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進学希望。

入園式、ハート直撃


壇上から双春の「ごあいさつ版」——ダブルウィンク→ちゅっ→ぺこり。

その瞬間、前列で二人の園児が胸を押さえて前のめり。


古賀 莉々こが りりか「わたち、ちゅんしゅけくんと けっこんしゅる!」

安武やすたけ 陽斗はると「ほく、はりゅみちゃんと けっこんしゅる!」


保護者席、ざわっ→どっと笑い。

美鈴先生がニコッと手を上げる。「まずはおともだちからね〜」

春介と春海は照れウィンクを一人一発だけ返して、深くおじぎ。

入園式、早くも“初恋宣言”で幕が上がった。




初恋の系譜


入園式の夜。テーブルの上に小さな紙の王冠が二つ置いてある。

春介と春海が「けっこんしゅる宣言」をした話をすると、光子と優子は同時に吹き出した。


優子「うちらも似たようなもんよ」

光子「否定できんね」


優子「私の拓実はさ、小学校の体験入学のときからの関係。

 教室で名前呼ぶ練習してたら、緊張して声が裏返ってね。そしたら拓実が後ろから**“だいじょうぶ”って肩トントンしてくれた」

光子「はい出た、肩トントン事件」

優子「あれで完全にハートにチェック入った**と」


光子「私も体験入学。廊下で迷子になりかけてたら、案内係が翼やった。

 『次は音楽室——こっち』って、地図描きながら連れてってくれてさ。

 『歌、好き?』って聞かれてうんって頷いたとき、もうなんかね、靴の中までぽかぽかした」


春介と春海は床に座って、ふむふむ顔。

春介「たいけんにゅうがく、だいじ」

春海「あんないがかり、だいじ」


優子「でもさ、いまは“おともだち”からやけんね。

 『わたち、ちゅんしゅけくんとけっこんしゅる』は、気持ちだけ受理」

光子「婚姻届は字が書けるようになってから」

春介・春海「えへへ〜」


優子「それに、恋って自分が楽しくなるほうに転がると」

光子「見て、笑って、ちょっとだけ手を貸す。それが最初の一歩」


テーブルの王冠を頭にのせて、春介と春海が鏡の前に並ぶ。

春介「おともだち から、はじめます」

春海「あんないがかりも、がんばります」


光子「よか返事」

優子「じゃ、明日の園バスの場所、双春案内係でよろしく」


四人で親指をちょんと上げる。

王冠がちょっとずれて、笑い声が一つ落ちた。





距離が縮まった日


こたつの湯気がゆるんだところで、光子がぽつりと切り出した。

「ね、うちらが翼と拓実と近くなったきっかけ——あれ、四年生の交通事故やったんよ」


優子がうなずく。

「赤信号を無視した車に、横断歩道で弾かれてさ。幸い命に別状はなかったけど、その場で動けなくなって……。たまたま二人が近くにいた」


光子「拓実は全力で職員室に駆け込んで先生に連絡。

翼は通りの人に声をかけながら、救急車とパトカーを手配してくれた。

あとで聞いたら、救急車の中でもずっと付き添ってくれて、励ましてくれとったって」


優子「サイレンの音、ぼんやりしか覚えてないんよ。でもね、手を握られて**“大丈夫”**って言われた感触だけは、ちゃんと残ってる」


春介が眉を寄せる。

「いたかった?」

光子「痛かったよ。でも、助けようとしてくれた声が、それを少し小さくしてくれた」

春海「こわかった?」

優子「こわかった。けど、誰かが動くと、こわさは薄くなるって、その時に知った」


美香が静かに息をついた。

「その日から、二人の中に**“守るってこういうこと”が根っこになったんやね」

光子「うん。うちらも誰かの“最初に動く人”**になりたいって思った」

優子「だから今も、笑いでも音でも、最初の一歩を出すのが好きなんだと思う」


