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春介と春海のコンビ、双春爆誕

車掌さんごっこ—初運行


リビングにイスを三つ並べて、線路完成。

きょうの編成は一両、運行スタッフは四名。


春介しゃしょう「……ごちょーしゃ、ありがとございまちゅ。ドア、しまりまーす」

(手でドアのマネ→カチャ)

優子おきゃくさん「間に合った〜」

光子おきゃくさん「きっぷ、これでよかですか?」


春介「きっぷ はいけーん。ぴっ(スタンプのマネ)。ごあんしんくだちゃい」


春海(えきいん/アナウンス)「はっしゃ しまーす。ゴトン、ゴトン……

つぎは〜、あじゃたらぱ〜 ひょうじ の えき、あじゃたらぱ〜 ひょうじ の えき〜」


(窓役の光子が、手で“外の景色”を流すマネ)


優子「わ、あかとくろの電車すれちがった!」

春海「とっきゅう ソニック、つうかー!」

春介「ごーごー(小声で効果音)」


春介しゃしょう「しぇきに すわってね。ただいまの てんき、にこ。

つぎは〜、たい焼き前。おりるかたはてて あげて」


優子「はーい、たい焼きでおります〜」

光子「のりかえはできますか?」

春介「できます! “にこはげライン” にのりかえできます!」


(検札ふたたび)


