるねぇ…!」


落ちた砂糖醤油を拭きながら、美鈴がジロッ。

「罰として、美香、明日**“チン禁止デー”。鍋で湯せんして」

「えぇ〜っ。手間かかるやん!」

「かわりにぜんざい**作ってくれたら許す」

「……交渉成立です!」


最後は、ふくらみすぎた餅を四人で分け合い。

「はふっ……うまっ」「夜中の餅は反則やね」

「反則もたまにはよかろ?」

美鈴が笑う。「今度“チン”鳴らす時は、小さ〜く一回だけたい。心臓にやさしかやつ」


台所に、湯気と笑い声。

テーブルの小さな鈴が、いたずらっぽくちいさく一回だけ鳴った。

——ちん。





チン事件・枕元モーニング編


—被害者:美香/加害者:アキラ—


その夜、二人は実家の客間でお泊まり。

翌朝は早起きの予定。アキラはこっそり**“やさしいモーニング計画”**を思いついた。


「明日はオレが起こすけん。ホットココア作って、鈴でちいさくチンて」


キッチンでココアを温め、マグをトレーにのせる。

ついでに小さなハンドベルも持って、そーっと戻るアキラ。


……ここで問題発生。

ポケットの中に入れてたキッチンタイマーが、なぜか最大音量。

そして時刻は午前4:58。


客間のふすまを開けた瞬間——

タイマーがいきなり**「チン!チン!チン!」**

アキラはビクッ、手が滑ってトレーがガタン!

マグが小さくジャバッ、ココアがアキラのTシャツにぽたぽた。


美香、飛び起きる。

「ちょ、ちょっと何の音!? 火事!? なに!? …ってアキラ濡れとるやん!」

「ち、違う! これは愛のモーニングで……うわ熱っ! でも甘いっ!」


隣の部屋から春介と春海が寝癖の王子みたいな顔で登場。

「いま、ちんした?」「ちん、いっぱい した!」

「やかましか〜!」美香が枕を握りしめる。


慌てたアキラ、なぜかハンドベルを構え直し、

「落ち着いて、これでちいさく…チン…」

チーン。(完璧な音程)


「もう鳴らすなぁぁ!」

家じゅう総ツッコミ。優馬と美鈴まで笑いながら顔を出す。


美鈴:「はい、加害者さんは朝ごはん係ね。ついでにTシャツ着替え」

優馬:「“チン”は今日は一日一回までばい」

春介&春海:「あしたも ちん する〜?」

美香:「せんでよか! 起こすときはトントンで充分!」


しょんぼりのアキラに、美香がタオルを渡す。

「でも……ココア、ありがと。冷める前に半分こしよ」

アキラ、ぱぁっと笑顔。

「はいよ。反省ココアでございます」


最後に春介と春海がそろって誘惑ウィンク→投げキッス。

「みかおねえしゃん、あったかい?」「あきらおじちゃん、びしょびしょ〜」

「うるさいわい!」と笑い声。

こうして“やさしいモーニング計画”は、甘くて騒がしいチン事件に書き換えられた。





チン事件・寝室ダイブ編


—被害者:優馬&美鈴/加害者:光子—


真夜中。家はしん…と静か。

トイレを済ませた光子は、半分夢の中のまま廊下をふらふら。


「ふぁ〜…ねむ…ここやろ……」


ガラリ。

——違う部屋のふすまが開いた。そこは優馬と美鈴の寝室。


布団のふくらみを見た瞬間、光子の足が勝手に走り出す。

「ただいま〜〜〜……ダァーーイブ!」


ドスン!!!