春介と春海は顔を見合わせ、ちいさくうなずいた。

春介「ぼくも だれかの いっぽ なる」

春海「わたしも。それからにこで つづける」


光子が微笑んで、優子が付け加える。

「恋が近くなったのはね、あの**“動いてくれた一歩”**があったから。あの日のこと、ずっと忘れん」

部屋に、静かであたたかい余韻が落ちた。





あの日の一歩を、君たちへ


こたつの電源を落としたあと、部屋が少し静かになった。光子と優子は、春介と春海の前に座って、目線を合わせる。


「ね、ちょっとだけ昔の話をしていい?」と光子。

「うちらが小4のときのこと。赤信号を無視した車にぶつかられて、動けんくなったと」


春介の眉がきゅっと寄る。「いたかった?」

「いたかったよ。でもね」と優子が微笑む。「その時、拓実が全力で職員室に走って先生に知らせてくれて、翼が救急車とパトカーを呼んでくれたと。救急車の中でも、ずっと手を握って『大丈夫』って言ってくれた。あとで聞いて知ったんよ」


春海が小さくうなずく。「こわかった?」

「こわかった。でも、誰かが最初に動くと、こわさはちょっと小さくなるって、その日わかった」と光子。


二人はしばらく黙って、言葉を選ぶように頷いた。

「ぼく…だれかがこまっとったら、はしる」「わたしも、せんせいによぶ」


優子はそっと頭をなでる。「うん。自分が安全ってわかったらでいいけんね。危ないときは——」

•「大人を呼ぶ(先生・お店の人・近くの人)」

•「番号は119か110(大人にお願いする)」

•「道をわたるときは、立ち止まって右・左・もう一回」

•「夜や雨の日は手をつなぐ」


光子が続ける。「そして、もうひとつ。励ます声は、お薬みたいに効くんよ。『だいじょうぶ?』『いっしょにおるよ』——それだけでいい」


春介が親指をちょこんと立てた。「おれ、親指ピッでOKきいたら、はしる」

春海も真似をして、「わたし、だいじょうぶの声、いう」


「よか返事」と優子。

「うちらが翼と拓実に近くなったのは、あの日の一歩があったから。君たちも、君たちの一歩で、誰かの心を明るくできるよ」と光子が締めた。


四人で小さく手のひらを合わせる。

ぱちん。

過去の痛みは、今のあたたかさに静かに溶けていった。




2038・三者面談――進む先を声にする日


第一幕:光子 × 美鈴 × 担任(城戸先生)


進路室のドアが静かに閉まり、机の上の名札が光を返した。

城戸先生「お待たせ。では始めましょう」


光子「お願いします」

美鈴「よろしくお願いします」


先生はファイルを開く。ジュネーブでのスピーチ、ロサンゼルス組曲、全国大会の受賞――紙の上に積み上がった時間が並ぶ。

城戸「志望先は音大・声楽。第一志望は桜華音楽大学 声楽科、第二志望が西都音楽大学 音楽学部で合ってるね?」


光子「はい。声を軸に、舞台での伝え方と作編曲も並行して学びたいです。学校や地域の場で、“音と笑い”のアウトリーチを続けたい――それが理由です」


城戸「面接で今の一文が言えたら強い。実技曲は?」

光子「イタリア歌曲と日本歌曲を予定しています。副科で作編曲のポートフォリオも出します」


美鈴「家としては全力で支えます。練習環境も調整します」


城戸「出願スケジュールと必要書類はこのプリント。活動記録と志望理由書は早めに下書きを。面接は“経験の羅列”ではなく、それで何を届けたいかまで」


光子はうなずき、ペン先を止めた。

光子「“聴いている人が次に誰かへ優しくなれる音”を作りたい――それを書きます」


城戸「いい。じゃあ“いつまでに何をやるか”をここに三行で」

三人で小さく笑って、面談は手触りのある宿題で締まった。



第二幕:優子 × 優馬 × 担任(城戸先生)