春海アナウンス「まもなく〜、しゅうてん りんご。りんごでかんぱいしまーす」

春介「ゆっくり おたちくだちゃい。ドア、ひらきまーす(カチャ)」


到着ハイタッチ。

全員「ぱちん!」


春介「また はしる?」

春海「また うたう?」

優子「どっちも!」

光子「本日の運行、ばっちり安全運転。次回もよろしくお願いします」


最後にダブルウィンク→ちゅっで、初運行終了。




新年ファミレス・誘惑モード全開


車組がようやく戻ってきた。時計は遅め、台所は休業。

「どこか食べに行こう」——全会一致で、近所のファミレスへ。


自動ドアが開いた瞬間、前列の二人が発光した。

春介・春海「(せーの)ウィンク! ……からの——ちゅっ!」

店員さん「わ、かわいい〜! いらっしゃいませ!」


待合席でも、通路でも、着席しても、誘惑モードは止まらない。

向かいのカップル、隣の親子、スタッフの皆さんまでメロメロ。

美香「こらぁ〜、新年早々誘惑するなって言ったやろ」

春介・春海「えへへ〜(もう一発)」


席につく。メニューは迷わない。

優子「私はハンバーグ」

光子「オムライス」

春介・春海「おこさまプレート! ドリンクばー!」

優馬「お父さんは——」

美鈴「領収書は出らんけん、好きなのどうぞ」

優馬「新年は経費の概念お休み、了解」


配膳。湯気。最初のひと口の前に、また始まる。

春介・春海「(小声)ウィンク……ちゅっ!」

店員さん「サービスで旗もう一本つけときますね」

光子「ありがとうございます。甥と姪なんです」

店員さん「えっ、お子さんじゃないんですね。しっかりしてるからてっきり」


優子(小声)「“誘惑は申請制”やけん、今のは一発だけ」

春介・春海「はーい(と言いつつ、目がキラッ)」


食べる、笑う、また食べる。

美香「デザートどうする?」

全員「別腹!」

アキラ「監督、甘味の采配ナイス」


帰り際、レジ横で最後のダブルウィンク→ちゅっ。

店員さん「今年いちばんの初笑いでした」

光子・優子「こちらこそ」


外は冷たい空気。でも心は満腹で温かい。

新年の夜は、ファミレス発・全方位メロメロで締まった。




二日の手前—帰り道と初夢の約束


ファミレスを出ると、夜の息が白い。

「歩こか」「歩こ」——手をつないで帰る。


横断歩道で小さく合図。

光子「ストップ! ぎゅー! ライト!」

春介・春海「ぱちん!」


角のコンビニで、牛乳とりんごジュースだけ。

袋は軽い。会話も軽い。


玄関。手洗い、うがい、歯みがき。

「お風呂は省略。あったか靴下でOK」


居間の灯りを落として、一曲だけ。

優子「♪ゆきの ぽんぽん——今日はここまで」

春介「もういっかい」

光子「明日の朝に一回」


ふとんは川の字。足元にタオルの土手、胸前に抱き枕。

優子「安全セット、よし」

春海「にこゾーン、よし」


光子「ね、初夢の約束しよ」

春介「でんしゃのゆめ みる」

春海「うたのゆめ みる」

優子「朝になったら“写真一枚と短い言葉”で交換ね」

光子「ノート、枕元に置いとく」


最後に、ちいさな反則。

——ウィンク。からのちゅっ。

家じゅうが、やわらかく降参。


「おやすみタッチ」

全員「ぱちん」


外は静か。中も静か。

二日の手前、いい温度。





ちびっこ漫才:にこはげニュース生配信


朝の居間。毛布をマントにして、テーブルがステージ。


春介「おねえちゃんのギャグ、おもしろいよな」

春海「うちらも できるかな?」

春介「やってみん?」

春海「やってみよー!」


ちょこっと準備——クッション=“ドーン”、ベル=“チーン”、にこシール=“安全”.


アキラ「お、舞台できとるやん」

美香「本日の出演は“春介&春海”でーす」



コント「にこはげニュース」


春海キャスター「にこはげニュース です。

きょうの とっぷ…ゆうわくウィンク たいへん!」

(ウィンク→ちゅっ)


アキラ「うわ、被弾」

美香「監督、笑い堪えられません」


春介レポーター「げんばから おつたえします。

ばばけ たいさんダンス、じゅんび できました」

(手ふりふり)「ばいばい、ばばけ〜」


春海「つづいて、顔面ドーン再現」

(人に当てず、クッションにそっとドーン)

春介「ベルで チーン」(ベルちょん)

春海「あんぜん かくにん、よし!」


春介「さいごは てんきよほう。きょうのてんきは にこ。

ストップ! ぎゅー! ライト! を わすれずに!」

春海「以上、にこはげニュースでした」


(ふたりでダブルウィンク→ちゅっ)



アキラ「ブラボー! ちゃんと安全演出まで完璧」

美香「****が上手い。オチの前の1秒、最高」

春介「うちら、できた?」

春海「できた!」


美香「ごほうびはハイタッチ+ぎゅー」

全員「ぱちん! ぎゅー!」


二人の“ちびっこ漫才”、デビュー戦は大成功。次回予告は——「たい焼き記者会見」だって。えへへ〜。




命名「双春」—はじまりの口上


夜の居間。テーブルに色紙と筆ペン。

美香がちょっとだけ息を整えて、さらりと書いた。


双春そうしゅん


「春介と春海の“春”が二つ。春は何度でも来るけん、長く使える」

そう言ってローマ字でSOUSHUNも添える。丸いスタンプで、ふたりの小さな手形をぽん、ぽん。


「コンビ名、決定。名付け親はお母さん——美香」

光子と優子が拍手し、春介と春海は跳ねる。


「ごあいさつ、練習いこっか」と優子。

春介と春海は前に出て、息を合わせる。


春介・春海「双春です! 春をふたつ、にこひとつ。

ストップ! ぎゅー! ライト!——安全運行でまいります!」


「口上、完璧」と光子。

「決めポーズも」と美香が合図。ふたりはダブルウィンク→ちゅっ、すぐに深くおじぎ。


家族の笑いがやさしくほどける。

色紙は額に入れて壁へ、ノートの表紙には大きく「双春 初舞台ノート」。

最初のページに、光子が短く記す。


今日:命名「双春」。春を二つ、笑いを灯す。


新しい名前は、声に出すとちょうどいい。

「双春」——何度でも呼べる、先の長い音だった。





双春 初公演「新春・安全運行ライブ」


場所:リビング特設ステージ/観客:家族一同



オープニング


春介・春海(声そろえて)「双春です! 春をふたつ、にこひとつ。安全運行でまいります!」

(ダブルウィンク→ちゅっ、深おじぎ)



