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秋田でのコンクール本番

本番前「笑いクールダウン90秒」

1.宣言(5秒):リーダーが小声で

 「ここから本番モード、しゃべらんばい」

2.姿勢(10秒):足幅=肩。掌を下に向けて太ももに置く(笑いのスイッチを物理的にOFF)。

3.呼吸(30秒):鼻4秒→止2秒→口6秒 ×3。

4.視線(15秒):床の一点を見る。人の目は見ない。

5.口内リセット(10秒):舌を上あごにつけて奥歯を軽く噛む(口角が上がらない形)。

6.給水(20秒):一口だけ→飲んだ回数を指で「1」。私語なし。


5分前ルール(静寂の仕様)

•会話ゼロ・私語ゼロ・スマホゼロ(合図は親指と頷きのみ)

•**通路の“静寂ライン”**をテープで見える化(越えたら完全ミュート)

•役割:静寂係1名/時計係1名/水・ティッシュ係1名


万一こみ上げた時の復帰プロトコル(30秒)

1.口を閉じ舌を上あご→鼻だけで細く8秒吐く

2.目線を譜面の四隅に順に置く(人を見ない)

3.耳たぶ or 手の甲を2回さする(触覚で落ち着かせる)

※ステージ上なら1拍休んで次の小節から復帰。無理に吹かない。


各パートの即効ワザ

•木管:アンブシュアを**「ホ」の形**にして無表情→息だけ通す→音は出さない。

•金管:口角を横に引かない。唇中央をそっと合わせ、鼻吐きで鎮静。

•打楽器:グリップを1→0.5へ弱めてから再セット。小声カウントで指揮に再同期。

•歌口/息多めの人:下唇を軽く内側に。笑いが物理的に出にくい。


漫才は「前日まで」ルール

•当日は午前で打ち止め。本番当日は見学だけ。

•どうしてもやるなら前夜のロビー5分まで。以降は**“まつの★”**に切替。


楽屋の合図(博多弁ミニ台本)

•リーダー:「ここから本番モード。しゃべらんばい」

•パート長:「笑いは楽屋に置いていくばい。戻りは本番後」

•友だち同士:「今は“まつの★”。あとで喋ろ」


入口ポスター文(A5で印刷して貼ると効く)


本番5分前=静寂

①しゃべらない ②目線は床 ③呼吸4-2-6

笑いは置いていく。拍手で回収。


心配なら、今夜リハで**「笑い→90秒で無表情」の練習を1回やっとこ。

それでも不安な子には退避席(袖の端)**を一時待機場所として決めておくと安心。

大丈夫、段取りが味方。笑うのは本番後、盛大に。




本番15分前/袖前・小声だけ


フルートA「さっきの“なまはげサブレ”、まだツボる…本番で笑ったら終わる」

クラリネットB「落ち着こ。深呼吸4ついこう」

打楽器C「(小声)いぶりがっこ…」

女子D「今それ言う?」

顧問「切り替え。ここから本番モード。私語なし、目線は床」


学生リーダー「呼吸、鼻4・止2・口6、3回。——はい、開始」

サックスF「OK…戻ってきた」

ホルンG「ミュート確認した?」

トランペットH「ある。譜面クリップもOK」


健斗「緊張してきた」

優子「正常。足裏だけ感じて、視線は前」

光子「笑いはここで置いてく。ステージでは音だけ」


オーボエI「リード替える、30秒」

ファゴットJ「今のうちに水抜く」

打楽器C「グリップ整えた。袖から先は無言で」


学生リーダー「5分前。最後の確認——入場順、整列幅、譜めくり位置」

クラリネットB「譜めくり3→4にずらした、了解」

フルートA「チューナーOFF」

顧問「いい表情。焦らない。吸って、合わせて、届けるだけ」


(場内アナウンスが薄く流れる)


女子D「行ける?」

健斗「行ける。やる」

優子「じゃ、行ってきます」

光子「行ってきます」


(全員、うなずく/無言で整列して舞台へ)




