体のメンテに、朝の爆笑わんこの三角関係
ガラス戸の向こう、ユーカリの香りがふわりと漂う整骨院。
受付で名前を書きながら、光子が腰をそっと押さえる。
「先生、腰ば重点的にマッサージしてもろうてよか?」
「もちろん。今日はメンテ日やね。ではお二人、こちらへどうぞ。」(村上先生)
白いカーテンの仕切りの中、ベッドにうつ伏せ。タオル越しに温熱パッドがのると、ふわっと筋肉がほどけていく。
先生がまず呼吸を合わせるように、背中に手を置いた。
「深呼吸して〜。鼻から吸って、“あんれまんまぁ”でゆっくり吐く。」
「“あんれまんまぁ”はここでも万能やねぇ。」(優子)
「舞台で緊張ほどく呪文って聞いとるばい。」(先生、にやり)
親指が腰の横(腰方形筋)をとらえる。
「ここ、こわばっとる。チューバ抱えとると片側に負担が寄りやすいっちゃん。」
「う、そこ効く〜っ。」(光子)
「痛い?“気持ちいい痛さ”の手前で止めるけん。」(先生)
次に殿筋まわり。掌が大きく円を描く。
「ここはパーカッションで踏ん張る時に働くとこ。優子さん、案外こっちの方が固い。」
「図星…昨日のロールで張りついたかも。」
「はい、ゆっくり膝を曲げて、倒して、戻す。…そうそう、呼吸は“あんれまんまぁ”。」
肩甲骨の内側を流し、ハムストリングをじんわり伸ばし、最後に腰椎まわりを軽くモビライゼーション。
「仕上げはテーピングでサポートしとくね。」
「先生、それ…ピーチ色?」
「“ファイブピーチ★仕様”たい。」(先生、悪戯っぽく笑う)
「やった!腰に公式コラボ来た〜。」(光子)
ベッドから起き上がると、ふたり同時に首をかしげる。
「軽っ!」
「骨盤の傾きがちょい前傾やったけん、整えて神経の通り道も楽になっとる。無理は禁物やけどね。」
カーテンを開け、仕上げのストレッチ講座。
先生が壁に手をついて見本を見せる。
「今日から当面これば守って:
① 朝・夜に“猫の伸び”30秒×2(腰背部のリセット)
② リハビリ版“ブリッジ”10回(お尻と体幹で腰を守る)
③ 楽屋では30分ごとに立って“あんれまんまぁ呼吸”3回
④ 水分はこまめに。カフェインのあと一杯は“ただの水”
⑤ 長時間の笑いは腹筋酷使になるけん、合間に背面ストレッチ」
「先生、“長時間の笑い”は仕事やけん、そこは勘弁して〜。」(優子)
「なら“無音ボケ休憩”挟みんしゃい。」(先生)
「了解。“無音ボケ”3分クールダウン、導入します。」(光子)
会計前、受付さんがこっそり。
「今日は“脱水プリンポーズ”は封印でお願いしますね。」
「うむ、腰によくないけん封印!…でも口だけで言う……『脱水プリンが、黙っちゃあ、いないぜ』」
「口だけはやめんとね!」(受付&先生の同時ツッコミ)
外に出ると風が涼しい。
「よし、仕上げに公園で“猫の伸び”して帰ろ。」
「帰りは“無音ボケ”で省エネ移動。…3、2、1、あんれまんまぁ〜」
ふたりの歩幅はそろい、腰は羽みたいに軽かった。
施術ベッドの脇、先生が洗面ボウルを置いた。ぬるめの温浴用に小さなタオルも用意される。
「じゃあ今日は腰に加えて、手首〜指先まで同時メンテいくよ。舞台も吹部も“手”が命やけんね。」(村上先生)
まずは温熱で血行を上げる。指先までじんわり温まったところで、先生の親指が掌の付け根(母指球)に沈む。
「ここ、スティックとピストンで酷使ゾーン。痛気持ちんとこで止めるけん。」
「う、そこは反則〜…けど効く〜!」(優子)
「指先までポカポカ通っとる感じするばい。」(光子)
手関節・前腕の“流す → ほどく → 動かす”
•前腕の筋膜リリース:屈筋群・伸筋群を掌から肘へ“なでる→押す→弾く”の順で。
•橈骨・尺骨のモビライゼーション:手首を軽く牽引してから、掌屈・背屈、尺屈・橈屈を小さく往復。
•親指まわり(第1背側コンパートメント):スマホ&スティックで硬くなりやすい部位を、米粒大の圧で円描き。