入れ替わりで椅子が温かい。

城戸「志望先の第一は?」

優子「音楽大学・音楽教育学科(指揮副専攻)を第一に。第二は西都音楽大学・音楽表現。“伝える力”を体系的に学んで、合唱やオーケストラの現場で場を整える人になりたいです」


優馬「家のほうは通学・住まい含めて調整済み。本人が腹を括っとるけん、後押しします」


城戸「実技は?」

優子「発声・合唱指導の実演、ピアノは基礎曲と初見、面接で場の組み立てについて話します。面接官を“観客”だと決めて、冒頭10秒で空気を整える練習をしています」


城戸「君は声の届かせ方が武器。志望理由書は“目の前の一人に届く設計”で書こう。具体例として、園や地域での朝のミニプログラムを一つ入れると説得力が増す」


優馬「課題は何やろ?」

城戸「二つ。(1)曲目の決定と録音、(2)志望理由書の初稿。来週の放課後、模擬面接一本やる」


優子「お願いします。最後に――」

優子は一呼吸置いて、静かに言った。

優子「音楽で人の緊張をほどく方法を、学問として深めたいです。将来は学校とホールの橋渡しをします」


城戸「うん、明確だ。二人とも、自分の言葉になっている。迷ったらここに戻っておいで」



退室――廊下で


扉を出た途端、双子は顔を見合わせる。

光子「いこっか」

優子「うん。やることは決まった」


階段の踊り場で、それぞれの親に小さく会釈。

美鈴「背筋、きれいやったよ」

優馬「あとは積み上げやね」


冬の光が窓ガラスに薄く落ちる。

二人は同時に手帳を開き、今日も三行を書き足した。

進路は宣言で始まり、準備で具体になる。その実感だけを持って、音の方角へ歩き出した。




2038・三者面談〈推薦と特待〉


第一幕:光子 × 美鈴 × 城戸先生


光子「推薦は取れますか? 特待生枠も狙いたいです」

城戸「結論、十分射程内。ただし“評定・実技・書類”の三本柱を全部高水準で揃えること」

•推薦(指定校/公募)

•指定校は校内選考。評定・欠席・学校/地域活動・面接で総合判断。

•公募推薦は実技+面接+志望理由書が主。

•特待(音大)

•多くの大学は**実技上位(5〜10%目安)**+面接評価。

•ポートフォリオ(作編曲・舞台実績・受賞歴・アウトリーチ)が強く効く。


城戸「光子は声+作編曲が武器。『ジュネーブのスピーチ』『ロサンゼルス組曲』『全国大会受賞』を1冊に編集、2分ダイジェスト動画も用意しよう。面接は“何を、誰に、どう変えたいか”を一文で言えるように」


やること三行(光子)

1.課題曲+自由曲(伊・日)を決定→録音/週1で模擬実技

2.ポートフォリオ1冊(実績・写真・URL・解説150字×各項目)

3.志望理由書 初稿(“音で優しさを連鎖させる”を核に)→来週添削


美鈴「練習環境と資料整理、家で支えるね」



第二幕:優子 × 優馬 × 城戸先生


優子「推薦は可能か、特待も目指したいです。第一志望は音楽教育(指揮副専攻)」

城戸「可能性は高い。優子の強みは場を整える力。推薦では“教育的実践”が決め手になる」

•推薦

•評定・欠席の安定に加え、合唱/アンサンブルの指導実践を記録化(計画→実施→振り返り)。

•特待

•指揮実技・視唱・聴音の取りこぼしゼロが条件。

•10秒で空気を整える導入(合図→発声→一体化)を面接にも応用。


やること三行(優子)

1.ミニ合唱の模擬指導を3本録画(導入→発声→曲→振り返りを各3分)

2.視唱・聴音を毎日10分/週1で模擬面接(冒頭10秒の設計)

3.志望理由書 初稿(学校とホールの橋渡し=具体例2件)→来週添削


優馬「スケジュールは家で段取りする。録画も任せて」



先生から二人へ(共通の要所)