客席のざわめきがすっと引いて、場内アナウンスが落ち着いた声で告げる。


「つづきまして、福岡高校吹奏楽部。演奏曲は《ロサンゼルス組曲》(吹奏楽版)です。」


袖に並ぶ足元で、靴底が一度だけきゅっと鳴る。整列、入場。譜面台の角度がそろい、椅子の高さが最後に一段だけ調整される。客席のどこかで咳が一つ止まり、照明がわずかに明るくなる。


前へ一歩、代表がマイクへ進む。


「本日は、私たちの街と、つながってくれた街への感謝を込めて《ロサンゼルス組曲》をお届けします。最後まで、どうぞお聴きください。」


一礼。拍手がほどよく広がって、すぐ消える。代表が戻り、指揮台に視線が集まる。指揮者が譜面を閉じ、静かに両手を上げた。


息がそろう。客席の空気が一段、深くなる。


最初の合図。棒がわずかに落ちる。


――音が立ち上がる。


前列の息がまっすぐ走り、和音が客席の背もたれにやわらかく届く。二列目が色を足し、奥の列が地面を敷くみたいに支える。めくり位置で紙が一度だけさらりと鳴り、すぐに消える。舞台袖の黒い幕が、呼吸のたびに少しだけ動いた気がする。


ひとつ目の山を越える。無理はない。次の入りへ向けて、目だけが合図を受け渡す。客席の表情は見ない。前だけを見る。さっきの笑いは置いてきた。ここでは音だけが前に進む。


ホールの空調が静かに流れ、終止へ向かう時間の輪郭がくっきりしていく。拍と拍の間が、ほどよく伸びる。会場全体が「待てている」ことが伝わる。


まだ途中。けれど、着地の場所は全員が知っている。そこへ向かって、ひとつずつ置いていく。音、息、目線。


舞台の上では、それだけで十分だった。




客席の空気がふっと締まり、中間の山場に入る。

低音が地面を押し上げ、上ものが一気に駆け上がる。金管の輪郭が太く重なり、木管の細い線がその間を縫う。打楽器の一打が合図になって、音の塊が前へ前へ転がっていく。指揮の手が高く掲がり、最後の一押しで——頂点。


そこから一転、静寂へ引き戻す。息を吸う音さえ飲み込むような薄いpp。クラリネットが細く長い線を保ち、フルートが光の端だけを添える。客席の誰もが体勢を変えない。待つ時間がきれいにそろう。


再び、ラストに向けて土台が動きだす。低音の刻みが静かに大きくなり、ホールの空気が広がる。主題が戻り、答えるように対旋律が重なる。打楽器が遠くで灯りを点けるみたいに合図を置く。視線は前だけ。迷いはない。


最後の一音。

合図、吸気、同時に置く。狙い通りの高さと幅で、音がホールの中心にぴたりと止まる。指揮の手が静かに下り、誰も動かない。残響が客席の奥から舞台へ返ってくる。薄く、長く、消える。


——完全な静けさ。


次の瞬間、割れんばかりの拍手。

立ち上がる人、手を上げる人、口を開けて声にならない笑顔。舞台上の何人かが小さくうなずき合う。音はもう止んでいるのに、胸の中ではまだ続いている。少しだけ待って、全員で一礼。拍手はさらに厚くなった。