•手根骨の微振動:先生が“コトコト”と関節を揺らし、可動を呼び戻す。
「はい、次は神経の“通り”ば整えるよ。指は電線、首は変電所と思うと覚えやすい。」
先生はミディアン・グライドをデモ。腕を横に伸ばし、手首をそらし、首を反対へコテン。
「ゆっくり、“あんれまんまぁ”で吐きながら。」
「おお…痺れっぽかったのがスーッと引くね。」(優子)
役割別のチェックとドリル
•優子
「スティックのフルクラムは親指と人差し指の腹。中指はサポート。“握る”やなく“預ける”。反発を使って8 on a hand、10〜15秒で止めて“無音ボケ休憩”3秒。手首は小さく円、肘から先で“振らん”。」
「了解、“預ける”ね。力み封印や。」(優子)
•光子(チューバ&ベース)
「ピストンは指の独立が命。キーの“上げ幅”を3mm想定のミニタップ練。ベースはオルタネイトの省エネ、親指アンカー浅め。長時間は**親指の付け根(CM関節)**が疲れやすいけん、テーピング薄く一巻きで保護しとく。」
「指の上げ幅、そんなに小さくでよかと?…おお、速くて楽!」(光子)
お持ち帰りセルフケア(所要5分×1日2回)
1.腱グライド(Tendon Glides):
まっすぐ → フック → テーブルトップ → フィスト、各5秒×3巡。
2.ラバーバンド外転:
指に輪ゴム(やわらかめ)を掛けてパッと開く×15。
3.手首ストレッチ:
掌屈/背屈 各20秒×2、肘は伸ばす。
4.米バケツ(なければタオルギュッ):
わしづかみ→ひねる→指すくい、各30秒。
5.神経フロス(ミディアン/尺骨神経):
痛みゼロの範囲で5回ゆらす。
6.“無音ボケ休憩”:
練習30分ごとに手をプラプラ10秒+“あんれまんまぁ”呼吸3回。
先生は最後に軽いテーピングを親指根元と手首に。
「今日は“ピーチ色”で統一しとく。」
「先生、それ絶対わざとやろ〜(笑)。」(優子)
「舞台衣装に合うけん良かろ?」(先生、ニヤリ)
仕上げに、氷水で10秒だけチョン浸け→タオルでポン拭きのクールダウン。
「温めたら短く冷やす。炎症の芽を摘む“火消し”たい。」
「はいはい、“温めて、笑って、ちょい冷やす”っと。」(光子)
会計を済ませて外へ。指先が軽く、タップを刻みたくなる。
「手も腰もリフレッシュ完了、ばっちり。」
「今夜のルーティン:“猫の伸び”→腱グライド→無音ボケ。…よし、指が“脱水プリン”みたいに回りすぎんごと気をつけよ。」
「そこは回さんでよかって!(笑)」
ふたりは手をパタパタ振りながら、夕方の風に指先を冷やし、次のステージへ歩き出した。
七月七日、双子の願いと“おめじぇちょう”
七夕の夜、玄関に小さな笹が立った。短冊は色とりどり、どれも丸い文字でぎっしりだ。
「世界から戦争がなくなりますように」「博多から笑いと笑顔の雨を」——光子と優子の願いは、いつも通りで、いつも本気。
リビングには家族と仲間が集合。優馬と美鈴、美香とアキラ、そして主役を見つけると秒速でハイハイから伝い歩きに移行する二人組が突撃してくる。
春介「おめじぇちょう、みーちゅーオバチャン!」
春海「おめじぇちょう、ゆーちゅーオバチャン!」
一拍。
光子「……やかましかぁ!なんで“お姉ちゃん”が“オバチャン”に進化しとると!」
優子「進化やなくて退化やろがい!」
美香(吹き出しながら)「はいはい、主役の機嫌が溶ける前にケーキ入刀するけん、落ち着きんしゃい〜」
脱水プリン・バースデーケーキ
今日のケーキは、例の“洗濯機プリン事件”への完全オマージュ。真ん中に黄金色のプリン、その周りをホイップが洗濯槽みたいに渦を巻いている。トップには「17」のキャンドルと、ミニチュアの“脱水プリン”プレート。
優馬「ケーキ名、**『脱水プリン・ラプソディ』**や!」
美鈴「はいはい、ろうそく点けるよ〜」
火が灯ると、春介の瞳がキラッ。
春介(うちなる声):ひかる!ふうする!オレ、えーす!