漫才①「初電車」


春介(車掌帽のまね)「はっしゃ しまーす!」

春海アナウンス「つぎは〜、**あじゃたらぱ〜**駅〜」

春介「切符は?(手を出す)」

春海「にこ切符です!(にこポーズ)」

春介「有効期限?」

春海「ずっと!」

春介「有効ーー!」

(家族:どっと笑い)



コント②「にこはげニュース」


春海キャスター「にこはげニュースです。本日、誘惑ウィンク注意報!」

(ウィンク→ちゅっ)

春介レポーター「現場から——ばばけ退散ダンスの準備できてます!」

春介・春海「ばいばい、ばばけ〜!(手ふりふり)」

春海「以上、にこで解決でした!」



再現③「顔面ドーン&チーン(安全版)」


(クッション=顔、ベル=チーン。人には当てない)


春介「じゅんび、よし!」

(クッションにそっとタッチ)「ドーン!」

春海(ベルに指先ちょん)「チーン」

春介「あんぜん確認、よし!」

(観客:拍手)



歌ネタ④「ストップ! ぎゅー! ライト!」


**春海(手拍子)**♪ ストップ! ぎゅー! ライト!

春介♪ ないたら すぐに ぎゅー!

二人♪ にこで しゅっぱつ しんこー!


(歌い終わりの決めポーズ)



エンディング


春介・春海「ご乗車、ありがとうございました!」

(ダブルウィンク→ちゅっ → 深おじぎ)


美香(名付け親)「双春、初公演——大成功!」

アキラ「アンコール!」

春介・春海「またやる! えへへ〜」


——こうして「双春」の一歩目は、にこで始まった。




二日の久留米—赤嶺本家の集い


二日の朝、久留米。赤嶺家の門松の前で「明けましておめでとう」を重ねる。

玄関には、湯気と笑い声。


まず本家の二人——

赤嶺 安三郎あかみね やすさぶろう)赤嶺 静子しずこ→アキラの祖父母。

「よう来たねぇ」「寒かったろう」


親戚が次々と到着する。

•赤嶺 健吾けんご・赤嶺 あや(優馬の兄夫婦)

 子ども:赤嶺 葵(あおい/中1)、赤嶺 陸(りく/小3)

•田島 直子(たじま なおこ/旧姓・赤嶺)・田島 しん(優馬の妹夫婦)

 子ども:田島 菜々(なな/小4)

赤嶺あかみね 美香みか・赤嶺 あきら

 子ども:赤嶺 春介(しゅんすけ/2)、赤嶺 春海(はるみ/2)(=光子と優子の仲良し甥姪)


座敷に並ぶと、里子が湯のみを配る。

「みっちゃん、ゆうちゃん、大きゅうなったねぇ」

「ただいまです」と光子。優子も笑って会釈する。


春介と春海は、いとこ達の輪へ一直線。

陸「あ、“双春”やん! ウィンクして!」

春介・春海「(せーの)ウィンク→ちゅっ!」

葵「はい、全員ノックアウト」


廊下では健吾が優馬の肩を叩く。「受験生、ようやっとるな」

座卓の端で直子が里子に囁く。「あの子ら、芯が通っとる」


少し落ち着いたところで、ミニ余興。

「双春、ひとネタだけ」と美香。

春介・春海「双春です! 春をふたつ、にこひとつ。安全運行でまいります!」

「次は〜久留米本家〜」「にこ切符は ずっと有効!」

座敷がどっと沸いて、忠弘が目尻を下げる。「よか初笑いばい」


写真は健吾が、まとめ役は葵が、ちいさな世話係は菜々が引き受ける。

廊下のガラス戸の向こう、冬の光。

二日の久留米は、人と名前がちゃんと揃って、あったかかった。




二日の久留米―小倉本家のあったかい日


二日の昼過ぎ、久留米。門松の前で深呼吸してから、小倉家の玄関をくぐる。

「明けましておめでとうございます」——声が重なって、座敷の空気がいっぺんに明るくなった。


まず迎えてくれたのは祖父母、小倉おぐら 健一けんいちと小倉 和世かずよ

「よう来たねぇ、冷たかったろう」「手ば温めてお上がり」


親戚も勢ぞろいしている。

•父の兄夫婦:小倉 大志たいし・小倉 玲奈れな

 子ども:小倉 颯太(そうた/小6)、小倉 茉莉(まり/小3)

