帰宅報告
カーテンのすき間から陽が差して、布団の中でぐだぐだ。
光子「ふぁ〜……よう寝たわ〜」
優子(低い声で)「みっちゃ〜ん。おはにょうごじゃりましゅる〜」
光子「だれやその声は……って、ゆうちゃん、その髪どぎゃんしとーと?」
優子「へ?」
光子「鏡見てみんしゃい」
洗面台へトコトコ。鏡の中、優子の髪が完全に鳥の巣。
優子「な、なんこれ! 昨日の鳩、夜中に巣作りしとった?」
光子「また頭に鳩が止まりに来るばい。『常連の席、空いとー』って」
二人「あはははは!」
優子「待って、証拠撮るけん、動かんで」パシャ。
光子「グルチャ行きは勘弁してぇ〜」
優子「もう送った。キャプション『本日の“止まり木(頭上席)”解放中』」
スマホが即鳴る。
美香〈朝から声出して笑った〉
アキラ〈保護帽“鳩よけ仕様”発注する?〉
翼〈試合前に見るもんやない。腹筋もっていかれる〉
拓実〈“チン”で整髪希望〉
春介〈ぽー!〉
春海〈ちゅ!〉
光子「よし、鳥の巣撤去作業いくよ。スプレー貸して」
優子「はい。まずは霧吹き→オイル→コームね。プロやん」
光子「鳩さん、今日は満席ですって貼っとく」
優子「ほんなら“止まり木料金・特上”で」
また二人で吹き出す。
整え終わって、髪がすとん。
優子「よし、営業再開。鳩さん本日はお休みです」
光子「朝ごはん食べたら、旅メモまとめよ。『鳩インタールード』は髪の乱れ注意も追記」
優子「了解。まずはパンとコーヒー、あと伊予柑ジャムな」
キッチンへ向かいながら、まだくすくす笑いが止まらん二人であった。
連結組曲 — 制作日誌(再配置・確定版)
Day1:福岡 → 太宰府天満宮 → 新山口・湯田温泉 → 出雲大社 → 夜行で東京へ
•曲①「願いの歩幅(太宰府)」:BPM76 / D / 鈴→拍子木→一呼吸→Dドローン
•間奏A「湯田の湯けむり」:BPM70 / F / ブラシ&ロータム
•曲②「結び風(出雲)」:6/8=68 / Gm / 低弦+フロアロール
•曲③「サンライズ小景 - 東上」:BPM98 / D→G / 継ぎ目“ダ・ダン”+岡山ガチャンSE
Day2:東京到着(早朝) → オープンキャンパス【一日目】 → 東京泊
•曲④「キャンパスの呼吸①」:BPM84 / E / “相手の呼吸を見る”モチーフ
•曲⑤「友の名前(ソフィーア&小雪)」:BPM84 / E / JP/EN/UKRハミング
•(この日は東京タワーなし/夜はホテルで小品スケッチ)
Day3:オープンキャンパス【二日目】 → 夕方~夜に東京タワー → サンライズ瀬戸で高松へ
•曲⑥「キャンパスの呼吸②」:BPM90 / 変化記号少なめ・発声の芯
•曲⑦「赤い塔、青い海(東京タワー)」:BPM120 / A / 上昇アルペジオ→長い残響
•間奏B「サンライズ瀬戸:出発ベル」:路面ベルSE+トレモロGt
Day4:高松うどん → 栗林公園 → 高松城 → 道後温泉泊
•曲⑧「松影スケッチ(栗林)」:5/4=92 / E / ハーモニクス+足音ブロック
•インタールード「止まり木ドラマー」(鳩の“チン”事件):BPM104 / C / **トライアングル“チン”**→4/4着地
•曲⑨「天守カーディオ(高松城)」:BPM140 / Em / 段差リフE–G–A–B
•曲⑩「ゴクラクニャ(道後)」:BPM70 / F / ささやき“ニャ”で締め
Day5:道後朝風呂 → 伊予鉄で三津浜 → フェリーで柳井 → 徳山 → こだま“たまゴジラ号” → 博多
•曲⑪「海の道(瀬戸内フェリー)」:BPM88 / G / 波・風・カモメの薄SE
•曲⑫「たまゴジラが切れた(車内Remix)」:BPM110 / B♭ / 美鈴アナウンス断片
•フック:〈まもなく博多、ギャグの首都〉→“湿布コール”
•終章Reprise「サンライズ小景 — Home」:BPM98 / D / 旅の動機を再提示→**うにゃ/だらぱ〜**一閃
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今日の制作タスク(修正版)
1.クリックとSEの配置を全章で再タイムライン化(タワー=Day3へ移動)
2.**インタールード“チン”**はDay4固定:5/4→4/4の橋渡しを再確認
3.歌詞メモは地名より“匂い・手触り”を名詞中心で(例:灯り/影/段差/潮)
4.ソフィーア&小雪へ仮デモ共有(Day2/3の章を中心に)+対訳付
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ちょい会話(確認)