優馬「ぐえっ! 背中がチン言うた!」

美鈴「誰ねぇ!? うわっ、重たっ。みっちゃん!?」

光子「んにゃ…お父ちゃん、お母ちゃん…? あ、部屋まちがえた……」


衝撃で枕元の目覚まし時計が床に落ち、気の利いたタイミングで——

チーーン。


優子が寝癖のまま飛び込んでくる。

「みっちゃん、なにしよーと! 寝室タックル禁止って言いよるやろ!」

光子、布団の上で正座。

「ごめん、ごめん! 寝ぼけて…自分の部屋やと思って…!」


美鈴は腰をさすりながらも苦笑い。

「背中がチンて鳴る年頃やけん、やさしゅうして」

優馬は天井を見つめたまま一言。

「夢でラグビー部のタックル受けた気分たい…」


そこへ、ちびっ子組もふらふら登場。

春介「おとーしゃん、ちんした?」

春海「ばあば、だいじょぶ?」

光子「だいじょぶやけど…お父ちゃんの魂がちょっと出かけたかも」

優馬「いま戻ってきよる…スーッ(吸気)」


場が和んだところで、美鈴が宣言。

「はい、加害者は明日の朝ごはん係。みそ汁と卵焼き、よろしく」

光子「よかよか! 愛情マシマシで作るけん!」

優子「ついでに**“寝ぼけダイブ禁止令”**、家訓に追加やね」

春介・春海、そろって小声で「ぽん」と合図。

全員じわっと笑う。


最後に優馬が布団から親指を立てた。

「でもまあ…無事でよかった。—おやすみ、ダイブ娘」

「はい…おやすみ…もう二度とダイブせん」

そう言って、光子はペコリと頭を下げ、自分の部屋へ。

廊下に残った目覚ましが、もう一回だけお利口に鳴いた。

——ちん。






チン事件・真夜中の全館アラート編


—加害者:優子/被害者:小倉家“全員”(爆笑)—


夜中の二時すぎ。

のどが渇いた優子が、寝ぼけ目で台所へ。


「ホットミルクだけ作って、すぐ寝るけん……しー、静かに……」


電子レンジの横にあったキッチンタイマーを、なぜか押す。(00:10)

→ チッ…チッ…チッ…


待ってる間に、冷蔵庫の扉を開けたままボーッ。

→ 冷蔵庫「ぴーぴー」(開けっぱなしアラーム)

「ちょ、黙っとって〜」と、そっと扉を押さえる優子。


その指がズレて、炊飯器の予約ボタンに触れる。

→ 「ピッ/ピッ/ピッ」

「あっ、やばっ」


慌てて手を引いた肘が**インターホンの“全館呼出”**にコツン。

→ 家じゅうに優子のひそひそ声が拡散。

「……しーっ、しーっ、しーっ」

(逆効果)