•父の妹夫婦:田村たむら りょう・田村 亜衣(あい/旧姓・小倉)

 子ども:田村 ことり(小4)


そして——

赤嶺 春介(しゅんすけ/2)、赤嶺 春海(はるみ/2)(光子と優子の仲良しの甥っ子・姪っ子)も、みかんを握りしめて到着済み。


こたつの周りがすぐ満席になって、和世が湯気の立つお茶を配る。

「みっちゃん、ゆうちゃん、立ち姿が板についたね」

「ただいま帰りました」と光子。優子も微笑んで会釈した。


畳の上では、子ども組が早速わいわい。

颯太「“双春”の新ネタ、見せて!」

茉莉「コールは“春をふたつ、にこひとつ”やろ?」

ことり「私、掛け声するー!」


小さなステージが座卓の前にできる。

春介・春海「双春です! 春をふたつ、にこひとつ。安全運行でまいります!」

「次は〜久留米・小倉本家〜」「にこ切符は ずっと有効!」

座敷がどっと湧いて、健一が目尻を下げる。「よか初笑いや」


少し落ち着いたところで、大志が父・優馬の肩を叩く。

「受験チーム、準備は順調か?」

「うん、“短く明確に、続ける”でね」と優子。

玲奈がうなずく。「必要なものがあったら言って。日にち決まったら紙で貼っとき」


和世が菓子鉢を差し出し、光子にそっと囁く。

「自分の速さで行きんしゃい。春は毎年来るけん」

光子は「はい」と短く返し、頬が少しあたたかくなる。


子ども組は第二ラウンドへ。

颯太「俺、アナウンス役する」

茉莉「じゃ私、“ばばけ退散ダンス”係!」

ことり「“ストップ! ぎゅー! ライト!”の旗ふるね」

春介・春海「えへへ〜(ダブルウィンク→ちゅっ)」


笑いがひとめぐりして、台所からお雑煮の香り。

健一が手を叩いて締める。「よう食べ、よう笑い、よう寝る。二日の本家は、それでよか」


障子越しの冬の日が少し傾く。

小倉家の正月は、名前と声がきちんと揃って、あったかかった。



二日の夜—久留米ラーメン「八幡屋」


「せっかく久留米やし、ラーメン行こ」

誰かの一言で、通りの赤い提灯の方へ歩き出す。湯気の匂いが角を曲がった先まで届いていた。


暖簾をくぐると、カウンターの中で湯切りの音。

「いらっしゃ—」と顔を上げた店主が一瞬止まり、次の瞬間、奥から声が飛んだ。


「……優馬さん!?」


振り返ると、笑顔でエプロン姿の女性。

久留米くるめ 瑠衣るい。優馬の昔の職場の同僚だ。


「わ、瑠衣ちゃん!」

「久しぶりです! こっちは主人の八幡やはた 陸斗りくと。店は八幡屋って言います。今日は子どもも奥に——紹介しますね。**八幡 みなと**と、八幡 柚葉ゆずは、四人でやってます」