•評定・欠席・提出物は“基礎点”。ここで落とすと推薦が遠のく。

•実技は動画で客観視→短く直すの反復。

•面接の一文:

•光子「声と作編曲で“聴いた人が次に優しくなれる瞬間”を設計します。」

•優子「合図と言葉で“緊張がほどける場”を教育として届けます。」

•特待は一本勝負。同時に一般入試の出願準備も“保険”として並走。


城戸「推薦=可能性大/特待=十分狙える。この三週間で“実技の底上げ+書類の説得力”を作ろう。迷ったら、ここに戻っておいで」


廊下に出ると、二人は手帳を開き、今日の三行を書き足した。

——進路は、もう“宣言”から“準備”のフェーズに入っている。





三者面談メモ(保護者向け)—現状の成績と所見


光子さん(担当:城戸)

•評定平均(5段階):4.7(主要5教科4.5/音楽系5.0)

•教科別の目安

•国語:4.5/英語:5.0/数学:4.0/理科:4.5/地歴公民:4.5

•音楽(実技・理論):5.0/情報:4.5/美術:4.5/体育:4.0

•音大関連の実技評価(校内)

•声楽:A+ ピアノ副科:A− 聴音:A 視唱:A− 作編曲ポートフォリオ:A+

•出欠・提出:欠席1/遅刻0/早退0、提出物100%期限内

•所見

•舞台経験と論理的説明が両立。面接想定の応答も安定。

•弱点は数学の計算速度(理解はあるので演習量で解消可)。

•推薦・特待に向けた位置

•校内推薦基準(評定4.3以上・欠席少・活動実績)十分充足。

•特待は実技上位5〜10%圏に入る可能性。自由曲での表現設計を磨けば到達圏。


家庭でのお願い(2週間プラン)

1.課題曲・自由曲の録音→自己チェック(週2)

2.作編曲ポートフォリオを1冊に集約(各作品150字解説)

3.数学は15分/日の計算ドリルで手を温める



優子さん(担当:城戸)

•評定平均(5段階):4.6(主要5教科4.4/音楽・教育系4.9)

•教科別の目安

•国語:4.5/英語:4.5/数学:4.0/理科:4.5/地歴公民:4.5

•音楽(合唱・指揮基礎・音楽教育):4.9/情報:4.5/体育:4.0

•音大関連の実技評価(校内)

•合唱指導実演:A 指揮基礎:A− 発声指導:A

•視唱:A− 聴音:B+(和音聴き取りの再現率を上げたい)

•出欠・提出:欠席0/遅刻1/早退0、提出物100%期限内

•所見

•「場を整える力」が突出。導入10秒で空気を掴める。

•改善点は聴音(和声)の取りこぼし。短時間でも毎日耳を回すと伸びが速い。

•推薦・特待に向けた位置

•校内推薦基準はクリア。

•特待は指揮実技+視唱・聴音の底上げで十分狙える。


家庭でのお願い(2週間プラン)

1.ミニ合唱の模擬指導(3分×3本)を録画→振り返り

2.視唱・聴音10分/日(和音分解→再現、固定ド)

3.志望理由書の初稿を作成(事例2つ:園/地域での実践)



共通(推薦・特待の見通し)

•推薦:評定と出欠・実績の総合で十分可能。

•特待:実技のトップ層入りを目指す仕上げ段階。録音で客観視→短く直す反復を今月集中。


ご不明点があれば、城戸が模擬面接・実技チェックを個別に入れます。日程の希望をお知らせください。





2038・模擬面接と模試の日


午前:模擬面接(光子)