封筒が開かれる音が、会場の静けさにくっきり重なった。

司会の声が落ち着いて響く。


「——金賞は……福岡高校。」


一拍遅れて、客席のあちこちで息がほどけた。舞台袖にいた部員たちの肩が一斉に揺れ、誰かが短く「よし」とだけ言った。拍手が広がる。


司会が続ける。

「つづきまして、**グランプリ(最優秀賞)ならびに審査員特別賞(創作)**は——

福岡高校《ロサンゼルス組曲》。作曲・編曲:光子/優子。」


一瞬、音が全部消えて、それから大きな波になって戻ってきた。

大川先輩が小声で「行け」と背中を押す。光子と優子はうなずき、壇上へ。


トロフィーは想像より重く、楯は冷たい。司会者と審査員と握手を交わし、マイクの前で短く一礼する。


「本日はありがとうございました。支えてくれた皆さんと、いっしょに取った賞です。」


それだけ言って、もう一度頭を下げた。客席の部員たちが立ち上がりかけて、慌てて座り直す。袖では誰かが目頭を指で押さえている。


戻ってくると、大川先輩がにやりと笑った。

「よくやった。」


「はい。やり切りました。」


拍手はまだ続いていた。トロフィーの重みが、手の中で確かな現実になっていた。





壇上でトロフィーと賞状を受け取り、深く一礼。足元の緊張をそのままステージの端に置いて、二人は袖へと戻った。


「やったよ〜」


言い終わる前に、輪が崩れて雪崩みたいに集まってくる。

「おめでとー!」「やったー!」「すごかー!」

肩、背中、腕——いろんな手が同時につかんで、光子と優子はあっという間に宙へ。ふわっと持ち上げられ、降ろされ、また引き寄せられる。トロフィーを抱えた腕だけは誰かがしっかり支えてくれていて、賞状は別の誰かが胸に当てて守っている。


「ちょ、賞状折れる折れる!」

「トロフィー重たかろ、交代交代!」

「写真、写真! はい並んでー!」


顧問が笑いながらも「並べー」と片手を上げる。列は一応、形になる。

中央に光子と優子、左右にトロフィーと賞状を持つ係。背後から「せーので行くよ」の声。


「せーの——」


「ありがとう!」


シャッターがいくつも重なって鳴る。泣き笑いの顔、真顔のまま親指を立てる顔、肩に額を押しつけている顔。胸の高さで受け取り直したトロフィーは、冷たさよりも手のひらの温度を強く持ち始めている。


「先輩、ほんとにすごかったっす」

健斗が近づいて、いつもの声で言う。

「みんなで取ったやん」と優子。

「うちらだけやない」と光子。


「帰ったら、まず家の味で祝いやね」と誰かが言い、別の誰かが「その前に片付け!」と返す。笑いがまた弾む。


トロフィーの金色が、ホールの天井の明かりを何度も跳ね返していた。二人はそれを見下ろして、もう一度だけ短く頷いた。今度は誰にも見えないくらい小さく。





千秋公園の堀は、薄い風でさざなみが立っていた。石段を上がるたび、靴底が乾いた音を残す。澄んだ空気に、枯葉の匂いが少し混じる。


「思ったより、ひんやりするね」

優子がマフラーを首に巻き直す。自販機の温かいお茶を一本、光子に渡した。


「助かる。手があったまる」


さおりと詩織は地図を見ながら、「御隅櫓こっち?」「たぶんこっち」と小走りで先導する。朱里と樹里はベンチでひと息、ポケットから小さなカイロを二つ出して分け合った。


堀沿いの遊歩道には、赤や黄の葉がまばらに残っている。風が吹くと、数枚だけふわりと落ちた。城跡の門をくぐると、空がひらける。久保田城の御隅櫓が、くっきりと空を切っていた。


「上まで行ってみよう」

階段を上がると、秋田の街並みが一望できた。遠くの山は薄く雪の色を含んでいる。


「ここまで来れたね」

光子の言葉に、優子がうなずく。「うん。ちゃんと来れた」


さおりがスマホを掲げる。

「はい、こっち向いて——三、二、一」

シャッターの音。もう一枚、と詩織が横から顔を出す。朱里と樹里は肩を寄せ、風に前髪を押さえた。


「堀のところでも撮ろう」

戻る途中、いちょうの下で立ち止まる。地面は小さな黄色の輪っかで埋まっている。靴先でそっと触れると、かさりと音がした。


「これ、家族への写真にもいいね」

「部室にも一枚、貼ろうよ」


売店の前に出ると、ケースには小さな郷土菓子が並んでいた。ババヘラのポップも見えるが、今日はソフトではなく温かい甘酒が人気らしい。朱里がカップを二つ買って、みんなで回し飲みした。


「指先、戻るね」

「明日はもう少し厚着でもいいかも」


公園の出口へ向かう道、堀の端で鴨が二羽、静かに並んで浮いていた。光子が小さく笑う。

「並び順、さっきの整列より綺麗」


「負けたね」

優子が肩をすくめ、手袋をはめ直す。


門を出ると、街の方からバスの音。時間はまだある。次は近くの商店街へ行こう、稲庭うどんは昼にしよう、夜はきりたんぽ鍋にしよう——自然と話が決まっていく。


晩秋の風は相変わらず冷たい。でも、歩調は軽い。千秋公園の高い空の下で撮った写真が、もうカメラロールの中で光っている。明日になれば、またそれぞれの持ち場が始まる。今日はただ、ここを歩いておく。そんなふうに、みんなが同じ方向を向いていた。