陸斗が照れたように会釈。「遠くからよう来んしゃった。座敷空いとるよ」


座ると同時に、鍋の前でテンポが上がる。

白濁のスープがこぽこぽと呼吸し、細麺が湯の中で泳ぐ。

香りは骨太なのに、どこか丸い。刻みねぎ、きくらげ、チャーシュー、海苔。

「お子さまは半分こでも大丈夫。ジュースもあるよ」

瑠衣が笑うと、春介と春海はえへへと頷いた。


「双春、誘惑は申請制やけん、今日はご挨拶だけね」

優子が小声で釘をさす。

二人はちいさくウィンク→ぺこり。カウンターのスタッフが「かわいか〜」と目尻を下げた。


「はい、お待たせ。久留米ラーメン」

丼がすっと並ぶ。

一口目、全員の肩が同時に落ちる。

「……うまい」

「芯があるね」と光子。

「短く明確に、うまい」と優子。

春介と春海はレンゲを両手で持って、「あつい、でもおいち」。


「替え玉、半分で」と優馬。

「私も」と美香。陸斗の湯切りが美しい弧を描く。


食べながら、話は自然と昔へ。

「職場を辞めてから二年でここ開けました。家族で回すのが夢だったけん」

「陸斗のスープ番がしっかりしとる。私は仕込みとホール」

「湊は盛り付けの“ねぎ係”、柚葉は『いらっしゃいませ』練習中」

瑠衣が誇らしげに笑うと、奥から顔を出した子どもたちがぺこり。

春介・春海もつられてぺこり。「にこ切符、ずっと有効」と小声で合図を交わす。


丼がきれいに空いたころ、瑠衣が湯気越しに手を振った。

「また来てね。次はおでんも出しとく」

「必ず」と優馬。

「今日の記録、写真一枚と短い言葉にしよ」

光子がスマホを構え、湯気ごと撮る。キャプションは——


「八幡屋。骨太なのに、やさしい一杯。」


暖簾を出ると、夜の空気が少しだけ甘く感じた。

久留米の通りを抜ける足音は軽く、腹ごなしの会話も軽い。

新年二日の一杯は、懐かしさと今が同じ丼に収まった、いい味だった。





二日の帰り道—湯気と星


八幡屋を出ると、湯気の匂いが背中に残った。

「ごちそうさまでしたー」と手を振って、夜の空気へ。


車に乗ると、春介と春海はすぐにまぶたが落ちる。

シート越しの小さないびき。信号待ちで、美香がミラー越しに微笑む。

「初夢、きょうは“ラーメン電車”やね」


本家に着くと、手洗い、歯みがき、ふとん。

足元にタオルの土手、胸前に抱き枕。

「おやすみタッチ」——ぱちん。


外は澄んだ星。中はあたたかい寝息。

二日の夜は、静かにしまった。




こたつ七ならべ—ダブル春、分かれて勝負


こたつの上にカードがぱらりと広がる。

「よし、七ならべね」

春介は光子の横、春海は優子の横にぴたりと座った。


蒼太がきれいに切って、四方に配る。

「ハートの7から、どうぞ」

春海「だすー!」と両手でハートの7を置く。

春介「ぼく、くろーばの7!」(得意顔)


列がのびはじめる。

優子「ここは6でつなぐね」

春海「ろく、ぺたん」

光子「じゃ、8で伸ばす」

春介「はち、ぽん!」


しばらく順調。ところが——

春海「……ない。ぱしゅ(パス)」

優子「ここ、止められとるね。焦らんでよか」

光子は手札を見てニヤリ。

「春介、この“6のハート”はまだ寝かせとこ」

春介「ひみちゅ作戦?」


盤面の端で、凛乃が実況を始める。

「現在、ハートの列が止まってます。光子・春介組、守りに入ったか」

葵がうなずく。「優子・春海組はクローバーを伸ばして別ルート勝負やね」


春海「きた! 5、あった!」(ぱちん)