春海(うちなる声):まちなさい。にーに、ちかいのはアブナイ。ツッコミ女王の本能がうずく…!
春介が勢いよく“ふーっ”。火は消えた。が、同時にホイップの渦へ顔面ダイブ未遂。
優子「待ったぁぁぁーーっ!」(超反射で抱き上げる)
光子「セーフ!ホイップ風呂、ギリ回避やん!」
春海「にーに、アブナイ(ぺちんと肩をタッチ)」
春介「えへ(ウィンク)」
プレゼント開封——楽器オタク歓喜回
美鈴からは、光子へ金メッキのチューバ・マウスピース、優子へ名入れドラムスティック。
美鈴「**『笑いと音で世界を軽くする』**って彫っとるけん」
優子「母ちゃん……しみるやん」
光子「音も笑いも“腹の底から”やね。よし、鳴らしてくる!」
さおり・朱里・樹里からは、短冊柄の譜面ファイルと七夕デザインのミュート袋。
美香&アキラからは、LA組曲のスコア用レザーケース。
優馬からは……新作ギャグT『脱水プリンが黙っちゃいないぜ』(背面に17のナンバー入り)。
全員「父ちゃんだけ路線がぶれんねぇ……(でも嬉しい)」
ミニライブ:七夕アコースティック
リビングの灯りを少し落として、笹の影が壁に揺れる。
光子がベースを抱え、優子はカホン。美香はピアノに座る。翼と拓実は手拍子担当、春介&春海は特等席(美香の膝)で観客。
優子「一曲目、『恋は秋色』の七夕ショートver.」
光子「そして新曲、“星合いの夜に”——即興コーラス、行くばい!」
柔らかな低音と、指先で刻むリズム。声は澄み、笑ってほどける。
(春海のまぶた、とろり。春介も指をくわえながらうっとり——次の瞬間、カメラに向かってウィンク。プロの血筋、恐るべし)
“オバチャン”問題・最終審議
曲が終わるや否や、主役ふたりが正座する(なぜ)。
光子「春介、春海。よーく聞きんしゃい。うちらは“お姉ちゃん”。」
優子「“オバチャン”はね、20年後に気が向いたら検討します」
春介「おねー……しゃん?」
春海「おねー……しゃん♡」
——次の瞬間。
春介「みーちゅー“おねーしゃん” しゅき!(投げキッス)」
春海「ゆーちゅー“おねーしゃん” しゅき!(ウィンク)」
全員「よかーっ!!(拍手喝采)」
優子「判決。“オバチャン”呼びは雷の時だけ有効。」
光子「異議なし。雷限定条項、可決!」
七夕の締め——短冊に書いたこと
笹の前で記念撮影。
優馬「よし、最後はひと言ずつ願い事、声に出して結ぼうや」
光子「『戦うより笑おう。鉄の雨より笑いの雨を。』」
優子「『歌とギャグで、今日もだれかの心に風を。』」
美香「『子どもたちの“しゅき”が、まっすぐ育ちますように。』」
アキラ「『特等席はいつか返ってきますように……』」
美鈴「『家内安全・腹筋安全。』」
優馬「『日本のギャグの震源地、健在。』」
春介「おねーしゃん、しゅき。」
春海「おねーしゃん、だいしゅき。」
窓の外、雨上がりの雲間から星がのぞく。
17本の光、ふたりの未来。
その真ん中で「おめじぇちょう」が「おめでとう」に少しだけ近づいた。七夕の夜は、笑い声と拍手と、小さな寝息で静かに満ちていった。
やっと「お姉ちゃん」呼びが定着して、その夜の双子は同時に長い息を吐いた。
胸の前でハイタッチして、ふたりで小声。
「ふぅ…やれやれたい。まだJK2年やけん、オバチャンは早すぎるっちゃ」
「ほんなこつ。雷の時だけ“例外”っち約束も取りつけたしね」
翌朝。玄関を出た瞬間、空の向こうで——ボフッ、と遠雷。
ふたりの足が同時に止まる。
「……今の、聞こえた?」
「聞こえた。条項発動の危機やね…」
そこへ美香の腕に抱かれた春介・春海がバイバイをしに顔を出す。
にこーっ、からの——
春介「みーちゅー“おねーしゃん”!」
春海「ゆーちゅー“おねーしゃん”!」
ほっと肩が落ちる。ふたりは顔を見合わせ、にんまり。
「セーフ!今日は“お姉ちゃん”継続や」
「この調子で一週間、いや一生キープしてこ!」
登校路、スマホには部活グループの通知が雪崩のように届く。
《合奏14:30集合》《ロス組曲、テンポⅢ見直し》《今日のおやつはプリン禁止》