同時に——

タイマー「チン!」

レンジ「チン!」

冷蔵庫「ぴー……(根負け)」

炊飯器「ピピピ」

さらに、お掃除ロボがなぜか起動して「ピッ…ぶぃーん」。


「ちょ、ちょ、やめてぇ〜〜!!」


——全館が音の見本市になったところへ、寝間着姿の家族がバラバラと集合。


優馬「な、なにが始まったと?」

美鈴「夜中の家電大合唱は勘弁してぇ」

光子「優ちゃん、どのボタン押したら、こうなるん?」

優子、両手にマグとタオル、髪は寝癖+牛乳ひげ。

「ごめーーーん! ぜんぶちょっとずつ押したかも!」


そこへ春介・春海、ふらふら登場。

「いま、ちんいっぱい したね」

「おうち、コンサート してた〜」

全員、吹き出す。


美香が冷静にスイッチをぽんぽんと停止。静けさが戻る。

「はい、終演〜。本日の指揮者は優子先生でした」

優子、深々とおじぎ。

「夜中のホール貸し切り、誠に申し訳ございません」


光子が肩をポン。

「でもまあ、見事な“チン交響曲”やったわ」

優馬「次は昼公演で頼むばい」

美鈴「罰として、明朝は静音モード朝ごはん。しゃもじも箸もそっと使うこと」

「了解……」と優子が小声で敬礼。


最後は春介と春海が、にやっとして誘惑ウィンク→投げキッス。

「ゆーちゅ おねえしゃん、だいちゅき」「でも ちん は ちょっと すくなめで」

「はい、気をつけます!」

笑いがぱーっと弾けて、真夜中の“全員被害”は満場一致の爆笑で幕。




爆笑反省会:チン事件サミット


リビングに家族全員集合。

ちゃぶ台の上にホワイトボード、横にはおたま(議長用ハンマー)。

美鈴がすっ、と立つ。


「はい、爆笑反省会はじめまーす。議長は母ちゃん、書記は父ちゃん」

優馬がペンを構える。「よっしゃ、本日の議題:チン」


まずは自己申告タイム。



1. 自己申告

•光子「寝ぼけダイブで背中チン鳴らしました。被害者:両親。反省…してます」

•優子「夜中に家電オーケストラ起こしました。全館被害。大反省…してます」

•美香「キッチンでおもちバクハツ→鈴チーンの悪ノリ。母ちゃんを跳ばせました。ごめん」

•アキラ「愛のモーニング計画がタイマー大合唱になりました。胸にココアの勲章、まだ湿ってます」

•春介「トイレのおばけライトやりました。みーちゅ おねえしゃんをビビらせました。ごみゃん」

•春海「ザル装備のばばけで、ゆーちゅ おねえしゃんをビシャー。…ごみゃん」

•優馬(書記)「被害:背中。感想:チンは体感で鳴る」

•美鈴(議長)「被害:心臓。感想:夜中の鈴は寿命が縮む」


「はい、よくできました。罰は笑顔で受けること。では、家族ルールいくよ」



2. 家族ルール(決議)


美鈴がおたまをコツン。

1.夜中のチンは一日一回まで(小さく、やさしく)

2.寝ぼけダイブ全面禁止(ダイブ娘は即・朝ごはん係)

3.ザルを頭にかぶらない(厨房器具は厨房で)

4.懐中電灯は夜十時で門限(鍵つき引き出しへ)

5.やさしい起こし方=トントン→名前→「おはよう」→ハグ

6.驚かせるときは“音だけピン”(物は飛ばさない、濡らさない)

7.笑って終わる(最後は「ぽん」で締め)


優馬がボードに書き終える。

春介と春海が「ぽん!」と小さく合図。全員、拍手。



3. 罰とごほうび

•光子:明朝「愛情みそ汁&卵焼き」担当

•優子:「静音モード朝ごはん」挑戦(音出したら一品追加)

•美香:ぜんざい作成(チン禁止・鍋オンリー)

•アキラ:ベル使用一週間禁止(代わりに“そっとトントン”練習)

•春介・春海:「やさしいおばけショー」を夕方に上演(怖くない縛り)


美鈴が締めの一言。

「失敗は宝。笑って反省、次に活かす。それが小倉家やけんね」


優馬がおたまで小さく合図。

「それでは——」

全員で囁くように、

「うにゃ→だらぱ〜→ぽん!」


笑い声がはじけ、反省会は満場一致の爆笑で閉幕した。





チン事件・親の逆襲編


—加害者:優馬&美鈴/被害者:小倉家“全員”—


反省会の翌夜。家はしんと静か。

台所で、ひそひそ声。


「昨日はうちらも反省させたばってん…今夜は静音モード朝ごはんのリハでもしとこかね?」(美鈴)

「よかやん。レンジは使わん。鍋でそーっと温めるったい」(優馬)


コンロ、ピッ(最小火力)。

やかん、しゅぅぅ…(控えめスタート)。


「静か〜に、静か〜に…」(美鈴)

——その時。優馬の肘が金属ボウルにコツン。

ボウル、流し台でカラララララ——ン!


「ちょ、父ちゃん! なにば当てよーと!」(小声で全力)


慌てて止めようとして、今度はタイマーを長押し。

→ 「チン!チン!チン!」最大音量。


「ぎゃあ、長押しはあかん!」(優馬)

「押さんね言いよったやろが!」(美鈴)


さらに追い討ち。

やかんの注ぎ口が少しずれてて、ピー……(笛スタンバイ)。

「笛鳴る前に火ば切って!」

優馬、焦って炊飯器に手を伸ばす(なぜ)。

→ 「ピピピ/予約開始」


「なんで炊飯器押すとねぇぇ!」

「手が迷子になったと!」


そこへトースターが勝手にピン!(誰かがレバー下げてた)

ピョン!とパンが飛び出す。

受け止めようと出したトレーが床に落ち、ガシャーン!