優子「ナイス。じゃ、ここで4」

春海「ちいちゃいの、かわいか〜」


光子「そろそろ時合い。6のハート、ぽん」

盤面が一気にほどける。

春介「さん、に、いち!」と続けざまに並べ、列がつながった。

「気持ちいい〜」と座敷が湧く。


残り枚数、拮抗。

優子「最後はタイミング勝負よ」

春海、指先でカードをつまみ、目だけ春介を見る。

春海「いま?」

優子「いま」

春海「エース、ぽん!」

優子「K、ぽん!」

一気に通路が開いて、春海の手札がゼロになる。


「上がり!」

春海が小さくガッツポーズ、優子とハイタッチ。

春介「つよー! もう一回!」

光子(笑いながら)「次はこっちが奇襲でいくよ」


忠弘じいちゃんが手を叩く。

「よか勝負やった。次の一戦、賞品はみかん一個追加!」

里子ばあちゃんが、にこにこで籠を寄せる。


小さな手がカードを集め、また配られる。

こたつのぬくもりと、カードのさらさら音。

正月の夜は、もう一試合ぶん、たっぷり残っていた。





二日の夜風呂—わいわい二交代制


「お泊まり決定〜」の声と同時に、廊下の突き当たりへ行列ができた。

のれん代わりのタオルに手書きで貼る——〈こども時間/おとな時間〉。


第1部:小学生+チビ軍団


まとめ役は中一の葵、監督は美香。

菜々と陸が洗面器を配り、春介と春海は端っこにちょこん。


「まず足からお湯ね〜」「走らない」「バシャッは3回まで」

家ルールを唱和して、ざぶん。


春海「あわあわ、ぽん」

春介「しゃぼん ひげ〜」

(美香が即ネタばらし→タオルでトントン)

陸「オレ、あわタワー係!」

菜々「私は背中流し係!」


湯船は十数えで交代。

葵「はい“いち、にー、さん”…じゅう!」

春介・春海「じゅー!(両手バンザイ)」


上がったらバスマット→タオル→ドライヤーのレーンへ。

葵「ドライヤーは3・2・1の風で終わり」

春海「にこ かぜ〜」

春介「あつくない かぜ〜」


牛乳とリンゴジュースでかんぱいして、第1部終了。


第2部:おとな組


のれんが裏返って**〈おとな時間〉。

光子と優子**は最初に入って、肩まで沈む。


「ふー」「今日もよく動いた」

湯気の向こうで、里子と彩が笑う。

「小さい子の**“十数え”って、なんであんなに可愛いっちゃろね」

「明日、朝一で初もう一回散歩**行く?」


髪をまとめて湯から上がる頃には、廊下の向こうが静かになっていた。


寝床わけ

•小学生部屋:葵・菜々・陸が並んでおしゃべりを小声で延長。

•チビ川の字:春介・春海の両側に光子・優子。足元にタオルの土手、胸前に抱き枕ガード。

•おとな部屋:親戚一同、ふとんをずらり。


「おやすみタッチ」——ぱちん。

「ストップ! ぎゅー! ライト!」の合言葉も小さく確認。


廊下の明かりが一段暗くなる。

どの部屋も、最初の三分はくすくす笑い、そのあとは寝息。

久留米の夜は、湯気の温度を少し残したまま、きれいに沈んでいった。




ワンシーン修正版(冒頭だけ差し替え)


玄関が開くより早く、声が飛んだ。

ひいじいちゃん(安三郎)「おう、よう来たのう!」

ひいばあちゃん(静子)「寒かったろ、手ぇ出してごらん」


春介・春海「ひいじいちゃん! ひいばあちゃん!」

(せーのでウィンク→ちゅっ)

静子「あらまぁ、元気なご挨拶」

安三郎「こりゃぁ家内安全、確認完了やな」


この関係で今後のお話も続けますね。




双春・全方位メロメロ大作戦


座敷いっぱいに親戚大集合。

**ひいじいちゃん(安三郎)とひいばあちゃん(静子)**が真ん中に座ると、前列に「双春」登場。


春介・春海「せーの——」

ウィンク! → ちゅっ!


まずは子ども席へ連続投射。

赤嶺 葵/陸/田島 菜々/赤嶺 海斗/赤嶺 梨央「うわー! ノックアウト!」

手でハートを作って転がる。


次は大人席。

赤嶺 忠弘・里子「御利益やねぇ」

赤嶺 健吾・彩「当たった当たった!」

田島 直子・慎「年始から効く〜」

赤嶺 悠人・佳菜「ずるい可愛さ」

ひいじいちゃん「これは家内安全確定!」

ひいばあちゃん「でも一人一発までよ」


美香「こらぁ〜、追加は申請制」

春介・春海「えへへ〜(小さめにもう一発)」

座敷ぜんぶ、完敗。


締めは全員でおやすみタッチ——ぱちん。

笑いが座敷の端までひろがって、三日の赤嶺家は完全メロメロタイムになった。






双春ネタ②「おねえちゃんズものまねショー」


ちゃぶ台前・特設ステージ/観客:赤嶺ファミリー一同



春介(光子モード/前髪をピンで留めるフリ)

「えー、本日のこうさく会議です。まず、紙で流す〜」

(小さなメモ帳を配るマネ)