優子が画面を閉じて、くるりとバチケースを肩に回す。
「みっちゃん、今日くらい平和に過ごしたかね?」
「そのセリフ言うた5分後に事件が起きるのが、うちらの“仕様”やけどね」
「知らんけど!」
ふたりは笑って自転車にまたがる。
風は夏の入口、空は少しだけ不穏——でも、心は軽い。
“お姉ちゃん”を守り抜いた小さな勝利に、次のドタバタの足音が重なる。
やれやれ、と思いつつも、結局ふたりはワクワクしているのだ。
今日も、笑いで世界をちょっとだけ軽くする準備はできている。
朝の風を切って、双子は並走する。
博多南小の校門前、黄色い帽子とランドセルの群れが横断歩道を渡る。
「おはよう〜!勉強がんばり〜!」
「転ばんごとね〜!今日はプリン持って洗濯機入れたらいかんばい〜!」
「なんの話!?」「プリン…?」「洗濯機…?」と、子どもたちがクスクス。
横で旗を持つ見守り隊のおじちゃんも笑いながら手を振る。
「今日も安全運転で行きんしゃい、ギャグ姉妹〜!」
数分後、博多南中の校門前。部活バッグを肩にかけた後輩たちがぞろぞろ。
光子がブレーキを軽く鳴らし、くるりと片足スタンド。
「吹部のみんなー!体幹意識して息吸ってー!腹式で“あんれまんまぁ”やけん!」
「午後、基礎のタンギング忘れんごとー!」
「先輩、おはようございます!」「ロス組曲、昨日個人練しましたー!」
「よかよか、でも無理せんでね。筋トレは腹筋崩壊せん程度に!」
門の陰から顔を出した顧問の先生が苦笑いで会釈。「今日も朝から賑やかで助かるわ〜」
再びペダルを踏む。チェーンの細い唸り、信号の点滅、遠くでツクツクホウシの予行演習。
優子が前を見据えて言う。
「やっぱ、ここ通ると気ぃ引き締まるね」
光子が頷く。
「なんたって、うちらの原点やけん。泣いた場所、笑った場所、勝った場所、ぜんぶここや」
「ほんなら今日も更新していこ。記録も、笑いも」
「よっしゃ、出発進行——次の停車は“福岡高校・腹筋注意”!」
二人の自転車は、朝の街を軽やかに切り裂いていく。
背中には汗よりも先に、期待と少しのいたずら心が光っていた。
朝の高校への登校途中、商店街脇の小さな公園で、土煙がふっと立った。
砂場の前で、茶柴のポチと黒ラブのゴン太が、前足パンチを繰り出し合い、時々“甘噛み”気味にカプッ——。その向こうで、淡いリボンをつけたトイプードルのモカが「はぁもう男子って…」という顔で見物している。どうやら原因はこの“おしゃれ番長”らしい。
光子は自転車を止め、ライン一本分下がって様子を見る。優子は周囲の飼い主さんに目をやる。すでにリードはしっかり握られていて、ふたりのわんこは絡みつつも“犬のプロレス”の範囲。ケガはない。
双子は顔を見合わせ——いつものやつ、始めた。
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即席ドッグリング実況(セリフは博多弁)
優子(実況):「さぁ公園特設リング、コーナー赤!茶柴・ポチ!コーナー青!黒ラブ・ゴン太!本日の勝利条件は“モカちゃんからのチラ見1回”でございます!」
光子(解説):「いや条件軽かっ!しかもチラ見の定義どこ!?…おっと来た!前足ジャブ、からのひょいパン!かわし方が猫っぽかね〜!」
ポチ(心の声・通訳):「モカ殿!拙者の紳士力、見届けよ!」
ゴン太(心の声・通訳):「いやいや筋肉は正義っちゃろ?ドン!」
モカ(心の声・通訳):「二人ともまずは座れ。話はそれからやん。」
優子:「観客席から“おすわりコール”が入っとります!」
光子:「ここでレフェリー入るばい——“あんれまんまぁ”で一回深呼吸!」
(飼い主さんが声をかけ、二頭を距離取らせて“おすわり”。水を飲ませる。)
優子:「クールダウン入りました!よか水分補給〜」
光子:「今のはナイス采配やね。熱愛三角関係も、水と深呼吸で落ち着くっちゃ。」
モカ(心の声・通訳):「…ところで、どっちも“おやつ外交”の手腕は?」
ポチ:「乾燥ササミなら政策に盛り込めます!」
ゴン太:「チーズキューブ派です!」