面接室に入ると、長机の向こうに三人。

声楽の佐藤先生、作編曲の黒田先生、進路の城戸先生。


佐藤「志望理由をどうぞ」

光子「声を軸に、作編曲で“聴いた人が次に誰かへ優しくなれる瞬間”を設計したいからです。学校や地域でのアウトリーチも続けます」


黒田「自作『ロサンゼルス組曲』の第2曲、形式は?」

光子「三部形式。中間部は拍節を崩し、都市の“時差感”を和声転調で描きました」


佐藤「舞台トラブル時の対処は?」

光子「伴奏が止まったら客席を一度“静けさで包み直し”、アカペラで入れ直します」


— その場で短いイタリア歌曲を数フレーズ。

響きは素直、終止の処理がきれい。目線も落ちない。


フィードバック(光子)

•良い:冒頭10秒の入り、具体例の密度、身体の安定。

•直し:

1.自作解説は300字以内に圧縮(キーワード3つ)。

2.イタリア語の母音の純度を上げる([a]/[e]の差を明確に)。

3.大きいフォルテに頼らずmezzoforteでの説得力を練る。



午前:模擬面接(優子)


教育の篠崎先生、指揮の田中先生、城戸先生。


篠崎「“音楽教育”を一言で?」

優子「人の緊張がほどけて、互いに届き合える場を作る方法論です」


田中「3分、合唱の導入をやってみて」

— 立位の姿勢づくり→息→ワンフレーズ。声がそろい、空気が一段落ち着く。


篠崎「学校とホールをどう繋ぐ?」

優子「校内ミニプログラムを月1で回し、年1でホールと連携。子どもが“観客”と“出演者”を両方経験できる設計にします」


フィードバック(優子)

•良い:導入3分の設計、言葉の端が柔らかく届く、視線の配り。

•直し:

1.指揮のictus(打点)をもう5cm下で見せる。

2.視唱で跳躍前の準備視線。

3.志望理由書に実践事例を2件(園/地域)入れる。



午後:音大模試(校外実施)


光子・結果

•楽典:88/100

•視唱:A−(音程安定、終止の処理〇)

•聴音:旋律84/和声80(Ⅳ→ii°→Vの聴き取りを要補強)

•英語:85/国語:82

•ピアノ副科:B+(内声の独立△)

•総合偏差:上位7%

•所見:実技は特待圏に近い。イタリア語の母音純度、和声聴音を詰めると一段上がる。


1週間メニュー(光子)

1.母音ドリル([a][e][i][o][u]各1分)+歌曲2曲録音→自己チェック

2.和声聴音:終止進行5題/日(ローマ数字で確認)

3.ピアノ:内声をハミングしながら練習10分/日



優子・結果

•楽典:86/100

•視唱:88/100(跳躍の着地〇)

•聴音:旋律81/和声74(第1転回形の識別が甘い)

•英語:83/国語:84

•指揮実技(評価):B+(パターン明確、ニュアンス指示を加えたい)

•総合偏差:上位12%

•所見:推薦は十分、特待は聴音(和声)と指揮の打点改善で射程に入る。


1週間メニュー(優子)

1.聴音(和声)10分/日:終止形のコレクション(I–V–I/I6–V–I など)

2.指揮:鏡前で打点を下げ、回転小さく→8小節で音色指示を言葉で付す

3.視唱:跳躍前の予見まなざし練習(3度→6度→8度)



下校前・廊下にて


城戸「二人とも、推薦は十分。特待は“あと一段”。この二週間で“実技の底上げ+書類の説得力”を作ろう」

美鈴「家で録音・記録は任せて」

優馬「指揮の鏡はリビングに出しとく」


外の空気はもう夕方。

二人は手帳を開き、今日の三行タスクを書き込む。

— 面接は手応え、模試は課題がくっきり。

歩幅はそろって、進む先は見えている。





光子(声楽+作編曲)


趣味(30秒)


私の趣味はフィールドレコーディングと街歩きスケッチです。風や雑踏、電車のブレーキ音などを録って、和声やリズムの素材にします。聴こえた音を8小節に要約するのが好きで、作編曲の出発点になっています。


特技(30秒)


母音の響きを整えることと、短時間で二部→三部への書き換えが得意です。合唱やアンサンブルで、相手の声色に合わせて即座に移調・和声差し替えができます。


活動経歴(90秒・要点版)