•優子「タワーはDay3夜に移設完了。ライトの残響、長めでOK」
•光子「サンライズは行きも帰りも夜行。主題“ダ・ダン”は両終章に再登場で統一」
•二人「鳩“チン”はDay4、笑い=転調スイッチで確定。よし録るばい!」
セットリスト&スコア草案
Day1-1「願いの歩幅(太宰府)」
•Key: D Tempo: 76 Meter: 4/4(ヨナ抜き)
•Chord: | D | G/D | D | A/D |(低音Dドローン維持)
•Bass Motif(度数): 1–5–6–5 / 4–3–2–1
•Drums: マレットでbd弱+ftロール、小節頭に拍子木SE→“一呼吸”。
•歌(A):
声にせず祈りは落ちる / 掌の熱が風になる
足音でそっと並べる / 今日という始まりを
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Day1-2「結び風(出雲)」
•Key: Gm Tempo: ♪=68 Meter: 6/8
•Chord: | Gm | D/F# | Eb | D |
•Bass Motif: 1–5–♭7–6–5(スラー長め)
•Drums: フロアのロール→3小節目からタムのうねり。
•歌(Sabi):
糸は見えない ほどけはしない
息と息の間に結び目がある
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Day1-3「サンライズ小景 – 東上」
•Key: D→G Tempo: 98 Meter: 4/4
•素材: レール継ぎ目=タム/リムでダ・ダン、岡山連結ガチャンSE。
•Chord: | D | Bm | G | A | → | G | D/F# | Em | A |
•メロ(度数): 3–2–1–5 / 6–5–3–2(鉄道チャイム・モチーフ引用可)
•演出: 熱海前で+3dB/ステージ照明を群青→薄桃へ。
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Day2-1「キャンパスの呼吸①」
•Key: E Tempo: 84 Meter: 4/4
•Chord: | E | A/E | C#m | B |
•Drums: ブラシ2拍4拍スワール、クリック=観客の呼吸。
•歌(A):
合図は目線で足りる / ことばは半歩あとから
震えを芯に変えて / 同じ拍で立とう
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Day2-2「友の名前(ソフィーア&小雪)」
•Key: E Tempo: 84
•構成: JP/EN/UKRの母音ハミングでコール&レス。
•短句:
Kohaku no sora / dykhannya razom(同じ呼吸で)
Your name travels / like a bridge
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Day3-1「キャンパスの呼吸②」
•Key: E Tempo: 90
•ポイント: 1日目の動機を発声・子音明瞭でブースト。間合いを短く。
Day3-2「赤い塔、青い海(東京タワー)」
•Key: A Tempo: 120
•Chord: | A | F#m | D | E |
•Bass: 1–5–6–5の跳ね、ところどころゴースト。
•Drums: 8分ハイハット刻み→サビでオープン少し。
•歌(Sabi):
赤い塔の上で街は波になる / 青い海のように灯りは息をする
夜を抱きしめたら / 明日へ降りていこう
Ending: ロングリバーブ(2.8–3.2s)。照明:赤→琥珀にフェード。
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Day4-1「松影スケッチ(栗林)」
•Key: E Tempo: 92 Meter: 5/4
•Bass: ハーモニクスE–B–E–G#–B(五歩の散策)
•Perc: ウッドブロックで足音(1-4拍目軽、5拍目リリース)
•歌(A):
影の形で時刻がわかる / 風がページをめくる
Interlude「止まり木ドラマー」(鳩の“チン”事件)
•Key: C Tempo: 104 Meter: 4/4
•構成(16小節)
1–4:リム×カホンで静かに。
5–8:優子MC(車掌)「次は肩停〜爪にご注意」→チン!