モカ:「政策合意、可決。」
(飼い主さんが同時におやつをひとかけずつ。二頭はむしゃむしゃ→しっぽふりふり。モカはどや顔でくるり)
優子:「交渉成立〜!これは**平和的解決(おやつ条約)**であります!」
光子:「本日の教訓——“恋の争いも、まず落ち着け。おやつは世界を救う”」
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仕上げの寸劇(その場でミニコント)
光子(ポチ役):「モカ殿、拙者、明日から朝散歩のルート変更いたす所存——“君に会える道”へ」
優子(モカ役):「まずは“うんち袋”忘れんのが最低限の男前やけんね」
通行人のおばあちゃん:「それは大事ばい〜!」
公園に小さな笑いが広がる。飼い主さんたちは「すみませんねぇ」と頭を下げ、双子は「いえいえ、かわいかドラマでした」と手を振った。最後にモカがリボンを揺らしてトテトテ歩き、ポチとゴン太は左右から同時におすわり。モカが一瞬だけチラ見——。
優子:「出ました、勝利条件“チラ見”!」
光子:「どっちに、やろ…いや両成敗。本日のMVPはモカ姫です!」
帰りながら、ふたりはネタ帳を開く。
「タイトルは『三角関係 in ドッグラン』でよか?」
「コント中盤は“おやつ条約”で和解、オチは“モカ姫の一瞥”——完璧!」
こうして、わんこの前足パンチと甘噛みから生まれた公園発ギャグは、その日の放課後、教室でまたひと笑いの花を咲かせることになる。
登校小景①「朝の追い風、うにゃだらぱ〜」
博多南の空はうっすら雲、風は背中を押してくれる程度。
光子と優子は自転車で滑るように福岡高校へ向かう。
優子「みっちゃん、今日は追い風やね。ギア上げるばい!」
光子「うにゃだらぱ〜加速モード突入!…って言いよったら前の信号、赤ぁ〜!」
ブレーキぎゅっと鳴らすと、横でランドセルの列。
光子はハンドル越しに手を振る。
光子「みんな、今日も勉強がんばりぃ〜!」
小学生たち「は〜い!」
優子(小声)「…はい、まずは“朝の体力、声で使い果たしがち”の巻ね」
光子「よか、声は無限やけん!」
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登校小景②「公園前ドタバタ・ネコ交機」
角の小公園をかすめると、横断歩道ど真ん中に地域猫が鎮座。
尻尾でパタパタ合図、まるで交通機動隊。
優子(実況)「本日の交通整理は“ネコ署長”。右ヨシ、左ヨシ、日向ヨシ」
光子(解説)「安全確認が日向優先は新基準やね…署長、通してくれん?」
ネコ署長「…ニャ(チラ見→のそっ)」
優子「通行許可、発給されました〜!」
光子「署長、給料は“ちゅ〜る払い”でよか?」
近所のおばちゃん「それは労基法に触れんけ〜?」
優子「触れそうやけん、あんれまんまぁで深呼吸しときます」
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登校小景③「踏切ブルースと即興ラジオ」
踏切が下り、電車待ち。遮断機の向こうでソニックが風を切る。
待ち時間を無にしないのが双子流——サドルの上で即興ラジオが始まる。
光子(DJ)「おはよう福岡〜“朝のうにゃラジ”!本日の一曲目『踏切ブルース』」
優子「カンカンカン…(口パーカス)からの、はい転調〜!」
通学中の子ら、クスクス。
光子「それでは道路交通の皆さん、今日の安全標語“あんれまんまぁ、深呼吸してから渡りましょ”」
優子「標語、採用で〜す」
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登校小景④「コンビニピットイン&即席モーニング会議」
遮断機が上がると、角のコンビニでピットイン。
光子はカフェラテ、優子はショコラ。
レジ前で今日の作戦会議が秒で開く。
優子「一限、発声。二限、イタ語。昼は部室で譜読み、放課後は“ロス組曲”細部詰め」
光子「それと“ネコ交機コント”の新ネタ書き足し。署長役は小春にやってもらおっかね」