高2で自作の**《ロサンゼルス組曲》を発表し、学外のフルオケ版でも上演されました。

吹奏楽部では全国大会で金賞・グランプリを受賞。

国際会議でのスピーチと曲紹介を担当し、音と言葉で場をつなぐ経験をしました。

地域の園・学校で15–60秒のミニプログラム**を継続。音をきっかけに行動が変わる瞬間を設計してきました。



優子(音楽教育+指揮)


趣味(30秒)


合唱の初見スコア読みと教育書の要約ノートです。3分で譜読み→“導入10秒・発声30秒・合唱1分”のミニ設計に落とす練習を毎日しています。


特技(30秒)


場の緊張を10秒で下げる導入が特技です。姿勢→呼吸→合図の順で、声が揃う土台を作れます。指揮は打点を明確に、言葉でニュアンス指示を添えるのが得意です。


活動経歴(90秒・要点版)


校内外でミニ合唱の指導を実践し、導入→歌→振り返りを3分で回す型を作りました。

国際会議ではアナウンスと進行を担当し、多世代の聴衆をまとめる役割を経験。

吹奏楽部では全国金賞・グランプリ。

園・地域イベントで**“合図と言葉”のプログラム**を継続し、教育としての音楽の手応えを掴みました。



面接カードに書く“ひとこと”例

•光子:「声と作編曲で“聴いた人が次に優しくなれる瞬間”を設計します。」

•優子:「合図と言葉で“緊張がほどける場”を教育として届けます。」


ありがちなNG→言い換え

•NG「歌うことが好きです」

→ OK「母音の純度を意識して、客席の響きが変わるように歌います」

•NG「指揮が得意です」

→ OK「打点を低めに見せ、導入10秒で声を揃える指揮が得意です」


活動経歴の持ち込み(A4・1枚)

•逆順(新しい→古い)で、日付/役割/規模/成果(数値or一言)。

例:202X/11《ロサンゼルス組曲》初演/作曲・構成/編成○○/満席・再演決定。



最後の仕上げ(前日〜当日)

•30秒自己紹介を録音→語尾の伸びをチェック。

•実技後に来そうな深掘り質問3つに一文で答える練習

•光子:「和声選択を変える判断軸は?」

•優子:「導入10秒の手順を言語化すると?」

•持ち物:活動一覧A4、ポートフォリオ冊子、録音QR、筆記具、受験票。





光子:面接回答例(60–90秒)


Q.「ファイブピーチ★やお笑い(ギャグ・コント・落語・漫才)は音楽にどんな影響を与えましたか?」


私は作編曲と声楽に、構成・間・回収の発想を持ち込みました。

コントや落語で学んだのは、①導入のフック(動機提示)、②**“間”の設計**(呼吸と静けさ)、③落ち=回収(動機の再提示)です。自作《ロサンゼルス組曲》では、各曲にモチーフの“回収点”を置き、終止が“物語として落ちる”ように設計しました。

舞台面では、MCや曲紹介を30秒以内に要約し、視線・姿勢・声の明瞭さをコント稽古で矯正。結果として、校内外の本番で集中が切れにくくなり、作品意図がより伝わる実感があります。

客観的根拠は、(1)再演依頼を複数いただいたこと、(2)指導教員から**「終止と“間”の扱いが安定」という講評を継続して得ていること、(3)合奏側からコミュニケーションが明快**とのフィードバックを受けたことです。

まとめると、笑いの技法=“伝わりやすく整える技法”であり、私の音楽の構成力と発信力を底上げしています。



優子:面接回答例(60–90秒)


Q.「同活動は教育・指揮にどんな影響がありましたか?」


教育現場では、導入10秒で緊張を下げる手順(姿勢→呼吸→合図)を、コントのリズム感で磨きました。

落語・漫才からは、①言葉の選択をやわらかく、②視線配りで“聞かれる構え”を作る、③短い単位で達成感を返す、を学び、合唱の立ち上げが短時間でそろうようになりました。