9–12:観客コール「鳩にもウィンク!」(客:ポー)。
13–16:光子ツッコミ→本編4/4へ着地。
•トライアングル:45°ヒット→0.2秒ミュート(笑いの余白の長さ)。
Day4-2「天守カーディオ(高松城)」
•Key: Em Tempo: 140
•Riff(度数): 1–♭3–4–5(16分上昇、2小節ループ)
•Break: 無伴奏手拍子×足踏み×「はぁ…」の合唱→全景ドン。
Day4-3「ゴクラクニャ(道後)」
•Key: F Tempo: 70
•Texture: ブラシ+ロータム、ベースはロングトーン(1→6→4)。
•ラスト1小節:「ニャ」ささやきユニゾン。
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Day5-1「海の道(瀬戸内フェリー)」
•Key: G Tempo: 88
•SE: 波・風・カモメ(–12dBで薄く)。
•歌(Sabi):
島と島のあいだに笑いを浮かべて / 青の線路を渡るだけ
Day5-2「たまゴジラが切れた(車内Remix)」
•Key: B♭ Tempo: 110
•素材: 美鈴アナウンスを8分スライスしてパーカッシブに配置。
•コール:「まもなく博多——ギャグの首都!」→客席**“湿布!”**レス。
•Break:春介・春海の「うにゃ/だらぱ〜」サンプリング(1回だけ)。
Finale「サンライズ小景 – Home」
•Key: D Tempo: 98
•構成: 全モチーフ再提示→Dドローンに収束→**うにゃ—/だらぱ〜**一閃。
•最後: 完全終止→1拍置いて客席に微笑み。
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キューシート(抜粋)
•K01 太宰府:暗転→背面ヒカリ1本、拍子木SE→白フェード。
•K06 タワー:赤→橙→金のフェード、終止でホールド3秒。
•K08 鳩インタールード:トラアングル“チン”に合わせサイドライト一閃。
•K12 たまゴジラRemix:MC中は前面薄め、パンで声を左右に遊ばせる。
•K13 Finale:群青→薄桃→昼白色(“帰宅”)。
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歌詞カード(短冊版・観客配布向け)
1.願いの歩幅
声にせず置いていく 掌の熱は風が知る
2.結び風
糸は見えない でもほどけない
3.サンライズ小景(東上)
眠っている間に 線路は続く
4.キャンパスの呼吸①
合図は目線で足りる
5.友の名前
Your name travels / like a bridge
6.キャンパスの呼吸②
7.赤い塔、青い海
夜を抱きしめたら 明日へ降りていこう
8.松影スケッチ
影の形で 時刻がわかる
9.止まり木ドラマー(鳩)
(MC & チン)
10.天守カーディオ
11.ゴクラクニャ
湯気の奥で 今日がほどける
12.海の道
青の線路を 渡るだけ
13.たまゴジラRemix
(ギャグの首都・博多)
14.サンライズ小景(Home)
見たものは音に 笑いは合図に
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直近の作業割り(役割)
•優子:クリック制作(全曲)/トラアングル“チン”の収録(3テイク)/Remixのスライス配置。
•光子:ベースのDドローン各章録り/Em段差リフのパターン3種/歌メロの仮Vo。
•共同:フィールドSE(連結・波・ベル)取り込みとノイズ整形。
•共有:ソフィーア&小雪にDay2-3の仮デモ+対訳送付。
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MC台本(短・実戦用)