——家じゅうの寝室のドアが、順番にガラガラ開く。


「また音の見本市やん…!」(光子)

「父ちゃん母ちゃん、反省会から24時間持たんやったね…」(優子)

「ほんっっと、ごめん!」(美鈴)

「うっかりやったと…」(優馬)


寝癖の王子×2も参戦。

「きょうもちん いっぱいしとる」「おうち、またコンサート」

全員、肩を震わせて笑ってしまう。


美香が素早く全部のスイッチをぽんぽん停止。

「はい、終演。指揮:父ちゃん母ちゃん。アンコールは無しでお願いします」


優子が腕を組んでジロッ。

「議長(お母さん)自らルール違反やん? 罰はどげんする?」

美鈴、ぺこり。

「はい。明朝の後片付け全部、父ちゃんと母ちゃんでやります」

優馬も挙手。

「ついでに一週間“夜中チン封印”、うちら二人だけ適用でよか」


光子がニヤリ。

「追加で“やさしい起こし方テスト”もしよっか。今ここで、母ちゃんに起こされる役やってみる」

美鈴、深呼吸して、そっと近づきトントン。

「…おはよう、みっちゃん」

「合格〜。音がピンじゃなくて心がホワやね」

場がふわっと笑う。


最後は優馬が手を上げて、ひと言。

「みんな、ごめん。ありがとう。すいません。」

「三拍子そろった謝罪やね!」(美香)


締めは当然、小声で。

全員:「うにゃ→だらぱ〜→ぽん!」

真夜中のキッチン、笑いとため息で平和に落ちた。





静音モード朝ごはん


朝のキッチン。貼り紙——「本日は無音でお願いします」。


「本日のシェフは優子、補助は父ちゃん母ちゃんやけん。音出したら一品追加よ?」

「任せんしゃい…しーっ」


優子、足元にスリッパを脱いで、そろり。

まな板の下にキッチンペーパーを敷いて、卵をす…と割る(殻は指で受け止め)。

フライパンの油は、フチづたいにとろ…。

味噌汁はお玉を鍋肌に沿わせてすーっ。


「よし、順調——」


その時。

優馬の腹がぐぅう…。

全員、肩が小刻みに震える。美鈴、口パクで「がまん」。


テーブル係の光子は、茶わんの間にタオルを挟んでカチャ…をゼロに。

箸置きを並べながら、春介と春海に小声。

「今日はささやき声やけんね」

「…うん」「…がんばる」


卵焼き、ひっくり返す瞬間——

ぴとっ(シリコンヘラ)。成功。

「ナイスやん」と優子が親指を立てる。


配膳。

味噌汁どんぶり、とん…(音は布で吸収)。

ごはん、ふわっ。

卵焼き、すっ。


—ここまで無失点。


最後の茶碗を置こうとした美香の肘が、しょうゆ皿にコツ。

全員「……!」 空気が張る。

春海が両手でOKサイン、小声で「だいじょぶ」。

緊張が笑いに変わる。


いただきますは、手を合わせてパチ…(ほぼ無音)。

一口目。

「……うまっ」優子が口パク。

「……やるねぇ」光子も口パク。


その時——


「ヘックチン!」


——春介が、こらえきれずに小さなくしゃみ。

0.5秒の沈黙。

次の瞬間、全員が声を殺してくっくっくっ。


優子が小声で宣言。

「静音モード、減点1。罰としてデザート“プリン”追加」

春海、ぱぁっと笑顔。「ぷりん!」

美鈴が親指を立てる。「静かに笑える朝ごはん、合格やね」


食べ終わり。

テーブルの真ん中で、全員そろって指先でコツッ。

「ぽん。」

音はちいさいのに、気持ちは大きく揃った。





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