千秋公園の堀で、二羽のカモが並んで漂っている。首を小さく上下させるタイミングまで、やけにそろっていた。


「ねぇみっちゃん、あれ、ギャグコントじゃね?」

「聞こえる…台本できとる気がする」


ふたりの頭の中で、勝手に“脳内上演”が始まった。



脳内コント『カモはカモかも』


カモ夫(胸を張って)

「整列〜。本番前はしゃべらん!…いや、ガーガー言わん!」


カモのんびり

「はいはい。で、あんた、入場順は前カモ? 後ろカモ?」


カモ夫

「前カモ! …いや、前かも(自信なし)。」


カモ美

「その“かも”便利やね。責任、全部浮かべて流す気やろ?」


カモ夫

「違う違う、作戦や。V字で泳ぐと省エネやけん…」


カモ美

「ここ、堀やし。二羽で十分やろ。省エネより省トラブル」


カモ夫(急に真面目)

「ところで聞いて。『なまはげサブレ』って、人間は並んで待って食べるらしい」


カモ美

「うちは並んで待って風を食べる派。ゼロカロリー。はい勝ち」


カモ夫

「負けを認めるの早っ。…じゃ、リハ。はい、無音の一秒!」


(ふたり、ピタッと停止。堀の面だけがゆらっと揺れる)


カモ美(小声)

「…今の、めっちゃキマったね。残響、水面仕上げ」


カモ夫

「よし、このままラスト。せーの、同時ターン!」


(同時にくるっと向きを変える。ほんの少しズレる)


カモ美

「今、コンマ一秒ズレとった」


カモ夫

「風のせいかも」


カモ美

「それ言うと思った。じゃ、ご褒美に——散歩は“あとで”。今は本番やけん」


カモ夫

「了解。届けるだけやね」


(ふたり、同じ速度で遠ざかる。最後に片目だけチラッとこちらを見る)