•開始前:「見た順に、音にして戻しました。途中“チン”が鳴ったら——笑ってください。転調します」
•鳩インタールード:「次は“肩停”。お降りの際は、爪にご注意くださーい(チン!)」
•博多前:「まもなく“ギャグの首都”。湿布の準備を——」
夕方、防音ブースにカメラを向けてビデオ通話開始。
画面越しに、小雪(札幌の自室)とソフィーア(都内の下宿)が手を振る。
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優子「じゃ、進捗いくね。DAW画面共有オン」
光子「まずDay1。『願いの歩幅(太宰府)』——BPM76/Key D。拍子木→一呼吸→低音Dドローン。30秒試聴いくよ」
(再生。静かなベースと柔らかいロール)
ソフィーア「空気がやさしい。発声の入口にぴったりです」
優子「続いて**『結び風(出雲)』**。6/8=68/Gm。低弦が糸の感じ。コーラス位置に“深呼吸”記号を置いとる」
(再生)
小雪「なまら落ち着く。ここ、ブレス合わせ重要だね」
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光子「Day1-3、『サンライズ小景—東上』。岡山の**“ガチャン”SE**も入れた版」
(ダ・ダン→ガチャン)
小雪「鉄分高めで最高。クリック98、了解」
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優子「Day2はキャンパス。『友の名前』。JP/EN/UKRハミングの素体作った。ソフィーア、母語フレーズ案ある?」
ソフィーア「“Дихати разом(ディハティ・ラゾム/一緒に呼吸する)”を一小節だけ、柔らかく入れたいです」
光子「採用! ここ(小節11)に置くね」
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優子「Day3の夜、『赤い塔、青い海(東京タワー)』。BPM120/Key A。上昇アルペジオ→長残響。30秒」
(再生)
小雪「ライトの色替えが見える。ライドの粒、もう少しだけ細かくできそう」
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光子「Day4、『松影スケッチ(栗林)』は5/4=92。ハーモニクス+足音ブロック」
優子「からのインタールード——鳩“チン”事件です。**トライアングル(45°→0.2秒ミュート)**版、どうぞ」
(チン→客席“ポー”サンプル)
小雪「なまら気持ちいい“着地”。私、トライアングル角度3種(45°/30°/ミュート長め)収録して送るわ」
優子「**『天守カーディオ(高松城)』**はBPM140/Em、段差リフ(E–G–A–B)。ブレイクで手拍子入れる」
(再生)
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光子「Day5、『海の道(瀬戸内フェリー)』BPM88/G。波SE薄め」
優子「ラスト前、『たまゴジラが切れた(Remix)』。美鈴アナウンスをリズムスライス」
(“まもなく博多—ギャグの首都!”→“湿布!”のコール)
ソフィーア(笑顔)「ステージで観たいです。MCの言葉選びは、短く丁寧にしましょう」
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二人からのフィードバック(要点)
•ソフィーア:
•『友の名前』に**“Дихати разом”**の一行を追加。子音弱めで母音メイン。
•MCはJP/EN併記で15秒以内。
•小雪:
•『松影スケッチ』の5拍目をもう少し抜く。
•トライアングルのアタック3種とウッドブロックの音色2種を各8小節で録って共有。
優子「最高。じゃ、データ一式は通話後に送るけん、各自インポートして試してね」