客観的根拠は、(1)園や地域の小プログラムで初回より移行が滑らかになり再依頼が続いていること、(2)校内実習で**「導入が明確」という講評を継続取得、(3)合唱・合奏での入り直し・仕切り直しが即座にできることです。

指揮面では、打点を小さく明確にし、言葉でニュアンスを添えるスタイルに統一。笑いの“間”はそのまま音楽の“間”**に転化でき、場を整える力の土台になっています。



共通で押さえる客観ポイント(面接で1行ずつ)

•再演・再依頼がある(=外部評価の継続性)

•講評の一貫性(終止・導入・伝達が安定、など)

•録音・動画での自己検証を回している(=主観から客観へ)

•チーム活動(ファイブピーチ★)での役割分担:企画・台本・稽古・本番・振り返りを書面化している



追質問への一言テンプレ

•Q.「笑いが音楽を軽くしませんか?」

作品中は音楽を最優先、笑いは導入/転換/紹介に限定。役割を分離して質を守っています。

•Q.「具体的に何が上達?」

間(沈黙)と終止の扱い、観客の注意を戻す一言、仕切り直しの設計です。

•Q.「数で示せますか?」

本番後の再依頼継続、動画の自己評価シート(到達・課題)を提示できます。数値化は移行時間の短縮やリハ回数の圧縮で把握しています。



ポートフォリオに添える1枚(A4)

•左:ファイブピーチ★の活動フロー(企画→稽古→本番→振り返り)

•右:音楽への転用マップ(フック/間/回収 → 導入/クレッシェンド設計/終止)

•下:外部評価の実績(再演依頼・講評要旨・指導者コメント抜粋)





インタビュー回答


光子


Q: あなたにとって、音楽とは?


人の心に“次の一歩”を生む設計です。声や和声で空気を整え、沈黙と終止で想いを回収する——その瞬間、聴いた人が誰かに優しくできる。私にとって音楽は、感情を動作に変える“合図”であり、記録できて再現できる技術でもあります。


Q: ファイブピーチ★とは?


現場で検証できる実験場です。笑い・言葉・音を混ぜ、30〜90秒の小さなプログラムで効果を確かめ、直してまた出す。仲間と同じ方向を見る“共同編集室”であり、地域に開いたアウトリーチの母体でもあります。



優子


Q: あなたにとって、音楽とは?


ばらばらの呼吸を一つにする“場づくりの技術”です。姿勢→息→合図の順で緊張がほどけ、声が揃う。教育としての音楽は、誰も置いていかないための方法論で、私の指揮はそのためのハンドルです。


Q: ファイブピーチ★とは?


観客を“参加者”に変えるチームです。失敗をすぐ直し、笑いで敷居を下げ、音で芯を作る。台本・稽古・本番・振り返りが回り続ける仕組みで、私たちの原点であり拠点。ここで磨いた型を学校とホールへ橋渡しします。



二人に共通する一言:「音と笑いで、人の心が前に進む瞬間をつくる。」





回答:台本を“ほぼ持たない”メリット


光子

1.観客反応で“間”を可変

 笑いの太さに合わせて沈黙やテンポをその場で伸縮。音楽の入り直し(アカペラ→伴奏)も即時に切替。

2.多世代・多文化に強い

 言語依存の長台詞が少ない分、表情・所作・効果音で通じる。海外公演や子ども向けで特に有利。

3.音とのハイブリッドが自在

 “導入→モチーフ→回収”だけ決めて、和声やフレーズ長は現場の響きで調整できる。


優子

4.現場で“編集”できる

 ネタを30–90秒の小ユニット化=入れ替え・順番変更が一拍で可能。押し巻き対応に強い。

5.失敗耐性が高い

 想定外(ハウリング、小道具不具合)をそのままネタ化して回収できる。“決め台詞”より“決め合図”を軸にしているから。

6.稽古コストが軽く、更新が早い

 毎回の振り返り三行(うまくいった/直す/次やる)で翌公演に即反映。陳腐化しにくい。



ただし——“完全に無台本”ではない

•骨組みは固定:①導入10秒(空気を整える)②キーワード(2語以内)③落ちの位置(秒数)④撤収合図。

•合図が台本代わり:目線・指・呼吸で「次のビート」を共有。

•安全・倫理のガードレール:人に当てない/相手が嫌なら即やめる/公共は声量を一段下げる。


どきは台本を作る?