「……完璧にコンビやね」

「タイトルは『カモはカモかも』で決まり」


光子はポケットから小さなメモを出し、二行だけ走り書きした。

「“二羽で十分/無音の一秒”」


優子がうなずく。「帰ったら台本にしよ。カモンなネタ、一本完成」





商店街の角を曲がると、湯気ののぼるのれんが見えた。木の引き戸を開けると、出汁の匂いが一気に押し寄せる。小上がりの座卓に案内され、上着を畳んで座る。


「すみません、きりたんぽ鍋を人数分、塩味でお願いします。あと、いぶりがっことクリームチーズ、ハタハタの塩焼きを少しずつ」


店のひとが「はいよ」と笑って去る。間もなく土鍋が置かれ、比内地鶏の出汁がぐつぐつ言い始める。ごぼう、舞茸、せり。たんぽが出汁を吸って、角が柔らかくなる。


「いただきます」


最初の一口で、みんなの肩の力が抜ける。

「……染みる」

「歯ざわり、いい」

「せり、香りやばい」


皿には輪切りのいぶりがっこ。厚めのやつにクリームチーズをのせてかじる子、薄めを二枚重ねる子。

「燻り、強いのに優しい」

「チーズと合うのずるい」


焼き網にのったハタハタは、表面がふっくら割れ、脂がにじむ。

「骨、どういく?」

「背びれ沿いにすすっといくと楽」

「ほんとだ、するする抜ける」


鍋は二巡目でたんぽを追加。出汁が深くなり、鶏肉のうま味が丸くなる。

「これは止まらん」

「でも止める。明日ある」

「えらい」


締めは稲庭うどんを少しだけ。鍋の中で一呼吸させて、するりとすする。

「細いのに存在感あるね」

「喉ごしの勝ち」


食後、温かいほうじ茶。デザート代わりに近くの和菓子屋で金萬を一箱だけ買って、みんなで一個ずつ分ける。

「ふわふわ」

「甘さ、ちょうど」


外に出ると、吐く息が白い。手袋に手を戻しながら、誰かが言う。

「秋田の“おいしい”、静かだね」

「うん。元気になる静かさ」


ホテルへ戻る前、コンビニで明日のための水とラムネを少し買い足す。部屋に着いたら、荷物を整えて、軽くストレッチ、歯磨き。


「ごちそうさま」

「明日、やろう」


灯りを落とすと、窓の向こうで冷たい風が街路樹を揺らした。お腹は満ちて、気持ちは軽い。明日の音のために、今夜はただ眠るだけだ。




ビデオ通話コント「ナマハゲ・オンライン(サブレは平和の味)」


場所:宿舎の一室/相手側=実家のリビング。画面は分割表示。

小道具:ナマハゲお面×2、ナマハゲサブレの箱、手描きプラカード「※おどかしは3秒まで」



(発信音→接続。画面に春介・春海のドアップ。にこー)

光子(低音・お面)「ワルい子はいねぇが〜〜」

優子(低音・お面)「早よ寝ん子はいねぇが〜〜」


春介/春海「……(きょとん)……」→**「ぎゃーーー!! ばばけが〜! ばばけが〜!!」**

春介「みーかぁー! だっこー!」

春海「ばばけ、やだー!」


(美香、画面にスライドイン)

美香「はい、一旦停止!」(手元の小札をカメラ前に出す:「※おどかしは3秒まで」)

美香「ナマハゲさん、ルール違反でーす」


光子・優子(お面のまま、小声)「す、すみません……」



コント第1幕:取り調べ


美香(刑事役)「被疑者はなまはげA・B。動機は?」

光子(A)「サブレ渡したかった……」

優子(B)「“悪い子いねぇが”って言ってみたかった……」


春介(原告)「ばばけ、こわい」

春海(原告)「こわい。おめん、やだ」


美香(判決)「よろしい。執行猶予=謝罪とサブレ。ただし“こわくない声”で!」


光子・優子(お面を外す/声ふつう)

光子「ごめんね。びっくりさせたね」

優子「サブレ、いっしょに食べよう?」


春介「……(様子見)……さぶれ?」

春海「さぶれ……たべる」



コント第2幕:ナマハゲ平和条約


美香(議長)「では、ナマハゲ平和条約を結びます。条文読み上げ!」

1.おどかしは3秒まで。(超えたら美香に没収)

2.サブレは“いただきます”のあと、ひとかけから。

3.こわかったら、すぐ“ぎゅー”要求OK。


春介・春海「ぎゅー、OK」

光子・優子「ぎゅー、OK」


(全員で親指グッ/条約成立の効果音を口で言う「ジャーン」)



コント第3幕:言い間違い裁判


優子「ところでさっきの『ばばけ』ってなに?」

春海「ば…ばけ……(困った顔)」

光子「なるほど、『おばけ』の省略形か!」

春介「ばばけ=おばけ。こわい」


美香(通訳)「裁判所の見解:“ばばけ”=“おばけ”で正しい」

光子・優子「異議なし!」



コント第4幕:お面の使い方講座


光子「じゃあ“こわくないお面”に改造しよう」

(お面の裏にニコニコの紙をテープで貼って見せる)

優子「ほら、“ニコハゲ”に変身」

春介・春海「……(じっと見る)……にこー」

春介「にこはげ、すき」

春海「にこはげ、すき」



コント第5幕:サブレ警察 出動


美香「それではサブレ警察、規定により配布を開始する!」

光子「被害者から優先! はい、ひとかけ」

優子「“ありがとう”のちっちゃい声、聞こえたらもうひとかけ」


春海(超小声)「ありがと……」→もうひとかけGET

春介(誇張小声)「ありが……(噛む)……と」→審議

美香「可愛いので可決」



コント最終幕:ばばけ退散ダンス


光子「最後はばばけ退散ダンスで終了!」

優子「手は“バイバイ”、足は“トントン”、口は“バイバイ、ばばけ”」


全員「バイバイ、ばばけ〜」(左右に手を振ってトントン)

春介・春海「ばいばい〜(笑)」


美香(ナレーション風)「本日の学び:おどかし3秒、ぎゅー無制限、サブレは平和」


光子「条約、守れた?」

春介「まもれた!」

春海「ぎゅー、する」

優子「はい、ぎゅー」


(ぎゅーのジェスチャー→画面越しに“ぎゅー”)