優子「うん、しっぽ役はさおりのトランペットミュートにしよ」
店員さん「朝から楽しそ〜う」
光子「腹筋には湿布を、心には笑いを、で頑張ります!」
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登校小景⑤「校門前・一礼してから全力」
福岡高校の校門が見えた瞬間、風がふっと止む。
ふたりは自転車を降り、押して歩く。門前でぺこりと一礼。
光子「ここ来たら、背筋伸びるね。うちらの“原点”やけん」
優子「よし、スイッチ入れるばい——」
ふたり同時に小声で「あんれまんまぁ」。
次の瞬間、教室へ一直線。
朝の追い風は終わり、ここからは自分たちで風を起こす時間だ。
笑いと音で、今日も学校を少しだけ明るくするために。
朝の再現コント「三角関係ボクシング」
教室前の廊下。床にチョークで丸を二つ描いて、即席“リング”。
レフェリー:優子(笛&赤白カード)/ 実況:光子(黒板消し=マイク)
オス犬A:樹里(しっぽタオル装備)/ オス犬B:朱里(軍手=前足)
ヒロインのメス犬:小春(リボン&スカーフでおしゃれ度マシマシ)
効果音&観客:さおり(シンバルと拍手担当)
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光子(実況)「おはよう福岡〜!今朝の再現カード、“三角関係ボクシング in 登校路”の開幕やけん!」
優子「反則は“ガチ噛み”と“しつこいマーキング”。安全第一でいくばい。ほんなら——ゴング!」
さおり「カーーン!(シンバル)」
朱里(オスB)「ワフッ(シャドー)!ワフワフ!(ジャブ×2)」
樹里(オスA)「バウッ!(前足パンチを空振り)」
光子「おっと〜、朝の空気を切り裂く“前足ジャブ”!からの、謎の空振りエア〜!」
小春(メス犬)「…ワフ(首かしげてキュルン)」
教室の男子「かわえぇ〜」
優子「観客、野次は禁止やけん。集中して〜」
朱里「グルル…(距離詰め)」
樹里「グルルル…(にらみ合い)」
光子「ここで“低音グルーブ対決”。どっちの唸りが重低音か——おおっと、同時に前足フック!」
さおり「ドコドコ!(バスドラ代わりに机叩く)」
優子「ストーップ!はい、前足は指先伸ばして。肉球フラット守って〜」
朱里「わふ(了解)!」
樹里「ばう(了解)!」
小春(メス犬)「クゥン…(視線だけで二匹を惑わせる)」
光子「ヒロインの“上目づかいジャブ”が決まったぁ!オス二匹の心拍数が同時に上がっとる〜!」
朱里「ワフッ(告白の構え)」
樹里「ワフワフ!(対抗の構え)」
優子「よし、ここで“犬語同時通訳”いくばい。朱里→『一緒に朝んぽ行かん?』、樹里→『ナデナデは週5がよか』——って、要求の数が多か!」
光子「互いに譲らん!ここで“噛みつき”の代用、洗濯バサミ導入!」
(朱里と樹里、洗濯バサミを自分の袖に“カプリ”。完全安全演出)
さおり「カンカンカン!(シンバル連打)」
優子「はーい、いったんブレイク!あんれまんまぁで深呼吸〜」
(全員で深呼吸)
光子「仕切り直し。最終ラウンドは“紳士協定”ルール、プレゼント作戦!」
朱里「(折り紙で骨っぽい形を作って差し出す)ワフ!」
樹里「(ハンカチでボウタイ結んで差し出す)バウ!」
小春「ワン!(両方受け取りニッコリ)」
優子「判定——“朝んぽは三人で。ナデナデは抽選制”。公平!」
光子「勝者は“友情”やったね〜!今朝の現場も、最後は手(前足)打ちで和解やけん!」
さおり「フィニッシュジングル、どうぞ!」
(さおり、軽くシンバル→教室拍手)
⸻
前原先生(通りがかり)「おまえら、朝から何の練習しよると?」
優子「先生、“群れの秩序”の研究ですばい」
光子「生物&表現の融合授業やけん!」
前原先生「……発想は満点。次はリコーダーで“犬の遠吠え和音”も研究しとってよかぞ」
一同「了解でーす!」
最後に小春(メス犬)役が、くるりと振り返って一言。
小春「争うより、みんなで散歩の方が楽しかね?」
全員「それなーー!!」