•**生放送・コラボ・長尺(5分超)**は“台本+可変パート”のハイブリッド。

•企画側の要件(時間・表現制限)が厳密なときは台詞も文字で用意。


効果の客観指標(質問対策用)

•再演・再依頼が継続。

•立ち上がりから観客が静まるまでの時間が短縮。

•機材トラブル時の復帰時間が短い(ログで把握)





光子(声楽/作編曲)

•短期(〜3年)

1.声楽家・作編曲家として初リサイタル/自作新作を必ず入れる。

2.学校・病院・地域向けに**30〜90秒の“マイクロ・プログラム”**を体系化(台本+譜面+進行表で提供)。

3.合唱・吹奏楽・室内楽への委嘱作品を毎年1本以上。

•中期(〜5年)

1.《ロサンゼルス組曲》の改訂版をフルオーケストラ再演(録音・配信まで)。

2.「声×器楽」の常設ユニットを立ち上げ、年20公演。

3.学校現場の先生と共同で、**“聴いた人が次に優しくなれる瞬間”**を起点にした教材(合唱曲集+ワーク)を出版。

•長期(10年〜)

1.海外レジデンスで多言語版の歌曲集を制作。

2.日本発のアウトリーチ・モデルを国際会議で発表。

3.“音と言葉で心が前に進む”舞台を、再演が続くレパートリーとして残す。


一言:音で空気を整え、沈黙と終止で想いを回収する——その設計を職能にします。



優子(音楽教育/指揮)

•短期(〜3年)

1.学校とホールを結ぶ**“導入10秒プログラム”**を標準化(姿勢→呼吸→合図)。

2.児童・学生・一般をつなぐ地域合唱プロジェクトを立ち上げ、年2公演。

3.客演・学校現場での合唱/アンサンブル指導を定期化。

•中期(〜5年)

1.指揮者として教育系公演(解説付きコンサート)を年10本規模で運用。

2.先生方向けの研修講座(クラス合唱の立ち上げ法・打点とことば)を年50校に展開。

3.特別支援・多文化環境でも機能する合図と言葉のキットを開発。

•長期(10年〜)

1.合唱祭・学校芸術祭の総合ディレクターとして設計から関与。

2.初心者でも“歌える場”を増やし、歌う人口の底上げに寄与。

3.教育と舞台の橋渡しを、評価可能なモデルとして残す。


一言:緊張がほどけて、声が揃う場を増やします。合図とことばを教育に落とし込みます。



ファイブピーチ★として

•笑い・言葉・音を混ぜた短尺プログラムを、学校・園・地域へ持続的に届ける母体として運営継続。

•年間の再依頼率と参加者の行動変化(歌い出す/手が上がる等)を指標化し、モデルを外部共有。




模擬完了—Vサイン


進路室を出た瞬間、廊下の空気がふわっと軽くなった。

「やったね」——光子と優子、顔を見合わせてVサイン。

ドアの向こうから城戸先生の声。「この調子でいこう。特待、十分狙える」


階段の踊り場で、二人は手帳を開く。

光子は「母音ドリル/和声聴音/録音チェック」を三行、

優子は「打点の位置/聴音10分/導入10秒」を三行。

「次は本番だね」「うん、積み上げるだけ」


校門を出る前に、二人で小さく手のひらを合わせる。ぱちん。

冬の光がVサインに当たって、きれいに跳ねた。





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