美香「じゃ、そろそろ寝る準備。歯みがき、いける?」

春介・春海「いけるー!」

光子「えらい!」

優子「明日、またビデオで“にこはげ”やる?」

春介・春海「やるー!」


(通話終了前、春海がちょこっと)

春海「おねえしゃん、だいちゅき」

光子・優子(即答)「だいすき!」


(ピッ。通話終了。宿舎の部屋に静けさ)


光子「……条約、効いたね」

優子「うん。サブレは平和だわ」


二人はお面をたたみ、箱をそっと閉じる。明日の集合時間を確認して、灯りを落とした。




玄関の灯りが落ち着いた色に変わるころ、リビングのテーブルに小さな星シールが一枚残っていた。ビデオ通話の余韻がまだ温かい。そこへ、追いメッセージが入る。


春介「でもね。おばちゃん言ったら、ばばけがくるとよ」

春海「ばばけ、くるくる〜」


美香「はい、追加ルールね。『“おばちゃん”言うたら“ばばけ警告”発動』」

光子「了解。うちは“おねえさん”やけん」

優子「“おねえさん”練習しよ。はい、5回——」


春介・春海「おねえしゃん! おねえしゃん! おねえしゃん! おねえしゃん! おねえしゃん!」


光子「満点。ほら、“にこはげ”も拍手しとー」(お面の裏にニコ紙を見せる)

優子「確認テスト——“誰がおば…?”」


春介「ピー! それ言うたら、ばばけ来る!」

春海「にこはげだけ、OK」


美香「条文追加で確定ね——“呼び名は『おねえさん』/『おばちゃん』は即ニコはげ召喚”」

光子「異議なし。ばばけは来らんごと“にこ”でいこ」

優子「ほんなら最後、復唱——“おねえさん、だいすき”」


春介・春海「おねえしゃん、だいちゅき〜」


光子「だいすき〜」

優子「だいすき〜。ばばけは、おやすみ〜」


通話が切れると、部屋は静かになった。テーブルの星シールを一枚、メモに貼り替える。そこには新しい一行。


「“おねえさん”って呼ぶ。ばばけ対策は“にこ”。」





光子「春介、春海、さっきはびっくりさせてごめんね。ばばけはもう寝とるけん、来らんよ」

優子「呼ぶときは**“おねえさん”でお願いね。上手に言えたらハイタッチとサブレひとかけな」

光子「“おばちゃん”言うたらにこはげ**(こわくないやつ)だけ出てくるけん、安心しとって」

優子「にこはげは笑う練習係やけん、ぜーんぜん怖くなかよ」

光子「今日はもう歯みがき→お水→ねんねの順番ね。できたら“ぎゅー”無制限」

優子「うちからの秋田みやげ、明日の朝あけよ。楽しみにしとき」

光子「それと、おねえさんたちは春介と春海がだいすき。ここ、ぎゅーってしみとって」

優子「ほんなら、おやすみのタッチいくよ。てて出して——はい、ぱちん」

光子「お布団あったかくして、いい夢見んしゃい。ばばけはお休み、にこだけ起きとる」

優子「また明日ビデオつなご。**“おねえさん”**の練習、100点とりに来いね」





部屋の明かりを少し落として、二人はベッドの端に腰を下ろした。通話の余韻で、まだ頬がゆるい。


光子「あ〜おもしろかったー。あげん驚くっち思わんやったわ」

優子「ほんにね。3秒ルール、ちぃとオーバーしとったかもやね」

光子「にこはげ、効き目バツグンやったばい」

優子「“おねえさん”の発音も満点やったしね」

光子「次やる時は昼間だけにしよ。夜はにこ限定」

優子「了解。ばばけ封印、サブレ解禁」

光子「ほんなら今日は歯みがきして寝る。明日、写真ちょこっと送ろ」

優子「賛成。明日は本番の疲れ、残さんごといこ」


二人で小さく笑い直して、手早く支度を終える。窓の外は冷たい風。部屋の中は、まだ少しだけ、笑いの温度が残っていた。





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