「つぎ、**音をならす前の“しーん”**をつくります。さん、にー、いち——しーん」


(座敷、つられて静まる→ぷっ、と笑いが漏れる)


春海(優子モード/喉をあたためるフリ)

「はい、すー…はー…。声はにこで出します。

本日の一言は——『合図は ててタッチ』!」


春介(光子モード)

「本日の連絡、紙で流す。以上です」


春海(優子モード)

「以上じゃないよ〜(ツッコミの手)」



コーナー1:「初電車・本人再現」


春海(優子)「アナウンス行きます。

『つぎは〜**あじゃたらぱ〜**駅〜。にこ切符は、ずっと有効〜』」


春介(光子)「車掌さん、発車進行。

『ストップ! ぎゅー! ライト!』の合図、確認よし」


(ダブルウィンク→ちゅっ → 深おじぎ)


観客:どっと笑い&拍手



コーナー2:「発声のうた」


春海(優子)「発声はにこ口で。♪ぽん・ぽん・ぽ〜ん」

春介(光子)「作曲は八小節……今日は二小節!」

(2小節だけ弾くフリ→キメ顔)


観客・里子「短いのに、なんかそれっぽい!」



コーナー3:「質問コーナー」


春介(光子)「質問どーぞ」

菜々「緊張したら?」

春海(優子)「ててタッチ。それからすー…はー…」


陸「ネタ作るときは?」

春介(光子)「見つけたらメモ。あとで紙で流す」

春海(優子)「やってみる→ちょっと直す→もう一回」



サプライズ:本人登場


優子(本物)「……似とる!」

光子(本物)「ここは**もう一拍“しーん”**入れると——」


双春(息を合わせて)「しーん……ぱん!(笑い)」


座敷、きれいに弾ける。



エンディング


春介・春海「双春でした! 春をふたつ、にこひとつ。

ひいじいちゃん、ひいばあちゃん、見てくれてありがと!」


(ダブルウィンク→ちゅっ/深々おじぎ)


ひいじいちゃん(安三郎)「よう似とったぞ〜!」

ひいばあちゃん(静子)「でも一人一発までね」

家族一同「あはははは!」



双春、星のたまご


「なんか、観察力すごかね」

座敷の空気が一段やわらいだところで、葵がぽつりと言った。

「前髪ピンの留め方とか、吸う息の音とか、**ほんの1秒の“しーん”**まで真似しとった」


菜々がうなずく。「手首の角度も同じ。あれ、見てないとできんやつ」

陸「アナウンスの声の上げ下げ、おんなじ」

海斗「“にこ切符”って言い方、おんなじ」

梨央「“ちゅっ”も、おんなじ〜」


大人席からも声が重なる。

里子「目の付けどころがよう肥えとる」

忠弘「間が読める子は伸びるばい」

健吾「もしかしたら、あの二人(光子と優子)と並ぶお笑いスターになるかもな」

彩「うん、並ぶって言葉、しっくり来る」

直子「しかも音もあるけん、広がりがあるね」

慎「場を見る力がもうある」


少し離れたところで、美香が笑う。

「名付けは“双春”。春は何度でも来るけん、あとは続けるだけ」

アキラ「今日の初舞台で芯が見えた。大丈夫」


褒められた当人たちは——

春介・春海「えへへ〜」

照れながらも、ちゃんと前を向く。


光子がしゃがんで目線を合わせた。

「じゃ、約束。見て、まねて、ちょっと足す。それをまた見てもらう」

優子「にこは忘れずに、ね」


春介「おねえちゃんたちに ならぶ!」

春海「ならぶ! それからちょっと とどく!」


座敷がまた笑いで揺れた。

**ひいじいちゃん(安三郎)**が手を叩く。

「星は小さか時から光っとる。よう見えだしただけや」

ひいばあちゃん(静子)が頷く。

「ほんなら、今夜は星のたまごの祝い。ぜんざい、おかわりね」


湯気が立って、甘い匂いが広がる。

「双春」と誰かが呼ぶと、二人はそろって小さくおじぎした。

——春は、たしかにここにいた。





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