光子「次の合わせは、Day2〜3を重点に。鳩“チン”はライブ用フォーマットも添付する」
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通話後に送ったデータ(共有フォルダ/圧縮一式)
•TempoMap_AllDays_98bpm_core.mid(クリック&マーカー)
•SE_pack.zip(岡山ガチャン/波/路面ベル/美鈴アナウンス切り出し)
•Interlude_Chin_v1-3.wav(45°/30°/ロングミュート)
•Songs_Demo_v0.7/
•01_Negai_D76.mp3
•02_Musubi_6-8.mp3
•03_Sunrise_East.mp3
•04_CampusBreath_I.mp3
•05_Tomononamae_guide(JP-EN-UKR).mp3
•07_AkaiTo_A120.mp3 …ほか
•Lyrics_shortcards_JP_EN_UKR.pdf(配布用短冊)
•MC_miniscript_ja-en.txt(15秒版)
•Perc_Specs.pdf(トライアングル角度/ミュート規定、足音ブロックの置き方)
小雪〈受け取りました。今夜、三角&ブロック収録します〉
ソフィーア〈資料ありがとう。母語ラインを録って返します〉
優子「みんな、ありがと! うちらもDay4のリズム詰め続行する」
光子「見た順に音へ、着実に進行中。—うにゃ」
全員「だらぱ〜」
登校日、ただいまの音
朝のホームルーム前、廊下がざわついている。
「みっちゃん優ちゃん、おかえりー!」
「どうやった?東京!」
わっと人の輪ができる。光子が肩をすくめて、にやり。
「まずね……鳩が“チン”した」
「は?」
優子がトライアングルを指で作り、空中で鳴らすフリ。「チン!」
光子は肩を差し出し、すっと上を向く。「ここ“肩停”ですー。お降りの際は爪にご注意」
優子「はい止まり木料金いただきまーす」
「チン!」
——教室が割れた。「腹いてぇ!」「何その駅名!」と机を叩く音。先生が苦笑いで「チャイム鳴るまでな」とだけ言って許してくれた。
「東京ばな奈、買ってきとーけん。放課後、みんなで食べよ」
「神!」と拍手が起こり、光子と優子は手を合わせて一礼。
*
授業が終わると、二人はまっすぐ音楽棟へ。
扉を開けて、光子が「よっ。久しぶりじゃーん」
すかさず優子が肘で小突く。「“じゃーん”は何ね、“よっ、ただいま”—はい言い直し」
部室がどっと湧く。いつもの空気が戻ってきた。
前原先生が譜面台越しに笑う。「無事で何より。オープンキャンパスは?」
「発声の基礎がめちゃ濃くて、呼吸の置き方が変わりました」
「鳩の“チン”も正式採用です」
「そこ採用するな」と先生。
お土産の箱を差し出すと、先生は目を丸くした。「おお、全員分あるな。ありがとう」
合奏。最初の一音で、胸の奥がすっと落ち着く。
「やっぱ、吹部の響きが一番ほっとするね」
「この残響、帰ってきたって音がする」
テンポが上がるにつれ、みんなの顔も緩む。曲の最後、ピタッと決まって、拍手。
*
片付けのあと、長机に輪ができた。
「もぐもぐたいむ、開店!」
東京ばな奈が行き渡り、箱はあっという間に空っぽに。
「柔らかっ」「こういう“優しい糖分”が正義やん」
「東京タワーは?」「夜に行った。灯りが呼吸しよった」
鳩話をもう一度せがまれて、優子の「チン!」が二回、三回。
帰りは自転車の列。春の夕方、風がちょうどいい。
「コンビニ寄ってこー」
肉まん、カフェオレ、パリパリのスナック。店先の手すりにもたれて、喋って、笑って、ちょっとだけ黙る時間。
「全国の音、うちらで拾いに行こうね」
「まずは課題曲の音、きっちり拾お」
ハンドルを握り直す。
薄桃色の空をくぐって、それぞれの家へ。
鎖が軽く鳴る音も、ブレーキの擦れる匂いも、全部が「ただいま」に聞こえた。




